王国の天才達
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「ブラジルってさ、無失点なんだよな今大会」
「知ってる、ジルバの活躍が大きいよね」
何時の間にか揃って卵サンドを食べる影山と安藤。
「現地じゃUー20優勝後、ビッグクラブが獲得へ一斉に動き出すだろうって言われてるそうだぞ」
「調べたんですかブラジルの事」
「長いフライトの間、暇だったからな」
ブラジルについての情報を持つ安藤の話を大門はよく聞き、南米予選ではジルバが中々合流出来ず、ベストメンバーが揃わなくて失点を重ねたというのも聞けた。
それがこの本戦では日本やイタリアと同じく無失点。アドルフのシュートを見事止めてみせたように、ジルバの働き無しでは完封を続ける事は無かったかもしれない。
「その前に居るCDFのルーベス、こいつも結構凄いぞ。フィジカルはおそらくチーム随一で競り合いに滅法強い」
「まあ、見るからにゴツそうだよね彼」
ブラジルDFの要についても安藤が話すと、春樹は彼の風貌を見れば遠くからでもドイツのように屈強そうだと感じた。
褐色肌で黒髪、190cm近くあって番と似たようなフィジカル重視のDFらしい。
「ドミーのクレバーな守備にも注意だな。中盤はやっぱ上手い選手がずらりと揃って巧みなショートパスで来るかと思えば、個人技をガンガン仕掛けて突破を狙ったりと、状況に応じて使い分けて来る」
安藤がブラジルの特徴について話しをしていると、それとシンクロするかのようにフィールド上のブラジルが、ベルギーのプレスをショートパスで巧く躱し、掻い潜って行った。
「っと!?」
ルイが一対一でドリブル突破を許す。相手はしなやかな動きと独特のリズムでルイを翻弄していた。
「皆、あのジンガには気を付けた方が良いぞ」
「ジンガ?」
聞き慣れない光明から出た単語に、番の頭から分かりやすく?マークが浮かんでくる。
「ブラジルにはカポエラって格闘技があってね。音楽と格闘技を合わせた物で、ジンガっていうのはそれから由来したブラジル人の得意とする技術さ」
説明する光明の視線の先には、個人技で相手を抜き去り突破していくブラジル選手の姿があった。
ブラジル人特有のリズム感と身体能力、絶え間なくボールを動かして相手からすれば取りづらい。無理に取りに行くと相手を倒し、ファールをもらってしまう。
「ロイド・ファルグ、彼が特にずば抜けてるんだよね」
「そうそう、動画とかであいつのプレーは何度も見てきたもんだ」
影山、安藤の2人ともファルグの事はよく知っている。
彼はイングランドの1部リーグで活躍するプロ選手。ブラジルで栄光の背番号10を背負う事が許された天才だ。
高いテクニックだけでなく、コンタクトが激しいプロの世界で培われたボディバランス。頭が良く守備の巧さも兼ね備えたFW。
得点ランキングではイタリアのランドに次いで現在2位につけている。
そのファルグがボールを持った途端、ベルギーDFの要アキレスが前に立ち塞がる。
他のベルギー選手も寄せて来れば、ファルグは囲まれて追い詰められた。
「あ、きっついぞあれ」
フランスでアキレスとやり合って力を知っている室。あれはファルグといえど突破は無理だろうと。
するとファルグが一瞬ニヤッと笑った気がしたと思ったら、次の瞬間彼は密集してくる中でアキレスとDFの間、僅かな隙間を右足で軽く蹴って通し、自らはなんと2m近いアキレスの上をジャンプして越えていったのだ。
「飛んだ!?」
漫画のようなスーパープレーに驚愕する多くの日本選手達。それ以上に観客達が驚く声の方が大きかった。
「あれ、よく見れば目の前の選手達の肩に手をやってジャンプしたっていうの分かるよ」
