決勝進出を引き寄せるゴール
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「はぁっ!向こう中盤うじゃうじゃおったわ」
最神のロッカールームで光輝が水を飲んで椅子に腰掛ければ、前半で使った体力の回復に専念していた。
「立見の方は何時の間にか3バックも取り入れとったよな、去年は主に4バックだったはずや」
去年の立見との戦い、想真や前回の選手権を戦った最神の面々は覚えている。
以前の4ー5ー1から立見はこの試合では3ー6ー1のシステムで臨み、中盤を固めた3バックによって光輝の動きを極力封じていた。
最神の方はいつも通りの5ー3ー2だ。
「何より氷神兄弟が攻撃だけやなく守備でもめっちゃ顔出して来るしな。ただ、流石にそろそろバテてくる頃やろ」
ベンチから双子が縦横無尽に走り回っている姿は見ていた。
あのペースならハーフタイムで休めても、フルタイムでの出場は持たない。後半は運動量が落ちて交代だろうと最神は読む。
「そうなったら立見のスーパーサブ歳児優也が出て来るで。あれもまた気ぃ付けなアカンぞ」
Uー19の代表に選ばれてまた一つ力を伸ばした優也。同じ代表に居る想真も光輝も彼の怖さについては知っている。
「とにかく完封第一、1点取って1ー0の逃げ切りや!攻撃で立見に調子乗らせんように行くぞー!」
想真の言葉に皆が頷き、後半戦へと挑む。
『最神後半に入って積極的に攻める!三津谷得意のドリブルに入った!』
素早いフェイントに華麗な切り返し、Uー19でも司令塔を務める光輝が本領発揮をしてきて、三笠と玲音の2人を躱した。
「わっ!?」
『おーっと神明寺!三津谷へと突っ込んでスピードに乗ったスライディングタックルー!ボールに行っておりノーホイッスルだ!』
『三津谷君のドリブル2人抜きも凄かったですけどね、此処は神明寺君が上手く止めました』
光輝のドリブルで三笠を躱した直後を狙っていた弥一。察知されないように死角からのスライディングでボールを捉え、タッチラインへと出してプレーを途切れさせる。
このタイミングで立見ベンチが動く。運動量の落ちて来た氷神兄弟に代わり優也、武蔵と2人いっぺんに交代だ。
「あの双子が引っ込んで例のスーパーサブを此処で投入ねぇ」
「歳児は去年出場したほとんどの試合でゴール決めとった奴ですからね。巷で歳児タイム言われてたそうですよ」
「誰が名付けたんやそれ」
「それは……分かんないっす」
交代で出て来た立見の優也、控えの切り札に直人も洞山も注目する。
「此処踏ん張りどころやからなー!マーク絶対気ぃ抜くなー!」
想定通り立見が交代のカードを切り、想真は正念場だと周囲へ檄を飛ばす。
「(後半もう半分ぐらい時間経ってるから、勝負賭けるなら此処やな!)」
そろそろ得点しなければならない、その為にこのタイミングで想真が動き出した。
「くっ……!」
光輝はボールをキープしつつも、武蔵と明に右サイドのライン際まで追い詰められている。
『三津谷に対して立見は上村と緑山の2人が詰める!三津谷苦しい!』
そこに3人を追い越す形で最神の右SDFが上がっていた。
光輝は彼の姿が見えれば、口元はニヤリと笑みを浮かべる。
次の瞬間、武蔵の股下をボールが通過。下を見ないままノールックで光輝が右足によるパスを通し、右の味方へと渡していたのだ。
『これは巧い三津谷!右サイドの伊藤へと通った!その伊藤、右足でクロス!』
ゴール前へのクロス、ではなくやや離れた位置にボールを出す。
そこには混戦の最中で上がっていた想真の姿、此処に来ての攻撃参加だ。
「(もろた!)」
マークはない。ノーマークで想真は味方からのボールをそのまま、左足で合わせてのダイレクトシュートを放つ。
『上がっていた八神シュートぉーー!!』
タイミング良く撃てたシュートはゴール左上隅へと向かい、矢のような勢いで球が飛んでいた。
DFのブロックは阻めない、障害無くゴールネットに吸い込まれんとしている。
だが立ち塞がったのは最後の砦だった。
GKが取りづらい左上隅のコースにも関わらず、大門は迷い無くシュートに向かって跳躍。恵まれた長身による長い腕を伸ばせばボールを掴み取り、倒れながら腕の中に収めていた。
『止めたぁ!立見のGK大門、まだ最後の砦がいた!』
「大門ー!大きく前出してー!」
「!おう!!」
弥一の声が聞こえると大門はすぐに立ち上がり、右足のパントキックで大きく前へと蹴り出した。
大門のキックはセンターサークルを大きく超えて、ゴール前近くまで伸びた特大パントとなり、落下地点に半蔵が待ち構える。
