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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
第15章 2度目の選手権

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息を吹き返した狼達

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

『おっと此処で後半終了の笛ー!立見と牙裏の選手権決勝戦は90分では決着がつかず延長戦へと入ります!』



 長めのアディショナルタイムで立見は決めようとしていたが、牙裏の必死な守備、五郎のセービングを前に打ち破れず、スコアは0ー0のまま動かなかった。



 審判が後半終了の笛を鳴らし、それぞれがベンチへと引き上げれば延長戦に向けて、各自少しでも体力を回復させようと休む。




「くっそぉ、10人だったけど相手の守りがかってぇわ」



 数的優位を活かせず決着が付けられなかった事を悔やみ、川田は芝生の上に座り込んでマネージャー手作りの蜂蜜レモンドリンクを飲んでいた。



「1人少なくなったけどそれでより団結して共通認識をハッキリさせ、上手く守れた……て感じかなぁ」



「後はあのGKにめっちゃ止められたし!」



 玲音が自己分析を進める横で、詩音は自分の放った良いシュート。それを五郎に止められた事を悔しげに振り返る。



「延長は立ち上がりから気を付けた方が良いな、酒井が戻るし向こうのGKが好セーブ連発して勢い乗ってくるはずだ。全員気を引き締めろよ!」



 不利な状況が続いた牙裏。それを乗り切って、再び人数が戻った彼らは勢いがあるはずだと間宮は見ていた。



 間宮の声に皆が頷いて応える。






「お前……さっきよりスッキリした顔つきになってんな」



「くだらない意地を張るのを止めただけさ、そっちこそ何か雰囲気違くない?」



 ドリンクを飲みながら互いの顔を見ていた春樹と狼騎。どちらも弥一に狂わされたり、倒されたりした者同士が共に変わったなと感じる。



 特に弥一に跳ね返ったボールを顔面に当てられて気絶していた狼騎。その前までは周囲を近づけさせないような闘志と殺気を帯びていたが、今は落ち着いたような雰囲気だ。



「……あのチビは強ぇ、それを心底理解した」



 これまで何度挑んでも弥一の掌の上で踊らされてばかり、ボールを受けて気絶する中で狼騎は彼が本当に強いと悟ったのだった。



「なんだ、お前もか」



 自分も改めて強いと理解したばかりだと春樹は軽く笑った。



「まあでも、此処まで来て負けたくないよな。もう優勝は手の届きそうな所まで来てるんだ」



「たりめーだろ」




「負けて準優勝なんざくそくらえだ」



 狼騎がその言葉を言い放った時、懐かしい小学生の頃の光景が頭の中で蘇る。



 惹かれ、憧れ続けたあの背番号6の背中。春樹の中で今も輝き続ける勝也、その姿を思い出せば決意新たに立ち上がった。




「大丈夫ですか狼騎先輩?」



 ボールを顔に受けて何か後遺症とかないかと、五郎は心配で狼騎へと駆け寄り声をかける。



「くだらねぇ心配してねぇで、てめぇはてめぇのやる事をきっちりやっとけ」



 心配する五郎に対して余計なお世話だと、狼騎はフィールドへと再び歩き入って行った。



「五郎、牙裏ゴールはてめぇに任せた」



「!はい!!」



 守りを託し自分は立見のゴールを割る事に集中する、狼騎の言葉に対して五郎は元気良く返事した。尊敬する先輩に託された事を嬉しく思ったようだ。




「10人で守りきったんだ、俺達の力なら勝てる!全国王者取りに行くぞ!」



「おう!!」



 佐竹の声に皆が声を揃えて応える。危機を脱して狼騎が戻った事で牙裏の士気は高まって1つに纏まった。




 延長戦の前半が始まると、勢いのある牙裏が先程まで引いて守っていたのとは一転。


 立見ゴールへと猛攻を仕掛ける。




「(分からなくなってきたか、牙裏が10人の時に得点されていたらその時点で立見の優勝は決まっていた。だがその危機を乗り越えてエースが戻った今、勢いは牙裏にある)」



 周囲が熱戦で盛り上がり、声援を送るスタンドで1人静かに試合を見守るマッテオ。



 最初は半蔵の負傷で流れが牙裏に傾いたと思われた。そこに田村の負傷も重なったが、狼騎の身に起こったアクシデントで流れは一気に立見へと向いた。



 だがそれを耐え凌いだ今、再び牙裏の時間が来ている。立見にとっては決めきれなかった事も加えて嫌な流れかもしれない。



「(さて、どうしますか弥一……?)」





