表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
488/660

異次元の魔術師

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

『ディーン、影山からボールを奪取!一番危険な人物がボールを持った!』



「(こいつは止めなアカン!!)」



 ボールを取ったディーンはこれがファーストタッチ。守備で力を見せてドリブルを開始しようとしていた。



 早々に止めなければと、想真が勢いをつけて突っ込んで行く。



 彼の動きが見えていたか、それよりも速くディーンの左足がボールを蹴り出す方が速かった。



 綺麗に弧を描くよう、右サイドに向かって運ばれる。反応して走り出していたのはチーム最速の男トニー。




「(追いつかねぇ!!)」



 月城が本気で走っているにも関わらず、トニーとの距離は縮まらない。


 むしろ離されてしまっているぐらいだ。




『トニー走る!しかしこれはパスが強過ぎてラインを割りそうか?』



 いかに彼の足が速くても、これは追いつかない。



 アウトになると大門は見ていて判断する。



「月城そのまま走って追って!大門気を抜かないで!上げて来る!」



「え、上げる……!?」



 これに弥一は気を抜くなと、大声で注意していた。



 ディーンがそんなミスキックをしてくるはずが無い、彼はちゃんと狙っている。



 ボールは右サイドの広いスペースに落ちて、そのままバウンドしてゴールラインに向かう。




 そう思われたが、バウンドするとボールは前に行かず、減速するどころか真上に跳ね上がり、その場に留まっていた。



 これにはカンプノウの観客達から、大きなどよめきが起こる。


 何の魔法なんだこれは!?と騒ぐ者が続出。



『なんと!?前に行かず真上!?トニー追いついたぁ!』



 留まってる間に右サイドを疾走していたトニーが、これに追い付いてボールを取る。



 ボールを取ってトニーが減速した所に、月城も追い付いて来た。



 彼が追い付いてなければ、そのまま左から進入される危険があったので、諦めず追い続けて吉と出たようだ。



「(間に合った!)」



 月城が追い付いてトニーが進入を試みようとするも、前に立ち塞がった月城が通さない。



 先程の攻防とは逆の立場。速さの優れた2人のデュエルが展開される間に、ゴール前には日本とイタリア選手達が集まって来る。



 突破するのを諦めたか、トニーは月城と向き合った状態になると、右のインサイドでボールを後ろの方に戻す。



 同じサイドにはサルクが上がって来て、トニーからのパスを左足で受ければ、ゴール前にクロスは入れず右足で中央へ送る。



「(ディーンへのパス?通さへんわ!)」



 中央のディーンには想真がきっちりとマーク。このパスをインターセプトしようと向かう。



 その時、手前でバウンドするとゴール方向に向かって跳ね、想真から遠ざかって行く。



 咄嗟のイレギュラーバウンド。一瞬驚くも想真はすぐ不規則に跳ねた球を追いかける。




 恐るべき反応で誰よりも速く、向かって行ったのに気づいたのはその後だった。



「(ディーン!?)」



 想真が動き出すよりも速く、ディーンは不規則なボールへ向かっている。


 どう跳ねて来るのか、最初から分かっていたかのように。



 この跳ねる球に対して、ディーンの右足が正確に捉える。



『ディーン撃ったー!!』



 ミドルレンジから放たれた右足ダイレクトボレー。ゴール前に固まっている選手達の隙間をすり抜けて、ゴール右隅に向かって飛んでいた。



「ぐぅお!」



 シュートに対して大門は反応。横っ跳びでダイブすれば左腕を目一杯伸ばす。



 飛んで来たボールを左掌で当てて弾き、エリア内にボールは転がっていく。




「(チャンスー!)」



 これにランドが素早く詰めていた。ゴール前に押し込めるチャンスと、彼の嗅覚が反応する。




 そこにセービングして倒れ込んだ大門の体を飛び越え、ランドと同時にボールへ向う影があった。



「に、ならないよー!」



「おわぁ!?」



 大柄な大門の後ろに何時の間にか隠れ、そこから弥一が大門を飛び越えて登場。


 ランドよりも一瞬速く、弥一の左足でボールは蹴り出された。



 ボールは左のタッチラインを出て、プレーは一旦途切れる。



『あ、危なかった日本!ディーンのファーストシュートを大門が防ぎ、こぼれ球を神明寺がクリアと失点ピンチを凌ぎました!』



『イレギュラーバウンドに反応してダイレクトボレーとは、そんな事を当たり前のようにやってしまう……これがディーンですね』




「弥一ビックリさせるなよー、お前相変わらず隠れるのが好きだな?」



「他の人じゃ真似出来ないメリットは活用しないとねー」



 軽く弥一の背中をポンと叩き、言葉を交わしてからポジションに向かうランド。



 弥一が得意とするブラインドディフェンス。イタリア留学時代からやっていた事で知ってはいたが、敵として味わうとまた新鮮だった。




「まさか、あんな人の隙間狙って正確にシュート撃てるなんて驚いたよ……それにあのロングパスって」



 今のディーンのプレーに大門は驚かされていた。



 人と人の僅かな隙間を正確に狙い、枠をきっちり捉えるシュート技術に、その前にトニーへのロングパスで完全にラインを割るかと思われたボール。それがバウンドすれば真上へと上がって進まなくなる、怪現象にも見えるようなプレーだった。



