重なる過去と今
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「いただきー♪」
相手チームのスルーパス。そのコースやタイミングを読んだ弥一が、低い弾道で飛ぶボールを右足でカット。
「弥一!」
直後、右サイドを走る選手が自分を呼ぶ。チーム最速の彼に預ければカウンター行けると弥一の直感が叫んでいた。
「(任せたぁ!)」
何の迷いも無く左足で彼の前へと落ちるようにパスを送る。
「トニー、そのまま行っちゃえー!敵さんガラ空きだよー!」
右サイドを駆け抜け、短めの茶髪が風を受けながら簡単に弥一の送ったボールに追い付く。韋駄天のようなスピードを持つ彼の足は乗ってしまえば、簡単には止まらない。
ゴール前にはチームの点取り屋、赤髪のランド。陽気なムードメーカーが待っている。
敵の守備が整う前に、右からトニーが右足で矢のようなパスを飛ばす。低空飛行で飛んで来るボール。
これに相手DFの1人がランドの前へと立ち塞がり、止めようとしていた。
だがランドは慌てず前を見据え、ボールを見ないまま背を向けた状態で、トニーから来たパスを左足の踵で受け止めると、右足の踵で後ろに蹴って戻す。
そこへ走り込んでいたのはチームの絶対的な王、ディーンだった。
ランドのバックヒールパスに対して右足でダイレクトシュート。ボールは前にいるDF達の僅かな隙間を抜けてゴール左へと向かう。
ブロックをまるですり抜けたかのように来たボール。GKは反応が出来ず動けないままゴールネットを揺らされていた。
個々の高い能力に加えて鮮やかな連携、これが今のゴールを可能にしている。決めたディーンに選手達が一斉に駆け寄る。
「相変わらず凄いなぁー。よく点を取ってくれちゃってー」
彼らが居る時はゴールが必ず生まれる。特に王が出ている時は1点や2点じゃ済まない。
その凄さを知っている弥一。相手は可哀想なぐらいだ。
「そういうお前もよく止めてるじゃないか。俺の仕事が全然回って来ないって」
弥一の後ろでゴールマウスを守る黒髪の巨漢。チームの守護神リカルドが声をかけていた。
「あはは、今日はボール触らせないよー♪」
「ぬかせ」
軽口を叩き合っていると、ディーンが弥一達を見ているのに2人とも気付く。
「相手の反撃来るぞ、守備集中!」
「そうそうー!時間と女は待ってくれないよー!」
「っと、お仕事お仕事ー」
相手のキックオフが近い。ランドのジョークが飛びつつディーンに言われてから反撃に備え、弥一は相手を見据える。
試合は相手を完封しての勝利。あれから本当にGKがボールに触れる事が無く、有言実行を果たす弥一。
「アドルフ、お前あんま脱ぐなよ。レッド貰ったらどうする気だ」
「あんだよ、今日脱いでねーだろ!」
「手をかけるまで行ったろうが」
途中出場でゴールを決めていたアドルフ。パフォーマンスでユニフォームを脱ぎ捨てようとしたが、トニーが阻止。とりあえずカードを貰う事は避けられて2人は言い合う。
「リカルドだけじゃなく弥一も居てくれて守備が万全になったよなぁ。冗談抜きで俺ら世界最強じゃねぇ?」
「どうなんだろうー?今の所負けてないからねー」
弥一と肩を組むランド。自分達のチームを改めて見れば、自分達こそが最強なんじゃないかと思えていた。
「弥一が入る前までは99%負ける気はしなかったが……」
ドリンクを飲んでいたディーンが、弥一の居る方へと視線を向ける。
「このチームなら何処が相手でも100%負けない」
何が起こるか分からないサッカーにおいて100%は無いものだが、彼は100%だと言い切った。
世代最強のエリート達が集った、自分達チームなら負けは無いと。
普通ならハッタリ、ビッグマウスだと思われるがディーンの口から言うと本当に負けない。そう思わせるオーラ、力が彼にはあった。
「うん、負けないね♪」
弥一も思っていた。10年どころか100年に1人の逸材、あるいはそれすらも超えるかもしれない異次元の天才と共に居る限り、負けは無いと。
それが無敵を誇るミラン、ジョヴァニッシミなのだから。
「んん……」
薄暗い部屋、ゆっくり目を開けて天井を見ればぼんやりと理解する。
布団がかかったまま弥一は上半身を起こすと、そのままぼーっとしていた。
意識はやがて少しずつ覚醒を迎え、先程まで見ていたのが夢だったと弥一は理解。
「(何で今になってあの頃の夢を見るかなぁ……)」
ベッドから降りて洗面所へと向かい、顔を洗う中で現状を振り返る。
季節は8月になり、夏の総体を迎えて立見は2連覇へと挑戦。1回戦はシードの為に出番が無く、Jヴィレッジの宿泊施設で2回戦に備えて休んでいた。
