両サイドの矢
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『前半、日本ドイツに劣勢気味だ!やはりフィジカルの差が大きいか?』
『オランダのような一気に押し寄せる感じではないですが、じわじわ来ますねドイツ』
前半互角に見えるが、ボールを持っている日本の方は攻めきれていない。
一方のドイツはチャンスがあれば、遠めからシュートを撃って既に3本。1つは枠外で2つは枠内に行って藤堂がキャッチしたり、DFがブロックして跳ね返す。
ロングは通常そんな滅多に入らないが、パワーあるドイツに何本も撃たれるのは好ましい状況ではなかった。
万が一の可能性もある。
「くっそ!」
ドイツの右SDFクレイラが積極的に上がり、月城は守備に追われる。
左サイドのソニーザからサイドチェンジで高いボールが飛んで来た。クレイラと月城の競り合いになると、20cmぐらい身長で勝っているクレイラが難なく頭で競り勝つ。
「ぐえ!」
吹っ飛ばされた月城。ファールだと審判にアピールするが、首を横に振られる。
スピードは随一だが競り合いで弱い所があり、弱点が出ていた。
月城にとってドイツはかなり相性が悪い。
「政宗ー、左カバーしっかりねー!」
ドイツは左を狙って来ると感じた弥一。抜かれた時のケアを政宗に頼む。
左のソニーザ、右のクレイラ、ドイツが誇る両サイドの矢だ。
両サイドに優れたサイドプレーヤーが居るおかげで、日本の長所の1つのサイドからの崩しが、何時もよりやりづらくなっていた。
「(思ったより厄介だなぁ、明のお友達は)」
ドイツの両サイドが少し大人しくなってほしい。密かに願いつつ弥一はコーチングを送り続ける。
「右から積極的に狙っていけ!」
ドイツの監督が前に出てきて、そこが弱点と見れば徹底して攻めろと声を出しながら、声が聞こえなかった時の為にサインも出して伝える。
その通りにドイツは右サイドの攻撃を増やし、月城のサイドを狙い撃ちに行く。
『ライン際でドイツ、華麗なワンツー!右を抜けたー!』
月城をクレイラがカイルハルトとのワンツーで抜き、突破すると月城は反転して足を活かし、追いかけて行った。
「のやろ!」
『タックルのつもりかい!?効かないよ!』
体を右からぶつけに行くが、月城のショルダーチャージは頑強な選手を揺るがすには軽い。
そこに死角から政宗がスライディング。ボールをタッチラインに押し出して、流れを一旦断ち切る。
ドイツはすぐにスローインを投げて試合再開。再びライン際での攻防は始まっていた。
カイルハルトからクレイラに戻せば、右足で高いクロスを上げる。
ザリッドと佐助の空中でヘディングによる競り合い。互角の争いにボールは転がって行き、明がこれを取る。
すぐにソニーザ、シンビオスが囲んで来てドイツのゲーゲンプレスが此処で発動。
「後ろ戻して明ー!」
明の耳に弥一の声が聞こえると、ドイツのプレスが来る前に左のヒールでボールを後ろに送った。
それを受け取った弥一だが、すぐ後ろからザリッドが迫って来る。
勿論察知していた弥一はダイレクトでボールを蹴り出した。
「(また苦し紛れか!?)」
自分が迫ってプレッシャーに負けてのミスか、そう思ったザリッドだったが次の瞬間そうではないと知らされる。
弥一の右足で蹴られたボールは大きく斜め左。クレイラが上がった事で空いているスペースを狙い撃ちしていたのだ。
『神明寺ボールをクリア!ピンチを凌ぎ、おっと!?照皇が左を走る!』
このボールに反応し、動き出していた照皇。
しかしドイツの屈強DFシュテルンも離れず追走。体をぶつけ合いながら左サイドで2人は争う。
「(なんとか攻撃を繋げる!!)」
日頃から積み重ね続けて磨き上げたフィジカル。シュテルンのチャージにも倒れず照皇が持ち堪えると、ボールを取って急ストップしながら反転。
マークを一瞬外せば右足でゴール前にクロスを上げる。
照皇からのボールは高く上がり、ハイボールを得意とする室にとっては絶好球だ。
落下地点に走り、室は地を蹴ってジャンプ。
「うぐ!」
そこにアイゼル、ワッツと2人が飛ぶと空中で体を強くぶつけてきた。
2人がかりの上に強いフィジカルの選手に当たられ、室はボールを正確に当てられなくてヘディングは枠に行かない。ゴールラインを越えてゴールキックとなった。
「(相当強い当たりだな、これは室も簡単には行かない……)」
分かっていた事だが、ドイツのDFラインも4戦で1失点と硬い。
地上も空中も厳しいなと思いつつ、照皇は室と声を掛け合う。
『再びドイツは右から行く!クレイラまたしても前に出た!』
「(またこっちからかよ!)」
裏を取られた後、それでも強気で上がって来るクレイラ。
またもカイルハルトとボールを繋ぐ。此処からワンツーかと見て、月城はクレイラのパスコースを塞ぎに行く。
「(しつこく右、と見せかけて!)」
何度も右からしつこく攻めて相手も此処を固めて来る頃、そう見たクレイラは右足で逆サイドへと強くボールを蹴る。
