最強の称号よりも優先する事
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
日本のUー20ワールドカップ出場決定。その日のうちに速報は流れ国内の駅前でも号外が配られ、人々は若い日本代表の活躍を知る。
「この世代の日本代表が圧倒的過ぎて驚きましたよ!」
「なんかもうA代表よりこっちの方が強くないですか?連続無失点が継続されたままなんて歴代の代表も出来てなかったですから」
アジアカップの快進撃。アジアサッカーのカテナチオと呼ぶ者まで出て来たりと、得点力よりも守備力をピップアップするテレビ局も出て来た。
それでも辛口な者は辛口であり、失点知らずは危ない。1点取られたら一気に崩壊してしまう恐れがあるだろうと、好調な彼らの課題点を指摘していく。
色々と盛り上がりを見せるユース世代のサッカー。黄金世代の再来を思わせる、彼らの活躍は注目度が高まっていた。
イラク戦から一夜が明け、ドーハの練習グラウンドにて朝から日本選手達が集まると、マッテオが彼らの前で話す。
「昨日はお疲れ様でした、皆は大仕事をしてやり遂げた感があると思います。ですが大会はまだ終わっていません」
アジアカップはまだ準決勝、決勝が残っている。それに向けて再びマッテオはチームを引き締めさせようとしていた。
「本大会の切符は既に掴みましたが、それで負けて終わり日本に帰れば皆さん満足ですか?勝ってアジア最強の座に座りたくありませんか?」
マッテオは選手達へと語りかける。切符だけ取ればそれで満足なのか、頂点を取りたくないかと。
「無論、此処まで来れば勝って終わりたい。そう思っています、負けて百点満点なんていうのは絶対無いです」
口を開いたのはチームのキャプテンである藤堂。負けて終わるより勝って終わりたい、という気持ちを口に出していた。
「せやせや、どうせなら世間さんが文句も言えないような完璧な結果を見せて堂々と日本に帰国がどう考えても一番やろ」
これに想真も乗っかり、勝って終わるのがベストだと勝ち気な笑みを見せていた。
「というか此処まで来て、負けて帰っていいやって思ってる人居るのー?」
弥一が皆へ向かって呼びかけると、誰も負けて帰りたいとは思っていない。全員勝って終わりたいと思っているのは、心を読むまでもなく分かっている。
此処に揃っているのは負けず嫌いばかりだからだ。
「意気込み見せて直後に熱血練習始まりそうな雰囲気だけど、今日は軽めの運動だからなー」
白羽の発言は場の笑いが起こり、リラックスした雰囲気で各自が、試合後の軽めな調整をしていく。
「あ〜、終わった終わった〜。今日のお昼ご飯何かなー」
朝の練習を終えて弥一は大きく伸びをすれば、一度部屋へと戻る中で今日の昼食何が出るんだろうと考えていた。
「やっぱり日本人は練習熱心なんだな、本大会出場を決めた翌日からもう練習とは」
エレベーターへ向かうとした時、通路で大柄な体の男と対面する。
このホテルで何度も顔を合わせている。それがレヴィンである事を弥一はすぐ理解出来た。
「誰もがお友達のショウみたいに超真面目、て訳じゃないよー。試合後のケアだからー」
練習と呼べるような内容じゃないと、弥一はレヴィンの顔を見上げれば無邪気な笑顔を浮かべていた。
「ショウか……あいつはストイックだった、四六時中サッカーをしたり考えてるんじゃないかってぐらいに打ち込んでたよ。息抜きの遊びも断るぐらいだ」
「へぇー、僕なら遊び行っちゃうけどなぁー。誰だって美味い飯食いたい、女の子と遊びたいってなるだろうしー」
「お前女と遊ぶタイプだったのか?」
「僕は彼女限定ー♪」
オーストラリア時代の照皇が向こうでも、真面目にサッカーへと取り組んだり、互いの彼女を自慢したりと話が盛り上がっていく。
聞けばオーストラリアもベスト4へと勝ち上がって、本大会出場権を決めていたようで、そうでなければこうして呑気に弥一と世間話などしていないだろう。
