王国と最後の攻防戦
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『これは、日本またもアクシデント……!値千金の先制ゴールを決めた酒井狼騎が左肘を抑えて苦しそうです』
『リプレイで見る限り、かなり思い切り打ち付けてますね……』
日本に再度降りかかった不幸、藤堂に続いて狼騎が負傷。これにベンチは動き、照皇が代わって出場となった。
「狼騎先輩、大丈夫ですか狼騎先輩!?」
「五郎!俺が付いて行くから、お前は試合あるだろ!」
強く狼騎を慕う五郎。一番狼騎を心配しており、医務室まで付き添おうとしていたが、控えGKといえど五郎が出場する確率も0ではないので、選手の彼が離れるのは不味い。
五郎を止めた安藤が代わって狼騎に付き添い、共に医務室へ向かって行った。
心配そうな表情を見せる五郎はその姿を見送った後に、今行われている試合の方へと向き合う。
「くそっ!くそっ!!もっと上手く弾いていれば……!」
今大会初失点のジルバ。終盤にゴールを決められて彼は激情に駆られそうになる。
何故あれをもっと上手く弾けなかったのか。その前に今の変化に対して、もっと冷静に対応出来なかったのかと。
いくら振り返っても1点を失った事に変化は無い、それはジルバも頭で分かっていた。
「もう時間が無い!早く攻め……!」
「こっち蹴って来い!早く!!」
ドミーが早くプレーに戻ろうと言い出した時、センターサークルのファルグがボールを寄越せと叫ぶ。
ボールを持ったドミーはセンターサークルに蹴って、ファルグに渡す。
キックオフの準備は出来た。日本の準備を後は待つだけだ。
「監督からは徹底して守りぬく、守備に全力を注ぐようにとの事だ」
「まあ、そうなりますよね〜。もうアディショナルタイムだけ、1点リードしている今やる事は逃げ切るぐらいですからー」
照皇から守備重視で行こうと、マッテオからの伝言を伝えて弥一はポジションに向かう。
ファルグとすれ違った時、彼から凄まじい殺気のような物が感じられた。
残り時間は長めのタイムがあるとはいえ僅かだけ。それでもまだ彼はゴールを、勝利を諦めてはいない。
「(王国の意地って所かな、でも跳ね返すよ。これ以上代償払うのも嫌だからね)」
既に日本は2人も負傷退場者が出ている、それでやっと1点のリードだ。
もう相手がどんなに王国の意地を見せようが、知った事じゃない。
守り切って無失点、それがDFとしての仕事。
獣となってゴールに迫る者、その獣を狩る狩人となって守る者。
最後の攻防戦が始まる。
『ブラジルのキックオフ!パワープレーには出ず、ショートパスで繋ぎ迫る!』
焦ってパワープレーで強引には行かず、それぞれの高い技術や身体能力を持って、短く速いパスを連続で繋いでいた。
文字通り最後の力を振り絞り、同点ゴールを狙いに行くブラジル。
それを日本は守りきらなければならない。
「落ち着いてー!焦って取りに行くの駄目だからねー!」
無理にインターセプトを狙う必要は無い、確実に守れればそれで構わなかった。
弥一が声を出す中、激しい攻防が繰り広げられる。
『ルーベスも上がって来た!シュート……!天宮ブロック!弾かれたボールを歳児が取った!』
ブラジルDFも此処でもう1点取られても同じだと開き直ったか、積極的に上がってシュートを遠めから構わず撃っていく。
これを交代した春樹や優也が懸命の守備で守り、突破を許さない。
普段より長く感じる時間の流れ。早く終わってほしいと、この場に居る日本チームやサポーターの誰もがそう思っていた。
ただ簡単に終わらせるのはブラジルが、王国の天才が許さない。
ボールを持つと、終盤とは思えぬ速さのフェイントで光輝を突破。後ろに居た春樹が寄せて来るも、キックフェイントを混ぜたエラシコで躱し、2人を突破していた。
そこに弥一が迫る。
『ファルグ2人躱した!神明寺止められるか!?』
右へ左へと、フェイントをかけて揺さぶったり速い動きをしてくるファルグに、弥一はピッタリと離れず見逃さない。
「(こいつ!本当にしつこいハポネスだ!)」
またも弥一の前でストップ。忌々しげに弥一を見れば、ボールを取られないようにキープ。
一瞬の隙を突かれ、取られてしまうかもしれない。
何度も止められていた影響か、イメージは悪い方が浮かぶばかりだ。
「(このままずっと睨み合うなら好都合だね、いくらでも付き合うよ?)」
互いにフルタイム動き回り、頬から汗が滴り落ちてくる。
それでも変わらず弥一はファルグから目を離さず。
するとファルグは右の踵を使い、ノールックで左にボールを転がす。
此処でパスを選択すれば先にいるのはジャレイ。これを右のトゥーキックでゴールを狙いに行った。
ブラジル2人による高難度の技が連続で繰り出され、誰もシュートだと注意をする暇も無い。
低空飛行のシュートが日本ゴールに向かう、かと思えば弥一が来ると分かっていたのか、飛んでいくボールに向かって右足を伸ばしていた。
弥一の右足に当たってボールは弾かれ、ゴールマウスから逸れてゴールラインに向かい転がって行けば、大門がセットプレーにはさせまいと倒れ込みながら抑えた。