「え?じゃあファールだろ!」
光明の観察眼からファルグが寄って来た選手の肩に手を置いて、反動でジャンプしたのが分かった。
スーパープレーかと思ったら反則、それを取らないのは何故だと冬夜は納得行かず。
飛び越えたファルグは飛び出して来たドンメルも冷静に対応し、左足のシュートがドンメルの左脇を抜くとベルギーゴールを豪快に揺らす。
『決まったぁ!!流石の天才ファルグ!ベルギーの壁を飛び越えてしまうとは恐るべし!!』
「あいつ肩に手をやってたぞ!今のゴールは無効だろ!」
ブラジル大応援団がゴールで揺れる中、アキレスはノーゴールだと主審に主張。
しかし主審の判定が覆る事は無く、ブラジルのゴールは認められる。
「あの密集された所で主審の前にさり気なくブラジルの選手も前に入ってたから、余計見づらかっただろうな。巧く隠したもんだよ」
「うーん、流石マリーシア大得意のブラジルだなぁ」
ただでさえ密集地帯で見づらい上に、ファルグが肩に手をかけた時、ブラジルの選手がブラインドとなって余計見えない状況となっていた。
この当たりは上手いと弥一、光明の2人は揃ってゴールが決まり、自国サポーターの前で両手を広げて応えるファルグの姿を見る。
「(くっそ!これ絶対1点返さないと!)」
反撃に出るベルギー。ルイが得意のドリブルで迫り小柄な身軽さを活かした、ターンで1人を躱してみせた。
アドンやメラム等、ベルギー5人の中盤もそれぞれ躍動。
ルイが今度は右に展開すると、トーラスが右サイドからクロスを上げ、高く上がった球にアドルフが合わせに行く。
『ゴール前高いボール、アドルフ飛ぶ!ルーベスが跳ね返した!』
聳え立つ屈強DFのルーベス、アドルフとの空中戦を制して頭でクリア。
セカンドをワンボランチのドミーが拾い、パスを繋げればブラジルの攻撃が再び奏で始める。
ダイレクトプレーの連続に歓声は大きくなっていく。
「ブラージール!ブラージール!!」
その背を後押しするブラジル大応援団による声が会場を包み、選手達はベルギー陣内に攻め込んで行く。
「飲まれるな!しっかり見ろ!!」
普段物静かなドンメルが大きく声を上げて指示を送り、アキレスを中心とした守備陣が対応に動いた。
「さっきのゴールにご不満なら今度は完璧に決めてやろうか?」
「!?」
再びアキレスを前にして不敵に笑うファルグ。そこに彼の背後から速いパスが飛んで来ていた。
矢のような速さのボールにも関わらず、ファルグはアキレスと向き合った状態で、ボールを見ないまま左の踵で当てると、球がアキレスの頭上を越えて自らは左脇をすり抜ける。
落ちて来た所にファルグの右足がボールを捉え、ドンメルの守るゴール左隅を狙ったボレーシュートが炸裂。
これに飛びついて両手を伸ばすもドンメルの手を掠める事なく、サイドネット内に鋭く突き刺さっていった。
文句無しのスーパーゴールが決まり、ブラジルサポーターによる割れんばかりの大声援が起こる。
『ブラジル2点目ー!なんとファルグ、背中に目がついているのか背後からのパスを踵でコントロールしてしまうと豪快なボレーを叩き込んだ!!』
「立見で速いボールによる練習はあったが、今のは……流石に無理だ」
「あんなプレーを可能にするなんて流石ブラジルの10番……」
普段立見でサッカーマシンによる、速い球での練習を積み重ねてきた大門と優也も、今のは出来ないと驚かされてしまう。
「巷ではディーンよりファルグの方が上だと騒ぐ人が居る。この大会はディーンの為の大会じゃない、ファルグの為の大会だってさ」
異次元の天才と世間で騒がれるディーン。それにファルグのファンが黙っておらず彼こそがNo.1プレーヤーだと、ファン同士で熱く争っている事まで安藤は調べて知った。
