Uー20ワールドカップ 決勝トーナメント準決勝 日本VSブラジル
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
ベスト4で争う4チーム。この日は2試合とも、それぞれ別のスタジアムにて同時キックオフを迎える。
日本とブラジル、イタリアとスペイン。
注目度としては、優勝候補筆頭のイタリアと同じく優勝候補で地元スペインの試合が高い。
快進撃を続ける日本もブラジルには勝てない。例年通り決勝はヨーロッパと南米で争う事になるだろうと、大半がそう予想していた。
事実ブラジルにはA代表クラスの実力者。ファルグにジルバと2人の天才がチームに居る。
得点ランキングトップのストライカーに今大会無失点の守護神と、攻守に要を揃えたブラジルの総合力はトップクラスだ。
しかし無失点なのは日本も同じ。その要である弥一は何時も通り、鼻歌混じりに準決勝を戦うフィールドでアップをしていた。
「うぉっと……!」
弥一から来たパスを冬夜がトラップミス。普段そんなミスをしないはずだが、多くの観客に四方八方見られ、隣でブラジルがアップをしている今の環境がそうさせてしまっている。
「冬夜ー、硬い硬いー」
「あ、ああ。悪い……!」
ボールを取りに行った弥一に謝りつつ、冬夜は高鳴る胸の鼓動が落ち着かない。
相手のブラジルという存在に萎縮してしまっているのか、このままでは月城に代わって先発の役目が務まらない。
どうにか落ち着こうとして、冬夜は深く深呼吸をしていた。
サッカー王国ブラジル。彼らの強さは知っており何度もテレビや動画で、そのスーパープレーを冬夜だけでなく皆が目にしている。
「こんな所で緊張していたら決勝のカンプノウとか動けないってー」
弥一は特に緊張している様子も無く、ブラジルを倒したその先を早くも見据えていた。
スペインのみならず、世界最大規模の舞台で行われる決勝戦を。
「堂々としてるっつーか、神経図太くて羨ましいわ」
緊張していない弥一を見て、羨ましいと思うと同時に何となく大丈夫という気がしてきた冬夜。
再び弥一とパス交換を始め、今度は先程に比べて硬さは和らいでいる。
一方ブラジルは軽快に動き、アップは順調に進んでいた。
「ファルグ、あまり舐めてかからない方が良いぞ」
「何だドミー、日本贔屓か?」
ファルグと共にアップをするドミー。彼は親日家でありチーム1日本に詳しい。
日本好きなのでファルグは贔屓かと言うが、それにドミーは首を横に振る。
「神明寺弥一が何かと目立つけどな、他の選手も世界レベルの奴が結構居るぞ。中盤の両サイドとか白羽や月城と速くて上手いのが揃ってるし、ボランチもセカンドを拾う確率が高い。特に影山が危険だ」
日本チームについて1人1人見ており、此処が厄介だというのをアップしながらドミーは語っていた。
「ミーティングでも1回聞いた。中盤ならブラジルが上だ、何の心配も無い」
「だから舐めるなって、前線の室の高さにどんなボールも対応してくる照皇とか本当厄介なのが揃ってるんだ。でなきゃオランダやドイツに勝って此処に立ってないだろ」
「それも聞いたし、守備は大丈夫だろ。あいつが居てくれりゃ俺は何も心配なく行ける」
警戒するドミーとは対照的で、ファルグは何も心配していない。
ブラジルゴールは天才が守ってくれている。ジルバへの絶対的信頼が揺らぐ事は無く、自分は攻撃に集中出来るというものだ。
日本がどう攻めて来ようとジルバ達が全部跳ね返す。ファルグの役目は弥一の居る守備陣からゴールを決める。
それのみに集中していく。
『Uー20ワールドカップ決勝トーナメントも準決勝までやってきました!この大舞台で日本の相手があのサッカー王国ブラジル!これまでの中で特に強大な壁となるのは間違い無いでしょう!』
『ブラジルは今大会無失点の上にエースでキャプテンのファルグが得点ランキング首位ですからね、攻守共に好調の相手に日本頑張ってほしいですよ』
日本のサポーターも入っているが、数の多さでは大応援団で来ているブラジルが遥かに凌いでいた。
その為かフィールドに入場してきた選手達への声援はブラジルの方が多い。
両選手が列に並べば流れる国歌斉唱、日本の君が代から流れていき、それが終わるとブラジルの儀式であるサポーターも含めた大合唱が始まった。
フィールドの選手、ベンチの選手や監督にコーチ陣だけでなくサポーター達も1つとなって熱唱。
「ブラージール!ブラージール!!」
国歌斉唱が終わり、会場内の熱気やボルテージが高まる中で巻き起こっていくブラジルコール。
会場はすっかりブラジルの色に染まりつつあった。
先攻後攻を決めるコイントスで出て来る藤堂、ファルグの両キャプテン。
「昔からコイントスの運は良いんだ、表で先攻」
「……裏で」
もう表が出る事を確定で先攻を取ろうとしているファルグ。その言葉通り主審が投げたコインは表だ。