シュート並のスピードで飛ぶクレイラのパス。低い弾道でドイツの左サイドに向かっていた。
「(やば!あいつの方が速い!)」
サイドチェンジに反応して動き出していたソニーザ。辰羅川も動くが足の速さや瞬発力で向こうが上回り、先にボールに触り追いついたのはソニーザだ。
左から主に来ていたドイツに、右からの警戒心が若干薄れていた日本。辰羅川が抜かれるとカバーが間に合わず、独走を許してしまう。
「(行ける、こいつはシュートまで行けるな!)」
自分の前はガラ空き。これなら最後まで行けると、ソニーザがドリブルを開始。
途端に彼の前に行く手を遮る者が現れた。
「(アキラ!)」
「(忘れた頃に来るクレイラからソニーザのサイドチェンジ、この辺りは昔と変わってなかったな)」
同じチームで過ごして彼らの得意パターンを覚えていた明。もしやと思い張っていたのが正解だったようだ。
ディレイに徹してソニーザを抜かせないようにしていると、辰羅川も追いつき2人がかりでライン際に追い詰める。
「(このまま奪われるか!)」
ソニーザは辰羅川の足にボールを当ててタッチラインに出す。線審の判定はドイツとマイボールをキープ出来た。
タダで奪われる気は無い。確実な方法で優位に進めるドイツのサッカー。
日本は中々シュートに行く事が出来ず、前半の時間が経過していく。
此処で日本のベンチは早くも動いた。
『日本、これは早い選手交代。左サイドの月城に代わり歳児が入ります』
『これはそのまま左に歳児君が入るみたいですね』
「はぁっ……はぁっ……あいつらすげぇガツンて来る、気をつけろよ……」
「お疲れ、よく休んだ方が良いぞ」
ドイツと激しく競り合ったり前半から走らされたりと、月城は早くも体力を消耗していた。
優也は彼と言葉を交わして、フィールドに代わって入る。
「代わって入った奴は抜けた2番と体格は特に変わらない。作戦は変えず右サイド攻め続行だ」
ドイツはこの合間に集まり、作戦続行がランドルフの口から伝えられた。
彼らからすれば月城と優也、2人に大きな体格差は無く力で突破出来るだろうと。
「(甘いなー……)」
ドイツの考えが心を読める弥一には分かり、彼らは体格で勝っている自分達なら優也を抑えてサイドを制する。
それは浅はかだと、弥一が思っている事をドイツが知らないまま、試合が再開された。
予定通り右からカイルハルト、クレイラが上がってドイツの右サイド攻撃が始まる。
ボールを持つクレイラの左から優也が並走。クレイラは力で吹き飛ばそうと、激しく左肩でのショルダーチャージを仕掛けた。
「(な!?)」
直撃したかと思ったが、手応えが感じられない。
次の瞬間、優也はクレイラのショルダーチャージを受け流して、ボールを奪い取ってみせた。
立見で弥一の強さに迫ろうと合気道を習って2年近く、世界の舞台でそれが発揮する。
『奪い返した歳児!日本速攻だ!』
奪い返せば相手がプレスに行く間を与えず、優也は左サイドを駆け上がっていく。
「くっ!」
これにランドルフが追いかけ、優也のユニフォームを掴んで倒してしまうと笛が鳴った。
『歳児の独走を恐れたかランドルフ、ファールで止めた!』
『カード出されますね、イエローですか』
主審がランドルフにイエローカード。彼の方もこれは1枚を受ける覚悟で止めたのだろう。
左サイドからのFKに弥一は出てこず、此処は明がキッカーを務める。
ゴール前へと放り込むハイボール。室に行くかと思えばボールは照皇に行った。
彼も長身でヘディングは強い。期待に応えるように、シュテルンと競り合いになりながら頭で落としてポストプレー。
落とされてエリアの外へと出て来たボールに、走り込むのは春樹。左足でミドルを放つ。
ゴール左上に飛ぶ強烈なシュートも、ドイツGKモートンが右腕1本で弾き飛ばしファインセーブ。
『天宮シュート!!これはGKモートン止めた!惜しい日本の攻撃!』
『ですがやっとシュート1本ですよ、それもドイツより決定的なシュートでしたからね!』
「やっと流れ来たよー!どんどん行ってー♪」
ドイツにペースを握られて思うように攻められていなかったが、シュートで流れが変わりつつある日本。
そこに後押しするかのように弥一は声を出して、もっと行けと伝えていた。
「(何だ、あれぐらい……俺ならキャッチ出来たぞ)」
試合を観戦するブラジル代表。モートンのセーブを見て甘い処理だと、代表のGKを務める紫髪の男が頭の中でそう思った。
ブラジルの天才ロイド・ファルグと同じく天才と言われるGK。シャッド・ジルバは不敵に笑う。
日本とドイツ、どっちが来てもブラジルの勝利は揺るがない事からの笑みだ。
月城「あいつらの筋肉かってぇ!中に岩でも入ってねぇか!?」
光明「という事は、岩にぶつかってその硬さ知ってるって事?」
月城「揚げ足取んなクソガキー!やっぱてめぇはクソガキだこの野郎ー!」
光明「疲れからか大分語彙力ってもんが下がってるぞ」
冬夜「どっちもよせって、試合中試合中」
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