「……」
ディーンと並ぶ力と言われるファルグ。最強を知る弥一からはどう見えているのか、ブラジルサポーターの声援に再び両手を広げて応えていくファルグ、その姿を弥一は無言で見つめる。
2点差とされてベルギーはアドルフを中心に反撃へと出た。
「(散れるかよ……ワールドカップの舞台で、ヤイチと戦う前に散れるかってんだ!!)」
日本がドイツに勝ってみせたように、ベルギーもブラジルに勝ってみせるとアドルフは希望を捨てず、3点決めての大逆転ハットトリックを狙う。
その気持ちの表れか、ルイから来たグラウンダーのパスを受ければルーベスに背を向けた状態で、彼の股下を右足のヒールでボールを通し、自身はクルッと右回りのターンでルーベスを突破。
2点目を決めたファルグに近い形になると、他のDFが寄せて来る前にアドルフの左足を振り抜く方が速く、左隅のゴールへ一直線でボールが飛ばされた。
決まってもおかしくないコース、スピード。しかしブラジルゴールが揺れる事は無い。
天才GKジルバがまたも驚異的な反応。横っ飛びでアドルフの左足シュートに飛び付けば、両手に収めて完璧なセーブ。ベルギーの反撃を断ち切り反撃の1点を許さない。
「今のをキャッチした……!」
「ファルグも常識外れの天才だけど、GKの彼も中々だな」
同じGKとして今のを完璧に止めてみせたジルバに驚かされる五郎。隣で春樹はファルグに負けず劣らずの天才だと冷静に見ていた。
ベルギーは必死で反撃するも、ブラジルDFの守備やジルバの壁を破る事が出来ずスコアを変動させられず。
逆に後半ブラジルが攻め込むとベルギーが自軍エリア内でファール。PKを与えてしまう。
『決めたぁぁー!!ファルグ3点目!ハットトリック達成だ!!』
「ファルグ!我らのファルグ!神の子ファルグ!」
ゴールを決めて再びサポーターの前に立ち、両手を広げるパフォーマンスをファルグが見せれば喝采を浴びる。
このハットトリックによって首位のランドを越えて、ファルグが得点ランキング1位となった。
「[終わるのかよ、こんな所で……!こんな所で!!)」
ベルギーとして意地を見せようとアドルフが単独突破。力で強引にドミーを突破し、一瞬フリーになった所で豪快に右足を振り抜く。
1点を返す、強い想いから撃ったシュートはジルバが真正面でキャッチ。
最後までこの壁をアドルフは破る事が出来ないまま、無情にも試合終了の笛は鳴った。
『ブラジル3ー0!ファルグのハットトリックでベルギーに勝利し、ベスト4で日本と争う事が決まりました!』
「畜生……!畜生……!!俺達がこんな……!」
「……悪い」
ベスト8敗退が決まり、号泣するルイの右肩に左手を置いて得点出来なかった事を謝罪するアドルフ。
彼の目にも光る物があった。
日本とのリベンジゲームが実現出来ず、大きな悔いが残ったまま大会を去る事になってしまう。
サッカー王国ブラジル。攻守に天才を揃えた王国が日本の目指す、決勝カンプノウへの道に大きく立ち塞がる。
田村「気の所為かな、日本の相手がブラジルってなるとさ……熱くなるっていうか、心滾らねぇ?」
間宮「ああ、あのブラジルだからなぁ。どんな試合になるのか……ん?」
田村「あれ、次郎からメッセージ?「スペインに急遽Uー20日本のスタッフとして呼ばれたから行ってくるわ」だってぇ!?」
間宮「はぁ!?あいつスペイン行ってんのか!何してんだ次郎!」
田村「裏切り者ぉぉぉ!!土産は生ハム味のポテチ持って来いと返してやる!」
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