勝者と敗者、それぞれの新たな始まり
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
立見が優勝で歓喜の輪が広がり、応援してくれた人々と喜びを分かち合う一方で、牙裏のロッカールームでは泣き崩れる選手達が多く見られた。
もう少しで優勝、手の届く所までは来ていたはずだ。
それがあと一歩届かず敗戦を味わう結果となる。
「今日に関しては相手があまりに素晴らしかった……我々には何の落ち度も無いはずです」
泣いたり落ち込んだりしている部員達へと、松永は何時もと変わらず落ち着いた口調で話す。
「牙裏は全国の頂点を狙える、それが証明されたと思います。この準優勝を胸に刻み……帰りましょう」
松永の話が終わった後も春樹は椅子へと座り込み、俯いたままだった。
「(あの一瞬……)」
頭の中で振り返っていた、弥一がPKを蹴った姿。あれが勝也と重なって見えてしまった事。
「(まさか弥一と勝也さんを重ねちまうなんてな、そりゃ……勝てないか)」
柳FC初優勝を決めた勝也のPK、全国連覇のかかる弥一の5人目でのキック。どちらも共通しているのは、優勝がかかる土壇場で助走無しのPKを蹴ったという事。
サッカーのみならず、テニスでも全国を経験してきた春樹。彼でもあの状況でそんなキックを実行する勇気は無かった。
「う……うう……すみません……あの1本止めてれば……!」
弥一に決められた1本。そのおかげで優勝を持ってかれた事に、五郎は泣きながら先輩達へと謝罪していた。
「お前何言ってんだ?4本も止めたんだぞ!?充分過ぎる仕事をした、どう見ても決められなかった俺達の責任だ……!」
五郎には充分助けられた。それなのに1本も決められず五郎を援護出来なかった事に、佐竹は申し訳なく思う。
「わりぃ、五郎……お前を勝たせてやれなくて……不甲斐なさ過ぎた……!畜生……!」
正二も悔し涙を流して五郎に謝っていた。最初に1本決めてれば、こうならなかったと大きな悔いが残ってしまう。
「正二、五郎……来年の牙裏を頼む」
「「はい……!!」」
佐竹達の代は終わり、以降の牙裏は五郎達へと託される。
ロッカールームを引き上げ、各自が帰る中で五郎は1人外から国立競技場を見上げていた。
来年またすぐ戻って、今度こそ頂点を取ってやろうと決意を新たにする。そこに五郎の隣に立つ人物がいつの間にか立っている事に気付くと、五郎はその姿を見上げた。
「狼騎先輩……」
言葉をかけるも狼騎は何も言わず、立見の優勝で揺れる国立の建物をただ黙って見上げている。
やがて背を向けて狼騎が立ち去る時。
「飯奢ってやる、付き合え」
彼なりの慰めか、詫びか、五郎を誘っていた。
「はい、お供します!」
ぶっきらぼうな彼に対して五郎は笑って答えると、狼騎の後をついて歩き出す。
「先越されたか……ま、今日は先輩に譲っておこうかな」
その場面を見ていた愛奈。彼女は五郎を夕飯に誘おうとしていたが、狼騎と共に行く彼を見届けたのだった。
今日の所は千尋とご飯に行こう、そう思って彼女の方へと合流する。
立見が2連覇を果たし、取材やテレビ出演で昨年のように部活とはまた違う大変さを彼らは味わう。
特に今回大活躍を見せた大門に注目は集まっていた。
「大舞台で5本全て止めた秘訣はご自身だと何だと思いますか?」
「え?えー……そう、ですね。日頃の練習でしょうか……?結構トリッキーなキックを喰らったりとかあったりしたせいかもしれないです……」
アナウンサーの質問に緊張しながら大門が答える。そう言いつつ自分の隣で出演者に出されたジュースを、ストローで飲む弥一の姿が映った。
思えば彼には色々なFKを蹴ったりとかしてもらっていた。突然スタートさせたり中々始めずに焦らして突然蹴ったりと、技ありの芸術的なキックに加えて、意地悪な要素も入れたりもあった。それで相当鍛えられたのかもしれない。
「神明寺君も見事なキックを見せてくれました。昨年のカウンターシュートに続いてあれもまた難しいですよね?」
「そうですねー。あんな極限のプレッシャーでよく蹴れたなって自分で自分を褒めたいですし、PK戦は何度やっても慣れませんよー♪」
「自分へのご褒美は何か考えてますか?」
「優勝パーティーでお寿司とかをたらふくご馳走になりましたからー、何食べようかは考え中ですねぇ♪」
緊張してる大門と違って、弥一はアナウンサーからの質問に明るい調子で答え、場を笑わせたりしていた。
優勝後、間宮、影山、田村達の3年生は部活を引退して、大学に向けての準備へと入る。
そして間宮から次のキャプテン、立見サッカー部を纏める役目を任されたのは弥一。副キャプテンには大門が選ばれる。
「んー、僕がキャプテンになったのならジャージの上とか着ないで肩に引っ掛けて腕組んだ方がらしく見えて良いかな♪」
「 普通でいろやそこは、成海先輩も間宮先輩もやってなかっただろ」
こうした方がキャプテンらしく威厳出るかなと、部の長を任されても変わらずマイペースな弥一に川田は軽く聞き流していた。
彼らの最後の高校生活が始まる。そしてそれは同時に世界的に大きな大会が始まる年でもあった。
「では、このように」
今年から新たにUー19からUー20となった若き日本代表。
マッテオを含む代表の関係者が集い、メンバーの選出がつい先程終わった所だ。
「(まもなくか……世界一への挑戦、今の黄金世代の再来だと言われた彼らがアジアと……世界と真剣勝負を繰り広げる時が)」
思い描く彼らの勇姿、代表のみならず高校サッカーの舞台やプロユースで活躍する姿を可能な限り見て回って来た。
考えられる最強のメンバーで編成したつもりだ。後は彼らがフィールドで奏でるのみ。
密かにマッテオはその時を待ち、動き始める。
発表されるUー20日本のメンバー、Uー20ワールドカップに向けて戦う者達が決まる。
しっかりとそこにDF登録で神明寺弥一の名は載っていた。
弥一「今年の選手権も終わり、僕らもついに3年かぁ〜」
摩央「しかし……2年経ってもお前伸びなかったなぁ身長」
弥一「それはお互いさまでしょー?」
優也「体の成長は大体中学生で終わりって所か、中には高校生になってグングン伸びまくるケースもあるがお前らは当てはまらなかったな」
摩央「いーよ、男の価値は身長じゃねーし!」
弥一「頭にゴンって天井ぶつかる心配全くないっていうアドとかあるからねー♪」
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