手にした世界一の栄冠
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『試合終了ー!!日本1ー0!優勝候補筆頭のイタリアを下し、Uー20ワールドカップ優勝ーー!!』
『女子だけでなく男子にも世界一の時が……!こんな日が、こんな日が来てくれたんですね……!日本サッカーの新たな歴史が間違いなく始まりましたよ!!』
「わぁぁーーー!!」
「日本勝ったー!!世界一だー!!」
世界一の瞬間、立見体育館は人々の歓喜の声によって包まれていた。
その中には涙を流す者も続出。
試合終了の時を迎えた瞬間。日本選手達は喜びが大爆発し、ベンチのメンバーも飛び出していた。
「せ、世界一……!これ夢じゃないよな!?」
「夢オチであってたまるかよ!俺らやっちまったんだって!」
今の現実が信じられないのか、室は夢かと目を潤ませていた。
その室の背中をバンと叩き、冬夜が現実だと伝えれば共に優勝を喜び合う。
「弥一!」
「先輩!」
試合終了と共に芝生の上に座り込んでいる弥一へ、優也と明と影山の3人が駆け寄る。
「あはは、勝ったぁ……流石に、疲れたね〜」
疲れた顔を見せながらも無邪気に笑う、何時もの弥一の笑顔がそこにあった。
彼がディーンを封じ、カテナチオからゴールを奪ったのだ。
「それはそうだよ!あれだけ走り回ってたし!君の場合ずっとフル出場だろ!?」
影山は知っている。弥一が立見で今年ずっとフル出場を続けていた事を。
総体でも出続け、今回の大会もフル出場と、これまでの疲れが出てしまったのかもしれない。
「水でも飲んでください……!」
明はペットボトルの水を持って来て、弥一に差し出す。
それを弥一はゴクゴクと飲んで喉を潤した。
「うあああ〜!世界一や……世界一やぁぁ〜!」
「良かったな……!うん、うん、良かった……!!」
負傷した事も忘れ、想真は誰よりも泣きまくっており、安藤が想真を支えながら背中をさする。
彼の目にも溢れる物があり、零れ落ちていった。
「か、監督……!」
「本当に……よく、やりました……!」
マッテオと富山、日本スタッフ達も皆喜び合う。
歓喜の輪が日本にどんどんと広がる中、それと対照的なチームがあった。
目前まで世界一を手に出来ていたはずのイタリア。彼らは呆然と座り込んだり、フィールドに倒れ込んだりして絶望する姿を見せている。
「イタリアが……イタリアがぁぁ〜……!」
「我らのアズーリが負けるなんて……」
フィールドの選手達と同じように、落胆するイタリアサポーター達。
ディーンは芝生の上に大の字で倒れ込んだまま、空を見上げていた。
そこに見えるのはカンプノウの屋根、そこからサークル状に空いた空が見える。
まるで今の自分の心を表しているかのようだ。
「(ああ、こんな気分なんだな……負けるっていうのは)」
大事な試合で負けた事は無い、優勝は何時も手にして来た。
今日ディーンは栄冠を逃し、アシストもゴールも記録する事が出来なかった。
サッカーをやってきて初めての事だ。
「畜生……畜生……!」
「う……うう……」
フィールドに倒れたままクライスやランドが悔し涙を見せる。他のイタリア選手達も似たような姿だった。
「(このメンバーをもってしても勝てなかった……世界一は、遠いもんだな)」
イタリアの監督は世界一が改めて厳しく、遠い物だと感じた。
絶対的なディーンが居れば大丈夫、確実に優勝とは行かない。
改めてサッカーの難しさ、カルチョの奥深さを思い知る苦い結果だった。
試合が終わり、このまま表彰式が行われる。
まずは準優勝のイタリア選手達に銀メダルが授与されていた。
