退く弟に兄は鬼と化す
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「交代準備!」
日本ベンチが慌ただしく動いていた。
政宗の様子を見れば続行出来るかどうか怪しく、交代させるなら速い方が良いと富山が声を出せば春樹、影山と同じポジションの選手がアップを急ぐ。
「……」
マッテオは険しい表情を見せると、腕を組み考える。
「ゲホッ!い、行けるって……続行出来るから……!」
腹を抑えながらも、なんとかよろめきつつ立ち上がる政宗。本人はそう言うもレヴィンのシュートを受けた、ダメージは誤魔化せなかった。
少なくとも直後にプレー出来る状態ではない、それは誰の目から見ても明白だ。
「いいから大人しく休め、お前の分を俺が働く!」
弟をこれ以上無理はさせられないと、佐助はベンチに下がるよう勧める。
「けど、此処で休んだら俺は……!これぐらい大丈夫だって!」
兄の言葉にも反対し、続行しようとする政宗。何をそんなに意地になっているのかと思った弥一は彼の心を覗く。
日本のサイドプレーヤーの競争率が激しいのと同じく、守備的MFも競争率が増してきた。想真だけでなく新たに入った春樹や影山の先輩2人が台頭して、自分の出番がもう無くなる。
代表で不要になってしまうかもしれない。それを恐れて政宗はこの決勝で掴んだスタメンの座を、簡単に手放したくはなかった。
選ばれた選手としてスタメンに定着し、戦い続けたいという思い。痛みに堪えて政宗は試合を続けるつもりだ。
それを知って弥一の口が開く。
「守備の邪魔だから出てってよ政宗。今の君じゃ足手まといにしかならないから」
「!?」
政宗に対して弥一は冷たく、突き放すように言い放つ。今の政宗は何も戦力にならないと。
「弥一!お前、そんな言い方無いだろ!?」
「事実を言っただけだよ」
流石にそれは情が無さすぎだと番が怒るが、弥一は冷静に言葉を返す。
「それとも皆この状態の政宗を見て、続行賛成なの?失点のリスク背負ってまで出場続けて、帳消しにするメリットあるなら言ってよ?」
「 ……」
弥一にそう言われると皆が無言となる。決勝戦だが既に本戦の切符は掴んでいて、今無理をさせる理由が何処にも無い。
無理をするなと優しく声をかけず、足を引っ張るからだと弥一は何の躊躇も無く言い切る。
無失点の妨げになる奴は邪魔だ、そう語ってるような弥一の目。普段の明るい感じとは違う冷たい目だった。
「悪い……俺、やっぱ下がるな。ただのワガママで出て迷惑もかけたくないし……」
弥一に足手まといだと言われた政宗。今の状態の自分が本当にチームへ貢献出来るのかと、改めて考えれば可能性は0に等しい。
政宗は自分からベンチに向かい手で☓マークを作り、続行不可能を告げた。
その顔は悔しさに満ちている。
「え!?いや、しかし……!」
「彼なら行けます、交代を」
同じ頃ベンチでは富山が驚きの顔を見せる。マッテオの交代策が想定と全く違っていたからだ。
今アップしている春樹か影山のどちらかを、政宗に変わって入れるのかと思われたが、彼の考えはそうではなかった。
『あー、政宗君ダメですか。交代ですね』
『変わって入るのは……背番号21、源田です!なんとマッテオ監督は此処でFWの選手を投入だ!』
『となると3トップですか?まだそこまで攻撃的に行くには早いかと思われますが……』
下がっていく政宗と軽くタッチを交わしてフィールドに入る選手、それは光明だった。
「お前が入るって事は3トップで行けって来たか?」
「いや、そのまま政宗の位置へ入れと言われた」
「は!?いや、お前FWだろ!ボランチ行けんのか!?」
入った光明と月城が話し、ポジションを動かさず光明が政宗の位置に入ると知って、月城は耳を疑った。
「自己紹介の時に言わなかったっけ?俺キーパー以外は何処でも行けるからさ」
問題無い。得意気に光明が笑うと政宗が居たポジションへ走る。
