日本とブラジルの天才同士の激突
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『日本とブラジル、前半はスコアレスで終わり後半に得点は生まれるのか!?互いに無失点同士、延長戦も充分あり得るかもしれません!』
『ブラジルは何か落ち着かない様子ですが、ファルグが何やら怒っているみたいですね』
フィールドに戻って来た両チーム。この時ブラジルの方ではキャプテンを宥める方で必死だった。
冷静になった所に弥一から嫌なタイミングで挑発され、それにファルグはまんまと乗ってしまい、チームでなんとか落ち着かせていく。
「あのハポネスに舐められたままにさせるな!日本の守備をズタズタのボロボロにして、大量失点で恥を晒させて……!!」
「だから落ち着けって、ガキみたいになってきてるぞファルグ!」
まだ頭に血が上ったままのファルグ。ドミーが落ち着かせようと声をかけ続けていた。
「お前、間違っても暴行働いてレッド喰らったら終わりだぞ?そうなったら決勝のカンプノウに立てないし、イタリアが勝ってきてもディーンとは戦えないからな」
「……!」
怒りで興奮状態のファルグにジルバは決勝とイタリア、ディーンの事を持ち出して注意。
仮にファルグがこの試合で退場になれば、日本に勝ったとしても決勝の舞台には出場停止で立てない。
それでは念願のディーンと戦う事も幻となって消え去る事になる。
なんとか先程と比べたら落ち着き、試合にはなんとか臨めそうだ。
「(日本はあんなに搦め手が得意だったのか……?そんな印象は無かったけどな)」
ジルバの視線は円陣を組む日本の方に向いていた。
「そんじゃ、後半はなんとしても天才ジルバから1点奪わないとねー。狼さん頼むよー?」
「言われなくても分かってんだよ、そっちは無失点に抑えとけ」
藤堂に代わりキャプテンマークをこの試合身に付ける弥一。狼騎がやってくれると感じて声をかけていた。
光明も言っていた通り、難関はジルバからゴールを奪う事。
相手はブラジルの天才GKで簡単にはいかないだろうが、それでも彼の守るゴールネットを揺らさない限り決勝に進むのは不可能だ。
「攻撃陣の方と比べて守備陣はまだまだ元気だから、可能な限り決定的チャンスを何回も作り出して物にするしかない」
「そこは俺ら攻撃の見せ場やな」
「勿論このまま大人しくしてるつもりはないよ」
狼騎ばかりに任せる事はしない、光明や光輝や白羽も貪欲にゴールを狙いに行く。
「んじゃ行くよー!日本GOGO!」
「……」
弥一が掛け声を言うも、周りは何も言わず。
大歓声のスタジアム内で日本の円陣付近だけ、静まり返った気がした。
「もうー!そこは「イエー!」だよー!」
「何で此処で急に立見式やねん!?つかGOが一個多いやろ!アレンジか!?」
「シンプルに行くぞ、とか頑張ろう、とかでも良いだろそこ!」
「(ちょっと言いそうになった……)」
急な弥一の掛け声に想真や番といった他校が応えられない中、同じ立見の大門や元立見の影山が、条件反射で言いそうだったというのは伏せておく。
「何か時間も無いし、とりあえず後半勝って行くよー♪」
「締まらないなぁ……」
緩い感じで掛け声をやって円陣を解いた弥一。これに佐助は気合が入るよりも力が抜ける感じがした。
狼騎や光明がセンターサークルに立ってボールがセットされる。
後半は日本のキックオフで開始。目の前には睨んで来るファルグの姿が見えていた。
「(ハポネス共が……!この後半で格の違いを思い知らせてやる。世界のトップ争いに日本の入る余地なんざ無いってな!)」
サッカーの頂点を争うのは昔からヨーロッパと南米、今回もその歴史は動かない。
自分達が勝ち上がり再び実現し、2つの大陸が競い合う歴史は繰り返される。