充分に好成績だが、イタリア選手達に笑顔は何一つ無い。
この敗戦で浮かれて銀メダルを受け取る者など、いるはずがなかった。
ちなみに決勝戦の前にブラジルとスペインの3位決定戦も行われており、結果は1ー0でブラジルが銅メダルだ。
続いて日本チームへの金メダル授与が始まる。
「3人もGK、いるものだったな」
「ホント……そうですね」
準決勝のブラジル戦で負傷し欠場の藤堂、今回の決勝で負傷の大門、2人ともゴールを守り続けたおかげで、最後まで日本ゴールは無傷で終わる事が出来た。
「金メダルって重い……!」
最後に決勝の舞台、延長戦でゴールを守った五郎は首に下げられた、金メダルの重さを噛み締めている。
「何か……八重葉で優勝した時よりすっげぇ嬉しいもんだな!」
「そりゃそうだろ、世界一なんだからさ!」
仙道兄弟の佐助、政宗、兄弟が互いの肩を抱いて笑い合う。
八重葉の一員として全国優勝の時とは違う。また特別な優勝をその身で味わっていた。
「お前もう泣き止めって、泣き虫君よ」
「やかまひぃわぁ〜……!」
「金メダルを涙でずぶ濡れにしたらアカンでー」
「ほこまれ泣いへへん〜!」
まだ泣き止まぬ想真を光明、光輝が支え、共に金メダルを受け取っていく。
自分でもこんな嬉し涙が出て来るとは、思っていなかったようだ。
「……良い、もんだな。こういうの」
「おや、オオカミ君丸くなったかな?」
「るせぇ」
ブラジル戦で怪我を恐れず決勝点をもぎ取った狼騎。彼の呟きが聞こえ、近距離に居た春樹はからかうように声をかけていた。
「(金メダル……立見に帰って皆や姉さんにも見せたい)」
首にかけられた金メダル。明はそれを右手に持って、立見に居るサッカー部の皆や姉の薫に、早く見せたいと笑みを浮かべる。
「タツさーん!これで胸張って彼女さんと結婚行けるっスよ!」
「おう!お前も良い嫁さん見つけろよー!」
「それ言われると耳痛いっス……!」
「フ……」
「あ!優也てめ!今笑いやがったなこの野郎ー!」
冬夜が気の早い辰羅川の結婚を祝福すると、お前もあとに続けと言われれば相手の居ない冬夜にとって耳が痛かった。
それを優也が笑った事により、一騒動が起きる。
「うおお!やったぞーー!!」
「っ!?照皇先輩そんな喜び方を!?」
「誰だって世界一を取ればそうなるだろ!お前もほら!」
「や、やったー!」
冷静沈着な照皇だが、世界一を勝ち取り珍しくテンションが上がって叫んでいる。
これに後輩の月城も続けて叫んでいた。
「何かもう……俺みたいなど下手でも世界一、行けたんだな……!」
「あいつらをトラップかけといて下手な訳無いだろ、胸張れって!」
周囲と比べて技術が欠けていた。そんな自分でも世界一に輝けたと番は男泣き、室も声をかけつつも収まりかけていた涙腺が再び緩みそうになる。
それぞれに金メダルがかけられていく中、キャプテンの弥一の首に金メダルがかけられた後に、優勝カップが手渡されようとしている。
「おや?君、そのノートは何かな?」
その時、大会委員の1人が弥一の手に持っているノートに気付く。
「大事な人が遺した物で、本当なら同じ代表のユニフォームに袖を通していた彼にも優勝を見せたいんです」
「……」
病気さえ無ければ彼もこの場に居た。弥一はそう信じて勝也のノートをこの場に持ち込んで来たのだ。
「存分に彼へ見せると良い、君達がチャンピオンだ」
そう言うと委員の手から優勝トロフィーが弥一に手渡された。
受け取った弥一はチームの待つ壇上へと向かい、中央で優勝トロフィーを掲げる。
Uー20日本代表が優勝した証が此処に刻まれた。
日本の優勝で盛り上がる中、イタリアチームは一足先にロッカールームへと戻って来る。
