彼にしか出来ないサッカー
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
弾丸パスがディーンによって蹴り返され、ボールは日本ゴールの右隅へと向かっていた。
距離は遠い。しかし味方のボールからシュートが、いきなり飛んで来るとは普通思わない。
大門の反応は少し遅れる。
「らぁぁ!!」
雄叫びと共に大門は自らの長所、跳躍力を持ってダイブ。
目一杯左腕を伸ばし、ディーンのシュートを叩き落とす。
セカンドとなったボールに番が向かうも、先に反応していたのはランドの方だ。
これを再びシュートに行く、前に大門がボールに向かって飛び込む。
結果、大門とランドがぶつかり合う。
「っ!!」
この時に大門の右肩にランドの右足が当たって、強い痛みが走り顔が歪む。
それでもボールはキープ、すると主審の笛が鳴った。
『大門抑えた!っと?これは、ランドのキーパーに対するファールでイエローカード出ますね』
『その前に今のディーンのシュートですよ、まさか相手のパスをシュートに行くとは……』
『いや、驚きのシュートでしたよ!……ん?大門、右肩を抑えていますが……?』
「くっ……!」
「大門!」
弥一達が大門へと一斉に駆け寄ると、本人は右肩を左手で抑えている。
「だ、大丈夫だ!続けられる……痛っ……!」
右肩を上げて大丈夫とアピールしようとするが、痛みは容赦なく無慈悲に襲いかかっていた。
「無理だろう、片方の腕が使えないまま試合は続けられない」
「交代……だね」
突然のアクシデントの中。照皇は大門の状態を見て続行は不可能だと冷静に言い、影山も交代するべきとベンチに向かって☓マークを掲げていた。
ブラジル戦で藤堂が負傷したのに続き、此処に来て大門まで負傷してしまう。
もう日本に残っているGKは五郎だけ。日本は3人交代枠を使ったが、延長戦は追加でもう一人交代枠が追加されている。
五郎の交代は問題なく行えるだろう。
「三好、思わぬ形での出番となってしまいましたが……頼みましたよ日本のゴールを」
「はい!!」
五郎は力強く返事し、ユニフォーム姿となれば愛用の白い帽子を被り直して、キーパーグローブを身に着けた。
まさかの出番、それもカンプノウの決勝戦という、とてつもない大舞台での初登場はかなりのプレッシャーになる。
マッテオとしては、こんな状況で五郎を送り出す事になってしまい、申し訳ないと思った。
「大丈夫か三好?こんな大舞台でゴールを守る事になっちまって……」
「やってくれるさ。彼はプレッシャーかかる方が力を発揮するタイプだからね」
心配になる辰羅川とは対照的に、春樹は五郎ならやってくれると信じている。
選手権であれだけ立見と渡り合った彼なら行けると。
『あー、大門駄目ですか……まさか2人もGKが負傷してしまうとは日本決勝戦でも災難が続きますね』
『一体神は何処までこの若い日本代表に試練を与えるつもりなのか!?八神に続き大門まで無念の負傷交代!GKの三好五郎が難しい局面で今大会初登場となります!』
「悪い弥一、出来る事なら最後まで守りたかったな……」
「……」
大門としても試合に出続けていたい。最後まで共に守りたかったが、怪我をした身では足を引っ張るだけだ。
無失点第一に拘る弥一の性格を思えば、そんな自分は不要だろう。
ただ最後まで守れなくて悔しい。その思いが強く、弥一には大門の心を読んで伝わっていた。
やがて大門はコーチに連れられ、共にフィールドの外に向かう。
「言ってた通りに、なっちゃったかな……五郎、後は頼んだ」
「ゆっくり休んでください、後は僕が守ります!」
試合前、何が起こるか分からないと話していたが、自分が負傷交代になるとは思ってなかった。
大門は微かに笑うと、フィールドを出て行き後を託す。
小さなGKが入れ替わる形で、決勝戦の芝生に足を踏み入れる。
「極力シュートは撃たせたくないな。五郎といえど不慣れな海外での試合と雰囲気だ」
立見として戦い、牙裏の守護神としての実力を優也は知っている。
ただ今回は日本の時と環境が違う。万が一というのがあるかもしれない。
「極力どころかゴロちゃんに仕事させる気は無いよ」
「これ以上は、絶対に……ね」
弥一の雰囲気が変わる。これ以上イタリアの好きにはさせないという、強い決意と共に。
再び弥一とディーンが向かい合い、彼らの戦いが始まろうとしている。
「怪我人が出続けて災難だが、加減はしないぞ弥一。決勝点は取らせてもらう」
「気遣いは嬉しいけどいらないよ」
「この試合もうイタリアに攻撃なんかさせない」
「……!」
弥一の殺気に満ちた目。相手を本気で狩り取ろうとしている、狩人の目をディーンに向けていた。
同じチームで弥一が本気になった時、狩人の目を向けて厄介な相手を封じ込めて来た。数々の獣を狩った姿をディーンは間近で見てきている。
それが今自分に目を向けられ、体がゾクッとする感覚に陥ると共に、本気の弥一が自分に向かって来てくれる事に喜びも感じていた。
練習場の時とは違う、互いに負けの許されぬ真剣勝負。
最高の舞台で最強の相手と戦える、これが喜ばずにいられるか。
「なら俺も止めさせはしない、攻撃も決めさせない」