「大門、ギリギリまで待って強く蹴ろうー!」
「分かってる!」
スローイングよりもパントキック。弥一に言われるまでもなく大門はボールを持ったまま遠くを見据え、右足で思い切り蹴り上げた。
天まで届く勢いで高く上がったボール。滞空時間の長さで何秒か稼ぎ、落下してくると光明とルーベスが空中戦で激しく競り合う。
「照!取れー!!」
「!」
取ってくれと願う光明へ応えるように、照皇はセカンドとなったボールをブラジルより先に取る。
『取った照皇!左ライン際でキープ、ブラジル必死に取りに行く!』
『まだ8分じゃないですか……!?』
ブラジルは急ぐ。出来るだけ早く照皇からボールを取ろうと、2人がかりで厳しく当たったり足を出していた。
それでも懸命にボールを守るように照皇はキープ。彼も時間を稼ぐ事に全力を注いでいる。
FWとしては点を取りたいという想いが当然強い、だが今は1点を守り切る方がずっと大事だ。
『ブラジルの厳しい寄せ!ボールがラインを割って、ブラジルのスローインだ!』
「ナイスキープー!結構時間稼げたよ照さんー!」
粘って長くボールを持った照皇に弥一は礼を伝え、照皇はそれに無言で右親指を立てて応える。
「ぐっ……!はぁっ……」
体が重く感じ、肩で息をするようになってきた。
体力に自信を持つファルグも、リードされている焦りが重なり心身共に疲労が迫る。
「(終われるか、こんな所で……こんな所で!!)」
決勝で待っているかもしれない因縁の相手。彼の顔が頭に浮かべば自らを奮い立たせ、顔を上げれば再び走り出す。
「(照さんみたいに執念凄い、そこは流石ブラジルの10番だよ!)」
ファルグが疲れている姿を見せても、力を振り絞って来る相手に弥一は手加減せず封じ込めに動く。
右サイドでは優也が上がって来たアローと、デュエルを繰り広げていた。
FW以外のポジションをこなしたり、弥一に守備を鍛えられた経験が活きてブラジルの左サイド相手に抜かせない。
「!」
これに突破を諦めたアローは優也の左足にボールを当て、転がって行く先はゴールライン、ブラジルの左CKを取っていた。
『アディショナルタイムでブラジルのセットプレー!日本はピンチだ!』
『上がって来ましたねジルバ、時間的にこれがラストプレーですかね?』
時間が無い中でのセットプレー。ブラジルはGKのジルバまで上がり、文字通りの全員攻撃へと出て来る。
キッカーを務めるのはファルグだ。
最後の攻防戦になるかもしれない。日本ゴール前に押し寄せる両選手達がポジションを争う。
「ジルバ!もっとこっちだこっち!」
ファルグがセットされたボールの前で、ジルバに大声を出して指示を出す。
ジルバは手前に向かった。
「(こっちに来るか……?)」
それを見ていた佐助。ルーベスも上がって来て、そちらは番が付いている。
ならジルバは自分がなんとかしようと、佐助は彼に狙いを定めた。
ブラジルの左からのCK。セットされたボールに対してファルグの左足は外側で蹴られる。
左のアウトサイドで蹴られたボールはジルバの頭上に向かっていた。それを見て佐助はクリアしようと動く。
「!?」
次の瞬間、佐助の顔は驚きに染まる。
クリアに行く佐助から逃げるように、ボールが日本のゴールに向かって急激な曲がりを見せた。
最初からファルグはジルバに合わせに行かず、直接ゴールを狙っていたのだ。
クロスを警戒していた大門。直接狙って来た事に気付くと、ボールは自分から見てゴール右上隅に向かっていた。
アウトサイドで蹴られたカーブボール。更にGKにとっては止めづらい嫌な位置だ。
「くぅっ!」
大門は懸命に右腕を目一杯伸ばし、ゴールに向かうボールを右掌に当てて弾く。
しかし不運にも、跳ね返った先には左からエリアに入っていたファルグ。
角度しては相当厳しい、だが不可能ではない。今なら大門も体勢が不十分だ。
「(同点だ!!)」
ファルグがゴールを鋭く睨み、そのまま右足を振り抜きに行く。
「もうあんたのシュートは無いよ」
耳に聞こえて来た弥一の声。
気付くとシュートを撃とうとしていたファルグの足元にボールが無い。
撃つ前に弥一が掻っ攫っていったのだ。
「!?」
ファルグは佐助以上に驚愕する。混戦に紛れてシュートを撃つほんの一瞬の隙、それを弥一に突かれて奪取されてしまった。
獲物を狩る狩人の目が見逃さない。弥一はボールを取ると誰も居ない、ブラジル陣内へと向けてボールをクリア。
弥一の右足によってスペインの青空に舞い上がったと同時に、主審の長い笛が吹かれた。
「きつかったぁー!!」
笛が吹かれた瞬間、弥一は芝生の上に大の字で倒れ込んだ。
1ー0、ブラジルの反撃を凌いだ日本が決勝進出を決めた時、スタジアムは様々な感情混じる歓声で包まれる。
幸「か、勝った!?吹き間違いとかじゃないよね!?」
輝咲「先生、大丈夫です!間違いなく試合終了ですから!」
彩夏「息するのも忘れちゃうぐらいだよ〜!」
鞠菜「動画編集とか忘れてたけど……とりあえず日本勝ったー!と早く投稿投稿!」
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