意地がぶつかり合う後半戦
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『前半0ー0の日本とイタリア!後半戦で決着は着くのか!?Uー20ワールドカップ決勝戦、いよいよ後半のキックオフが迫ります!両チームの交代は無いようです』
『なんとかイタリアのカテナチオから1点取りたい所ですけどね。前半の最後みたいなシーンを出来る限り作りたい所です』
決勝戦が行われているカンプノウのフィールドに、ハーフタイムを終えた両選手達が戻り、後半のキックオフに向けて準備が進められる。
後半はイタリアからのキックオフ。センターサークルにはジージョ、ランドの2トップ2人が立っていた。
前半途中からDFを離れた弥一は3バックより前。ボランチの位置に居て、後半戦もDFラインには入らないようだ。
ピィーーー
『後半のキックオフ!イタリア、エルフリックにボールを預けてボルグと繋ぐ!』
ジージョが軽く蹴り出し、ランドが中盤に預ければ、連携力抜群のダブルボランチがボールを繋げていく。
変わらずイタリアは巧みにして、速いプレースピードを見せていた。
「(日本は今右のトニーを警戒しているはず。今なら左への警戒は薄いだろ!)」
ボルグは左サイドのトルクが上がる姿を確認し、彼の走る前へと行くように計算して左サイドにパスを出した。
それが読まれていると知らずに。
「ナイスパース♪」
「!?」
左を走るトルクに渡る前に弥一がこれを読んで、飛んで来たボルグのパスをインターセプト。
弥一得意のプレーが後半開始早々から飛び出し、あっという間にマイボールにしてしまった。
『読んでいた神明寺!此処でインターセプトが飛び出したぁー!!』
だが彼の前にはディーンが守備へと即座に切り替え、立ち塞がる。
「お前なら取ってくると思っていた!」
「嫌な読みしてくるね!」
弥一のインターセプトが来るとディーンは予測していて、直後の速攻を許さない。
異次元の魔術師を前に弥一も足を止めてしまう。
彼の異常なまでのカット率は、ミランの時からずっと見てきた。弥一ならこういう所で取って来てもおかしくはないだろうと。
弥一を人一倍見て来たディーンぐらいでなければ、事前に察知は難しい。
ずっと見てきたのはディーンだけではない。弥一の方も間近で数々のドリブル、パス、シュート、FKと見て観察してきた。
それを再現する才能とセンス、技術を弥一は兼ね備えている。
どう来るとディーンに観察する間も与えず、左にボールを蹴って自分は右へとディーンを抜き去りに行く。
弥一の得意とするメイア・ルア。左に蹴られたボールは浮き上がった所にバウンドすれば右前方に向かい、弥一が左から回り込んで追いつこうとしている。
しかし弥一の前にディーンが追いつき、ボールをカット。
蹴られた瞬間に反転し、弥一より先に追い掛けていたのだ。
「どうした弥一!こんなものでは足りないぞ!」
「やっぱ嫌な読みだぁ!」
いきなり攻守が逆転。前半終了間際に止められた借りを早くも返した。ディーンが弥一を背に、ボルグへと軽く左足で送る。
『ディーンすぐに奪い返した!守備も一級品の彼に死角はあるのか!?』
ディーンからボルグ。更にそこから縦に送り、ランドへ向かって一直線にボールがグラウンダーで飛んで行く。
「っ!?」
番はランドに警戒。流石にあの低さで、先程のような後ろ回し蹴りは考え難い。どう来るのかと身構えていたら、彼は番に背を向けたまま、ボルグのパスを迎え入れようとしていた。
これをトラップ、ではなく右足で右サイドへと軽くダイレクトパスで転がす。
右サイドにはトニーが猛スピードで走って来る。月城との走り合いを制すと彼もトラップせず、右足で左前方の日本エリア内に折り返していた。
ランドはパスを出した直後に反転。番を右脇から抜き去り、トニーから来たパスに追いつこうと侵入する。
ダイレクトプレーからワンツーと、この流れでラストにランドが決めに右足を振り抜く。
「来ると思った!」
「!」
再びボール越しで激しくぶつかり合う互いの蹴り足。ランドがシュートに行こうとした刹那、光明が読んでいて右足でクリアに行っていたのだ。
弾かれたボール、跳ね返って来た所を影山がキープ。
『危ない日本!イタリアのランド、トニーによる華麗なワンツーで侵入されかけたが光明よく見ていた!』
『DFに下がって彼結構機能してますね!そっちの方が向いているのでは、と思いそうですよ!』
「カウンター!!」
チャンスだとばかりに弥一が叫ぶ。それと同時に彼が指差す。
先に居るのは前線の室。影山はこれを察して右足で強く蹴り上げた。
『影山ロングパス!これは高いボールが行った!』
イタリアの守備陣はGKのリカルドを除けば、カランティが最も高い。
だが室なら空中戦で勝機はある。相手はデイブのような規格外の巨漢ではないのだから。
両者が共にジャンプ。先に室の頭が触れると右へボールを落とす。
右のライン際で落とされたボールを白羽が取るも、エルフリックがすぐに迫って来ていた。
イタリア陣地で楽にボールは持たせない、という気迫が感じられる。
「(ってぇ!当たりきっつ!)」
並走しながら互いに体をぶつけ合う2人。肩から激しく当たられて、白羽の顔が痛みで歪む。
