アジアを壊す第一歩、ラフプレーを行った者達の末路
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
今回は結構ざまぁな感じが前回以上にあります、苦手な方はお戻りください。
「(同じだ……あの時と)」
ハサ、カッシムのヨルダン選手2人が担架で運ばれ、慌ただしい状況下でマッテオの頭に過去の記憶が蘇る。
かつてミランのジュニアチームを率いていた頃、相手チームの1人が悪質なタックルを仕掛けてミランの選手1人が負傷。
審判の陰で巧みにそれを行っていたせいか、特にカードを出される事もなく悪びれず平気に笑みを浮かべていた。
何人かのミラン選手がそれに怒り、一触即発の空気が流れる中。
「大丈夫だよー、あいつもう死ぬから」
その試合でミランのスタメンDFとして出ていた、弥一は明るい調子で悪質なファールをした者の死を宣言。
チームメイトが困惑する中でそれは起こった。
「か……かは……」
予言のような言葉は本当に近い状態で実現。再びラフプレーを仕掛けようとしたら、味方同士で激しい激突。
彼は苦しそうに胸を抑えて、フィールドに倒れたまま立ち上がれない。
この時味方選手の膝が胸へと強打してしまったのが原因と思われ、彼は担架で運ばれると病院に緊急搬送。
弥一が執拗に挑発し、相手が怒って弥一へとラフプレーを仕掛けた結果だった。
今回といい、どちらも相手の酷い怪我には弥一が関わっている。
彼が直接手を下して報復行為を行った訳ではなく、いずれも相手の自滅。
まるで呪いのように、悪質プレーを行った者へ災難が降り注いでいた。
今回も同じだ。
「(まさか弥一が相手を呪っている、というのは……流石に無いか……どちらにしても救急車を前もって呼んで良かった)」
救急車を呼んでいなかったら、兄弟2人に最悪の事態が起こっていたかもしれない。マッテオは弥一が呪いの力を持つというあり得ない事だと思いつつも、試合の方へと意識を向ける。
『思わぬアクシデントで試合が中断してしまいましたが、ヨルダンは選手2人を新たに交代』
『日本から1人負傷者出たのがヨルダンは一気に2人負傷退場と何だか荒れた試合になってきましたね』
日本とヨルダン、合計3人もの負傷退場者が出てしまい、異様な空気に包まれる会場。
スコアは1−0と日本が冬夜のゴールで1点リード。このまま行けば日本が首位通過、ヨルダンは5枠に入れるかどうかの結果待ちだ。
「もう何がなんでも1点取りに行けぇ!日本を潰せ!」
要の選手2人が負傷退場。主力を削られたヨルダンの監督はなりふり構ってはいられず行けと、ベンチから飛び出して大きくジェスチャーを混じえての指示。
このままでは2位、5枠に入れるか分からない。決勝トーナメントに意地でも行こうとしている。
右サイドの優也が縦へと走り、影山のパスを受けた光輝が右のスペースへとワントラップしてからスルーパス。
左の冬夜と同じくスピードに優れる優也。今度は侵入されまいと、ヨルダンはゴール前に人数を多く置いて固めていた。
室の頭に合わせようと優也は右足で高いクロスを上げる。
これをバックヘッドで室は照皇へと送っていた。
「ぐぅ!?」
だが照皇はこれに合わせる事が出来ない。競り合いの最中で、ヨルダンDFが彼の脇腹に肘を入れて来たからだ。
『ヨルダンこれをクリア、再び三津谷が拾って……あー!倒された!ファールだヨルダンの5番!』
『ゴール前には照皇君が倒れてますよ!大丈夫ですか!?』
『これは……日本まさか2人目の負傷者か!?』
審判がファールを取ったのは光輝を倒したのに対して、照皇は死角の方だったので気付いていない様子。
「あいつ肘入れたぞ肘!反則だ!レッドだ!」
冬夜の位置からは見えていた照皇をマークする3番の悪質ファール。前半といい執拗に行っている。
だが冬夜の主張は聞き入れてもらえずだった。
「汚ぇぞ反則野郎ー!」
「てめぇ引っ込めー!!」
これに日本サポーターからも怒りの声、一方のヨルダンサポーターは「良いぞー!」と称賛の声だ。
「(ああそう……2人壊してやったのにまだそう来るんだ?流石サッカーの戦争と言われるワールドカップだね)」
脇腹を抑えて倒れる照皇、心配して駆け寄る仲間。反則だと抗議しに行き、落ち着けと抑えられる冬夜とフィールドは混沌と化して来ている。
弥一は日本のFKのチャンスとなり、ゆっくりヨルダンゴール前へと歩き始めた。
その時に彼はヨルダンベンチの監督を見る。
「(向こうが潰しに来るならこっちも反撃で破壊しても許されるよね?仕掛けたのそっちだから)」
心で彼が、彼らが日本を潰しに来ている事は分かっている。弥一はだったら遠慮しないと狩人の目になっていた。
『日本は照皇に代えて酒井が入ります、大事を取ってでしょうか』
照皇はまだやれると言うがマッテオはそれ以上の続行はさせず、狼騎と交代でフィールドから出ていた。
ヨルダンはGKの指示で壁を作り、ボールを持つ日本選手の前に大柄な男達による人の壁が形成されていく。
「あ」
