勝利への代償
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
続けて日本の右からのCKチャンスに、弥一は続けて蹴る事も考えたがジルバのセービングを見て右コーナーには向かわず、防がれて飛んでくるかもしれないカウンターに備え、最終ラインまで戻って行った。
右コーナーから蹴るのは光輝。身長以上の高さある光明を使おうと、ニアに居た彼目掛けて左足でキック。
頭上に飛んでくるボールに対して、ルーベスと空中戦で競り合う光明。
頭に当たると、ブラジルゴール前からボールは遠ざかって行く。
此処は楽に飛ばさせなかったルーベスの勝利だ。
『堅いブラジルDF!日本セットプレーのチャンスを物に出来ず!』
『先程のFKで取りたかった所ですけどね。切り替えて攻めに行きましょう』
「(ふ〜、どうなるかと思ったが流石ジルバだ。これで後は点を取れさえすれば)サイドもっと上がって良い!行け!」
ブラジルの監督が席を立って、フィールド前まで出て来るとサイドへ積極的に上がるよう指示を出す。
選手達だけでなく監督も後半での決着を狙い、攻撃的な姿勢を見せていた。
「両サイドー!2番と4番気を付けろー!」
サイド攻撃をより厚くする為に上がる姿が見え、右の白羽や左の冬夜にそれぞれ大きく声を出して指示を送る大門。
直後にブラジルの両サイド、アローとルルッチが積極的に上がり、前の味方プレーヤーを追い越す勢いで上がっていた。
「(4番がデコイ。本命はアローの先に居るファルグだね)」
ルルッチの動きは囮、それを分かった上で弥一はあえてデコイだと伝えず。
釣られてるフリを見せて、本命の攻撃を予定通りしてもらうつもりだ。
白羽をワンツーで振り切り、アローからファルグに繋がった時に弥一はエースの前に立ち塞がっていた。
これにはファルグもストップ。弥一と正面から睨み合う形になる。
高速のシザースを仕掛けるファルグだが、弥一はこれにも惑わされない。
その時左足で跨ぐ、と見せかけてファルグは左のアウトサイドで、ボールを外側へ押し出し、左のインサイドへと持ち替えて切り返す。
ブラジルの選手が得意とするエラシコと呼ばれる技。左で押し出す動きを見せて相手を釣らせた所に素早く、同じ足で切り返し抜き去る。
ファルグは高速のシザースと、これを組み合わせていたのだ。
「(今度こそ!)」
弥一を躱した、そう思った時。
「危ないっとー!」
「!?」
エラシコで切り返して進もうとした所に弥一の足がボールを捉え、またしてもファルグの個人技を止めてみせた。
転がったセカンドを想真がキープし、前に繋いでいく。
「(この俺があのハポネスを突破出来ないだと!?馬鹿な!!)」
一度ならず二度までも弥一に止められた。この事実にファルグは信じられず、内心激しく動揺してしまう。
ファルグが突破出来ない。ブラジルの攻撃は彼の力が大きく、この事実はチームにかなりの影響が及ぶかもしれなかった。
『後半15分を過ぎて日本が攻勢!ブラジルは少し落ちて来たか!?』
『結構ハイプレスで飛ばしたりとした影響ですかね。チャンスですよこれ!』
ブラジル優勢だったが途中から日本の方でボールが回り始め、向こうのハイプレスも影を潜めていた。
『神明寺、影山、白羽に渡った!』
弥一もパス回しに加わり、立見の先輩後輩コンビで繋ぎ右の白羽がボールを持てば、ドリブルで右サイドを切り裂きに進む。
右から起点となって白羽はそこからクロス、と見せかけて光輝とワンツーで中央に進んでいた。
『白羽ゴール前!日本チャンスだ!』
コースが見えたか、白羽は迷いなく右足を振り抜いた。
ゴール左上隅に飛んで更にスピードは出ている。良いシュートだがそれに関係なくジルバがダイブ。
白羽のミドルを両手で掴み、またしても完璧なキャッチで止めてみせた。
『ジルバこれも止める!良いシュートだったが牙城を崩せない!』
『本当に厄介ですね。ですがこういう攻撃を続けて行ければゴール奪えると思いたいです!』
「こっちだ!!」
狼騎がボールを動きながら要求。それを見て光輝がゴール前にグラウンダーの低いパスを送る。
