世界一を争う決勝戦に備え
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
日本がUー20ワールドカップでブラジルを撃破。そのニュースは日本列島を駆け巡り、人々に知れ渡っていた。
『マイアミの奇跡再び!』
『歴代最強の守備!フランス大会から続く無失点記録!』
『決勝は優勝候補筆頭、異次元の魔術師ディーン率いるイタリアと激突!』
「Uー20日本素晴らしいですね、ブラジルを破ったというだけでも充分凄いのにワールドカップの決勝ですよ」
「我々の時代の時は出場も夢でしたからね。ワールドカップの世界一……これを達成しているのは女子だけで男子はまだ達成してませんから、是非とも取ってほしいです世界一」
ニュースのスポーツコーナーでキャスターや専門家にタレント、色々な人が集まり日本対ブラジル戦について話していた。
「出来る事なら最後も勝って優勝ですが、イタリアが相手かぁ……しかもあのディーンが居るんですよね?」
「本来A代表入り間違い無しの選手なのに、わざわざUー20に参戦はイタリア国内でも大きな話題になりましたからね」
「彼だけでなく他のイタリア選手達も実力者揃いで、日本と同じく今大会無失点。更に予選でも無失点とカテナチオ完全復活してますよ」
「ディーンだけでなくFWのランドも好調で得点ランキングではファルグに並んでトップと、攻撃力まで兼ね備えてA代表より強いかもしれません」
日本に勝ってほしい。だが相手がイタリアでしかもディーンが参戦となれば、優勝するのは至難の業だとシビアな意見が出て来る。
「日本の神明寺君がイタリアのミランでディーン達と共にサッカーをやってきましたから、これは今まで以上に彼が鍵になってくるんじゃないでしょうかね?」
「彼らのやり方とか癖とか知ってそうなイメージありますからね」
テレビでイタリア戦について様々な意見、予想が飛び交う。
「ディーンに癖なんかあったかなぁ?」
「おいおい、分かんないのかお前も!?」
スペインでは日本の宿泊するホテル、食堂に集まって弥一へ選手達がイタリアについて尋ねていた。
真っ先に皆が知りたいと思ったのがディーンの弱点だ。
ミランのジョヴァニッシミで数年、共にサッカーをしてきた弥一なら何か知ってると期待したら、彼も弱点については知らない。
「大体知ってたらマッテオが真っ先に伝えるはずだし、それが無かったって事はそういう事だねー」
「マジかぁ」
ディーンの癖や弱点。それについて弥一からは何も聞けず、辰羅川は椅子に背を預け、天井を見上げた。
弥一自身もディーンとは過去にジョヴァニッシミ時代、幾度となく1on1の戦いを繰り広げてきたが、その中で彼に弱点と言える所を見た覚えは無い。
自分が大きく負け越したのは、ハッキリ覚えているが。
「というか注意するのはディーンばっかじゃないからね。他に要注意はもう山のように居るからさー」
「わぁっとるわ、イタリア程高いチーム力を誇るのは他におらんし」
弥一に言われるまでもなく理解している。腕を組んだままテーブルに身を乗り出す想真だけでなく、全員が最強であろうチームの姿を思い浮かべた。
チームの大黒柱サルバトーレ・ディーン。多くのアシストだけでなくゴールまで重ね続ける、まさに異次元の活躍を見せていた。
2トップも驚異であり、バルム・ランドは得点ランキング首位にファルグと並び立つ天才ストライカーで、ソラン・ジージョは長身の万能選手だ。
右サイドにはイタリア最速の足を持つカルバーレ・トニー。攻守においてスピードでサイドの攻防戦を制し、サイドの支配者の異名を持つ。
左サイドのロベンスも速く、彼の方は献身的な守備が光る。
ボルグ、エルフリックの2人はジョヴァニッシミ時代から、現在まで同じチームでプレーし、連係抜群のダブルボランチ。
その後ろ。予選から今回の決勝まで無失点を続ける、カテナチオの番人パオロ・クライス。小柄ながら抜群の身体能力を誇り、優れた統率力を合わせ持つ。
ディーンが不在の時は彼がキャプテンマークを着ける。
クライスと共にセンターで守り、一対一で抜群の強さを持つ大型DFトム・カランティ。卓越した守備で両サイドの守りを支えるトルク、サルクのバンルッソ兄弟。
カテナチオ最後の砦、イタリアの巨人と言われる2m超えのGKジャンドラン・リカルド。
恐るべき反射神経とリーチを持ち、GKに必要な要素を兼ね備えた申し子で、シュートストップ能力がずば抜けて高い。
彼らを中心にイタリアは勝利を重ね続け、その強さはまさに鬼神。優勝候補と言われた国も寄せ付けず、世界一に最も近いチームだ。
「で、ジョヴァニッシミの方で一緒だったのがディーン、ランド、トニー、クライス、リカルドと……」
「そうだねー、後はイタリア中の優秀な子が集まってるねー」
改めて弥一の元チームメイトについて確認する室。後は対戦経験があったりする選手ぐらいで、何人かは弥一も覚えがあった。
「攻撃も守備も今までのチームの中で一番だろうが、萎縮する事はない。俺達もオランダやドイツと同じヨーロッパの強豪に勝って来ているんだからな」
自信を持って臨み、相手に怯まない、照皇はそれが大事だと改めて皆へと伝える。
「無失点はこっちも一緒だし、決勝はカテナチオ対決かな?日本もアジアのカテナチオって言われてるからさ」
動画で改めて、イタリアのプレーをチェックする春樹に恐れは無かった。