『これは、FWじゃなくボランチに入りますね源田君』
『驚きの奇策に出ましたマッテオ。なんとFWであるはずの源田が本来とは違うポジションです!』
「おい、どういう事だ?あいつはFWじゃなかったのか?」
「そのはずだけど何であんな所に?」
光明がボランチに入ったのを見て、オーストラリアの方も想定外。何人か戸惑いを見せる選手達が見られた。
「ただの奇策だろ、それでこっちの動揺を誘ってるんだ。惑わされず何時も通りに行くぞ」
これは日本が仕掛けた心理的なトリックプレー。そうレヴィンが見てチームメイトに落ち着くよう声をかける。
試合が再開され、オーストラリアが日本ゴールへ迫る。
「(代わって入ったばかりのこいつが穴だ!)」
交代したばかりで、まだ場に慣れていないと見たトップ下のヘイワド。ボールを要求して味方からのショートパスをトラップすれば、前に居る光明へと向かう。
大きな体ながら細やかなステップによるドリブル。相手を抜き去りチャンスを繋げようとするヘイワドに対して、光明は惑わされず相手の動きを観察。
するとほんの僅かにボールが足元から離れた隙を突いて、光明が右足を出せばドリブルのカットに成功。
『おっと源田取った!これはナイスディフェンス!』
ボールを奪取した光明から右サイドの白羽へパス。そこにディセが体を当てて競り合いとなる中で、白羽は左のヒールを使って中央の光輝に渡す。
「ぐっ!?この!」
だがそこに待っていたのは中央を守るコバルトの激しい守備。体格差とパワーで光輝が強引にボールを取られてしまう。
『またしてもコバルトに阻まれる!これもノーホイッスルだ!』
『今のファールじゃないんですか!?判定オーストラリア寄りになってません!?』
ボールを取ったコバルト。すかさず右足で矢のようなロングパスを、前線へと蹴って行った。
「わっ!?」
シンディーへ迫るボール、そこに飛び込んで来る影。
佐助が体を投げ出すダイビングヘッド。相手のロングパスをカットして、ボールをタッチラインへ出す事に成功。
「すげぇファイト……!佐助さんナイスー!」
佐助のガッツ溢れるプレーに、思わずそんな呟きが出てしまう番。ハッとなれば佐助のプレーに声を出して褒める。
「(まだまだだっての!)」
だが息をつく間も無く、右サイドのケリーがロングスローを思いきり放り込めば、高いボールにアルゴが飛ぶ。
「らぁぁ!!」
気合いの雄叫びと共に佐助が跳躍。空中戦でアルゴを吹っ飛ばして、ボールを頭でクリア。
「ってて……!?」
倒れて起き上がるアルゴ。その時に見えた佐助の顔に思わずビクッとなり、たじろいでしまう。
普段とは違う鬼の形相で仁王立ち。鬼気迫るようなプレーでオーストラリアの波状攻撃を、佐助が止めてみせる。
「1本も通すなぁー!!この程度の攻撃何度でも跳ね返すぞ!」
味方に対して叫ぶ佐助。負傷した弟政宗の分まで働くと誓った兄は、守備の鬼と化していた。
「お、おお!なんやごっつい迫力やなぁ……!」
「佐助先輩あんな激しかったのかよ……」
その迫力に想真も怯みそうになり、今まで見たことが無かった闘志溢れる佐助の姿に月城は呆然となる。
「(優等生タイプなDFだったけど、そっちの方が頼もしくて格好良いね佐助さん!)」
弥一としては今の佐助の方が前より頼もしいと感じていた。
こうなれば自身もより攻撃的に行きやすくなると、レヴィンの居るオーストラリアゴールを見据える。
大門「佐助さん、うちでいう間宮先輩みたいになってる!?」
影山「あんな鬼みたいな顔はしてなかったけどね、彼にあんな面があったのは驚きだよ……!」
冬夜「あれかな?ゲームのストーリーとかにある大事な存在を傷つけられて怒りに目覚め、超覚醒のパワーアップとか」
優也「ゲームのやり過ぎだ、ただ……今の佐助さんが凄いというのは確実だな」
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