弥一が封じ込めに来るのなら、ディーンも延長戦で弥一を封じて完封を狙う。
異次元の天才、敵無しと言われる彼の顔はとても楽しげだった。
五郎からのキックで試合は再開。ボールは中盤へ飛ぶと明がエルフリックとヘディングで競り合い。
「(左、走って)」
「(え……!?)」
この時左サイドに居た冬夜。自分に向けての声が聞こえた気がして、声に導かれるように左サイドを走る。
ドイツで鍛えたフィジカルを発揮し、明が競り勝てば頭で前へと送った。
「(左にパス)」
「!?」
照皇にも声が聞こえ、クライスを背負いながらも左足で左サイドに送れば、その位置には冬夜が上がっていた。
『日本ボールが繋がる!緑山が落とし、照皇から広西と素晴らしい連携!』
「サルク!」
クライスがその名を呼ぶと共に、サルクは冬夜へと迫る。
「(中央、明がフリー)」
またも声が聞こえ、冬夜の左足がサルクの寄せよりも速く、ボールを中央へ折り返していた。
流石のカテナチオも延長戦で体が重く、マークが甘くなって来たか明に寄せきれておらず、フリーで冬夜からのパスを迎える。
胸の辺りまで浮き上がったボール。これを胸トラップには行かず、左足のボレーで捉えた。
イタリアゴール左隅に向けられ、放たれたボレーシュートは弾丸の如く、スピードに乗って飛んで行く。
「ぐおお!」
だがゴールマウスを守るのは世代最強と言われるGK、リカルドが驚異的な反射神経でボレーに反応し、ダイブすると共に右腕を伸ばす。
弥一のFKの時と違い今度は片手で掴めず、大きな右掌でシュートを叩き落としていた。
『弾いたリカルド!照皇詰めて、クライスがクリア!』
セカンドとなって転がるボール。照皇よりも速くクライスがこれに追い付いて、セーフティークリアで凌ぐ。
『日本この試合で1番惜しいチャンス!広西からのボールを緑山がダイレクトボレー!それをリカルドが叩き落とし、クライスがクリアとカテナチオを慌てさせました!』
『緑山君のボレーで決まってもおかしくなかったはずですけどね、リカルド恐るべしですよ!しかし日本は急にパスが上手く繋がって来ましたね。イタリアも体力がやはり落ちてキツいのかもしれません』
「(どうなってる、日本の動きが急に良くなった?いや、惑わされるな。こっちが疲れてるだけでマークを見過ごしてしまっただけだ)」
この試合で1番ヒヤリとした場面だった。クライスは日本の動きが良くなったと感じたが、気の所為だと思い直す。
延長戦で体の重い時に予期せぬ攻撃を受けて、そんな感覚になってしまっただけに過ぎない。
「(ロングスロー、と見せかけて冬夜に投げて)」
「……?」
イタリアゴールが近い左からのスローイン。番がロングスローを投げようとしていた時に、彼にも声が聞こえた。
「(フェイントのスローインか、下手にパワープレーで行くよりそっちの方が良いかもな)」
聞いた声に番は良いかもしれない、と何時も通り助走を取ってロングスローの構えに出る。
『スローインで上がって来た番、此処は勢いに乗って得意のロングスローか!?』
「どらぁぁーー!」
「!?」
思いっきりゴール前へ放り込むと警戒していた相手に、番は気合の雄叫びと共に近くの冬夜へ軽く投げていた。
「(チャンス!)」
イタリアの不意を突き、冬夜はサルクをクロスと見せかけてのキックフェイントで躱す。
『一人抜いた広西!イタリアエリア内に侵入!!』
そのままゴールへと迫る冬夜。しかし此処でフリーにはさせんと、ロベンスとボルグが2人がかりで冬夜に寄せて来た。
寄せて来る前に冬夜は右足でシュートを狙うも、今度はリカルドが正面で受け止め、両手に収めていた。
「(カウンター来る、エルフリックをマーク)」
「……!」
影山の耳に声が聞こえた。見てみれば今の彼はフリー、パスが直接来る可能性は高い。
「ぐおおお!!」
雄叫びを上げると共にリカルドは右腕で豪快にスローイング。ボールはグングンと伸びて向かい、中盤のエルフリックに行っていた。
「(本当に来た!)」
「!?」
音もなく忍び寄っていた影山。リカルドからのボールをインターセプトし、イタリアボールにさせない。
『影山、これを読んでいた!素晴らしいカットだ!』
『延長戦にも関わらず日本の動き良いですよ!』
「集中しろ!日本に支配されるな!」
イタリアの集中力が欠いてきている。そう思って監督は前に出て来て喝を入れた。
だがイタリアを混乱に陥れる日本が止まらない。
誰も気付いていない。日本に声が届いて導かれているおかげで、イタリアを翻弄出来ている事。
気付きようが無かった。
「(明、右に移動。優也、明とワンツー)」
弥一の集中力、感覚が極限まで研ぎ澄まされ、彼らにテレパシーを飛ばして指示している事に。
この世でただ一つ、彼にしか出来ない彼ならではの有り得ないサッカー。
サイコフットボールが世界最高の舞台で躍動していた。
愛奈「やった!ゴロちゃん出て来た!頑張れー!」
千尋「でもこの時間で大舞台に初登場は、想像を絶するプレッシャーだよ……!?」
愛奈「そんなんゴロちゃんなら跳ね除けるって!」
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