彼だけではない。相手がイタリアだろうが此処まで来たら優勝を狙う、皆負ける事は一切考えていない。
「見れば見る程化物だなこいつ」
光明がスマホ越しで見ていたのはディーンのプレー。
上手いとか卓越とか、それだけでは片付けられない数々のスーパープレー。
「まさにファンタジスタ」
アウェーでスペインの観客を魅了する姿に、光明の口からそんな言葉が出て来た。
歴代のサッカーのスーパースター達がそう呼ばれてきて、今の時代はディーンがそれに相応しいだろう。
「って、褒めてねぇでお前何か気付くとか無いのかよ?イタリアの意外な弱点とか」
「よく知る弥一が出て来なかったのに俺が出る訳無いだろ。見れば見る程強いってぐらいで」
月城から何か発見はなかったのか問われるが、全然と答える中でも光明はスマホから目を離さない。
何か1つでも発見し、少しでもイタリア戦で有利に戦う為にチェックを続ける。
「日本戦では途中交代しない、最後まで出る」
イタリアの宿泊するホテル、その一室で日本戦に向けたミーティングが行われていた。
ディーンはこれまで一度もフル出場しておらず、途中交代をしていたが日本との試合は交代しないと、監督やチームメイト達に伝える。
「……良いだろう、お前がそうしたいのであればやってみろ」
監督は反対しない。イタリアを此処まで率いて来たが、こんなにもディーンが最後まで出たいと願うのは初めて見る。
「ディーン、そうしたいのは……あくまでイタリア勝利の為だよな?」
「当然だ、世界一に俺達はならなきゃいけない」
そこにクライスがディーンに鋭い眼差しを向けて来た。問われた答えを迷い無く、真っ直ぐ見つめ返してディーンは言い切る。
「お前も分かるだろ、ブラジルを倒す程の日本相手に温存は危険だと」
「……ああ」
日本には力の出し惜しみをしない、クライスも分かっている。
かつて共に守っていた者と敵として戦う。彼の実力を思えば、ディーン無しではかなり難しいだろうと。
「出たいと言うなら、存分に試合やって良いと思うぞ?クラブとか色々煩い事言いそうだけどさ」
やる気になって頼もしいと、ディーンの右肩に軽く左手を置いたランドはクラブ事情も考えつつ、陽気に笑う。
「じゃあディーンはフル出場って事で、皆決定かな?」
改めて彼のフル出場についてリカルドが皆に確認すると、反対する者は誰もいない。
皆も分かっていた。ディーン無しで弥一の居る守備に対抗するのは難しいと。
このイタリア代表で弥一の事は皆が知っている。
やがてミーティングは終わり解散。皆が部屋を出るとクライスはまだ残って、席に座っていた。
「クライス、どうした?」
具合が悪いのかと気になり、トニーが声をかける。
「イタリアの世界一か……それをあいつが強く望んでる事は知ってる」
「ああ、ジョヴァニッシミの頃から見てきたからそれは分かる」
「同年代どころかプロでもディーンを止めきれない。だからか弥一に執着するようになった」
試合後、日本の試合をスマホで見ていたディーン。
正確には主に弥一のプレーばかり、それをクライスは目撃する。
「弥一か……そういえば、あいつだけだったよな。1on1であのディーンからボールを奪い取ったのは」
「……!」
「あ、悪い……」
トニーの言葉を聞いて表情に険しさが増すクライス。それに思わず謝る言葉が出てしまう。
「いや、俺が冷静になれてなかっただけだ。すまん」
自分が悪いとクライスはトニーに謝った。
「じゃあ、試合に向けてちゃんと調整しとけよ?」
「分かってる」
トニーが部屋を出れば、クライス1人が取り残されて席に座る形になる。
「(1on1で何度も負け続け、それでもあいつはディーンに勝つと向かって行った……それがディーンの刺激になった)」
ジョヴァニッシミ時代から見てきた弥一とディーンの1on1。毎回ディーンが勝ち続けてきた、お決まりのパターンな毎日だったが、ある日弥一がディーンから勝利する。
過去に自分も負けないとディーンに挑んだ事はあったが、敵わず何時の間にか挑戦を諦めてしまう。
異次元の天才からボールを奪った日本人、驚愕、尊敬、嫉妬、後悔、様々な感情が入り混じる。
あれ程彼と張り合ったのは知る限り弥一だけ。だからディーンは彼ばかりを見ていた。
「(ディーン、お前の中の弥一をこの大会で消してやるよ……俺が奴を越える最強のDFになって振り向かせてやる!)」
この問題を解決する為にはイタリアが勝つ事。その時に自分が弥一を超える存在となって、今度こそディーンに挑み真っ向勝負で勝つ。
過去の挑めなかった後悔を取り返そうと、カテナチオの番人クライスは決意する。
1人イタリアが使うグラウンドに出て来たディーン。フィールドの中央でリフティングをする。
昔から続けてきた事を今も続けていた。
1人部屋に戻り自分の鞄を開けて、日本から持って来たノートを取り出す弥一。
改めて兄貴分の書いた内容をじっくりと読み進める。
来たるべき決戦に向けて、2人は静かに時を待っていた。
弥一「流石にスペイン土産を買う暇とか、無いよねー?」
優也「無いだろ絶対に、大事な決勝でイタリア戦を前にわざわざ買ったりはしない」
大門「あー、いよいよかぁ……!」
弥一「また両手パンってやろうか大門ー♪」
大門「肩にドンも両手パンもいいから!」
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