「ブラジルの先攻で来る。開始から集中して守らなきゃやられるぞ」
「いきなりあっち攻めてくるかぁ……ファルグに特に注意しないとな」
「前線は厄介なのがお揃いだ。1人に注意が向き過ぎたら他にやられる危険が大きくなる」
それぞれ見失わないようにしようと守備陣は集中力を高めていく。
「向こうの守備が堅い事もあるし、1点もやれないねー。何時もの事だけど♪」
「国際舞台の準決勝とは思えん緊張感の無さやなぁ」
相変わらずマイペースな弥一に光輝は感心してしまう。
「絶対行くぞカンプノウ!!」
「おお!!」
藤堂の掛け声で皆が揃えた後、ポジションへと散って行った。
ダークネイビーのユニフォームの日本、GKは黄緑。
黄色いユニフォームのブラジル、GKはグレー。
Uー20日本代表 フォーメーション 3ー5ー2
酒井 源田
18 21
広西 三津谷 白羽
13 8 7
影山 八神
15 5
青山 神明寺 仙道(佐)
3 6 4
藤堂
1
Uー20ブラジル代表 フォーメーション 4ー4ー2
ファルグ イエッター
10 9
サンウール ジャレイ レシ
8 11 7
ドミー
6
アロー ルーベス シャウミ ルルッチ
2 5 3 4
ジルバ
1
センターサークルのセットされたボールの前に立つ、ファルグとイエッター。
試合開始の時は迫り、主審の笛から準決勝開始の笛が鳴らされる。
ピィーーー
ブラジルサポーターの大声援を背にブラジルのキックオフ。すると開始から細かく速いパスを繋げて来た。
「(流石、速いなブラジルのティキタカ(ショートパス)は!)」
前線からハイプレスに行った光明を躱し、更に狼騎も素早く繋いで躱していた。
近距離で速いパスに反応して、ほぼダイレクトで繋ぐ。ブラジルの高い技術と身体能力がこれを可能にする。
後ろのドミーが持ったのかと思えば、サイドから上がって来たアローだったり、サンウールやジャレイと繋ぎ、何時の間にか逆サイドのレシが持ったりと日本を翻弄。
「(此処!)」
冬夜がレシに渡ったタイミングで、トラップの所を狙おうと速く迫った。近くにショートパスのターゲットはいない、此処でトラップするはずだと。
「(え!?)」
その冬夜の予測を裏切り、レシはトラップせず右サイドのスペースに、ダイレクトでボールを出した。
するとスペースに走るファルグの姿が何時の間にかあり、取りに行っていた番より先にボールを取って抜き去ってしまう。
『あー!日本左を通された!ファルグ抜け出して危ないー!!』
斜め右からドリブルで日本エリア内へと入るファルグ。そこに藤堂が早くも飛び出して来て、距離を詰めた。
空っぽになったゴール前には弥一が控えており、藤堂は弥一に任せて大胆な判断に出る。
それに構わずファルグは右足を素早く振り切って、至近距離でシュート。
「っ!?」
近い距離で藤堂は左手を当てるも、その手を剛球と化したボールが弾く。
その際に藤堂の顔が苦痛で歪む。
シュートはコースが僅かに逸れてゴールマウスから外れていく。それを弥一はボールに追いついて左足で蹴り返し、向こうにCKのチャンスは与えなかった。
『あ、危なかった日本!開始早々ブラジルが、ファルグが攻め込んで来るも藤堂、神明寺が初失点の大ピンチを救いました!』
「(ち……あのチビがゴールに居るのが見えて狂ったか……!)」
今のを決められなかったファルグは一瞬弥一を睨み、ポジションに戻って行った。
「ふう〜、焦ったぁ。藤堂さんナイス……?」
ピンチを凌いで一息ついた弥一。近距離のシュートをかろうじて逸らした、藤堂に声をかけようとした時。
彼の苦しそうな姿は見えてしまう。
「う……く……」
「藤堂さん!?」
左手を抑えたまま立ち上がれず苦しむ藤堂。これに日本選手達が駆け寄る。
『あーっとどうした藤堂!?左手を抑えていてプレーに戻れません……!』
『ファルグのシュートで左手が当たり、これは……最悪指が折れてる可能性あるかもしれませんね』
これを見てベンチは早々に動かざるを得なかった。
「大門、緊急事態ですが……君の出番です」
「……!」
これまでずっと藤堂の控えで、国際舞台に出場していなかった大門。マッテオの口から出番だと言われて思わぬ形の出番だ。
前半まだ一分も経ってない間に、日本はキャプテンで正GKの藤堂が負傷。
あまりにも波乱な日本対ブラジルの立ち上がりだった。
愛奈「あるの!?こんな早い負傷交代なんて!」
千尋「滅多には無いけど、たまにあるよ。でもそのレアケースこんな時起きなくてもいいじゃん……!?」
愛奈「ん?けど、GK交代って事は……ゴロちゃん出るよね!?」
千尋「交代は大門君みたいだよ」
愛奈「え〜」
千尋「そんなめちゃガッカリしないで応援しよ!」
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