過去の悲劇を吹き飛ばす一撃
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
ダークネイビーのユニフォームの日本、GKは黄色。
緑のユニフォームのイラク、GKはオレンジ。
Uー20日本代表 フォーメーション 3ー5ー2
酒井 室
18 9
月城 三津谷 白羽
2 8 7
影山 天宮
16 15
青山 神明寺 仙道(佐)
3 6 4
藤堂
1
Uー20イラク代表 フォーメーション 4ー5ー1
アブドラ
9
アキーム シャハル ハシム
7 10 11
ミド シャミ
8 6
マクス モンド サイファ サリード
2 5 3 4
ダルシン
1
日本ボールへ変わるとみればイラクは前線のアブドラを残し、全員が引いて守る守備的サッカーを展開。
「(ガッチガチだぁ〜)」
DFの位置から弥一はイラクを観察。日本に対して引いて来る事はある程度予測していたはずなので、戸惑いは無いだろう。
だからと言ってゴールを奪う事は簡単ではないが。
中盤で日本はほぼワンタッチでパスを回し、イラクのプレスを掻い潜っていく。
光輝、春樹、影山と高い技術を持つ彼らがこれを可能とさせていた。
『日本速いボール回し!イラクにボールを奪わせない!』
そこに月城が左サイドで走り出し、ボールを持つ光輝が彼に視線を向けている。
イラクのシャミ、サリードも光輝が左を見ている視線に気付けば、月城へ来るパスをカットしようと動く。
だがそれはフェイント。ボールを持たない月城の動きに釣られた2人の隙を突いて、光輝はドリブルで突破。
試合前にも話し合って打ち合わせをした通り、動いてイラク守備陣を撹乱しようという作戦が実行されていた。
左寄りの中央から光輝がドリブルで突っ込む姿。またチャンスだとスタンドから歓声が上がる。
『イラクゴール前!三津谷チャンスだー!』
此処でシュート、あるいはドリブルでエリア内へ侵入してくると判断して、ゴール前まで戻っていたシャハルが光輝に迫る。
トンッ
光輝は左足でボールを浮かせ、前へとパスを出した。
前のシャハルの頭上を超える柔らかいループ気味のパスは室へと、弧を描きながら向かう。
これに合わせて室はジャンプし、頭でゴールを狙った。
だが此処もイラクのゴールマウスを守る、ダルシンが立ちはだかる。
ゴール左に飛んだ室のヘディングを大きな右掌で弾き飛ばし、CKへと逃れて失点を防ぐ。
『室のヘディング惜しい!GKダルシンのセーブがまたも阻んだ!』
イラクの仲間達によくやったと抱きつかれる守護神。最初の1本を止めて良い感じに乗って来たようだ。
日本は1本目のセットプレー。光輝が室へと高いボールを放り込むも、前に出ていったダルシンがパンチングで遠くに弾き返し、セカンドボールを拾おうとするも先にイラクDFの方がこれを拾ってクリア。
序盤の速攻を物に出来ず、流れはイラクに。
だがそのイラクも思うように行かない。
エースのアブドラに高いボールを集め、そこから組み立てて行くサッカーを得意とする彼らだが、一度も今日はそれが成功出来ていない。
『イラク、右のハシムからアブドラへと高いクロス!危ない日本!』
アブドラにとって絶好球であるハイボール。だが飛ぼうと意識して足に力を入れた瞬間、ガツンと体をぶつけられてタイミングを狂わされてしまう。
『このボールも合わないアブドラ、今日は不調でしょうか?』
「(何なんだ、こんな華奢なチビの当たりなんか大したこと無さそうなのに!何故あんなにズシンと来るんだ……?)」
弥一の外見から想像つかぬハードな当たり。これにアブドラは困惑していた。
ただぶつかっていくだけなら体格差でアブドラには、ほぼビクともしないだろう。だが弥一は当てる側の腕を返し、下から跳ね上げるように当たっていた。
普通の当たりではなく、幼い頃から慣れ親しんだ合気道式の当たり。柔よく剛を制すという言葉をフィールドで体現する。
「(あれキツいんだよなぁ……)」
かつて弥一とマッチアップし、同じくアタックを受けていた室。マークされて思うようにやらせてもらえないアブドラを見て、少しだけ同情した。
再び弥一のアタックを受けて飛ばせてもらえないアブドラ。妨害されてファールだとアピールするが、主審は取らない。
これにアブドラはイライラし、弥一は崩れていく敵エースの姿を見て密かに笑う。
「(イラクの攻撃は抑えてる。後は得点か)」
弥一が見据える先はダルシンを中心とした、イラクの堅い守備陣。
後は彼らからゴールを奪えるかどうかだ。
『三津谷のシュート!弾かれた、酒井走る!』
「ち……!」
自軍エリア内をガチガチに固めているイラク。光輝はエリアの外から右足のシュートで狙うも、サイファがブロックして防ぐ。
混戦の中で狼騎がセカンドボールに素早い反応を見せ、拾いに走るがイラクDFに走るコースを阻まれ、最短ルートを走れない。先にダルシンがこのボールを取って、日本の攻撃を阻止していた。
