一歩を踏み込んだ世界
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『あー、☓が出ました。藤堂無念の途中交代!』
試合が一時止まるとフィールド内で藤堂の状態を診て、結果は続行不能と判断。
「すまん……マーク外してくれ」
キャプテンの藤堂が交代となれば、今のメンバーの誰かがキャプテンマークを付けないといけない。
藤堂の右腕にあるキャプテンマークを佐助が外し、藤堂はコーチに連れられてフィールドを出る。
その頃、日本ベンチ前では背番号12のGKユニフォームを身に纏い、キーパーグローブを着けた大門が藤堂に代わり、試合に出ようとしていた。
「大門、立見で鍛えたお前の力を世界に全部ぶつけとけ!」
「……はい!」
代理のスタッフとして緊急招集された立見の元先輩GK安藤。どう言って彼を送り出せば良いか分からなかったが、立見でやってきた事をぶつけろと伝えた。
「後、頼んだぞ……」
「藤堂さん……任せてください!」
左手の負傷でフィールドを出る藤堂。それと入れ替わる形で大門が初の国際舞台、戦いの場へと立つ。
「(世界が、全然違う……!!)」
これまで外から多くの試合を見てきた大門。足を踏み入れた瞬間、ズンとした衝撃が大門の体を襲う。
何か重い物を背負ったかのようだ。
まだ動き回ってもいないのに、手はじんわりと汗が滲む。
心臓の鼓動が高鳴ってばかりで落ち着かない。
「(こんな世界で……皆戦っていたのか!?)」
あまりにも外で見ていた時と違い過ぎる。たったの一歩を踏み込むだけで、こんなにも違いを体感したのは生まれて初めてだった。
総体や選手権と大きな大会を経験し、PK戦も乗り越えてきた大門だが、この大舞台は規模が違う。
海外の最大規模の国際大会。負けたらそこで終わりの一発勝負で、相手はあのサッカー王国ブラジル。
画面で見ていたカナリア軍団が自分の守るゴール目掛けて、襲いかかって来るのだ。
今までよりも段違いの圧と迫力がある事は間違い無い。
大門は今人生最大の緊張、プレッシャーに襲われていた。
「あいつ、すんげぇ緊張してねぇか?」
「大門は元々緊張する方だが、此処に来て悪い面が出て来たか……」
月城から見て分かりやすく、大門の動きに硬さが見られた。
1年の時から共に同じチームで過ごしてきた優也もそれは分かり、深刻そうに腕を組んで状況を見守る。
「代わったキーパー、相当ビビってるだろ?ありゃ遠くから撃ってもいくらでも入りそうだな」
「彼は神明寺弥一と同じチームのGKだ。ハイボール処理やシュートストップに優れているけど藤堂がずっと出ていて此処まで出番が無かった。国際舞台の試合慣れはしてないな」
「そいつはありがたい。2戦連続のハットトリック遠慮なくいただいとくか。お前ら、コースあったら外からガンガン狙ってくぞ」
ブラジルのファルグ、ドミーが大門の姿を観察すればファルグは大門の緊張している様子を見て、チャンスだと笑みを浮かべた。
あの程度のGKならエリア内に入るまでもなく、ロングやミドルでミスをして自滅の道を歩いてくれる。
外から積極的に狙えと仲間にも伝え、大量得点を狙う。
「大門、落ち着いて何時も通りな?大丈夫だから」
「はい……!」
緊張している大門に佐助はリラックスさせようと、声をかけるが効果は焼け石に水だ。
「藤堂さんに代わってキャプテンマークは誰が……佐助さん?」
「ああ、そうするしかないかな。他にやれそうなのって特に……」
番にキャプテンは誰がやるか、この中で狼騎と並ぶ年長者の佐助なら経験があるから適任ではあるが、佐助としてはこの大一番でそれを背負うのは重く感じた。
それでもやれそうなのが自分だけなら、付けるつもりだと腕章を持つ。
彼の不安を読んだ者がその時、前に進み出る。
「僕やっていいかなー?」
緊急事態の状況でもマイペースな弥一がキャプテンを立候補。
その姿を見た佐助は弥一なら特にプレッシャー感じる事もなく、役目を笑って背負いそうな気がした。
彼の持つ腕章は弥一へと差し出される。
「年下に託すのは情けないけど、やってくれるか?」
「はーい♪」
これより日本のゲームキャプテンは弥一が務め、佐助から託された腕章を右腕に付けた。
そこから弥一は早速キャプテンとして働こうと動く。
「大門、大門」
「え、弥一……?」
ガチガチに緊張している大門へ、弥一が近づき大門が弥一の方を振り向いた瞬間。
バチンッ
「わっ!?」
いきなり目の前で弥一が両手で掌を思い切り合わせ、大きな音を鳴らせば大門はそれに驚き、芝生に尻餅をついてしまう。
相撲にある猫騙しのような事を弥一は大門にやってみせたのだ。
「あまりにガチガチだから、大門重く考え過ぎ。悪い癖出てるねー」
「……!」
色々と考えてしまっていた事を弥一に見抜かれ、大門は何も言えず。
尻餅をついてる大門に目線を合わせるように、弥一もしゃがんで話す。