「あれ左足でバックスピンかけてたんだ、強烈なね」



「それであんな!?可能なのか本当に」



「ディーンなら出来て不思議は無いよ、異次元の魔術師なんだから」



 ディーンをよく知る弥一から見れば、今のは驚かされるプレーではない。


 恐ろしい程に正確で予測出来ないプレーをしてくるのは昔からだ。対戦してきた相手はディーンの多彩な攻撃を止められず、ゴールを許してきた。



 彼にかかれば一瞬の間にバックスピンをかけ、右サイドに寸分の狂い無く送れるぐらい容易い事だ。




「月城ー、今の良かったよー♪トニーに進入されるとかなり面倒だから今みたいな感じ続けてねー!」



「え?あ、ああ。任せとけって!」



 トニーのスピードに自分が負けてショックは残るが、弥一にそれで良いと声をかけられて何とか立ち直る。



 トニーのスピードに食らいつけるのは、フィールドに居る中で月城しかいない。



 ショックを受けてプレーが鈍るのは困る。弥一は月城の心を読んで、声をかけていたのだ。




 イタリアのスローイン。ボルグが投げると先に居るのはディーン。


 想真は今度こそ逃さんとディーンに張り付いている。



 するとディーンはこれを胸でトラップする、と思ったらスローインのボールをそのまま左足で蹴り上げて来た。



「なんやこれぇ!?」



 何も出来ず驚くしかない想真。ディーンが相手を背負う形でスローインのボールを蹴り上げると、導かれるようにゴール前に運ばれていた。


 背を向けてるにも関わらず、普通にクロスボールを上げてるのと変わらない精度だ。



『スローインのボールをディーン、なんとゴール前へのクロスとして蹴ってしまった!?』



 高く上がったボールに長身のジージョが飛び、佐助もジャンプ。


 長身同士の空中戦となって、競り合いは互角。



 セカンドを影山が取ると、彼の目から右サイド前方に居る白羽が今フリーの状態。



 イタリアの意識が攻撃から守備に切り替わる前、一瞬の隙を突く為に影山は右足で白羽へと低い弾道でパス。




『拾った影山、右の白羽へ長いパス、あーっと!ディーンがインターセプトだ!』



 これを読んだのか、ジージョにクロスを上げた後にディーンはすぐ動き出していた。



 白羽に渡る寸前。パスをカットして、更に影山からのボールを正確にトラップしてみせる。



「パス気をつけろ!」



 此処まで色々パスを見せてきた。今度もこの位置から何かやって来るのだろうと、白羽が叫びながら前のディーンに迫る。



「っ!?」



 パスが来るかと思えばディーンはドリブル。左から中央へと斜めに向かって走る。



 白羽が驚いたのはスピード。ボールを蹴りながら走るのは、普通に走るより遅くなってしまう。だがディーンは例外だ。



 足元に球が吸い付くようなドリブルで進み、それは走っている時と変わらぬ速さ。


 足とボールが一体化しているようだった。




「(調子乗らせんわ!)」



 ディーンの前に想真。今度は止めてやると真っ向から睨むように見ていた。



 だが目の前に相手が居るにも関わらず、ディーンはスピードを緩める気配が無い。このまま想真と激突するのかと思えば、直前でボールを軽く左足で蹴って想真の頭上を越えて行く。



 ディーンが想真の右脇を通過し、更に進もうとすれば光輝がカバーに向かっていた。



 それでも減速はせず迷い無く向かう。彼の速さは宙に浮く球を追い抜き、光輝とボールの間に丁度入っている形だ。



「っ!?」



 ボールに背を向けた状態で左の踵を使って再び蹴り上げ、想真に続いて光輝の頭上をボールが宙を舞いながら通過。



 2人を個人技で抜き去り、ボールを追い掛けて更に進むディーン。




「ワンマンショー長過ぎだよ、ディーン!!」



「!」



 ディーンがボールに触るよりも速く、落下してきた所を弥一が右足で蹴ってクリア。


 ボールは左のタッチラインを割って出て行く。



 この試合始まってから、弥一とディーンはこの時初めて顔を合わせていた。




「そうだな、俺とした事が……浮かれているのかもしれない」



「カンプノウっていう世界最高峰のスタジアムでサッカー出来てるから?」



「それもあるが」



 止められたにも関わらず、ディーンは弥一に対して笑みを浮かべている。




「その最高の舞台で、待ち望んでいた相手とサッカーが出来る。俺にとってはこれが何よりも極上の時間だ」



 弥一と戦える、この時を待ち続けていた。



 それにディーンは無意識に浮かれた所があったのか、弥一からはプレーで表れて見えた。



「こっちにとっても極上になっちゃうって、世界大会の決勝戦で現役トッププロとのサッカーだからさ♪」



 ディーンに対して弥一も明るく笑った後に、DFの位置に戻っていった。




「(もっと極上の時間楽しませてあげるよ、その代わりお代は日本の完封勝利になっちゃうけどね?)」



 相手が誰だろうが弥一は完封勝利第一、その考えを曲げはしない。



 ディーンに背を向けた状態で弥一は不敵に笑う。

宜しければ、下にあるブックマークや☆☆☆☆☆による応援をくれると更なるモチベになって嬉しいです。


サイコフットボールの応援、ご贔屓宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