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※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 自ら放ったシュートが弥一にはね返され、顔面へと当たり意識を失った狼騎は担架でフィールドから出されていた。



「すぐ交代だ、ベンチにそう……」



「駄目です!!」



 佐竹はベンチへと狼騎が続行不可能で交代と、伝えに行こうとするがそれを五郎が呼び止める。



「すぐに目覚めて大丈夫かもしれないですから、待ちましょう!」



「待ちましょうって、それじゃ10人で戦う事になるの分かって言ってんのか!?」



 一度交代すれば狼騎はもうこの試合に出られない、此処で彼の高校サッカーが終わる。それを良しとせず五郎は狼騎の回復を待とうと提案。



 だが彼が戻るまで牙裏は10人で戦うことを強いられるのを意味し、数的不利にこの状況で陥る事を佐竹は反対。



 普通なら立見のように早めの交代カードを切って、再び11人で戦うものだ。



「でも……狼騎先輩を欠いて立見に勝てるんですか!?誰が狼騎先輩の代わり務まるんですか!?」



「落ち着けって五郎!」



 五郎が食い下がろうとするのを正二が割って入り止める。



 そう言われれば今の牙裏に狼騎の代わりを努められる選手はいない、狼騎を欠くという事は大幅な戦力ダウン。それを意味する事は皆分かっている。



「お前の言いたい事も分かるけどな五郎、立見相手にそれこそ10人で居る間に隙を突かれて……」



「行こう、10人で」



「はぁ!?」



 現実的ではないと佐竹が話を終わらせようとした時、黙っていた春樹が五郎の奇策に賛成する。



「どの道狼騎の力無しで立見の守備に対抗は無理な話だ、全員で引いて守る……!」



「お、おい!弱腰過ぎだろ、それこそ立見の思う壺だ!」



「弱腰でも思う壺でもやるんだよ!普通に交代しても立見には効かない!」



 春樹は自分でも無茶苦茶だと分かっている。だが立見を倒すにはもう無理を通すしかない。




「牙裏、早くしなさい」



「あ、はい!」



 審判に早く試合を再開するよう言われ、佐竹が答える。迷ってる時間は残されていなかった。



「……10人で、守り切るぞ!」



 佐竹は反対していたが、狼騎を下げずに彼が戻るのを待つとキャプテンとして最終決断を下した。





『牙裏は酒井を下げませんね、交代はない模様です』



『酒井君の回復を期待してでしょうか、確かに彼が下がると大きな痛手ですが10人で戦うのは相当キツいですよ』



 立見のスローイン、右から田村が投げ入れて再開。



「10人でも情け容赦なく行こうー!今が最高の畳み掛け時だよー!」



 数的不利な相手に容赦するなと声をかける弥一。相手がどんな不利な状況へと陥ろうが本気で勝利を狙いに行く。真剣勝負の場、それも選手権決勝という大舞台なら当然の事だ。



 中盤で影山、玲音、川田と速いパススピードで繋ぐ。自校の速いボールによる練習でスピードボールには慣れている。



 逆に牙裏には速いスピードでカットに行く事が出来ていなかった。



「そいつにはどんどんチェックかけろ!」



 佐竹がそう叫びながらボールを持つ川田へと力強く肩からぶつかり、体で止めに行く。


 エリア外からのシュートを楽には撃たせたくない。



「ぐぅ!」



 厳しい佐竹の当たりに川田は前を向けず、そこに影山が上がってくるのが見えて、競り合いの最中で左足のパスを出す。



 忍び寄るように上がって来た影山にマークは付ききれていない。



 影山の右足でのミドル。エリア外からのシュートが放たれると、津川が胸で受け止めて弾く。


 ボールは左へと転がりラインを割る前に玲音が拾う。プレーを途切れさせて相手に息継ぎの間を与える事を防いでいた。



 ゴール前には多くの牙裏選手が下がっている。僅かな隙間を狙おうと玲音が明へと左足の低いクロスを蹴るが、DFの足に当たり弾かれてしまう。



「(!やった!)」



 ボールが転がった先には詩音の姿。エリア内で混戦となる中で足元に来た球を、得意の右足で狙った。



 ゴール右隅へ右斜めからのシュート、だがこれを五郎が横っ飛びで左掌に当てる。


 外へとボールは弾かれ、ゴールラインを割って出ていた。



『止めた三好ー!混戦から氷神詩音のシュートを左手一本で防ぐ!』




「よっしゃー!ゴロちゃん良いぞー!ナイスナイスー!!」



 五郎のセーブに愛奈は牙裏の応援団にも負けない程、声を張り上げて五郎へと声援を送っている。



「でも牙裏、危ないよ……!何か倒れた酒井先輩を下げずに10人で戦ってるし!」



 下げて代わりの選手を投入し、11人で戦うべきなのに何故そうしないんだ。そう思っているのは千尋だけでなく、多くのスタンドで試合を観戦する者も思っている事だろう。