受け取った狼騎はDFが寄せて来る前、振り向きざまに右足でシュートを撃った。
左下に飛ぶ低空飛行のボール。それに対してもジルバが倒れ込みながら両手でキャッチング。
何本かブラジルはシュートを許してるが、ジルバのおかげで失点までは許していない。
日本ベンチではマッテオが腕時計を見ている。後半は30分を過ぎようとしていて、スコアは未だ0ー0が続く。
フィールドでは体力の落ちて来た白羽に代わり、優也が出場している。
『歳児、右からクロス!源田ヘディングー!っとこれもジルバだ!』
アローと右サイド際で争い、キックフェイントで一瞬外した隙に光明へと高く上げた。
高い打点から光明がヘディングで狙うも、ジルバがこれを難なくキャッチ。
日本のシュートは増えている。だがジルバからゴールをまだ奪えていない。
このまま行けば延長戦、その先のPK戦まで戦う事になってしまう。
『日本再び右からのCK、キッカーは三津谷、源田の頭を狙ったが、ジルバ飛び出してキャッチ!』
攻め急いでしまったせいか、日本はカウンターを受ける。
CKのチャンスで光輝。奥に構えていた光明にハイボールを蹴るも、ジルバに取られてしまった。
ジルバはすぐにスローイング。ドミーからジャレイと繋がり、ブラジルが速攻で日本陣内に入る。
「10番マーク!」
大門の声が飛ぶ。この局面でファルグは無視出来ない。
やはり大事な時はエースに託すだろうと読んでいる。
だがジャレイから繰り出されたのは、後ろへと軽く戻すヒールパス。そこに上がって来たルルッチがミドルを放つ。
これを佐助が体に当ててブロック。
「やば!?」
すると弥一も焦る出来事が起きてしまう。
「っ!?」
ボールはコースを変えつつ日本ゴールを捉えていた。左から右へとスピードが落ちながらも飛ぶボール。予期せぬシュートに、大門は懸命に両手を伸ばしてダイブ。
突然コースの変わったシュートを両手に当てて弾き、こぼれ球にイエッターが迫る。
『シュート!大門止めた!イエッター迫る!!神明寺クリアした!』
『危なかったですね、今コース変わってましたよ!これ大門君スーパーセーブです!』
近距離のセカンドを拾われる前に弥一が追いついており、確実にクリアして一旦タッチラインに逃れていた。
「助かった……!弥一ナイスクリア!」
「大門もナイスセーブ〜、今のめっちゃ焦ったぁ……」
弥一から散々意地悪なパターンのシュートを受けて来た大門。その経験あってセーブ力が上がり、防げたのかもしれない。
そして今のは弥一にとっても冷や汗。どんなに心が読めても、人にシュートが当たってコースが変わる事まで読むのは無理だった。
「油断無しで行くよー!押してても守備は気を抜かなーい!」
押していたが思わぬピンチを招き、弥一は今一度手を叩いて守備陣に声をかける。
こうしている間にも後半タイムアップの時は迫っていた。
『後半アディショナルタイムが表示されました。これは……8分ですか!?かなり長いですね!』
後半45分が迫り、残り後8分と長い時間が確定する。
藤堂による負傷の影響で試合が止まっていたのもあり、今回長めに取ったのだろう。
試合の方は日本が影山から春樹に代わり、その春樹が得意のミドルを撃ったりと日本はシュート数を重ねるが、ルーベスやドミーを中心としたブラジル守備陣が弾き返したり、ジルバも好セーブを連発して得点を許さない。
ブラジルの鋼鉄の牙城、45分になっても日本は破れずにいた。
いよいよ見えて来る延長戦。
「こっち戻してー!」
春樹がボールを中盤で持つ。ブラジルに取り囲まれそうになると、後ろから弥一が声をかけ、春樹は右の踵でバックパス。
それを弥一は右足でダイレクトパス。左サイドの空いているスペースを狙って、ボールが飛んでいく。
「(きっつ!!)」
後半の最もキツい時間帯、それも関係なく弥一は左の冬夜を走らせる。スパルタなスルーパスを送っていた。
辛いと感じながらも、冬夜は弓から引かれて放つ矢の如く飛んで来た、グラウンダーのボールに反応して必死に追いかける。
ブラジルの右サイド、ルルッチとの走り合いだ。
