Uー20ワールドカップ グループリーグ3戦目の戦い
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
グループリーグの2試合が終わり、早々に決勝トーナメント進出を決めたチームが居る一方で3戦目まで持ち込し、最後の望みに賭けるチームも居る。
なんとしても勝たなければならないプレッシャーは襲いかかるが、一足先に確定している日本はそれとは無縁でリラックス状態だ。
「あ、弥一おはようー」
「はよ〜」
ホテルの食堂に集まる日本選手達。今日の朝はビュッフェ形式となって各自がトレーに食べ物を乗せ、自分流のメニューを作っていた。
まだ眠気が少し残る状態で現れた弥一は大門達と挨拶を交わした後、トレーで自分の食べたいメニューを次々と乗せていく。
照皇辺りは流石と言うべきか、栄養バランスをきっちり考えての朝食となっている。
一方で大門などよく食う者は大盛りの白飯丼に加えて肉や野菜多めだ。
「イタリアやっぱ強かったよなぁ。俺達が点を入れるの苦労したオーストラリア相手に4点だぞ?」
「前線にタレント揃っとるからなー。ディーン、トニー、ランド、この辺りエグいやろ」
互いに向かい合って室と光輝が食事しながら、日本と別のグループAで行われた試合の事を話す。
決勝トーナメント進出はもう決まっている。この先も考えて他の注目グループの試合を見ておいて損はないだろう。
「神明寺、お前ディーンと親しかったみたいやから他のイタリア選手についても結構知ってるんちゃう?」
「ん〜?まあ、何人かは知ってるかなぁ〜」
話を聞いていた想真。料理を取り終えて席に着く弥一が隣に居る事に気付けば、イタリアの選手に関して何か知ってると思い訪ねた。
実際何人かはジョヴァニッシミで共にプレーをしていた上、関連の夢を見たばかりなので、より鮮明に思い出せる。
「ランドは当時からチームのムードメーカーで、彼のジョークにはまあ笑ったねー。サッカーのアディショナルタイムが長くなるのは嫌だけど、好きな彼女とのデートの時間がアディショナルタイムで長くなるのは大歓迎だ、とか♪」
「何か鳥羽さんみたいな女の子大好きな奴じゃねーかそいつ?」
イタリアのムードメーカー、ランドについてどんな人物か説明する弥一に冬夜は鳥羽のような性格かと想像する。
「まさかディーンも実はそういう奴って事は……」
「無いよ?」
室がディーンもまさか、と思ったが弥一はその可能性をバッサリと切った。
「まあそうだよなぁ。あいつ世界的なスターだから……浮いた話は今の所特に無いし、あったらネット記事にすぐ載りそうだ」
ディーン程の有名人にそんな話があったら、それでニュースになる。辰羅川は焼き鮭の骨を箸で器用に取りながら、記者が食い付きそうと思っていた。
「お前ディーンからそういうのこっそり聞いとらん?実は女と付き合ってるとか」
「無い無いー、ディーンの恋バナあったらこっちが聞きたいぐらいだよー」
今でもディーンと親交のある弥一だが、彼の浮いた話については特に聞かない。
なので何処か期待するような眼差しで見つめてくる想真に対しても、そう答えるしかなかった。
「リラックスするのは結構だが、次のカメルーン戦についても考え集中した方が良いだろ。向こうは必死で来るはずだ」
そろそろ自分達の3戦目について考えないか、と恋愛話にあまりついて行けない照皇はサッカーの話へ変えようと話す。
「ああ、此処できっちり勝って全勝で勢いに乗ったままトーナメント行きたいしな」
これに藤堂も乗ったようで、照皇と次戦について話し始めていた。
「えー、折角だからもうちょっと恋バナ聞きたい所だけどなぁ」
藤堂と同じ海外組の白羽、彼は恋愛の方が関心あってそっちの方が聞きたそうだ。
真面目にサッカーの話をする組と恋バナで盛り上がる組、チーム全体の雰囲気としては良い。
グループA。互いに2勝を収めて既に決勝トーナメント進出を決めている、イタリアとアルゼンチンの強豪同士の試合。
後はどちらが首位通過となるかを決めるだけだったが、注目のゲームとあって多くの観客がスタジアムへと足を運んで来ている。
それに応えるかのようにディーンは躍動。
触れる事も出来ないスピードと、巧みなテクニックによるドリブル寄せて来るアルゼンチン選手を躱し、針の穴を通す正確無比のコントロールにして、シュートを思わせるスピードで両足どちらからでも出す事が可能なパス。
南米で1、2を争う強豪で知られたアルゼンチンをもってしても、彼を完璧に止める事が出来ない。
『決まったイタリア2点目ー!またしてもディーンからランド!何をすれば止まるんだー!?』
ディーンが出したスルーパスに素早く反応し、裏へと抜け出したランドがGKとの一対一で飛び出して来た所をチップキックで浮かせて、ボールは無人のゴールへと転がって入っていった。
「grazieー、ファンの皆ー♪」
「2点目でかしたランド!アルゼンチン相手に仕事したなー!」
「あー、今綺麗なお姉さんと目が合った気がしたのにー!」