その時に弥一は声を上げた。壁に照皇へ散々ラフプレーを仕掛けた、ヨルダン3番の選手が入っている。
これを見て弥一の悪巧みは始まった。
「狼さーん、良いタイミングで入ってくれたねー♪」
「ああ?何だ急に」
笑顔で狼騎へと駆け寄る弥一。その彼に狼騎はギロッと睨むように見る、が鋭い眼光に全く怯む事なく弥一は話す。
「あのさ……」
「……!?」
ヒソヒソと打ち合わせをする弥一。その内容に狼騎は驚かされていた。
『さあ日本ゴール前でFK……おっと、これは?神明寺と酒井の2人がボールの前に立っている!』
『神明寺君は優秀なキッカーとして既に知られてますが酒井君があそこに立つとは珍しいですね、彼も強烈なシュートがありますから面白いかもしれません』
弥一が蹴るか、狼騎が蹴るかとヨルダンの壁は身構える。
助走を狼騎が取って弥一はボールの左側近くに立つ。
狼騎が走り出すとフェイントも無しに、そのまま左足で思いっきりシュートを放つ。
ボールは加速、剛球と化して真っ直ぐ壁の中央に居る、ヨルダンの3番へと向かう。
このままボールを受ければブロック成功、だが彼自身気付いていなかった。
これが自分を葬る為の物だという事に。
「ぶが!」
狼騎のシュートはDF3番の顔面、顎を直撃。容赦の無い剛球をまともに受けると、フィールドに崩れ落ちて倒れる。
ボールは蹴ってくださいと言わんばかりに、弥一の元へと転がって来た。
3番が崩れ落ちて人の壁は崩壊、そこから彼の判断は素早い。
弥一が右足で蹴れば、空いている壁の中央付近を彼らが、動きだす前にボールは通過。GKがダイブし手を伸ばすが、その手を逃れるように球は曲がって行く。
ゴール左隅へと突き刺さる2点目のゴール。決まった瞬間にスタジアムは歓声に包まれていた。
『き、決まったぁぁーー!一度は酒井のシュートがヨルダンの厚い壁に阻まれたものの神明寺がこぼれ球を蹴って日本貴重な2点目だ!!』
「やったー♪2点目2点目ー!」
盛り上がる日本サポーターに、弥一は笑顔のダブルピースで応えてみせる。
「あ……が……」
「しっかりしろ!おい!」
「担架!こっちに!」
顎を抑えたまま悶絶して立ち上がれないヨルダンの3番。審判は担架を要請すれば、この試合大忙しの担架は再び動くと、顎を打って脳震盪の可能性ある選手をフィールドから出す。
ヨルダンは3人目の負傷者。この状況にヨルダンの監督は分かりやすいぐらいに、顔が真っ青になってしまう。
日本を潰すはずが自分達の方が潰されて、崩壊されかけている状況が信じられなかった。
「お、おい……日本大人しくてやり返さないって話だったよな……?それなのに、なんだこれ……!?」
「ハサとカッシムがあんな目に遭ったりと……悪夢でも見てんのか!?」
ヨルダンの選手1人が戸惑いを見せ始める。ラフプレーを仕掛けた自分達が天罰とばかりに1人、また1人と負傷して退場になってしまう。
これに得体のしれない不気味さを感じていたのだ。
もしまた仕掛けたら今度は自分達が、それ以上の目に遭ってしまうのではないかという恐怖が生まれ始めて来る。
「(本当、このチビ野郎は……)」
ゴールを仲間やサポーターと共に喜ぶ弥一の姿。それを遠くから見る狼騎は先程の会話を思い返していた。
「狼さんが来てくれて良かったよ、他にやってくれそうな適任の人がいそうにないからさぁー」
「なんだよ一体?」
「何時もみたいに相手目掛けて思いっきりシュート撃って、あの3番にさ?」
「は……?」
ゴール前で得点のチャンスという時に3番への報復行為。主審に企みを知られれば最悪レッドカードは避けられない大問題な事を、弥一は平気で言ってのける。
「お前、何企んでんだ?」
一体弥一が何を考えているのか、狼騎は弥一へと考えを聞く。
「アジアをブッ壊す為の第一歩だよ。やり返してこないと舐めてる相手、自分達だけ出来るラフプレーを許されると思ってるのに対して……ね?」
「……」
躊躇が無い、彼は本気で破壊しようとしている。
日本が過去に何度も苦戦してきたこのアジアを。
誰よりも巧みに、誰よりも狡賢く。
試合は日本ペースのまま進み、ヨルダンは日本に対して反撃が出来ずシュート0本。防戦ばかりで残り時間このビハインドを守るので精一杯だった。
そして試合はこのまま終了し、日本はグループ首位。全勝で決勝トーナメント通過を果たす。
一方のヨルダンは2位、幸いにも成績上位にくいこめて決勝トーナメント進出を決めるが、3人もの負傷者を出してしまっていた。
そしてハサとカッシム。彼らはこの試合での負傷からユースの年代で、早過ぎる引退へと追い込まれたのだった……。
日本2ー0ヨルダン
広西1
神明寺1
大門「あまり、スッキリはしない試合だったかな……」
想真「まあ……ケンカサッカー好きなのは少ないやろ」
白羽「美しくないサッカーは世界にいくらでもあるけど、とりあえず勝利出来て決勝トーナメント進出は果たせたから良しとするか」
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