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雪のPK戦

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 ゆっくりと空から雪が降り続ける中、主審の笛から延長後半終了の笛は鳴らされて試合は0ー0。


 延長戦でも決着は着かず、勝負の行方はPK戦へと委ねられた。



『今年の高校サッカー選手権、ついにPKまで来てしまいました!終了間際に立見がゴールを決めてほぼ優勝を手中に収めたのかと思いましたがノーゴール、幻のゴールとなっています』



『これは牙裏にとって凄い追い風になりますね。立見からすれば優勝が手からこぼれ落ちて大きなショックが残りそうですから……メンタルが重要と言われるPK戦にどうにか切り替えられれば良いですが』




「正直……寿命縮みましたよ。10人での無茶をやった後に終了間際の失点かと思えば相手の手に当たってくれてノーゴール、私もサッカーに長い事関わりましたがこんな事初めてです」



 牙裏ベンチ前に一旦戻って来た選手達に松永は声をかけていた。


 土壇場でゴールを許したはずがノーゴールに救われ、皆が喜ぶ姿が見える。



「PK戦の順番については強制しません、皆が好きに決めてください」



 これから優勝のかかるPK戦。ただでさえプレッシャーのかかる場だが、大舞台というのも上乗せされて極限となる事だろう。



「俺、最初蹴ります!1番手に決めて勢い乗らせるっす!」



 正二が右手を上げて1番手を立候補、誰も反対はない。



「じゃあ2番手は俺が行く」



 それに続き但馬が2番手を希望し、これも決定。



「悪い、俺……3番手行かせてくれ」



 3番目で手を上げたのはキャプテンの佐竹だった。キャプテンで経験ある3年としては最後が望ましいが、とても最後のプレッシャーに耐える自信が無い事から早めに立候補する。