今日から2回戦、立見の初戦が始まる。そんな時に弥一は夢を見ていたのだ。
公式戦無敗、絶対的な強さを誇っていたミラン、ジョヴァニッシミ時代に身を置いていたあの頃の夢を。
「(神に愛された子供達……か)」
アジアカップの時にレヴィンから聞かされた、当時の自分達がそう呼ばれていた事。
「(心が読めるのも神様が愛してくれた証、なのかな?)」
物心ついた時から、人の考えている事が分かるようになっていた弥一。何故自分にそんな事が出来るかは分からない。
当時のミランにはディーンを筆頭に、各国から才能ある同年代のプレーヤーが集まっていた。
才能溢れる子供達。その中から試合に出られる、選りすぐりの精鋭達が神に愛されし才能。
人々から見ればそう映った事から、そんな呼ばれ方が生まれたのかもしれない。
『2回戦から登場の東京立見高校!初出場の北海道、土神高校を相手に前半から大量リード!』
『あ、土神の長谷川君抜け出しましたね!』
中盤の混戦から抜けた選手。ボールを持って前を見据えれば、ゴール前の走るFWへとラストパス。
「いただきー♪」
これをFWへのスルーパスを心で読んだ弥一が、コースへ飛び込んでインターセプトに成功。
「(あ、この感じは……)」
その時にデジャブを弥一は感じた。この感覚を信じるならばと弥一は左足で空いてるスペースを狙って、即座に速いボールを蹴る。
狙ったのは右サイドのスペース。SDF含めて相手が前掛かりになっていたので空いている。
このカウンターパスに反応して、右サイドを爆走する存在は立見に1人居た。
『神明寺、インターセプトから右サイドへとパス!これに途中出場の歳児が追い付く!』
立見のスピードスター優也。何度も弥一の無茶振りパスを受けて来たので、これぐらい追い付くのは朝飯前だ。
「優也、そのまま行っちゃえー!敵さんガラ空きだよー!」
無意識に夢の時と同じ言葉が出て、優也を後押しする弥一。
優也から右サイドのクロス。ゴール前には長身の半蔵が待っていて相手DFと空中戦で競り合いとなり、高さで勝った半蔵の頭がボールを下に落とす。
ポストプレーに反応し、走り込んでいたのは明。右足の力ある弾丸シュートが放たれると、GKのダイブしながら伸ばされる右腕は届かず、ゴール左へとボールはネットを大きく揺らしていった。
「やったー!追加点ー!」
夢と全く同じ、とまでは行かないが繋ぎはほとんど似ており、弥一は夢と重ねつつもゴールを後ろの大門と共に喜んだ。
さっきまで攻撃していたはずが失点の土神イレブンは呆然となったり、天を仰ぐばかりである。
『電光石火のカウンター炸裂ー!守備からあっという間の得点、本当に今年も止まらない立見!』
「もう僕達最強じゃないですか神明寺先輩ー!」
「そりゃ高校で一番だから最強でしょー!」
氷神兄弟が揃って弥一へと駆け寄り、共に喜びながら声をかけた。
「(ああ、そっか)」
彼らの言葉を受けて弥一は何であの夢を見たのか、何となく分かった気がする。
「(今のこのチームが、あの頃と似ているから……それで今年は多分)」
当時と同じく今の立見は無双状態。無敵の軍団として、全国で恐れられる存在となっている。
それはあの時のミランと重なるものがあった。
加えて今年は懐かしい対面の可能性があるかもしれない。その事を表しているような過去の夢。
「水分補給もどんどん取って行こうー!相変わらず今年も超暑いからねー、我慢駄目よー!」
夏の猛暑対策で水分補給を積極的にどんどんやれと声をかけつつ、自らも水を飲む弥一。
総体予選に続いて本戦も立見の進撃は止まらない。
立見10ー0土神
詩音2
石田2
歳児2
玲音1
青木1
田所1
神代1
摩央「イタリアか……やっぱ、向こうに居た時はパスタ多く食ったんだろうな」
大門「イタリアといえば美味しいパスタだからね」
弥一「確かに多く食べたけど向こうではパスタよりもパンが主食だよー」
優也「パスタやパンは煩そうと思ったが、大抵のパスタとパンを美味いと食ってたなお前」
弥一「だって日本の美味しいからー、特にパンが色々豊富で最高♪」
摩央「あのベーカリーショップのお姉さんとも結構付き合い長くなったな、まさか2号店が出来るぐらいにデカくなるなんて」
大門「SNSで結構評判広がって遠くから食べに来る人も多いらしいんだ」
優也「サッカー部だけじゃないな、デカくなってるのは……」
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