「Uー20ワールドカップで準決勝、相手はブラジル。大舞台で超強豪、それがどうかした?」
「え……!?」
「同じだよやる事は。立見でやってた事と同じ、僕らで無失点に抑えて勝つ。舞台が日本でも海外でも変わらないよ」
環境が大きく変わろうが、サッカーでやるべき事が大きく変化する訳ではない。
相手を完封して勝つ。ただそれだけだと弥一は当たり前のように言っていた。
「(何時も通り……)」
重く考えていた大門。言われてみれば複雑な難しい事をやれとは、何一つ要求されていない。
何時もやっているゴールマウスを守り抜く事、自分の仕事はそれだ。
何より弥一は相手がブラジルでも完封しようとしている。
なら実現させる為に働くだけだ。決意すると大門は立ち上がりゴールマウスの前に立つ。
『日本、開始早々からアクシデントがあって急遽のGK交代!藤堂に代わり大門が今大会初出場となります!』
『難しいタイミングに加えてこの大舞台でブラジル相手ですからね。なんとか上手く入って慣れてほしいですよ』
止まってた試合がようやく動き出し、再びブラジルがショートパスで攻め込んで来る。
「(お、これ取れる!)」
そこにブラジルの動き、バスのパターンを観察していた光明が、中盤のサンウールからのジャレイに繋ぐ速いパスを読み、ボールを弾いていた。
セカンドを白羽が取ると、ドリブルには行かず右足で浮かせてのロングパス。
弧を描いてボールは狼騎の前の空いているスペース。落ちて来たボールへと走るも、ルーベスが離れず並走。
屈強DFによる強烈なチャージが来る前に狼騎は右足を振り抜く。
左のエリア付近からゴール左を狙う威力あるシュートだ。
これをGKジルバは正面で簡単にキャッチしていた。
『白羽の長いパスから酒井のシュート!GKキャッチ、ジルバすぐに出した!カウンターだ!』
ジルバがキャッチ直後に思い切りスローイング。右腕から投げられたボールは正確に真っ直ぐドミーの元に届く。
「(まだ大門が硬いままやから、此処攻めさせられんわ!)」
想真の前には前線から下がって来ていたファルグの姿。
速いショートパスを得意とするブラジル。最終的には彼に来ると想真は読んでエースから目を離さない。
ドミーに光輝が寄せるも、パスで左を抜かれてボールは背を向けたファルグに向かう。
「!?」
後ろを向いていてボールは見えない、にも関わらずファルグが左踵で当てると、前にいる想真の頭上を球が越えていった。
さらにそれを追いかけ、想真の左側から突破したファルグは落ちて来たボールを右足でゴールを狙って蹴る。
「大門ドライブ!!」
後ろ向きのままヒールで上げて目の前の相手を躱し、それを更にエリア外からのダイレクトボレーと、ブラジルの天才による個人技を見せてきた。
回転をかけてきて弥一は瞬時に、ドライブが来ると伝える。
高く上がったシュートが鋭く下へと落ちて来て、日本のゴール左上隅を正確に捉えていた。
天才ファルグのダイレクトドライブボレー。これを大門は落ちて来た所にタイミング良く飛びついており、持ち前の跳躍力と反応の良さ、そして生まれ持った体格によるリーチで両腕を伸ばしていた。
ボールはしっかりと大門が両手で掴み取り、ダイビングキャッチに成功。
この姿にスタンドから歓声の声が上がる。
『ファルグ遠めから撃って来た!っと、大門これをキャッチ!』
『今の鋭く落ちて来るドライブボレーですよ、撃ったファルグは流石ですが大門君もこの状況でよく取りましたね……!』
「ふ〜……」
「ナイスセーブー♪」
まずは1つボールに触り、ホッと息をつく大門。
そこに弥一は明るく笑って大門のセーブを褒めた。
「(本当、不思議だよな。弥一を見てると……大丈夫だって思えてくる。相手がブラジルでも!)」
立見で1年の時から自分の前を守ってくれている弥一。誰よりも小さいが誰よりも頼もしい壁。
彼が居たら大丈夫、やれると思えば大門は普段通りのセービングが出来て、ファルグのシュートを止めていた。
「ジルバより凄いセーブ見せて勝ってるよー!天才に勝ってるからー!」
「持ち上げ過ぎだって、上がれ上がれー!」
プレーに戻る弥一と大門。立見の誇る名コンビがブラジル攻撃陣の完封を狙って動き出す。
その姿を遥か後方から、ブラジルのゴールマウスに立つジルバは険しい表情で2人を見ていた。
優也「安藤先輩、同じGKとして自分があそこに立っていたら……どうなってました?」
安藤「極度の緊張でぶっ倒れる、代表のゴール背負ってこの舞台でブラジル相手に守るって相当だからな…!?」
五郎「確かに国内の高校サッカーと比べて全然環境違いますからね、皆緊張すると思います!」
安藤「今俺が此処に居る事すら信じられんし!はぁ〜、後でファルグのサインとかユニフォーム貰えないかな?」
春樹「ただのサッカーファンになってきてるよ、貰いたい気持ちは分かるけど」
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