故に自分達の敗北はあり得ない。残り45分で日本を仕留めて証明しようとファルグの目は日本ゴール、その前の弥一を捉えていた。
ピィーーー
後半のキックオフが鳴り響く。狼騎が軽く蹴り出して光明が後ろに戻す。
「おらぁぁ!!」
「っ!?」
ボールを持った光輝にファルグが雄叫びを上げながら突っ込む。
今の彼の姿はまるで獰猛な獣を思わせ、向かって来るファルグに光輝は一瞬怯んでいた。
そのまま真っ直ぐ突っ込んで来る、かと思ったら身を低くしてボール目掛けて素早く左足を出す。
彼の姿に驚いていた光輝。これを躱せず、ボールはファルグのスパイクのつま先に当たって弾かれる。
『いきなりファルグ突っ込んだ!ボールがこぼれ、影山が取った!』
『後半から飛ばしてますね!?日本集中しないといけませんよ!』
いきなりブラジルに奪取される危機だったが、影山がフォローしていて日本ボールが続く。
「足を止めんな!もっとプレスかけてけ!」
ファルグが声を上げる中、イエッターやジャレイ、新たに交代した両サイドのプレーヤー達が積極的に動いてハイプレスを仕掛けていく。
それを影山、想真、白羽と繋いで迫るブラジルのプレスをなんとか躱す。
「(全然元気にサッカーしてるなぁ、延長戦とか特に考えてないようだな)」
後半開始から飛ばすブラジル。その姿を観察していた光明は、延長戦に入る前に決めるつもりだと分かった。
「しっかり繋いで繋いでー!此処は攻めずに逃げるよー!」
ブラジルがハイプレスを仕掛けて来たと見れば、弥一はコーチングで攻めるなと指示。
相手の速い寄せを前に、前線の選手に繋げる事は考えず、確実にボールを繋ぐ事を重視した。
「うお!?」
「番、こっちー!」
番がボールを受け取ると、ファルグが迫っているのが見える。
そこに弥一の声が聞こえて、素早く左のインサイドで転がせばボールは弥一の足元に収まった。
「(覚悟しろハポネス!!)」
弥一にボールが渡れば、すかさず番から弥一の方へとダッシュ。
目つきが一段と凄みを増して迫るファルグの顔は迫力がある。その顔を弥一は目を逸らす事なく見ていた。
左へ躱そうとする弥一。これにファルグは反応して前に立ち塞がる。
そこから右へと弥一は鋭く切り返し、逆方向への急な方向転換にもファルグが逃さず喰らいつく。
「(な!?)」
すると弥一は急にボールキープしているとは思えぬ速さで、相手に構わずそのまま縦へと突破していった。
「(メイア・ルア!)」
後方の位置に居たドミーからは見えている。弥一が切り返しで体の向きを変えた時、ファルグの目を盗んでボールを軽く転がしていたのを。
キープしていたボールが一時的に無くなり、身軽となった弥一は全速力で転がしたボールを追いかけてファルグの右を抜き、左から転がしていた球に追い付く。
自分とボールを挟むように、それぞれ半月を描きながら抜き去るメイア・ルア。それを弥一はブラジル相手にやっていた。
この技にスタンドから歓声、どよめきが同時に発生。
「神明寺ファルグとの一対一を制して抜き去った!ジャレイが来る、神明寺から広西!ドミー倒してしまった!」
素早いジャレイの寄せが来る前に、弥一は中央のぽっかり空いたスペースに軽く右足で送った。
反応して速さを持つ冬夜がスペースを目指して左から中央に走り、ボールに追いつこうとしている。
そこにドミーが止めに行くと、冬夜の足を引っ掛けて互いに転倒。
主審がドミーのファールと判定し、日本にFKチャンスが与えられた。
ゴール左寄りで距離は30m前後、直接狙える距離だ。
「ってて……」
「冬夜大丈夫か?まさか負傷……」
「いやいや、転んだだけだから。余裕で行けるって」
多少の痛みはあるものの、冬夜は立ち上がり番に心配されつつも軽く動き、プレーに影響は無いようだ。
既に藤堂が負傷退場しており、日本としてはこれ以上負傷者を増やしたくない。
そんな中、1人ボールを持って冬夜がファールを受けた位置に立つ者が居る。
