狩る者同士
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
高校サッカー選手権、決勝戦。
成人の日である今日がその日で、国立競技場の前では既に高校最強を争う試合を見ようと、多くの人々が集う。
「(Jリーグ並……いや、以上かもしれない。それだけ彼らに皆が注目しているという訳か)」
会場へと入る大勢に紛れ、ちょっとした有名人が会場入りしようとしていた。
Uー19日本代表監督のマッテオ。今年からUー20へと変わり、引き続き彼が指揮する。
次の戦いに向けて新たな選手を発掘せんと、マッテオは度々高校サッカーの会場へと足を運んでいた。
「(見届けるか、これから日の丸を背負うであろう若者達の戦いを)」
「決勝戦が行われる会場は既に多くの方々が来場してますね。そちらはどうでしょうか?」
「はーい、聖地国立は冬の寒さを吹き飛ばす熱気ですよー。もう凄いです!」
この時間に流れる選手権決勝の放送。スタジオから現地にてマイクを持つ女性アナウンサーが、その雰囲気を伝えていた。
「あ、バスが来ました!あれは牙裏のようですね、先に会場入りしたのは牙裏です!」
そこに選手を乗せた専用バスが到着、乗っていたのは牙裏の選手達。
キャプテンの佐竹が最初に降りて続々と選手達が降りていく姿が見え、会場入りしていく。
「立見の方はまだ来て……あ、来ました来ました!立見のバスが見えました、立見到着です!」
牙裏が到着してから数分後、立見の面々を乗せたバスも到着して周囲の人々からは歓声が上がる。
得点を取っていて容姿の良さでも注目される、氷神兄弟や明が降りて来た時には特にその歓声は大きくなっていた。
「決勝戦は立見と牙裏と初の組み合わせによる試合ですね」
「いやぁ、どうなりますかねぇ。立見といえばもう脅威の無失点記録を持っていて高校サッカー界のカテナチオと呼ばれたりしていますが、牙裏も今大会無失点なんですよね」
現地からスタジオへと画面が戻り、アナウンサーと専門家の2人が試合の行方について話す。
「ええ、ですから先制点が何時も以上に大事となってくる訳ですね」
「しかし昨年も立見と八重葉で無失点同士でしたよね、近年の高校サッカーは本当に守備が優れてきてます。それを破る為のアタッカーが両チームにも居るのでまた難しいですよ予想が」
画面が切り替わり立見、牙裏の両者による得点シーンが流れる。
「立見で言えば双子の氷神兄弟、長身の石田君を軸にゴールを量産しており牙裏は酒井君が荒稼ぎして得点王首位に立つ活躍で、彼を中心に今大会一番チームの得点を重ねていますからね。どちらの攻撃陣が鉄壁を誇る守備陣を突破するか、注目です」
スタンドは大勢の観客で埋まっていき、その中で立見の応援と牙裏の応援で分かれている。牙裏には岐阜から多くの応援団やチアリーダーの姿があった。
「うわ〜、すっごい人、人、人だなー」
「そりゃ決勝戦だもん、って言っても此処最近の高校サッカーの盛り上がりもあっての状態だからね」
岐阜から愛奈、千尋の女子2人も来ていて牙裏の応援席に座っている。
「というか牙裏がまさか八重葉も差をつけて勝っちゃうなんて、優勝……本当にありそうだよね」
「あるに決まってるって千尋、ゴロちゃん誰にもゴール破られてないんだよ?そりゃ勝つし!」
千尋としては八重葉に牙裏が3ー0で勝ったのが驚きだった。その勢いを考えれば初優勝も夢ではないと考えてる一方で、愛奈は牙裏が優勝だと疑わない。
五郎がゴールを守っていれば負けない、それが根拠だ。
「よーし皆、今日もしっかり立見を応援していこうか!」
立見の応援席では輝咲が仕切っており、自校の応援で盛り上げようと張り切っていた。
3年となって女子バレーの部活は引退、サッカー部の合気道の指導や応援に専念する。
学ランを着ての応援が凛々しく、自校のチアも見惚れる程だ。
「前にも伝えた通り、今日の布陣……スタートはこれで行く」
立見のロッカールームで薫から改めて今日のスタメン、布陣について皆へと告げられる。
GK 大門
DF 間宮、立浪、弥一
MF 明、詩音、玲音、影山、川田、田村
FW 半蔵
これが立見のスタートの布陣で3ー6ー1だ。
「頂点まであと一つ、牙裏が立ち上がりにどう来るのかは知らん。だがお前達なら相手がどう来ようが対処できる、私はそう思っている」
腕を組んだまま薫はそれぞれのメンバーの顔を見て、決勝戦を戦う者達に向けて伝えていく。
「後はアップをして時を待つだけ、しっかりやってこい」
「「はい!」」
立見の一同が返事をすればロッカールームを出る。
フィールドへ立見の選手が姿を見せれば歓声が皆を出迎え、多くの声が国立競技場を包む勢いだ。
「っと、立見さんも同じタイミングで来たか」
そこに姿を見せたのは牙裏の春樹、後ろから他のメンバーも続々と出て来る。どうやらほぼ同じタイミングでロッカールームから出て来たらしい。
石立中で先輩後輩の関係だった、氷神兄弟は揃って春樹へと挨拶。それに春樹も応えていた。
「結構有名になったもんだなお前達も、この試合で期待される活躍が出来るかは分からないとして」
「……!」
春樹は不敵に笑って宣戦布告とも取れるような発言を詩音、玲音に対して言う。
「(大門、大門、見られてる)」
「え?」
安藤に見られてると言われて、大門は自分を見る視線の正体を目で追っていく。
行き着いた先に居たのは同じGKの五郎だ。
大門と目が合うと五郎はその姿をじぃっと見ていた。
GKとして小柄な自分とは違う長身、手足の長さに加えて大きな掌。それは守護神に有利な条件を兼ね備えた理想の体だ。
更に彼はUー19にも選ばれた優秀なGKでもある。
理想と真逆の体を持った五郎は負けたくない、その思いを抱きながら視線を外すとフィールドへと向かい、同じGKの加納とアップを始めた。
「向こうかなりやる気みたいだな、俺達もアップ行くか」
「はい」
こちらもGK同士、大門は安藤と共にアップを開始。
「……」
それぞれがフィールドへと向かう中、選手の入場口で2人が向かい合っている。
立見の弥一、牙裏の狼騎。
狼騎は鋭い目つきで弥一を睨んでいた。
「知らない間に僕、相当気に入らない事やらかしたんだろうねぇー。ブチ殺すって顔に出てるよ?」
睨まれてるにも関わらず弥一は何時ものマイペースな笑みだ。
「るせぇ、てめぇは初めて見た時から気に食わねぇんだよ。「なんでも思い通りにやれる。俺は最強だ」っていうその面が……!」
狼騎から見れば弥一はそういった顔をしており、彼を完膚無きまでに叩き潰さなければ気が済まない。
彼の本能がそれを求めていて、勝手に獲物にされた者からしたらたまったものではないだろう。
狼騎の心は弥一を倒す、執念にも近い打倒の心で埋まっている。
「こわ〜、やっぱり狼さんおっかないなぁー」
何時もの調子は崩さず弥一は狼騎の鋭い視線を背に受けつつ、彼も試合に備えてフィールドへと駆けて行った。
「(こっちを獲物にする……なら狩り返しても文句言わせないよ)」
その中で弥一は考えていた。狼が狙うならどう狩り取ってやろうかを。
狩るか狩られるかの決勝戦が始まろうとしていた。
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