狂気の天才
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『前半が終了!最後ディーンにボールを持たれましたが、神明寺止めました!』
『イタリアが前半0点に終わったのはこれが初めてですね、DF陣にGKの大門君とよく守りましたよ』
「我らのディーンが止められた……!?」
「いや、ディーンも人間だ。たまたま何かアクシデントがあったんだろ!」
「そうそう、実力は上回ってるんだ。アズーリが負けるはずが無い!」
ディーンが止められた事に、カンプノウのイタリアサポーターがざわつき始めていたが、すぐに気を取り直して応援に戻る。
「ほらー!神明寺先輩ならやってくれると思った!」
「あのディーンを止めて前半無失点だよー!これ行けるよ皆ー!」
すっかり立見体育館にて、応援団長となっている詩音と玲音の氷神兄弟。
ディーンの凄さを皆が知っている分、弥一が止めた時には歓声が上がっていた。
「でもイタリアのカテナチオは健在。あれから1点を取らないと勝てない」
「そうだな。それにディーンを神明寺が食い止めているとはいえ、彼無しでもイタリアの攻撃はタレント揃いだ。神明寺無しのDFが何処まで粘れるかだな」
京子に薫、共に立見で監督経験を持つ女性2人は楽観視せずシビアだ。
「達郎ー!DFが苦しい時こそお前の見せ場だぞー!」
重三や立江、祖父母に加えて大門の両親に弟と家族がゴールを守る大門へと声援を送り続ける。
「我が子が世界一になるかもしれないのか……!どうしよう!?」
「どうするもこうするも、応援するしかないでしょあなた!」
息子が世界一を争い、最高の舞台で戦う姿を見て応援しながら、戸惑いを見せる父に、やる事は1つだけだと涼香が強く言い、弥一の両親も共に応援する。
「(僕には全然手の届かない所に行ってしまっている。とにかく……勝って無事に戻って来てくれ弥一君!)」
見守る輝咲の願う事は常に2つ。日本が勝つ事と、弥一が無事に自分の所に帰って来る事だ。
日本 ロッカールーム
ハーフタイムへと入り、各々が束の間の休息を取って体力回復に専念する。
特に今日は何時もより消耗が大きくなるので、よく休んでおいた方が良いだろう。
「月城、限界なら俺何時でも代わるぞ」
「馬鹿言ってんじゃねぇ、まだまだ走れるっつーんだよ……!」
椅子の上で寝転がる月城。そこに同じポジションの冬夜が声をかけた。
辛いなら何時でも代わると言うのに対して、走る体力はまだあると後半も出場する気満々だ。
「しかしお前、FWだけかと思えばボランチ出来たりDFまで行けるなんて、本当器用だよな」
「俺別にポジションへの拘りとか無いからさ。今のサッカーだってそのポジションの奴がずっと同じ所やってる訳じゃないし」
今日は同じDFラインで試合に出ている光明へ、佐助は水筒の水を飲みつつ感心するような目を向けていた。
色々なポジションを経験している事は、今の現代サッカーで珍しくはない。光明だけでなく優也も元々はFWの選手だが、此処ではSHとして主に出場し、立見ではSDFも経験している。
状況によって様々なポジションに臨機応変で対応出来る方が、チームとしてはありがたい事だ。
「それにあのランドって奴、あいつ何処で習ったか知らないけど空手に似たような動きしてるから、俺結構やりやすいんだよな」
後ろ回し蹴りでパスを送ったりと、思いもよらぬプレーを見せていたイタリアのランド。
その動作が幼い頃、空手で世界を制した光明にとっては慣れ親しんだ動きなので、対応は充分に可能と考えられる。
「こうなってくると、トニーのスピードが厄介になってくるな。何時飛び出して迫って来るのか……」
「そこは月城に任せればいいよ」
番がイタリアのスピードスターをどうするかと、腕を組み頭を悩ませていた所に、弥一から声が飛んで来る。
「トニーに負ける気無いんだよね?」
「当たり前だろ」
「じゃ、ブッ倒れるまで走って♪」
椅子に寝転ぶ月城に近づき、弥一は普段通りの笑顔で限界まで走れと要求。
「ブッ倒れるまでって、ええんかそれ」
「トニーのスタミナだって無限じゃない。あれだけのスピード出したら終了まで持たないし、月城相手だと彼も本気で走らなきゃ追いつかれるからね」
スピードは確かにトニーが上回っている。だが彼も余裕という訳ではない。
匹敵する速さを持つ月城が食らいつく限り、トニーを楽にはさせないだろう。
月城かトニーか、どちらが先に倒れるにしても、高い確率で消耗は避けられないはずだ。
「とにかく諦めず食らいつく、これしかないよ。相手がいくら有り得ない天才でもしつこく行けば絶対嫌がるはずだからさ」
攻撃も守備もしつこく執念深く、攻守で優れているイタリアに対して、弥一は皆に食らいつけと伝える。
「諦めず粘って食らいつく、か……基本だが、こういう状況こそ忘れがちだ。此処で原点に戻るのも良いだろう」
当たり前の事が自然と疎かになってしまう。今こそ原点に戻ってやり直す時だろうと、照皇は弥一の言葉に賛成する。
「っし、ディーンにもビビらずガンガンぶつかって行くっきゃないな!弥一ばかりに任せておけないし!」