此処まで来てボールを放棄するつもりはない。守備陣ばかりに負担をかけて、攻撃が何も出来ないのは格好がつかないと白羽は考えていた。
イタリア自慢のカテナチオに風穴を空けてやろうと。
再びエルフリックが強めのチャージを仕掛けに行くと、それを狙ってか白羽はドリブルの足を止めて、ボールを放棄すれば突然のバックステップ。
「っ!?」
急に後ろへ後退した白羽。狙いを外されて相手はバランスを崩す。
その隙に白羽が一歩先を進み、再びボールを取って右サイドを独走。
とは行かず、トルクが左からスライディング。スパイクの裏を見せず正確に白羽のボールを捉え、右タッチラインへ逃れた。
きっちりボールに行ってる事もあり、主審はイタリアの危険なプレーと取らず、そのまま日本ボールのスローインを指示。
『日本のカウンターをイタリアが阻止!やはり簡単にはやらせません。これがカテナチオだ!』
『敵ながら見事な守備の連携ですね。抜かれた所を左のトルクが上手くカバーしましたよ』
「出番だな、俺投げる!」
スローインを投げようと番が近づき、ボールを持つ。
番の姿を見たイタリア守備陣。ロングスローの印象が強く残っているのでそれに警戒する。
「(バレてるだろうけど、関係無ぇ!知ってて止められるならやってみろってんだ!)」
ロングスローである事はイタリアに読まれている。それでも助走を取って走る番に迷いは無い。
「どぉりゃぁーー!!」
カンプノウに響く番の雄叫び。彼の両手から放たれたボールが、ゴール前の室に飛んでいた。
ペナルティエリアの外、ゴール正面で室は飛ぶ。リカルドが飛び出せないギリギリを狙い、再びカランティとの競り合いになる。
「(こっちに落として来る!)」
体勢を見てボルグは位置としては此処だと読み、光輝の前に立つ。
高さで勝てないなら、落として来るボールを奪うまでだ。
だが実際に行った室のプレーは違う。
『ロングスローに室、バックヘッドで後ろへ流す!』
カランティと競り合いになりながらも、室は後頭部を使って照皇の居る左へと送った。
これに反応し、動き出していた照皇が室からのボールに迫る。
トラップしていたらカテナチオ相手には間に合わないと判断してか、照皇は右足のボレーで合わせに行く。
「(貰った!!)」
「ぐっ!」
捉えた照皇の右足。ゴールへ向けて放たれた直後、クライスが左肩に当ててシュートブロック。
カテナチオの番人の意地が此処は勝った。
『ブロックー!!ボールは上へと上がって室が落下地点に迫る、リカルドがキャッチした!』
ボールが舞い上がりながらもイタリアゴールへと流れ、室が追いかけるも、そこはペナルティエリア内。
遠慮なくGKが手を使える領域であり、ジャンプする室よりも更に高い位置で、リカルドが難なくキャッチしてボールをキープする。
「ああくっそ!ブロック無かったら!」
日本ベンチで冬夜が頭を抱える。見守る側も思わず力が入ってしまうせいか、リアクションが大きくなりがちだ。
「大事な所でクライスが仕事をしてしまったか……」
冬夜とは対照的に、優也の方は動きを見せず冷静に試合を見守る。
「歳児、広西、アップをしておいてください」
「!はい!」
そこにマッテオから声がかかり、共に返事をして優也と冬夜は走りに向かう。
「(やろぉ!何でこんな速いんだよくそ!!)」
月城は左サイドで、相変わらずトニーを追いかけて走り続ける。しつこく食らいつくが、やはりスピードでは負けていた。
左サイドへのスルーパスを狙うも、先に追い付くのは月城ではなくトニー。攻撃では此処まで何もさせてもらっていない。
体が徐々に重くなっていく。自分の体が限界に近い事が、嫌でも分かってしまう。
サルクから日本の空いた右スペースを狙って、ボールが蹴られた。
そこに再びトニーの快速が炸裂。
他の追随を許さぬスピードで迫り、このパスに追いつこうとしている。
「だぁぁーー!!」
「!」
トニーがボールを取ろうとした時、月城がそれより早く滑り込んでクリアしていた。
最後の最後、月城の方がトニーを一瞬速さで上回り、先にボールへ触れる事に成功する。
「はぁっ……ざまぁ……!」
限界を超えた全力疾走で月城の体力は限界間近。そしてボールが左のタッチラインを割ったタイミングで、日本は選手交代。
「ナイスラン、後は任せとけ」
「これで負けたら許さねぇぞ……」
疲労困憊の体を引きずるように歩き、月城は冬夜と交代。
彼を労って声をかけ、軽くタッチを交わした後に冬夜が後半戦のフィールドに踏み込む。
「日本の選手も骨あるもんでしょ、ディーン?」
「お前以外の日本選手を骨が無いと言った覚えなど無いが」
後半になっても変わらず向かい合う2人。ディーンに対して弥一は月城を自慢し、笑みを浮かべていた。
月城「疲れだぁ……!」
優也「本当お疲れ様、だな」
辰羅川「よく走ったし、最後よく取ったよお前」
五郎「大事に至る前に交代して良かったです!日本は呪われてるのかってぐらい負傷者が多くなってきてますからね!」
春樹「流石にこれ以上は怪我人……出ないよな?」
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