サイコフットボール
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
聞こえて来る声には聞き覚えがある。
だからか、導かれるような声に皆が足を動かしてフィールドを駆け回って行く。
右サイドを優也が進み、迫るトルクを明とのワンツーで躱し、鮮やかな連携を見せると観客から歓声が沸いて来る。
『立見同士の連携でイタリアのサイドを切り裂く!』
「(不思議なもんだ、こんな大歓声でも弥一の声がよく聞こえて来る!)」
伝わる弥一の声、それに導かれて優也は右サイドからボールを運べていた。
「(外まで下がってから中に飛び込んでヘディング)」
「っと!」
声が聞こえ、室はゴールを向いたまま後ろへ下がる。
そこに優也が右サイドから右足でクロスを上げた。
『歳児から室、ヘディングー!!』
優也からのクロスに室が飛び込み、競ってくるカランティを蹴散らしながら、思いっきり勢いをつけてゴール右上隅へと、ヘディングで狙う。
しかしリカルドがこれにも抜群の反応を見せる。ボールに向かって跳躍し、大きな両掌で勢いが付いた室のヘディングを弾いていた。
「!」
弾いた球に優也が向かい、押し込みに行く。
『リカルドまたも弾いた!歳児詰めている!押し込めるか!?』
「くっ!」
そこにトルクが並走し、優也に肩からぶつかり合いになれば、迫るスピードは鈍ってくる。
リカルドがその隙にボールへ覆い被さりキープ。此処はイタリアのカテナチオに軍配が上がった。
「焦るな焦るな!落ち着いて守ってくぞ!」
混乱に陥るイタリア。リカルドは落ち着かせようと声を出していく。
どういう事なのか知らないが、急に日本がゲームを支配し始めている。
それでもゴールさえ許さなければ負けは無い。このまま0ー0でPK戦になれば、絶対負けない自信がリカルドにはあった。
『日本この延長戦をイタリア相手に押しまくっている!シュート数をどんどん重ねていく!』
『しかしそれでも流石はイタリアのカテナチオですね!日本も相当攻撃出来てるはずですが、あと一歩でしょうか!?』
カウンターに持ち込もうとするが、イタリアの攻撃は弥一によって完璧に読まれ、選手達の心に伝達させて未然に阻止していた。
更に攻撃で良い形を作り続け、カテナチオを翻弄するとシュートにまで持って行く回数は増えていく。
だが最後の方でリカルドやクライスが阻止。日本に得点を許さない。
それでも日本の時間帯は続く。
細かくショートパスで繋いでいた日本。此処で一転して影山が照皇へと低い弾道、シュート並のパスを右足で蹴って送る。
「(左にパス)」
「(ダイレクトですぐ返して)」
送られて来たパスを照皇がそのまま左足で蹴り、左サイドの冬夜に繋げば冬夜はこれをダイレクトで、照皇とクライスの後ろにあるスペースに左足で蹴っていた。
「くっ!?」
照皇は蹴ってからすぐに反転。クライスを追い抜きイタリアエリア内へ侵入。
ロングボールからワンツーで繋ぎ、チャンスとなってスタンドの歓声が大きくなる。
照皇がリカルドの居るゴールを見据え、左足を振り上げる。
「(させるか!)」
そこにクライスが追いつく。左足のシュートをブロックしようと、コースに立ち塞がった。
ただ照皇の左足シュートはフェイント。切り返して利き足の右でシュートに行く。
クライスの方もこのキックフェイントを読み、再びコースを塞ぎに動いていた。
「!?」
しかしこれもフェイント、照皇の2連続キックフェイントでクライスをついに躱す事に成功。
「ぐおおおお!!」
躱した瞬間、2mの巨人が迫り飛び込んでいた。
照皇は冷静にコースを狙って撃つが、至近距離でリカルドの大きな体が壁となって跳ね返す。
『またも止めてしまったリカルドー!決定的な場面を迎えるがイタリアの巨人がまたしても立ちはだかる!』
「もう2点ぐらい入ってもおかしくないってのに化物かよ、あのGK!」
同じGKから見ても色々規格外に見え、日本ベンチから戦況を見守る安藤は頭を抱えていた。
「あと一歩やぁ!此処まで来たら何が何でも押し込まんかいお前らー!!」
