サイキッカーDFは冷静にさせない
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
日本 ロッカールーム
「ぷはぁ〜、乗り切ったわぁ!」
引き上げて来たチームがそれぞれ束の間の休息を取り、想真はミネラルウォーターのペットボトルを勢いよくゴクゴクと飲む。
ブラジルに押されていた時間帯が長く、この前半は守備陣の奮闘が大きかったのは間違い無い。
急なアクシデントに関わらず、藤堂に代わり出場した大門のセーブもかなり貢献していた。
「これ、僕だけかもしれないけど……ブラジルが途中なんか体のキレが悪かったように見えたんだ」
「それは気の所為じゃなく始まってるな、確実に」
前半終了間近の時間に起きた相手の異変。影山が報告すれば気の所為じゃないと光明が発言する。
「ブラジルの試合日程とか知ってるか?一言で言えば地獄」
此処に居るのは主に国内の高校サッカー。または南米以外の海外サッカーを経験する物ばかりで、それを体感した者はいない。
唯一それを知る光明はブラジルの日程についてそう表現した。
「大会数や試合数がとにかく多い。その多さからブラジルサッカーは過密日程世界一とか言われたりしてるんだよな」
「て事は、お前もそんな試合数を重ねてるのかよ?」
「俺は無理しない程度に出てるだけ。まだ楽させてもらってる方でブラジル代表に選ばれる優秀な選手達は凄い多くの試合をこなしてると思うぞ」
月城からの問いに答えつつ、ブラジルサッカーの日程について説明する光明。
「オランダとか怒涛の攻撃でスタミナ消耗してたけど、それとはまた違う疲労みたいだねー」
そう言いながら、弥一は余ってるカステラをつまみ食いしようとしていたが、安藤に止められていた。
「俺らも総体とかの過密日程あったけど、ブラジルの方はそれ以上なのか……」
「プロならそれぐらい当たり前、て訳じゃないな。流石に日程が厳し過ぎると訴える選手達も出て来てるし、問題にはなってきてる。けど改善はまだだから彼らはその日程をこなしていたという訳さ」
「つまり……前半で早々にリード奪って後はブラジルのペースでコントロールし、疲労を最小限にしようってプランがスコアレスの今崩れてるよな?」
ブラジルの過密日程について知らなかった様子の番。佐助の方は光明の話を聞いて狙いを理解してくる。
「スタミナにおいて優れていても、過酷な日程を戦い続けてあまり休めていない上に、サッカー王国として負けられないプレッシャーもある」
「心身共にすり減ってそうやなぁ、今の状況向こうにとって全然笑い事ちゃうやろし」
「そういう事だ、押されてるけど精神的に優位なのは日本だと思うぞ」
オランダやドイツと、サッカー強国を蹴散らし続けている日本。
ブラジル相手にもスコアレスで折り返せて、チームの調子や雰囲気共に良い。
攻め込まれていたが疲れで下を向いている者はいなかった。
「後は最大の壁、ジルバからゴールを奪えれば良いけど彼は元気そうだからなぁ」
「元気だろうが疲れてようが決めてやるよ」
光明にとって最難関は、ジルバを中心とした守備陣からゴールを決める事。
どうするか頭を悩ませると、黙っていた狼騎が口を挟む。
「決勝もある。そこまで行く前に延長戦で消耗してられねぇだろ」
後半に絶対決めてやる。狼騎の強い思いは弥一のように心が読めなくても、周囲に伝わっていた。
「では、メンバーは特に変えずこのまま行きましょう」
今のチームの雰囲気を見たマッテオ。後半もこのまま行く事を告げる。
まだ動くべきではない、指揮官は静かに察した。
ブラジル ロッカールーム
前半からペースを握っていた、相手はアクシデントもあった、有利な展開だったはずだ。
それにも関わらず1つのゴールも生まれず0ー0。無得点のまま折り返して戻って来た選手達の口数は少ない。
日本がこんな粘って来るとは思っていなかった。彼らにとって想定外の事が今起きている。
「前半を0で抑えられたのは今回初めてだ。それも優勝候補と言われたイタリアやスペインではなく日本相手に……正直驚いている」