結局0ー0で前半は終了し、ハーフタイムを迎える。
「やっばいわ、向こうのGKノッてきとる」
2月にも関わらず20度を超える気温のカタール。流れ出る汗をタオルで拭きながら、光輝は相手のダルシンを厄介そうに話していた。
「ゴール前とかガチガチに固めているから、ポストで落としてもあまり繋がらないしなぁ」
ペットボトルの水を飲みながら自身のプレーを振り返る室。何度かハイボールから頭で落とすポストプレーをしてはいたが、チャンスには繋がらず。
「ひょっとしたら向こうは優秀なGKいるからPK戦になっても勝てる。0ー0で構わないと思って無理せず行かない……て方針か?」
ゲームの流れを見て、白羽は守備的なイラクの考えはこうなんじゃないかと読む。
まだ後半が丸々残っているのでそれを想定するのは速いが、このまま行けばPK戦も現実味を帯びてくる。
「もう此処で力尽きてもいいやってぐらいにガンガン攻めるしかないかなー」
「あまり前に出たらカウンターの恐れがあるが……」
「大丈夫ですよー。向こうのエースはヘロヘロですから♪」
佐助はイラクのカウンターを警戒するが、弥一はアブドラが潰れかけているから大丈夫だと言い切る。
困惑したりイライラしたりと彼の心は乱れており、調子を崩させていたからだ。
「もうアジアで苦しみ躓くのは今回で終わり、ドーハの悲劇もろともアジアの歴史をぶち壊しに行くよー!」
マッテオが何時でも交代出来るように控え選手にアップを命じ、後半はより攻撃的に行こうと作戦が決まり、選手達は再びフィールドへと向かう。
『前半は0ー0、後半でなんとしても日本はゴールが欲しい!今度こそイラクゴールをこじ開けられるか!?』
『向こうのGKかなり乗ってますからね、これを断ち切らないと厳しいですよ!』
イラクのキックオフから始まると、室と狼騎の2人がハイプレスを仕掛けていく。
室が大きな体で迫ればかなりの圧となり、焦ったか強引に前へと大きく出そうとしたイラクのボールは、室の体に当たり弾かれる。
セカンドボールに素早く反応した狼騎が、今度はしっかり拾うとそのまま前へドリブルで進む。
狼騎のドリブルに不味い、となったか反則覚悟で後ろからミドが、狼騎のユニフォームを掴んだ。
掴まれて倒される狼騎、完全なファールで主審も笛を鳴らした。
『イラク後ろから掴んだ!これは絶対ファールだ!』
『カード出ますね、イエローですか』
ミドにイエローカードが出されると、日本にFKのチャンス。
距離は30m未満、ゴール正面で直接狙える位置だ。
ダルシンが大きく声を出して指示すれば、ゴール前にイラクの壁が構築されていく。
その壁の前にボールを持って立つのは弥一だった。
『おっと?神明寺がボールを持っています。久々に彼の驚異的なFKが見られるか!?』
彼の姿を見たイラクの選手達、目に鋭さが増して警戒心が高まっている。
隣には光輝の姿もあって彼が信じられないぐらいに曲げてくるか、それとも裏をかいて光輝が蹴るのか。心理戦が展開されていた。
「今回は隣に立ってるだけでいいから」
「大丈夫か?そんなんで奴ら騙せるんか……」
光輝はそれ以上の言葉を発せられなかった。側にいる弥一がゴールや壁を見据えて、集中しているからだ。
それも並ではない、間に入るのが許されないような圧を発している。
光輝だけでなくアップで走りつつ、フィールドを見る想真も覚えのある姿だ。
極限まで高まっていく弥一の集中力。イラクの選手達がキックに警戒する中、弥一は短くステップを踏む。
右足のインステップキック。その足がボールの真芯を捉えると、曲がる事を予測して横に開いたイラクDFの間を抜けていき、ダルシンが待ち構えるゴールへと全く曲がらず向かっていた。
真正面ならキャッチ出来る、そう判断し構えていたダルシンだが、彼の目はぎょっと見開いて驚く。
目前で無回転のボールはブレていき、正面に来るかと思われたボールはストンと右下に落ちる。
ダルシンはこれに一歩も動けず棒立ちになり、ボールはイラクゴールを揺らしていた。
弥一の無回転シュートに会場総立ちの大歓声。スーパーゴールでスタンドは興奮の嵐だ。
弥一はベンチの仲間達へと向かい、抱き合って喜び合う。
日本が味わった悲劇を吹き飛ばさんと、因縁の地で天才少年が値千金の先制ゴールを決めてみせた。
詩音「っしゃー!決めてくれたー!」
玲音「流石神明寺先輩!やってくれると思ったよー!」
フォルナ「ほあ〜♪」
半蔵「色々プレッシャーがあるはずなのに、それでも決めてくる……本当に技術だけでなくメンタルも凄いもんだ」
詩音「このまま完封完封ー♪」
玲音「連続無失点ー♪」
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