今大会唯一ゴル・オリンピコを決めてきて、DFながらキッカーとしても高い注目を集める弥一が上がっていたのだ。
これには会場の期待が高まり、ブラジルの面々は弥一に警戒するような目を向けて来る。
「ほな、ブラジル相手に今回はどんなトリックで行ったろか……」
想真が弥一へ話し合いに向かおうと、自らも弥一の隣に立とうとした時。
「……!」
普段の陽気な感じではない。笑顔を完全に消した完全集中力モードの弥一。
その顔に見覚えのある想真は集中の邪魔してはならないと、本気のキックを蹴らせる為に大人しく下がっていった。
『このチャンスに上がって来ました神明寺!あのブラジル相手にも彼のマジシャンのようなキックが炸裂するのか!?』
『超絶なカーブに無回転、パスも行けますからね……これはブラジルといえど怖いFKだと思いますよ』
ブラジルはジルバの指示で壁が作られ、壁の選手達は弥一がどう蹴って来るのか、目の前で注意深く見ている。
「こいつの場合どっちからのカーブで来るか想像つかない、ジャンプのタイミング気をつけろよ」
弥一のキックを立見時代に蹴った過去も含め、見てきたドミー。
もしかしたら自分達の壁が無に等しいかもしれない。そんな考えが頭に過ぎりつつも、仲間と打ち合わせを続ける。
「(来るなら来い……!)」
ゴールマウス前に立って構えるジルバ。1点を左右する大事な局面で、両チームの集中力と共に緊張感も高まって来ていた。
集中力の高まった弥一。自分の周囲には何の音も聞こえないぐらいに静まり返っている感覚。
聞こえるのは自分が芝生を踏む音、そして自分がボールを蹴る音のみだった。
左足から蹴られ、弥一の足元から放たれた球は壁の中に居たジャレイ、ドミーの頭の間。
恐ろしいまでの正確なキックが僅かな隙間を通過。ボールは回転しないままブラジルゴールに向かう。
「くっ!?」
ジルバの前に不規則な軌道を見せて迫る球。GK泣かせと言える無回転のボールだ。
右へと移動するジルバ。それを裏切るかのように球は左下へとコースを変えていた。
その時、咄嗟に左足を伸ばす。
伸ばしたジルバの左足はボールに当たり、弾かれると混戦でセカンドボールとなって両者が迫る。
先に反応して追いついたのは、セカンドに対して抜群の強さを持つ狼騎。
ルーベスの伸ばす足よりも先に左足が振り抜かれ、エリア内の右側から近距離でゴール右上を狙ったシュートだ。
それに対してジルバは驚異的な反応を見せる。態勢不十分にも関わらず左腕を伸ばして狼騎のシュートを弾き飛ばす。
ジルバの2連続ビッグセーブ。日本のCK獲得を忘れるぐらいに衝撃だった。
『なんというGKだ!神明寺のFKを足で止めて酒井の近距離からのシュートも左腕1本で防いでしまったぁ!!これがブラジルの天才GK、今大会無失点を誇るジルバ!!』
『いや、今のは絶対決まっておかしくないはずでしたよ!?これを止めるなんて信じられません……!』
「うおおジルバー!!」
「あれを止めるかお前!?」
「(あ、ヤバい……冗談で言ったつもりがマジで延長戦のPK戦あるかも……)」
これを決める事が出来なかった弥一。その前には止めたジルバにチームメイト達が集まって大盛り上がり。
ファルグを煽った前半の言葉。それが実現してしまいそうな予感が、ブラジルの天才GKジルバを前に伝わりつつあった……。
五郎「ああー!今の止めちゃうんだ……!」
春樹「ううん……絶好調の五郎ぐらいかそれ以上か、どっちにしてもでっかい壁があるな」
明「ブラジルのゴール前に……とんだ化け物がいた……!」
辰羅川「弥一のキックで行けたかと思ったぐらいだったし、というかあんな無回転を蹴る弥一も俺から見りゃ化け物だよ……!」
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