「立浪、上がって。今なら守備に専念する必要は無いからさ」



「はい!」



 牙裏が思いきり引いて守っているなら、高柳や足の速い正二の2人によるカウンターを抑えれば良い。セットプレーのチャンスで弥一は上背のある立浪に上がるよう指示。



 川田と揃えてのツインタワーで高さあるぞと、牙裏にハイボールへの警戒を強めさせる。






「(立見は……強いな)」



 セットプレーの準備が進む中で春樹は思っていた。



 立見が強い事など分かりきっていたつもりだ。それでも弥一の居る立見には負けないという自信があった。



 だが蓋を開けてみれば今追い詰められているのは牙裏。自分や狼騎をもってしても弥一を崩せていない。



 何故だと焦り心の動揺からミスを連発し、チームの足を引っ張ってしまう。そして今、狼騎が戻るまで10人で必死に守る時間が続く。



 こうなってしまったのは予想以上に立見が、弥一が手強いからだろう。



「(考えてみれば当たり前か、あの時から随分時は経ってるんだから)」



 春樹にとって弥一は勝也に付いて歩くだけの存在、自分より下と見ていた。だが時が経ち、互いに成長する中で弥一の方が春樹を上回る実力を身に付けた。



「はは、馬鹿みたいだな……!」



「おい?始まるぞ春樹!」



「ああ悪い」



 その場で笑う春樹にどうしたと思いつつ、セットプレーでの試合再開が近いので声をかける但馬。



 分かってみれば単純な事だ、弥一は自分より強い。まずはそれを素直に認めるべきだと。



「(あの人が居たら、何やってんだって怒られるな)」



 くだらない意地張ってんじゃねぇぞ、と多分怒られる。



 相手を下に見ていて目を曇らせ、視野を狭めていた。なら此処から仕切り直しだと春樹はキッと前を向く。




「(此処決めきりたいな)」



 春樹の立ち直りつつある心を読み取った弥一。このセットプレーで決めてくれと、後ろから間宮と共に戦況を見守る。



 右のコーナーから蹴るのは明。



 右足で高く蹴られたボールは立浪の頭へと正確に向かい、それに合わせて立浪も跳躍。だが狙いがそこだと見破った但馬も同じく飛んでいた。



 外へとこぼれたボールに正二が向かうと、それよりも速く優也が到達。



 すかさず奪おうと足を出してくる正二に優也は反転し、躱すと右足で再びゴール前へと今度は低いボールを送った。



 明がこれに合わせようと迫るが、先に春樹の右足がボールを蹴り出す。



 だが今度は影山が拾って立見の波状攻撃は続く。





「此処粘りどころだ!集中!」



 今一度春樹が声を上げて守備を引き締めさせ、牙裏は10人で耐え続ける。



『10人の牙裏、立見の猛攻を凌ぎ続ける!素晴らしい粘りの守備だ!』



『そろそろ後半も終わりそうですよ、アディショナルタイム……7分ですか、長いですね!』



 後半の45分がそろそろ近づき、両者のアクシデントがあった影響か長めのアディショナルタイムが表示される。



 この時間帯で決まれば勝利に大きく近づく。




 左サイドの玲音から中央へ折り返し川田に渡る。そのまま受けるかと思えば、これを川田はスルー。



 その先に居る優也へと渡り中央突破、裏をかかれた但馬は追いつけない。



「決めちゃえ優也ー!!」



 大事な所で決めてくれる優也に弥一は期待を込めて叫び、シュートコースが見えた優也はDFの寄せが来る前に右足を振り抜く。



 低い弾道でゴール右隅を捉えるシュート、これが決まれば勝利に近づく。




 そうはさせないと小さな守護神が反応し、地面を強く蹴って飛び込んでいた。



 伸ばした両腕は優也のシュートを掴み取って、倒れ込んだ後もしっかりキープして守る。




『これも決まらないー!立見、歳児のシュートもシャットアウトだ三好ー!!』



「大丈夫!この試合行けるよ行けるー!」



 シュートをセーブした五郎は味方を鼓舞、士気は上がり牙裏の力を高めていく。




「(きっつ!後5分ぐらいでゴロちゃんから得点しないと延長戦……)」



 想像よりも五郎が力を発揮してきて、弥一は厄介なGKだと感じつつもチラッと時計の方を確認しようとした。




 その時見えてしまう。



 眠りから目覚めて再び戦いの場に戻ろうとしている狼の姿を。





「……」



 狼騎はラインの外から弥一を見据えている、その目に弥一も真っ直ぐ見据えた。



「(これ、延長戦になりそうかな……)」



 厄介なストライカーが戻るとなれば彼に警戒しなければならない。向こうも攻撃の柱が戻る事で勢いが増す可能性が大きい。



 そうなると残り5分程で牙裏から決勝点は難しい。彼らとの激闘は90分では終わらず、延長戦で再び狼騎と争う事になる。



 時間はあるが弥一にそんな予感が伝わっていた。

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