周囲には多くの記者達の姿があって、敗戦直後にも関わらず彼らのコメントを求めようとしていた。
「負けちまった、なぁ〜……」
「……ああ」
ようやく言葉を口にしたのはランド。それにトニーは短く答える。
「まだUー23の五輪があったり、A代表だってある。先は長いって分かってるけど……何かすっげぇ悔しい……!」
「……」
床に体育座りでランドは悔し涙を流し、トニーは何も言えず彼の姿をただ見ていた。
「立ち止まるかよ、こんな敗戦一つで」
中々着替える手を皆が進められない、だがクライスは違う。
皆より早く着替えを済ませ、荷物を纏めてロッカールームを出る準備を進める。
「今より強くなるなら……立ち止まってられるか。あいつは負け続けても止まらなかったんだ」
クライスの言葉に、ジョヴァニッシミ時代を知るミランのチームメイト達は皆が当時の弥一を思い浮かべる。
絶対敵わないであろうディーンに諦める事なく挑み、誰よりも実力を伸ばしていた。
クライスはそこに近づこうと、逃げずに立ち向かう事を選ぶ。
弥一とディーン、あの2人の領域に自分も踏み込んでやろうと。
「ディーン、次のシーズン……ミランにスクデットはやらねぇぞ」
ディーンとクライスの目が合い、クライスは今度こそ敵わない相手から逃げないと、目を逸らさず言い切る。
「……そうか、楽しみにしている」
「嫌って程楽しませてやるよ」
セリエAで争う2人。短く言葉を交わした後、クライスは先にロッカールームを出て行った。
「(弥一のおかげでまたカルチョが楽しくなりそうだ。その時まで……もっと強くなっておかないとな)」
クライスから向けられた目、あれは本気で自分に勝とうとしている目だった。
自分を倒しに来てくれるなら歓迎する。それを全力で迎え撃てるからだ。
ディーンはより楽しむ為にさらなる向上を目指す。
クライスとの戦いを楽しむ為、何時の日か再び弥一と戦う時に備える為に。
フィールドで存分に喜び合い、日本チームはロッカールームへと戻って来た。
これから祝勝会に会見、日本に帰ってからもそれは続き、忙しくなって来る。
皆が喋りながら着替える中、弥一は1人ユニフォームのまま椅子に座っていた。
「(沢山戦った、世界一が勝ち取れた、その瞬間を見せられた……)」
弥一の手には勝也のノート、それを手にする弥一の前には勝也の姿が見えた。
「(これだけ出来たら褒めてくれるよね……勝兄貴……)」
パサッ
「ん?」
皆がロッカールームを出て静まり返ってくる空間。そこで何か落ちるような音が聞こえて優也は振り返る。
「……弥一……?」
そこには椅子に座ったまま、顔を俯かせている弥一の姿。
地面には先程まで持っていた勝也のノートが落ちている。
優也の呼びかけに弥一がその日、反応する事は一度も無かった。
日本1ー0イタリア
神明寺1
Uー20ワールドカップ 優勝 Uー20日本代表
VSドミニカ 5ー0
VSオランダ 3ー0
VSカメルーン 3ー0
VSパラグアイ 1ー0
VSドイツ 1ー0
VSブラジル 1ー0
VSイタリア 1ー0
得点15 失点0
大会得点王 ロイド・ファルグ バルム・ランド
大会最優秀選手 神明寺弥一
川田「飛翔龍がパーティーに向けて動き出したな、またあの美味い中華が食えそうだ」
翔馬「ああ、美味しいんだよねぇ〜って何か思考が弥一に近くなってきたかも……」
武蔵「あいつの事だ、美味そうに炒飯真っ先に食うぞ」
摩央「それは確実、飛翔龍のメニューで1番のお気に入りだしな」
宜しければ、下にあるブックマークや☆☆☆☆☆による応援をくれると更なるモチベになって嬉しいです。
サイコフットボールの応援、ご贔屓宜しくお願いします。