 それを責められる者は誰もいない。自分達も最後の重圧に耐えられる自信が無いからだ。



「4番手は僕行くよ」



 最後手前で春樹が希望し、残ったのは最後の5番手キッカーだ。




「フン……その役割俺が引き受けてやる、プレッシャーなんざ知るか」



 ラストのキッカー、それを引き受けたのは狼騎。この大舞台でも緊張を見せず堂々としており、この中で最も最後に蹴る者として相応しいだろう。



「大丈夫です!僕が全部止めれば3人ですぐ終わりますから、狼騎先輩の負担無しですよ!」



「全部とはてめぇも大きく出るようになったな」



 五郎は全部止めるつもりで張り切っている。終了間際の失点が取り消されて、一番救われたのは五郎かもしれない。



 もう絶対抜かれない、強い意志が宿る目で狼騎を見上げていた。



「五郎、てめぇで終止符を打てるならやってこい」



「はい!」



 狼騎の言葉に五郎は力強く答えて決戦へと備える。






「まだ負けてはいない、一度過ぎた事は忘れ切り替える。それが出来なければ負けるだけだ」



 決まったと思ったゴールが取り消され、優勝が滑り落ちてしまった立見。


 ベンチ前に集まった皆の空気は重い。



 PK戦は一度しかやってない。その一度が2年、3年にとっては忘れられない初出場の総体。


 それが最後に負けた立見の公式戦だ。薫も分かっているが、立ち直らなければお前達は勝てないとあえて厳しく告げる。




「去年みたいには……上手くいかねぇもんだな」



 皆が黙り込んでいる中、間宮が口を開く。去年の選手権、それを経験した選手達は思い返す。



 八重葉との決勝戦、あの時もスコアレスでPKに突入する前だった。


 土壇場で弥一が伝説となったゴールを決めてくれたおかげで、その前に優勝を手にする事が出来たのだ。



 だが今回はそうはいかなかった。



 そこまで都合良く試合終了間際で決められる程に選手権決勝は、サッカーは甘くない。



「……すみません……」



 ぽつりと明が謝罪の言葉を口にする。自分がハンドをしなければこんな事にはならなかったと俯いていた。



「お前に責任は無ぇだろ、あれGKに当たって跳ね返ったボールが当たったんだろうが。そいつぁ誰のせいでもねぇぞ」



 しっかりしろと田村が俯く明の背中を叩き励ます。


 咄嗟のことなので反応が出来なくて腕に当たってしまった。それを誰が責められるだろうか。



「とにかく時間がねぇ、早くキッカーを決めなきゃな」



 もうこのPKに集中して勝つしかない、間宮は切り替えて今の現実へと向き合う。


 5人のキッカーを決めなければならないのだから。





「(決まったと……思ったのに)」



 静かに降り続ける雪の空を弥一は座り込んで見上げていた。



 オフサイドを取られず抜け出した明への完璧なスルーパス。あれで決まったと思ったはずがノーゴールの判定。



 PKの前に決めるつもりだった弥一。そのプランが崩れて呆然としてしまう。


 2度目のPK戦、嫌でも前回の敗戦を思い出す。



 最後に自分が外してやらかしたあの時を。




「弥一!」



「おわぁ!?」



 そこにいきなり自分の両肩に手を置かれる感覚が伝わり、弥一は思いっきりびっくりしてしまう。



「これ、緊張してる時に弥一にやられてたよな」



「だ、大門……?びっくりしたぁ〜」



 弥一の後ろに居たのは明るく笑う大門。彼が弥一の肩に思いきり手を置いていたのだ。



 以前は緊張していた大門に弥一がやっていた手だが、今回は立場が逆転する。



「あの時の嫌な記憶は皆残ってる。俺だってそうだし弥一も残ってる……だから、今日でそれを塗り潰そう!」



 この時、弥一は大門の心が見えた。今度は絶対止めてやる、一本も通すもんかという思い。


 それがビリビリと痺れるぐらいに強い心として伝わっていた。



「(ああ、そうだ……あの時一番辛かったのは……)」



 外した自分よりも、一度もあの時止められなかった大門が一番辛くて、悔しい思いをしたんだと弥一は思った。



 GKにとって大きなプレッシャーがかかるPK戦。にも関わらず弥一を励ましてくれている。



「(2度も、負けさせたくはないね……!)」



 弥一は今度こそ大門を勝たせる、彼を勝者のGKにする為に。


 高校No.1GKにさせようと決意し立ち上がった。




「まずは僕が蹴るよ」



 立見も蹴る順番を決め始め、1番手は影山が蹴る事になった。



「2番手は俺、行きます……!」



 今度こそ決めようと明から手を上げ、進み出る。



「じゃあ3番手は俺行くわ!」



 その次に立見が誇るパワーシューター、川田が立候補。



「後は4番と5番……か」



 プレッシャーが大きくなる終盤のキッカーが残り、すると先に最後を希望する者が手を上げた。



「僕最後でー」



 この中で1番の技術を誇るであろう弥一。彼がラストの5番を申し出る。



「なら、4番は俺が行く」



 そこへ続くかのように優也、4番手のキッカーをやると言い出した。



 立見で最も技術の高い者と最も冷静な心を持つ者、これに反対する者は出ない。




「GK、来なさい」



「はい」



 主審に呼ばれて大門はそちらへと歩く。そこには五郎の姿もあって、共に並んで主審の話を聞いていた。




「皆〜、寒くなってきたからベンチコート着て〜!」



 そこに彩夏達マネージャーがコートを用意して駆けつける。


 雪が降ってきて更に厳しい寒さになりつつある今日の気温。体を冷やさないようにと、それぞれがコートを着ていく。




『さあいよいよ運命を決めるPK戦!立見の大門達郎、牙裏の三好五郎、どちらも今大会無失点のGK同士!』



『セーブでは三好君の方がこの試合で多く防いで乗ってますからね、体格に差があってもこれは分かりませんよ』



 五郎の方が多くボールに触っている分、有利と言える。大門も触ってはいるが五郎程ではない。



 立見の先攻から始まり、五郎がゴール前に立つ。ベンチコートを脱ぎ、ボールをセットする1番手の立見キッカーは影山。



 経験あってキックの技術も高い、影山は静かに前を見据えている。



『立見の1番手は影山、最初に決めてリードしておきたい所……』



「(力むな、何時も通り……落ち着いて……!)」



 ふう、と小さく息を吐き己を落ち着かせる影山。五郎は身構えている。



 助走を取って走る影山、静まり返る国立。誰もが固唾をのんで見守る中で影山は助走から左足を振り抜いた。



 ボールはゴール左へと飛び、枠内へと飛んでいる。だが五郎は同じコースに飛んでいた。


 被っていた帽子も脱げ落ちる勢いだ。




 伸ばされた五郎の右手がボールを捉えると右掌で弾き飛ばし、ゴールマウスから逸れてラインを割る。



 ゴールがならなかったと分かれば、先ほどまで静かだった国立競技場は大きな歓声に包まれる。



「やったぁ!!」



「うおおー!五郎良いぞー!!」



 影山のPKを止めるビッグセーブを見せた五郎は飛び上がって喜び、牙裏の面々は両手を上げて大喜び。



「っ……!」



 影山はガックリと肩を落として、立見の仲間達が居る方へと重い足取りで戻る。



『一人目影山失敗ー!!三好1本目でいきなりのビッグセーブだ!』




「おっしゃ、五郎任せろ!決めて援護するからな!」



「頼むよショウー!」



 意気揚々と牙裏1番手のキッカーとして向かう正二。五郎は同級生の友へと声援。



 流れは牙裏にある、此処で決めればそれは決定的となるのは間違いない。



「(此処で決めさせない、もう……あの時みたいには行かない)」



 キッと大門は真っ直ぐキッカーと対面し、構える。



 あの時一本も止められなかった、その悔しさは今も忘れられない。だから今度こそという思いがあった。



 その思いと共に頭の中は冷静だ。



 冷静だからこそ相手の動きが、ボールがよく見える。



『牙裏1番手、1年の風見!早くもリードするチャンスが巡って来ました!』



『此処決めれば大きいですよ!』



 助走を取った正二、そこから走り出せば利き足の左足で蹴る。



 コースは思いきりど真ん中の上だ。



 だが大門は左右に飛ぶ事なく真ん中から動かず、正二のシュートを両腕で正面からパンチングで防ぐ。



「あ……!」



 止められたと分かれば正二の顔は青ざめ、彼の後方にボールが跳ね返り落ちていった。



「っしゃあー!!」



 再び国立に降り注ぐ歓声。その中でPKを止めてみせた大門は声を上げてガッツポーズ。



「やったー!大門ー!!」



 これには弥一達、立見の仲間達も喜びを見せる。



『止めたぁー!牙裏一人目も失敗!立見の大門も負けてはいません!!』




 両者の守護神による止め合いから始まったPK戦、まだまだ勝負の行方は分からない……。

鞠奈「は、ハラハラする……PK戦って……!」


摩央「見てるこっちまて緊張するわマジで……!!」


彩夏「ああ〜、皆ファイト〜……!」


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