ゴールを決めたランドが大歓声のスタンドに向けて、笑顔でアピールしていたらチームメイト達が後ろから抱き着き、重みに耐えきれず前へと芝生の上に倒れる。
ランドの目に美女が映ったようでアピールしようとしたが、祝福に来たチームメイトによって叶わず。
ディーンはこの試合無理をする必要は無いと監督が判断し、2点目が決まれば交代でベンチへ下がっていった。
「ボルグ9!エル11!」
イタリアDFの最後尾で指示を送り続ける黒髪長髪の選手。彼の指示を受ければそれぞれが素早くマークし、自らはパスの出し手へと向かってボールを奪取。
165cmとDFとして体格に恵まれていないが、彼こそがイタリアDFの要であり、カテナチオに欠かせない選手だ。
『此処も奪った!パオロ・クライス、アルゼンチンの反撃を許さない!』
ボールを奪ったクライスはすぐに動き出していた。左足でパスを送れば右サイドのガラ空きとなっているスペースに、地面スレスレのグラウンダーが速いスピードで飛ぶ。
追いつけないと思われたが、チーム最速のトニーにとってはナイスパスだった。
このパスに俊足を飛ばし、追いつくと右のインサイドでトラップ。
アルゼンチンの守備は戻りきれていない。トニーはトラップした位置からアーリークロスを右足で上げた。
その瞬間動き出し、落下地点まで来て飛べば180cmを超える長身のジージョが頭で合わせる。
叩きつけずふわりと浮かせたヘディング。前の方でポジションを取っていたGKは飛びつくも触れず、ゴールネットは再び揺らされた。
スタジアムは再度歓声に包まれる。
『3点目ー!アルゼンチン相手に止まらないイタリア!ジージョは今日2点目、イタリア自慢のカテナチオから電光石火のカウンターが火を吹いた!』
「グループ最後きっちり無失点で締めるからな!リカルド、シュート飛んでこないからって気を抜くなよ!」
「気は抜いてないから大丈夫だって!」
攻撃陣がダメ押しゴールを決めて喜び合う中、クライスは3ー0になっても浮かれる様子は無い。退いたディーンからキャプテンマークを引き継いだクライスが、周囲の守備陣に気を抜かないよう声をかけていた。
チームで小柄な方だが闘将として引っ張る。
「(ディーンが退いたってのに、いくらこっちがフルメンバーじゃないからって……化け物かこいつら!?)」
アルゼンチンの選手達は信じられないという気持ちでいっぱいだった。
既に決勝トーナメント進出を決めて、そこに備える為に何人かがスタメンから外れて休息をとっているが自分達も誇り高き代表の一員。
休息を取っている選手達より劣ってはいないつもりだ。
向こうはチームの柱であるディーンが抜けた状態、にも関わらず取り返すどころか3失点目を許してしまう。
このチームはディーンのワンマンチームじゃないぞ、と教えているかのようにイタリアは両サイドが下がり5バックに近い陣形をとり、中盤だけでなく前線の2トップも守備へと積極的に参加。
全員が高い守備への意識を持つイタリア。古のカテナチオが今の時代に向けてアップデートされていた。
鉄壁の要塞を前にアルゼンチンは攻め切る事が出来ず、長身の選手へとゴール前に高く蹴るが、2m超えの巨人GKリカルドが相手の長身選手より高い位置でキャッチ。
イタリアも無理に攻めず、このままペースを最後まで渡さず試合終了を迎えた。
『イタリア3連勝!3ー0でこの試合も完封勝利と盤石の布陣でトーナメントに進みます!』
2得点で今日のヒーローとなったジージョが饒舌にインタビューへ答える中、ディーンはロッカールームに早々と引き上げていた。
自分のカバンからスマホを出すと、同時刻に行われた日本対カメルーンの試合をチェック。
結果は3ー0で日本の勝利、イタリアと同じスコアだ。
動画で試合がハイライトで流れ、室が頭で2得点を決めているのが目立つもディーンはそれよりカメルーンの攻撃を防ぐシーンに注目する。
カメルーン注目のエースFWボンバへ渡る所を、弥一がパスコースに飛び込んでインターセプト。
カメルーンのスコアが0の時点で彼が完封しているのは分かっていたが、実際に相手エースを封じ込めている姿を見れば、ディーンの口元に笑みが浮かぶ。
「……チッ」
その様子をロッカールームに戻ったクライスは見ていた。強豪に勝った後とは思えずディーンを見る彼の顔は、機嫌が良いとは程遠い。
「(何時まであいつ、あっちを見てやがる……ディーン……!)」
イタリア3ー0アルゼンチン
ジージョ2
ランド1
日本3ー0カメルーン
室2
照皇1
弥一「カメルーンやっぱ身体能力高かったなぁー、手強かったー!」
想真「俺ら今回ナレーションの方やないか!俺もカメルーンの攻撃結構止めたんやからな!?」
弥一「残念ながら僕らカットとなりました〜、イタリアの方が撮れ高あったみたいだしー」
想真「ちゃんとノーカット版を流さんかいー!」
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