『左サイドから風見、氷神詩音を躱して突破……!っと、すぐに歳児が向かい独走を許さない!』



 サイドからのスピードとドリブル突破を持ち味とする正二。此処に来てやっとそれを発揮か詩音を抜き去った。


 だが素早く優也が体を寄せて、正二の左サイド突破をさせない。



「気を付けて!リスタート来るよー!」



 ゴール前から弥一が叫ぶと、左のタッチラインにボールが出たのに対して牙裏ボールの判定が出た瞬間、正二が素早く拾いスローインで投げ入れていた。



 一息の暇も与えず正二の投げたボールの先には佐竹。するとこれを佐竹は利き足ではない左足で、ダイレクトボレーを狙ってシュート。



 このタイミングで佐竹が放ったボレーを間宮が体で止めてブロック。すると弾かれて宙に浮いたボールに対して狼騎が真っ先に反応。



 狼騎の頭上でゴールに背を向けた状態。ヘディングで狙うには難しいボールを狼騎はその体勢で飛び、後方へと体を倒しながら右足を上げると、そこに球を当ててゴールへ飛ばす。



 サッカーで華麗なアクロバティックの代名詞として知られる、オーバーヘッドキック。決まれば文句無しのスーパーゴールだ。




 正確にゴール右へ飛ぶボール、これに決めさせないとダイブしていくのは立見ゴールを守る大門。


 恵まれた体格によるリーチから伸ばされた両腕。その掌が狼騎のシュートに届けば叩き落としていた。



「 っ!」



 こぼれ球を正二が素早く詰めていくが、いち早くボールを体で覆い隠した大門がキープに成功。



「ナイスキープー!思いっきり遠くまで飛ばしちゃってー!」



 大門のセーブを褒めつつ遠くへ蹴るよう指示を送る弥一。大門が滞空時間の長いパントキックを蹴って、立見の落ち着く時間を稼ぐ。



『牙裏、酒井がオーバーヘッドを見せる!だが立見もGK大門がこれを叩き落とし譲らない!』



『これは牙裏息を吹き返してますよ、この時間帯ボールは牙裏の方が持ってます!』



 前線の明がボールを持つも春樹とのデュエルでボールを奪われる。彼の得意とするドリブルを春樹が封じていた。



「走れー!」



 そう叫ぶと共に、春樹は右足で大きく左サイド前方へと蹴り出す。



 正二が走るもこれは長い。またラインを出るかと思われたがバウンドすると減速。


 ライン際ギリギリで正二はこのボールを取っていた。



「(あぶね!!)」



 間に合ってスピードを上げてのドリブルで、左サイドから突き進む正二。だがそこに優也が追って来ている。



 これに正二は急ストップをかけて切り返し、中への侵入を狙うが優也に前を塞がれて叶わない。切り返しの狙いには気づいていたようだ。



「(くっそぉ!)」



 敵陣深くまで行ったのに此処で止められてたまるか。強引に正二はクロスを上げに行くが、体に当てて優也が阻止。



「オーライー」



 跳ね上がったボールは高く上がったがエリア外の為、大門が飛び出して取る事は出来ない。


 三笠が落下地点へと来て頭でクリアに行く。



「!三笠!」



「……!?」



 そこに大門が気づき三笠へ叫ぶ、三笠も肩に乗られた感覚が伝わってきた。



 三笠と空中戦で競り合って来たのは狼騎。彼は一瞬三笠よりも速く飛んで肩に乗れば、その推進力を利用して相手を超える高さとなる。



 先に狼騎が頭でボールを落とす。ポストプレーを見せるとそれに対して、走り込んでいたのは春樹だった。



 ミドルレンジからの強烈なシュートを持ち、右足でそのまま合わせに行く。





「はいそこまでー!」



 だが悪い流れもなんのその。弥一が狼騎のポストプレーを読んで、春樹の前にボールを蹴り出してクリア。




「さっきと比べて少しはマシなサッカーするようになってきたじゃん?」



「やっぱお前生意気だな」



 攻守で活躍するようになってきた春樹を褒めるつもりで言った弥一。その言動には少し腹は立つものの、先程と比べてずっと冷静な春樹。



 そして狼騎は集中しているのか、弥一に見向きもせず次に備えて動き出している。




「此処絶対守り切るよー!相手セカンド速いから充分そこ注意ねー!」



 流れが悪かろうがゴールを許すつもりは微塵も無い。相手を完封し続けて、更に牙裏からどうゴールを奪おうか。



 PK戦の前に試合を決めたい、その為に弥一は悪巧みを考える。

愛奈「行け行け牙裏ー!ゴロちゃんのセーブ無駄にすんなー!」


輝咲「踏ん張りどころだよ立見ー!」



鞠奈「うう、なんか寒さ厳しくなってきたかなぁ?」


摩央「そういえばさっきより寒いかも……」


彩夏「雪降るかもしれないよ〜」


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