「うわ!?」
これにかろうじて追いついた冬夜、かと思えば後ろからルルッチの足が伸びて来て、ボールはその足に当たりゴールラインを割った。
転ばされた冬夜に対しての反則は無く、ボールに行っていると主審は判定。
よって日本の左からのCKだ。
「光輝ー!番ー!」
そこに弥一が2人を呼ぶと、3人で話し合いが行われる。
「(何でも来い……!どんな小細工しようが止めきってやる!)」
数々の攻撃を止め続けるジルバ。弥一達が話し合う所が見えても、どう来ようが止められると自らの力に自信を持っていた。
『さあ日本、アディショナルタイムに入ってCK!延長戦に入る前に終わるのか、またもブラジル止めるのか!?』
キッカーの位置に来たのは光輝。弥一の姿は見えず、エリアの中や周囲に張り付いている様子も無い。
敵味方で密集するブラジルのゴール前。ポジション争いが繰り広げられる中で、光輝は左足でボールを蹴った。
蹴られたボールはブラジルゴール前ではなく、それより後方へと蹴られる。
これに走り込んで行くのは番だ。
「(こいつのシュートかパスに賭けたか!?)」
ブラジル守備陣は番からいずれかが来ると思い、身構えていた。
「!?」
番にボールが来る、かと思えば番の背後から弥一が飛び出して、光輝からのパスを左足でトラップする。
番の後ろを走る事で、自らの体をブラジル守備陣から見えなくして不意を突く。
先程の佐助を利用したように、弥一は大型DFによって、その小さな体を隠していた。
左足でトラップしたボールが浮き上がり、もう一度落ちて来た所に弥一は左足のボレーで捉え、ブラジルゴールに向けてシュートを放つ。
上手く芯を捉えて弾丸と化したボールが勢い良く向かう。ただジルバはこれに反応して動いている。
取れる、そう思った時だった。
「っ!」
ルーベスの体にシュートが当たり、コースは変わっていた。ゴール左に行っていたボールは右へと逸れていく。
日本と同じ予測不能の事が、今度はブラジルの方で起きてしまう。
だが、恐るべき反射神経でジルバは体を振られながらも、その左腕を伸ばしていた。
伸ばした左腕はボールに触れ、弾いてゴールに入らず転がっていった。
「あ……!!」
このアクシデントですらゴールを割れず、弥一はまた防がれて駄目かと思ってしまう。
そこへもう1人の恐るべき反射神経を持つ者が飛び込む。彼の姿はまるで狼を思わせる。
咄嗟に弾かれたボールに対し、そんな反応を見せられるのは1人しかいなかった。
狼騎が滑り込んで右足を当てて、ボールを押し込んでいたのだ。
倒れていたジルバは諦めず右腕を伸ばすが、届かずゴールへと入っていった。
これにスタジアムは悲鳴も混じった大歓声によって包まれる。
『入ったぁぁー!!日本ゴール!日本ブラジルからゴール!ついにサッカー大国から先制点を決めましたー!!』
待望の先制点、フィールドの選手達は喜びを爆発。決まった瞬間ベンチの選手達も何人か立ち上がって、ゴールに興奮状態となっていた。
「狼さん超ファインプレーだよー!あれよく詰め……」
側に居た番と喜び合った後。弥一はゴールを決めた狼騎の元に走る。
殊勲者の姿を見た瞬間、弥一は笑ってはいられない場面と遭遇してしまう。
「ぐ……く……!」
狼騎が左肘を抑えた状態で倒れており、苦しそうな顔を浮かべている。
彼は勢い余ってゴールを決めた後に、左肘をゴールポストに打ち付けてしまっていた。
すぐにコーチ達が向かい、狼騎の状態を見る。
痛そうに肘を抑えたままであり、続行が難しい雰囲気が漂う中でコーチからベンチへと手で☓マークを作って伝える。
先制点を決めて決勝への道が見えた。しかし代償はかなり大きい……。
五郎「やったー!先制点決めた!流石狼騎せんぱ……あぁぁー!?」
影山「ゴールは決まったけど、これ不味いよ……!?」
安藤「藤堂に続いて酒井もかよ!アジアカップといい、日本なんか災難続いてないか!?」
明「気の所為……と思いたいです……!」
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