Uー20ワールドカップ決勝 日本VSイタリア
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「やあ、無敵の皆さんお揃いでー♪」
今居る場所がUー20ワールドカップ決勝戦。カンプノウの地にも関わらず、弥一は久々に会うイタリアの面々に何時もの調子で陽気に挨拶。
そこにディーンが進み出る、前に弥一へと向かう人物がいた。
「よー、日本の無敵君にカンプノウ一番乗りやられたかぁー。残念ながら記念品は無いけどな?」
弥一に負けず劣らず、陽気な挨拶を交わすランド。チームのムードメーカーなのはジョヴァニッシミ時代から変わっていない。
「相変わらずのジョーク飛ばすねぇランドは♪得点も順調に重ねちゃってるしー」
「良いアシスト沢山貰っちゃってるからさ、ほら。うちのキャプテン優秀だろ?」
ディーンのアシストのおかげだと語るが、きっちり決めきれる力を持つランドは間違いなく天才。
ミランで散々見て来たから弥一もそれは分かっていた。
「俺もお前に何回かアシストやってるからな?」
「勿論、トニーには足向けて寝られないよ!実際は寝れるけど」
「結局眠れるだろ」
そこにトニーも話に加わって来る。彼も長所のスピードを活かし、数々のアシストを積み重ねていた。
「トニーも元気そうだねー、ランドのお守りお疲れ♪」
「ああ、本当こいつは昔から落ち着きが無い」
「何言ってんだよ、女性には紳士って評判の俺だぞ?」
昔を思い出すように、3人は会話を重ねていく。
「お前ら昔話に花を咲かせている場合か」
その3人へ、また1人近づいていた。
かつて弥一と共に守りを築き上げ、クラブの無失点記録を継続してきたクライス。
「アップの時間が勿体ない、行くぞ」
「ああ悪いー」
クライスに言われると、ランドはアップに向かいトニーも続く。
共に軽く走って、カンプノウの芝生の感覚に慣れようとしていた。
「流石だねー、厳しいヨーロッパ予選で強豪国の多くを0に抑えちゃうなんて」
2人が目の前から去った後、弥一とクライスの視線がぶつかり合うと称賛の言葉を弥一はかけていた。
「弥一……色々語る事はあるが、これだけは言っておくぞ」
クライスがキッと目の前に居る相手を見据える。
「イタリアは負けない、絶対にな」
絶対に倒す、彼の心が奥底から叫んでいるのが伝わって来た。
「やる気だね、でも……こっちも負けるつもりは欠片も無いよ?」
優勝を目指すのは日本も同じ。イタリアには負けんと、弥一は真っ直ぐクライスの目を見て言い切る。
「アップの時間勿体ないとか言って、お前のがもっと弥一に構ってるじゃないか」
クライスの背後から大きな影が現れる。当時も長身だったが今はそれより更に伸びて、イタリアの巨人と呼ばれるようになったリカルドが2人を見下ろしていた。
「リカルド、またでっかくなっちゃったねぇー。首疲れるー」
「おかげで着る服探しに一苦労だ」
弥一、クライスの後ろで守り続けた不動の守護神。
カテナチオの番人と言われるクライスの更に後ろへ控え、鉄壁の守備陣と共に守り、ヨーロッパの強豪達を全て完封してきた。
この試合クライスに続く、文字通り巨大な壁として日本の得点を阻んで来る事は間違い無い。
「ヤバいヤバい、懐かしの再会でついつい話し込みそうだよ。俺達だけじゃなく弥一のアップ時間も無くなるし、また後でな」
「またねー♪」
リカルドはクライスを連れて、アップに戻って行った。
それに軽く手を振って見送った後、弥一も軽く走り始める。
「ディーン、待ち望んだ弥一との再会なのに声かけなくていいのか?」
ディーンと軽くパス交換し、相手を務めているランドは蹴りながら話す。
「アップに集中しろランド」
「……了解」
言われてランドは察した。待ち望んだ相手と最高の状態で、最高のサッカーをする為に今は専念する時なのだと。
「五郎、お前もしっかり体温めといた方が良いぞ」
GK同士のアップ。キャッチングや倒れ込んだ時の感触に慣れたりと、入念に行う。
