サイキッカーDFと天才集団の過去5
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「何でジャッポネーゼがミランのDFに選ばれんだよ……!」
その日DFの要クライスは不機嫌だった。
次のジョヴァニッシミでの試合に弥一がスタメンとして出場。クライスとセンターを守る事が確定したのだ。
それも今度はディーンがベンチ。此処連戦で出場を続けている事から、今回はスタメンでの出場が見送られた。
「や、よろしくクライス♪」
当の本人は明るく陽気にクライスへ挨拶。弥一の顔を見れば不機嫌な態度を隠そうとせず、睨むような目を向ける。
「守備を乱して失点とかしやがったらタダじゃおかないからな、ジャッポネーゼ」
弥一を名前で言ってやらない、あくまで日本人呼びの態度を崩さないクライス。
自分がこのチームの守備を支えて来たという自負がある。このカテナチオは自分達イタリア人がやってこそ、成り立つものだと。
「しないよ」
弥一がそう言った瞬間、彼の顔は挑戦的な笑みに変わる。
「僕が出てる時は失点する気無いから」
「チビ……その言葉忘れんじゃねぇぞ!」
あまり仲が良いとは言えない弥一とクライス。他のチームメイト達は大丈夫か?と心配になってきていた。
「おいおい、DFは連携大事だろ?あいつらやれんのか」
「平気だと思うぞ」
2人の様子に自分が割って入り止めた方が良いのかと、リカルドが動こうとした時、ディーンは心配無いだろうとリフティングしながら言う。
こういう時でもディーンの集中力に一切の乱れは無く、華麗なボール捌きを見せていた。
試合当日、相手もイタリアの名門クラブで同じジョヴァニッシミのチーム。
スタメンにディーンの姿が無い事から今回は行けると思っている。
更に小柄な弥一が居るのを確認すれば、そこが穴だと狙いをつけた。
全部心が読める弥一には筒抜けだという事を全く知らずに。
「(中央だ!あのジャッポネーゼ見たこと無いし、チビで弱そうだしな!)」
ボールを持ったFWは弥一の居るゾーンから突破を狙い、積極的に仕掛けていった。
「ち……!」
クライスがフォローに行こうにも彼の前にもFWが居て、放置したら此処を使われて隙が出来るかもしれない。
場を離れる事は出来なかった。
「(何かゆっくりだなぁ、フェイントのつもり?それにしては無駄な動きしてるし)」
弥一から見て目の前のFWは自分よりも体格の良い選手、だが動きが鈍く見える。
すると弥一はあっさりと相手からボール奪取に成功。
「(な、速い!?)」
「(いや、そっちが遅いだけでしょ?)」
驚いた内心の相手にわざわざ言葉を返しながら、弥一はパスを繋ぐ。
「(あっさり奪った……!?いや、相手も油断してただろうしまだ1回だけ……まぐれかもしれない)」
いとも簡単にボールを奪った弥一にクライスは驚く。
「ハイボールだ、あのチビの所に放り込めば空中戦は絶対こっちが勝てる……!」
気を取り直して今度は高さで攻めようと、打ち合わせをして試合に戻れば、弥一の方にハイボールを蹴って、高さで勝るFWが飛ぼうとジャンプ。
その刹那だった。飛ぶ方に集中して無防備になった所へ、弥一が下からガツンとぶつかったのは。
「わっ!?」
これにバランスを崩して相手は転倒。ファールをアピールするが主審はそんな訳あるかと、相手と弥一の体格差を見て相手のシミュレーションと判断。
最も効果あるタイミングで、チャージを仕掛けた弥一が阻止に成功していた。
「(どうなってんだこいつ!?デュエルといい、今のショルダーチャージといい、何なんだこのチビ!?まるでこっちのやる事全部分かってるような……!)」
弥一を前に全くチャンスが掴めない相手は困惑状態に陥ってしまう。
そんな中、試合は0ー0の膠着状態が続き、後半に入っても中々スコアが動かない。
するとミランがゴール前で倒され、FKのチャンスを獲得。
「ねえ、これ蹴らせてくれないー?」
「え?お前蹴れるのかよ」
ディーンが居ない今、代理のキッカーを務めるチームメイトに、自分が蹴ると言い出す弥一。
行けるのかと疑うが、意外な人物が此処で口を開く。
「任せてやれ」
クライスが弥一に譲れと言えば、弥一が蹴る事が決まってボールをセットする。
「(自分から言い出すぐらいだ、まさか……また何かやるのか?)」
此処まで弥一は充分なくらい守備に貢献。リカルドに仕事をさせない程、活躍した事に内心クライスは驚いていた。
このFKも彼は何かやるんじゃないか、そんな期待が生まれてきたのだ。
相手GKの指示で作られる壁。それを前に弥一は頭の中で思い描いていた。
身近の天才が何時も蹴って、鮮やかに決めてみせたキックを。
頭の中のディーン、その動作と共に弥一はステップを踏んで右足のインフロントでボールを蹴れば、弥一と頭の中のディーンが完璧にシンクロ。
壁の右上を越えてゴールマウスの右上に外れる、かと思えば左下に曲がり落ちてゴール右上隅を捉えた。
GKの最も取りにくいコースを狙われ、相手GKは飛びつくも取る事が出来ずゴールネットが揺れ動く。
「やったー♪」
周囲のギャラリーがどよめく中、イタリアでの公式戦初ゴールを決めた弥一は飛び上がって喜ぶ。
「今のって、ディーンの……!?」
「教えた?」
「そんな覚えは無い」
ベンチに座るトニーとランド。共にディーンの得意とするキックと知っていて、弥一が再現した事に驚くとディーンに教えたのかと尋ねる。
そのディーンは弥一に教えてはいない。彼がその技術を間近で見て、勝手に覚えたに過ぎなかった。
「……ナイスゴール、弥一」
「あれ?ジャッポネーゼ、じゃないのー?」
何時もはそう呼んでいたクライス。何時の間にか名前で弥一を呼ぶようになる。
「呼ぶ時それじゃいちいち長過ぎて不便だろうが、こっちのが3文字で呼びやすい。不満か?」
「全然♪それより1点守ろうクライスー」
「当たり前だ」
その後、相手が攻め込んで来るも弥一とクライスを中心に決定的なチャンスを作らせず、シュートは苦しまぎれのロングシュートぐらいだった。
このシュートが大きく枠を外れた瞬間試合終了。攻守で大きなインパクトを与えた弥一の名は広まり、やがてディーン達と同じように恐れる存在となってくる。
弥一「まあ彼もツンデレな感じでした♪」
アドルフ「ああいうのをそう言うんだなぁと学んだ瞬間だったよなぁ」
リカルド「ギャップ萌えとかでファンもまた増えそうな感じが」
クライス「お前ら何勝手にくっちゃべってんだコラァ!!」
弥一「わー逃げろー」
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