想真に代わって競り合う相手DFと空中戦で競り勝ち、頭で落とすと明が受け取り、前を向いてドリブルで進む。
『大門のキックから石田、緑山が取って一気にカウンターだ立見!』
「アカンって!はよ戻れ想真!!」
「っ!」
兄の直人がスタンドから叫んだ声が届いたかは定かではないが、想真は自軍ゴールへ全力疾走で戻る。
最神ゴール前では明がDFを切り返しで躱し、相手GKと一対一に持ち込んだ。
『緑山抜けた!GK橋田飛び出したー!』
「!」
明が切り返しで躱した直後、最神GKが大胆にも一気に飛び出して、明との距離を詰めていた。
明はすぐにシュート。右足でGKの右を抜こうと狙ったが、GKはこれを体で止めてセーブに成功。
『止めた橋田!ビッグセーブだ……!』
跳ね返ったボール、迫るのは優也。
全力疾走していた想真も向かって行く。
「こんのぉぉ!!」
絶対シュートは許さんという気迫か、先程の弥一と同じくスピードに乗ったままスライディングで滑り込み、優也のシュートを阻止しようとする想真。
だがそれよりも速く捉えたのは優也の右足だ。
右足で蹴った優也のシュートは最神ゴールへ飛んで向かう。
至近距離で明のシュートを止めて、体勢を崩していたGKが両腕を伸ばすも僅かに届かない。
ボールはゴールネットへ吸い込まれていた。
『立見先制点ー!!後半ついに均衡が破れました!緑山のシュートがこぼれた所を歳児が拾っていた!立見のスーパーサブ恐るべし!!』
『八神君のシュートをキャッチした大門君の好セーブから長いバスで石田君、緑山君と繋いでの速攻でしたね!見事です!』
「やられてもうたな……立見のGKが弟の良ぇシュートを完璧にキャッチしてすぐのタイミングで特大のキックをかまして前の長身FWに繋げた。それがめっちゃデカいわ」
「大門ですね。あんまシュート飛んで来なくて出番少ないっすけどハイボールに滅法強く、身体能力高くて堅実な良ぇGKなんですよね」
「そりゃGKがヘタレやったらDFがいくら凄くても何処かでとっくに失点してるやろ、Uー19に選ばれてんのは伊達やないって事や」
直人、洞山の2人が注目したのは得点に絡んだ明、優也ではなくGKの大門。
弥一達守備陣が活躍して彼の出番は少ないが、GKとしての能力は高く全国トップクラスに達している。今のプレーがそれを物語っていた。
「こらー!下向くな!試合まだ終わっとらんやろうが!」
失点して何人か下を向いている最神の選手達へと、直人はスタンドから叫ぶ。
点差はまだ1点、追い付ける。だがそれ以上に点を取った立見の方が勢いに乗っていた。
「行けるよ追加点ー!2点目行けー!」
気にせず行け行けと、弥一は後押しするように声を出していく。
「やろっ!」
光輝もこの場は守備に入り、味方の選手と2人で突破を止めて右のタッチラインへとボールが出る。
『立見のスローイン、っと此処で川田がボールを持った!立見の人間発射台炸裂か!?』
「!(神明寺!)」
この時ゴール前から想真は弥一の姿を捉えた。
「(川田があそこからこの石田までロングスローで届かせる。そのパワーはあって可能……と見せかけて本命はお前かい!)」
それには引っかからんと半蔵をマークしながら、想真は弥一の動きに注意する。
今から声を出して弥一が上がっている事を言えば本人に気づかれ、別の作戦に切り替えられる。なので弥一のシュートが来たら、今度は自分がブロックしてやるつもりだ。
「どりゃぁぁーーー!!」
気合いと共に川田は思いっきりボールを放り投げる。方向は半蔵の居るゴール前ではない。
そして弥一の方はボールに対して反応はしなかった。
「!?」
想真がそれに気付いた時、このロングスローに反応していた明が飛び上がり、右足でボールを当てる。
大技のジャンピングボレー。これが良いタイミングでシュートが撃たれれば球は砲弾となり、剛球が最神ゴールを強襲。
先程の想真が狙ったコースと同じゴール左上隅。絶好のコースへ飛んだボールをGKがダイブして、手を伸ばすが届かない。
豪快にゴールネットが揺れて2点目が決まった。
『2点目スーパーゴールだー!!人間発射台の川田から緑山のボレーが炸裂!立見高校2度目の決勝戦への切符を大きく引き寄せる追加点を決めました!』
詩音「僕らが引っ込んでから2点決まったよー」
玲音「明調子良いなぁ、2点目とかすっごいゴール!」
鞠奈「ひえ〜、今のゴールまるで漫画かアニメレベルかも……」
彩夏「このまま頑張れ立見〜♪」
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