前半負傷交代した想真。ベンチに座り大声で選手達を後押ししていく。
攻め続ける日本だが、イタリアからゴールを奪えないまま前半の15分は終了。
ハーフタイムで休む間もなく、互いの陣地を変えて延長後半戦に臨む。
これで勝負が決まらなければPK戦が待っている。
ディーンには変わらず弥一のマーク。ならばとボールを持つイタリアはワンタッチの素早いパス回しで、迫る日本のプレスを躱してゴールを目指す。
やはり個人技、組織力でトップクラスを誇るイタリア。
「(番、左スペース狙って来る)」
『イタリア速いパス回しから、ボルグ右へとスルーパス!ロベンス抜けて、いや!青山がカットだ!』
ボルグがワントラップから、右の裏スペース目掛けてスルーパスを出したが、心で読んだ弥一が番にテレパシーで伝え、スルーパスのカットに成功していた。
「(何故だ!?)」
全く攻撃のリズムに乗れず、思うような攻撃が出来なくてイタリア選手の何人かが困惑してしまう。
さっきまで攻守で押していた相手に圧倒される、こんな事あるのかと。
「(凄い……皆疲れてるはずなのに今までで1番よく動けてる)」
日本ゴールマウスに立つ位置から、全体が見える五郎は味方選手の動きが辛い時間帯にも関わらず、全員良い動きが出来ている事に驚いていた。
とはいえ何時シュートが飛んで来るか分からない、相手は異次元の魔術師だ。
大門、藤堂と2人の活躍を無駄にしない為にも五郎は集中してゴールを守る。
「イタリア負けるなー!カテナチオは無敵だ!」
「世界一の守備を破らせるな!守れるぞー!」
「サイド気をつけろサイドー!」
日本に攻め込まれ、得点されるかもしれない。そんな危機感が彼らの中に芽生えて来たせいか、イタリアサポーター達必死で声を出して応援に熱が益々入る。
「完全に押してる!いけるんじゃないかこれ!?」
「いけるんじゃない!いくんだよ!日本そのままカテナチオぶち破れー!」
立見体育館で成海と豪山が勝てるとなり、2人揃って大型スクリーンを食い入るように見て声援を送る。
日本での応援もヒートアップするばかりだ。
『日本、再び照皇へとパスが出た!』
「(調子乗るな!)」
これ以上の攻撃をさせるか、と照皇から来る攻撃をクライスが断ち切ろうと背後から迫る。
「!?」
受けるかと思えば照皇はこれをスルー。ボールが前に流れると共にすぐ照皇は前を向いて、ボールに向かってダッシュ。
反応の遅れたクライス、またもチャンスとなりそうだ。
しかし照皇よりも速くボールに追いついた影。
ゴールに戻り守備へと回ったディーンがいち早く反応し、追いついていた。
「(全く気付かなかった!何時の間に!?)」
照皇がディーンの姿に驚きながらも、すぐプレスをかけに向かうが、それよりもディーンは速く正確に前へとクリア。
『クリアー!異次元の魔術師がこの位置に居た!』
『最初から出続けているにも関わらず物凄いスタミナですよ!彼の体力は底無しですか!?』
「守れ!カテナチオの誇りと意地を見せる時だ!!」
イタリアを再び世界一にする、幼い頃から目指していた目標は間近。
負けられない、負けたくない。
なんとしても勝つ、勝利への執念からディーンはチームに檄を飛ばす。
一致団結のイタリア。より強固な守備を築き上げる。
3分、5分と後半戦の時間は経過していく。日本がボールを支配するもカテナチオが日本の得点を阻み続け、スコアは未だ0ー0のまま動かず。
「はぁ……はぁ……」
その中で弥一の息が上がり、周囲の選手と比べて疲労の色がハッキリ見える。
今までで1番体が重くきつい、気を抜けば倒れそうだ。
だが倒れる訳には行かなかった。
弥一は絶えず選手達にテレパシーを送り、指示を出し続ける。
『後半10分が過ぎ、そろそろ15分が迫る!これはPK戦が見えて来ました!』
『イタリアのリカルドと日本の三好君、どちらもPKストッパーとしての力がありますからね。また難しいPK戦になるかもしれません』
延長戦も残り時間僅か。スコアレスのままドローでPK戦の決着が、いよいよ現実になろうとしている。