前線でも積極的に守備をする。弥一を楽させようと、室も右掌に左拳をバチッと当てて気合を入れる。
「(交代は……今はその時ではなさそうか)」
今のチーム状況を見てまだ動く時ではない。下手な交代で流れを壊さない方が良いとマッテオは後半に備え、各自が休んだり話し合ったりするチームを見守るのだった。
イタリア ロッカールーム
「ぷっはぁ!染み渡る〜」
勢いよく水を飲み干したトニー。前半から飛ばして運動量は何時もより増えている。
それでも本人は後半も続けて出場するつもりだ。
「よく働いてくれたなぁ、日本にも速い奴は居たけど大丈夫そうか?」
「大丈夫、と言いたいが気は抜けないな。あいつは結構速いから落とせない」
労うようにランドがトニーの右肩をぽんぽんと叩く。月城に対しては警戒しているようで、速さは自分に匹敵していると感じた。
「10番の力を軽視し過ぎていたか……?俺が深読みし過ぎただけなのか……」
先程のプレーで照皇に抜かれた時を振り返り、クライスはブツブツと何が悪かったのか呟く。
「反省は試合終わってからにしろって、大事なのは無失点に抑える事だろ?」
「……そうだったな、二度と抜かれなければ良いだけだ……!」
気楽にと、リカルドが声をかければ、クライスはその通りだなと切り替える。
ディーンは頭にタオルを被り、椅子に座ったまま何も言わず項垂れる姿を見せていた。
「ディーン?おーい……?」
「止められたの、気にしてるのか?」
トルク、サルクの双子が揃って彼の姿を気にして声をかけて来た。
「っ!?」
気になった2人がディーンの顔を見ようと、近づいた時に今の表情が見えて共に背筋がゾッとなってしまう。
今まで見たことが無い狂気に満ちた笑み、彼は笑っていたのだ。
双子が揃って後ろに下がったのを、ディーンは気にする様子も無く頭で先程の弥一とのデュエルを振り返っていた。
「(流石だ弥一。俺と長い時間あそこまで争ったり俺のボールに触れた奴は誰もいなかった……!)」
初めて試合で止められ、ボールを弾かれた事が悔しいどころ
か、彼は喜びに打ち震える。
ドリブルやパスで抜く隙を与えない、どうやったら彼を突破出来るのか。
それを考えただけでもゾクゾクする。
やがてタオルを取って後半戦に備えるディーンへ、ボルグが話しかけて来た。
「なあディーン、あいつは避けないか?わざわざ要注意の所に行ってもしょうがないだろ」
「避けても弥一なら必ず危険な所を察知して来る。遭遇するのが速いか遅いかだけの差だ」
同じチームで数々の試合をこなしてきた。ディーン達が点を取り、弥一達がゴールを守る。
その時に弥一は渡ったら危ないという場面で、分かっていたかのように立ち塞がり、相手の攻撃を断ち切っていた。
避けても弥一なら必ず危険な箇所で顔を出す。そういう選手だとディーンの中に強く、彼の姿は焼き付いている。
「向こうから来てくれるなら、早い内に突破して決めるまでだ。奴の攻撃参加も俺が止めるから気にしなくて良い」
先程見せた狂気の笑みはもう無い。守備では弥一を徹底マークして止めると伝えたり、キャプテンとして作戦を伝えていく。
まもなく後半戦。弥一達日本選手がロッカールームから出て入場口へと来た時に、ディーン達イタリア選手も姿を見せていた。
弥一とディーンの視線がぶつかる。
「(本当に僕と戦う事とイタリアの世界一、その2つだけなんだなぁ……)」
今のディーンの心は弥一と戦う事、それとイタリアの栄光。
主にその2つで彼の心が埋まっている状態のせいか、煽る隙は無い。
そもそも彼が煽られてペースを乱されたり、怒り狂うような奴ではない事は知っている。
なので彼は矛先を別の人物へと向けた。
「成長したの図体だけだね、昔と同じく良いカモになってくれて助かるよ♪」
「……!」
過去に弥一と対戦経験のあるジージョ。心で弥一を意識して、借りを返そうとしているのは既にお見通しだ。
「てめぇ……!クソッタレのジャッポネーゼが!!」
これにジージョは一気に顔が怒りで染まり、イタリア語のスラングが飛び出し暴言を吐きまくる。
1人の心を乱しておけば、そこから自然とチームは崩壊を迎えるだろう。
チームメイトが慌てながらも、ジージョを落ち着かせようとした時。
「っ!?」
ディーンがいきなりジージョの胸ぐらを掴み、自分へと引き寄せた。
「くだらない事で神聖な試合を壊すな」
殺気に満ちた目で見られると、ジージョは沸騰していた怒りが一気に冷めて来る。
自分の楽しみにしていた試合、それを壊すような者は誰だろうと許さない。
ジージョに告げた後、ディーンは後半のフィールドに向かう。
「(簡単に乱れさせてはくれないかぁ……)」
心でイタリアの崩壊を狙ったが、ディーンによって阻まれてしまう。
優勝するなら力で取るしかない、弥一も続いて向かって行った。
アドルフ「元チームメイトとしては、どっち応援すりゃ良いんだこれ!?」
ルイ「知るか、俺はどっちでも良い」
デイブ「俺は日本だ!アメリカの無念晴らしてくれー!」
ルイ「何時の間にかまたアメリカから来てるし」
アドルフ「俺らも人の事言えないけどなぁ」
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