前半に1点を取ってリードを奪い、自分達が優位に立つ。日本にそれが出来なかった事が監督にとって、あまり想定していなかった事だ。
「今大会のみならず予選やフランス大会でも無失点記録を継続している力は伊達ではない。彼らも優勝するに相応しい力を持っているようだ」
前半守り切られ、度々反撃も受けて来た。
ブラジルを率いる監督として素直に日本の力を認め、改めて作戦を立て直す。
「此処に来て何人か疲れが出て来ているな」
「ちっ、よりによってこんな時にかよ……!」
周囲を見ていたジルバ。その中でサンウールやレシと前半から動き回り、貢献し続けてきた者達がスタミナ切れを起こしている。
ブラジル国内での過密日程、そのツケが今になって彼らにのしかかって来たようだ。
「お前は平気なのか」
「そこまでヤワじゃねぇよ、後半こそあのチビ覚えてろ……!」
ファルグはまだまだスタミナ充分。ジルバと話す中で前半弥一に止められた事を思い出せば、悔しさが蘇ってくる。
「ま、何時も通り強気に攻め続けろ。後ろは任せてくれれば良いからな」
「ああ、お前が後ろに居るだけで何も心配せず攻められる」
ファルグが得点を生んでジルバが守り切る。幼い頃からそうやって天才2人は勝ち続けてきた。
「俺達なら、あのイタリアの忌々しい化け物にも勝てる。それを証明する為にもこんな所でもたついてる場合じゃない」
頭に思い浮かぶ異次元の天才ディーンの顔。彼を超えるプレーヤーである事を証明して勝つ事。
それがファルグの最大の目標だ。
何かとディーンが凄いと、彼が最強だと言われ続けて自分は陰に隠れてしまっている。
彼を称賛する話を聞く度に苛ついていた。
日本との後半に向けて今一度冷静になり、日本を倒す。そう決意すればファルグはチームへと声をかける。
「後半で決着だ、カンプノウに行くぞ!」
「おお!」
「(頭に血が上りかけていたが、なんとか冷静になってくれたみたいだな……)」
前半こそイライラしていた感じだが、自分と話して落ち着きチームに声掛けする所を見れば、ジルバはファルグに対して大丈夫だなと様子を見ていた。
後半の開始が近づき、日本とブラジルは共にロッカールームから出て来て、フィールドに戻ろうとしている。
「残念だねー、ブラジル」
「何がだ?」
その時、弥一とファルグが並んで歩いたタイミングで弥一が声をかけた。
「ディーンと戦う事が出来ず、カンプノウにも立てず大会を去る事になるんだから」
ファルグの心を読んで弥一はディーンに拘っている事を知ると、それに関連して煽って来た。
「弱い犬ほどよく吠える……お前らの国じゃそう言うんだよなぁ?自分からキャンキャン吠えて弱さを晒してんのか子犬ちゃんよ」
だがファルグは見下すように笑って逆に弥一を煽り返す。搦め手で負ける気などしないと勝ち誇って先に歩く。
「ああ、ごめんー」
煽られた弥一から出た言葉は何故か謝罪。その言葉が聞こえてファルグの足が止まる。
「仮に進んでもファルグはディーンより弱いから、負けて彼より下って証明しちゃうだけだよね♪」
明るく笑顔でファルグに告げてから、弥一はフィールドに戻って行った。
その弥一を見ているファルグ。冷静だった頭に血が上り始め、ピキピキと青筋が立ってくる。
ディーンより弱い、これがプライドを深く傷つけていた。
「〜!!」
声にならない怒り、それを抱えたまま弥一に向かおうとしている。
「ファルグ!あんな挑発乗るなお前!」
「ハポネスがぁ……!!」
ジルバが抑えて向かうのを止めても怒りが収まらず、弥一は冷静になりかけていたファルグの頭を再び沸騰させる。
日本の最強悪戯小僧が、サッカー王国ブラジルを掻き乱していた。
大門「ところで弥一、イタリア語とか英語出来てポルトガル語も出来たんだ?」
弥一「外国語とは相性良いのかなー、結構覚えて喋れちゃうんだよねー♪」
優也「その分勉強に使う頭が欠けてるんだな、また赤点少しヤバかったと聞いたぞ」
弥一「それはー……えー……ノーコメントー!」
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