体力が限界の選手も多い。皆が最後の力を振り絞り、懸命に走る。
「(PK!?冗談じゃない!きっちり点取って勝つっての!!)」
PK戦まで持ち込んで勝つよりもゴールを決めて勝つ。FWとしての本能がジージョを突き動かし、ボールを持つといきなり単独突破でゴールを目指す。
「おい!?攻め急ぐなって!」
ランドが慌てて止めようとするが、ジージョのドリブルは止まらない。
「(隙ありっと!)」
大胆にもランドから離れ、ジージョへと迫っていた光明がボールを奪取。
『源田が奪った!緑山へと渡して日本再び速攻!緑山、エルフリック、トルクを鮮やかな切り返しで躱す!』
中盤で光明からのパスを足元に収めると、明のドリブルが炸裂。
途中出場でスタミナにまだ余力があり、素早いフェイントでイタリアの2人を突破すれば彼への歓声が上がった。
「わっ!?」
2人躱した直後を狙ってか、ディーンが地面を滑り込んで来て、スライディングで明の持つボールを弾く。
その弾かれたボールを弥一が取っていた。
「(優也走れ!!)」
弥一から左足でのパス。右サイドのスペースに弾丸パスを送る。
「(来ると思った!)」
テレパシーで伝わる前から優也は走っていた。立見の1年から長い付き合い、容赦無い彼のスパルタパスなら、こう来るだろうと分かっていたのだ。
元々スタミナにも自信ある優也。送られたボールはタッチラインを割りそうだったが、ライン際にて右のインサイドでトラップ。
『通った!神明寺の切れ味鋭いスルーパス!トルク追いつく事が出来ない!』
「(あのデカいのか!?いや、中央の19番(明)が来ている!)ボルグ19!!」
また優也から室かとクライスは思ったが、迫って来る明の姿に気付き、指示を飛ばしていた。
室がポストで来るとしても、明に落とす確率が高いと考えての事だ。
再び右から優也のクロス。これに室が合わせに行く。
「(スルー)」
「!?」
頭で捉えるつもりだったが、室は直前でこれをスルーした。
これが照皇の所まで流れて行き、照皇は跳躍すると右足を上げて宙に舞うボールへ合わせる。
クライスがブロック行くも一瞬間に合わず、右足のジャンピングボレーがイタリアゴールに向けて撃たれた。
「うおおお!!」
完璧に捉えた照皇のシュート、ゴール右へ矢のような勢いで飛ぶ。
これにもリカルドが恐るべき反射神経を見せ、ダイブしながら左手一本。ゴールを割られてもおかしくないシュートを弾いていた。
またしてもリカルドのスーパーセーブ。だが優也は諦めず、弾かれてエリア内にこぼれたボールへ走る。
「ぐっ!?」
シュートに行こうと詰めていたが、直前にディーンが間に割って入る形でボールをキープ。
「(助かった……!)」
リカルドやクライス、守備陣はディーンがボールを持ったのを見て、ホッと一安心する。
「(カウンター行ける!)」
ディーンはクリアに行かず、中盤に下がっているランドへと右足でパスを出す。
ゴール前の密集地帯にも関わらず敵味方の隙間。そこをすり抜ける正確無比なボールが飛んで行く。
こんなカウンターが来るなど誰も思わなかった。
ただ1人を除いて。
「(正確過ぎて助かったよ、ディーン!!)」
ランドへのパス、そのコースに弥一は居た。
あまりにも正確過ぎるディーンのキックだからこそ、彼ならば密集地帯などものともせず、平気でパスを蹴るだろうと思っていた。
最後の最後で弥一はディーンの心を読んだのだ。
彼からのボールを右足のボレーで蹴り返し、再びイタリアゴールへと返していく。
イタリアは誰も動けなかった。ディーンがボールを持った事からの気の緩み、それがカテナチオの隙が、風穴が出来てしまう。
クライスを、リカルドを通過してボールはイタリアゴールを揺らしていた。
その瞬間、カンプノウは揺れ動く。
詩音「え、ええ!?決まった!?マジ!?」
玲音「とれた!?ホントのホントにカテナチオから!?」
半蔵「落ち着け!まず、その、深呼吸からだ!」
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