大門はスタメンで出る自分だけじゃなく、控えの五郎も何時でも出られるようにした方が良いと、ボールをキャッチして立ち上がりながら伝えた。
「大門さん……藤堂さんみたいに負傷退場とかそういうのは駄目ですよ?」
「分かってる、けど何が起こるのか分からない。準決勝でもそうだったしさ」
ブラジル戦で藤堂が負傷し、大門が急遽出なければならなくなった。
弥一が居なければ緊張に飲まれて終わっていたかもしれない、一歩踏み出すだけで変わる景色。
彼に自分と同じような苦しみは与えたくない。何時出番が来るか分からない控えGK、だからこそ常に備えておくべきだと教えていた。
「こんな事、陸上の時想像出来たか?」
「出来たら占い師にでもなっていたな」
共に軽く走り、足を慣れさせている優也と冬夜。
元々は陸上で繋がった幼馴染。違う競技で競い合っていた2人が、サッカーの世界最高峰、その大会の舞台に立っている。
当時陸上をやっていて、そうなると想像出来る訳が無かった。
「すっげぇよなぁ、うん。凄い所まで来ちまった」
「おい冬夜、もう満足してないか?」
「まさか、本当の満足は優勝したらだろ」
改めて今の環境を眺め、そんな言葉が出て来る。
ただの記念で此処に来てはいない、此処には頂点を取る為に来ているのだ。
この現状で満足はしないと冬夜は優也の問いを返し、優勝に向けて共に走って行く。
「パス、結構上手くなったんじゃないか?」
「お前に言われて悔しい所あったからな」
光明と番のパス交換。番からのパスを受けると、光明は以前パスの甘さを指摘した時と比べ、正確に返って来ているのが分かった。
「アップそろそろ終わりだー、引き上げるぞー!」
そこに辰羅川が2人にアップの時間は終わりだと告げて、共にロッカールームへ引き上げて行く。
弥一は戻る前に、日本ベンチに置いてある薄汚れたノートへ視線を向ける。
この試合はちゃんと彼にも見せなければならない。チームにはノートに触らないように、片付けないようにと伝え済みだ。
神山勝也の存在なくして今の弥一はいない。
イタリアはロッカールームへ戻り、ジャージを脱げば伝統の青いユニフォーム姿となっていく。
戦う準備が出来ていくと、ディーンの方は1人椅子に座り目を閉じていた。
その時、自分の右膝が微かに震えるとディーンは右手で膝を掴み、震えを落ち着かせる。
「(急くな……騒ぐな……もうじきだ、存分に戦う時は来る……)」
血が騒ぐ、早く戦わせろと体の内から叫んで来るかのように震えが来ていた。
待ち望んだ相手との戦いはすぐそこにある。ディーンは席を立つと、右腕にキャプテンマークを巻いてフィールドに向かう。
「んじゃ、いっちょ行きますかー♪」
今回の日本はアウェーユニフォームの白。イタリアが青なので、そちらに袖を通していた。
弥一はキャプテンマークを右腕に着けた後、マイペースな掛け声で決勝へと臨む。
「最後までマイペースな奴やなぁ」
「むしろあいつが気合満点の掛け声したら、それはそれで変かもな」
力が抜けるような感じの掛け声に、想真と室は揃って笑いを堪えていた。
これが結果として緊張を解す効果が生まれ、良いリラックスになる。
共に列へと並ぶ両チーム。先頭には弥一とディーンの両キャプテンが並び立つ。
2人は特に会話を交わさない、互いに入場の時を待っていた。
やがて審判団が動き出すのと同時に、弥一とディーンが歩けば後ろの列も続いて歩き出す。
『Uー20ワールドカップ、とうとう決勝の時を迎えました!決勝の組み合わせとなったのは日本とイタリア!この2チームのどちらかが世界の頂点に輝きます!』
『この空間に日本チームがいるというだけで、もう凄いですよね。それも相手はあのイタリア、どんな試合になるのか……予測不能ですよ』
フィールドに向けてスタンドから多くの歓声が飛び出す。
今まで聞いてきた歓声でも特に大きく、選手達は声を受けながら入場してきた。
地元スペインは同じヨーロッパとして、俺達に勝ったんだから勝てとイタリアを応援する者がいれば、スペインの敵討ちをしてくれと望んで日本を応援する者もいる。