「これが俺の彼女な、美人だろ?今年の年末に結婚するんだよ」
「おおー、それはおめでとうー」
レヴィンの結婚話を聞いて弥一は辰羅川の事もあって、この世代の結婚は日本だけじゃないんだなぁと、レヴィンに祝福の言葉をかけながら思った。
スマホで見せられたレヴィンの彼女は金髪ロングヘアーの美女。2ショットで幸せそうに写る姿は独り身なら、羨ましいとなったかもしれない。
「彼女に誓ったんだ、アジアカップやワールドカップを取るって。出場権は手にしたけどアジア頂点取るまで止まる気は無い」
「ドラマチックだねー、それ叶えて結婚とか最高じゃん♪」
「ああ、だから相手が天才の旧友でも……神に愛された子供達の1人が相手でも負ける気は無ぇよ」
「高いモチベだねー……ん?」
真剣な様子のレヴィンを茶化していた弥一だが、レヴィンの最後に発した言葉に反応を見せる。
「神に愛された子供達って、何?」
「ああ、お前ら自身は知らないか」
神に愛された子供達、一体何のことなのか弥一には分からない。
心を覗いたと同時に、レヴィンからその言葉は発せられた。
「数年前、イタリアのミランで無敵のジュニアチームが居ると騒がれた。公式戦無敗、あらゆるチームが敵わず。あまりの強さにかつてミランの黄金期を築き上げた者達が再来したと現地で騒ぐ者もいた」
「……」
レヴィンの話を弥一は黙って聞いている、弥一にはそのチームに心当たりがあった。
他でもない、それはかつて弥一が留学先で在籍していたチームだ。
ミランのジョヴァニッシミ以外に無い。
「そのチームには特に欠かせない2人の要が居た。イタリアの至宝で異次元の魔術師と言われるサルバトーレ・ディーン。もう1人が小さな狩人の異名を持つエースキラー……お前だな神明寺弥一」
「ああ、知ってたんだ?」
「まあな、そのチームの一員と知ればお前の日本での活躍はそう驚く事でもない。最強チームの一角だった奴にかかれば日本の高校生は相手にならないだろうからな」
「別に楽勝、とは行かなかったけどねー。紙一重でヤバいと思った試合いくつかあったしさ」
レヴィンの言うような相手にならない、という事は無かった。結果的に立見で数々の優勝はしているが、色々苦戦はしたものだ。
「それでもやり遂げてるだろ、知ってるぞ立見高校のギネス記録かって程の連続無失点記録を。初優勝を決めた時の伝説となるゴールキックからのカウンターシュートを。あんな偉業は化け物チームに居た奴ぐらいじゃなきゃ無理だ」
立見で弥一が築き上げてきた偉業、レヴィンでなくとも世間で知る者は多い。
「この大会、お前の存在を知ってから俺は強く意識するようになったよ。神に愛された子供達の1人……最も優れたDFのお前を倒して俺がアジア最強のDFになるってな」
同じDFというポジション。レヴィンは弥一の日本に勝って自らがアジアで最も優れたDFになると、強い気持ちを持っていた。
「アジア最強のDF?欲しいなら僕いらないからあげるよ」
だが弥一はアジア最強のDF、その称号に全くと言っていい程に興味が無かった。
エレベーターのボタンを押す弥一に、レヴィンは想定外の事を言われるも動じない。
「なるほど、アジアなどという狭い枠に囚われず目指すは世界最強のDFか」
「ううん、それもいらない」
「なに……?」
アジアではなく世界一のDF。それを狙っているのかとレヴィンは思ったが、弥一はそれも欲しいとは思っていない。
「チームが無失点に抑えて勝てれば、僕がアジア最強や世界最強じゃなくてもいいからさ♪」
来たエレベーターへと飛び乗り、弥一は驚くレヴィンへと明るい顔で告げた。
無失点で勝てれば良い。アジア最強や世界最強のDFよりも、弥一にとってはそっちの方が大事で最優先すべき事。
レヴィンをその場に残して、弥一はエレベーターで上へと上がって行く。
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