両国の国歌斉唱が流れ、それが終わると互いのチームがすれ違いながらタッチを交わし、キャプテン同士が審判団の元に向かう。
間近で向き合う弥一とディーン。共にサッカーをしてきたが、異なるユニフォームで相対する本気の試合はこれが初めてだ。
「表」
「裏」
弥一が表、ディーンが裏と答えて主審の手でコイントスが行われる。
表示されたのは表、日本が先攻を取る。
「此処で会うと中々かける言葉が出てこないもんだね、ディーン?」
握手をする中で、ようやく弥一がディーンと話す。
「試合前から色々話す事も無いだろう。あれで山程これから語る事になるんだ」
ディーンが向く先には、センターサークルにセットされたボール。
「それもそうだね」
弥一はそこでディーンと会話を終わらせ、互いにチームの元へ戻る。
此処で言葉はいらない、後は互いのサッカーで戦うだけだ。
白いユニフォームの日本、GKは黄色。
青いユニフォームのイタリア、GKは赤。
Uー20日本代表 フォーメーション 3ー5ー2
照皇 室
10 9
月城 三津谷 白羽
2 8 7
影山 八神
15 5
青山 神明寺 仙道(佐)
3 6 4
大門
12
Uー20イタリア代表 フォーメーション 4ー4ー2
ジージョ ランド
9 11
ディーン トニー
10 7
エルフリック ボルグ
8 5
トルク クライス カランティ サルク
2 6 3 4
リカルド
1
「イタリア復活の時だ、それに相応しい最高のサッカーを世界中に見せつける」
円陣を組むイタリア、ディーンは静かに声掛けを行う。
「「l'Italia.Gloria in excelsis Deo!!(イタリアに栄光あれ!!)」」
最後に全員がイタリア語で大きく声を揃え、フィールドに散って行った。
「初っ端からあのカテナチオに行くんか、どう崩すか……」
「それなんだけどねー……」
「……おい、マジかそれ。いや、まあそっちの方が効果あるかもしれないけど」
日本からの攻撃、いきなり最強守備のカテナチオと真っ向勝負、どうするか想真達が考えると弥一が思いついた事を話す。
短く打ち合わせを終えると、日本も円陣を組む。
「じゃ、最後は立見式でやっちゃっていいかな?」
高校サッカーにおいて頂点に君臨する立見。夏冬揃って連覇をしている絶対王者にあやかって、これで声掛けする事は話し合いで決めていた。
皆が頷くと弥一は思いきり声を発する。
「日本GO!!」
「「イエー!!」」
揃って声を合わせ、皆がポジションに散って行く。
センターサークルに立つ照皇と室。目の前には最強と名高いアズーリが見えている。
スペインの時間で朝の10時、これが開始のキックオフ時間だ。
時間はもうすぐその時を迎え、時計の針がそこを指した時、主審の笛が鳴り響く。
ピィーーー
大歓声が沸き起こる中、日本のキックオフで試合が始まる。
『最後の戦いが今キックオフ!最強の守備、カテナチオに日本はどう挑むのか……』
照皇が軽く蹴り出し、室が後ろに戻す。
それを受けるのは光輝、ではなかった。
「!」
ディーンの目が見開く。彼の位置からボールに突っ込んで走る姿が見えたのだ。
それも自分の最も戦いたいと思っていた姿が。
「(先手、必勝!!)」
この位置まで開始から上がっていた弥一。来たボールに対して思いきり右足を振り抜く。
『!?神明寺いきなりロングシュートかぁ!?』
難攻不落の要塞カテナチオに対して、弥一は大胆にもそれに向けて皆やらないだろうと思う方法を選択。
イタリア相手にキックオフシュートを放ってきた。
成海「始まるなぁ、日本とイタリア」
豪山「世界の頂点か、あいつらが部に入って来た時まさかそこまで行くとは思わなかったよな」
京子「あれ……弥一君?」
豪山「お、おいマジか!?イタリア相手に!」
成海「カテナチオ相手にキックオフシュート!?」
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