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大晦日の勝者

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 1点を先制した立見。前半はこのまま1ー0で終わりを迎えてハーフタイムへと入る。



 立見のロッカールームでは鞠奈がドリンクの準備を終えていた。



「レモンの蜂蜜ドリンクねぇ、皆ありがたく飲んでるけどそんなに美味しいのかなこれ?」



「美味しいよ〜、糖分摂取とか疲労回復に良いからね〜。あ、でも飲み過ぎたら太るからそこは要注意だよ〜」



「太るのは……うーん、女子には魔の飲み物かも」



 そんなに美味しいなら飲もうかとなったが、彩夏から太る恐れありと言われて太る事を気にする鞠奈にとっては、迂闊に手を出せない飲み物。


 そんな風に見えていた。




 一方フィールドで走り回った選手達にはありがたいエネルギー補給となるので、ゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいるのが数多く居る。



「中央が結構固まってるから、左右に揺さぶりまくって行くか」



「もうちょいパス回し速めで行きます?」



「そうだな、そんで出来るだけワンタッチで回してく」



 ロッカールームで立見の面々は後半戦に向けてのプランを話し合う。


 リードは1点、今年最後の試合となるので確実に勝っておきたい所だ。







「やられた!まさか最初から声かけてた奴に正直に行くなんて……」



 東豪ロッカールームでは先程のセットプレーから失点。それを悔やむ薬都が椅子に座ってドリンクを飲んでいた。



「こうなると得点狙わなきゃ俺ら勝てないぞ」



「分かってる、後半前出てくぞ。青山、俺らの中じゃあれ出来るのお前だけだからチャンス来た時に一発……」



「っす、了解しましたー」



 後半は攻めに出る、リードされているから当然の選択だ。そこへ智春から言われた事に対して番は力強く頷く。



 東豪にも強みとしている武器があった。





 後半戦が始まり、薬都と智春を中心に東豪は攻撃へと出ていた。



「左!7番フリーで上がってるぞ!」



 最後尾からフィールドの状況を見る大門。相手の右サイドから7番の選手がスルスルと上がって行く姿を捉え指示を出す。



 その後に7番へとパスは行くも翔馬がこれを阻止。弥一に頼りきりばかりではない立見の守備、小さな彼に影響されてか、コーチングや声の掛け合いは積極的に皆が行っていた。




「(かってぇな、立見の守りも……!)」



 3年の先輩達が懸命に攻めるも崩せず。攻めきれない様子に向こうの守備もこちらに劣らぬ鉄壁の守備だと、番は後ろから戦況を見ながらそんな感想が出て来る。




『左サイド、豪山が懸命にボールをキープ!氷神詩音がこれを取りに行く……っとボールが出され、東豪ボールのスローインだ』



 智春が左のライン際で詩音と争い。その最中に詩音の足へとボールを当ててタッチラインを割ると、東豪ボールのスローインという判定。



「(よっし、出番!)」



 これに番はスローインに向かおうと、その位置に向かって走る。



「(そういや、弥一の奴ロングスロー怖いとか行ってたけど……いやいや深く考えるな!さっきのセットプレーはそれで考え過ぎてやられただろうが!)」



 ふと番の脳裏に試合前の弥一とのやり取りが蘇る。その時にロングスローについて、彼はそんな事を言っていた気がした。



 一体何を考えてああ言ったのか分からない。だが深く考え過ぎては先程のCKみたいに、また手玉に取られてしまう恐れがある。



「番、此処は……」



「……了解」



 そこに薬都が駆け寄りヒソヒソと打ち合わせを行い、やがて彼は立見ゴール前へと向かって行った。



『東豪のスローイン、これはどうやら青山が務めるようです』



『彼は立見の川田君にも劣らないロングスローがありますからね、距離としてはゴール前届きますよこれは』




 長身の薬都には間宮がマークにつき、立見もロングスローに警戒しているようだ。


 そして来るとすれば長身の薬都だろうという読み。




「うぉらぁぁーー!!」



 気合い一発、雄叫びと共に渾身の力を持って番が立見ゴールへと、ロングスローを放り込む。



「!?」



 薬都がこれを合わせに走り、読み通りかと思った間宮だったが薬都は飛ばずボールは彼の頭上を通過。



 代わりに合わせようと、走り込んでいたのは智春だった。



 ゴール前へと入り込み、番から送られたボールをダイレクトシュートに行く。





「ナイススローってねー♪」



「!?」



 このトリックプレーをあっさり見破っていた人物が居た。


 智春の前に素早く立ち塞がると、ロングスローのボールをインターセプト。



 彼らの心を盗み見た弥一は此処に来る事が分かって、智春へと忍び寄っていたのだ。



『あー!インターセプト!ロングスローを取った神明寺!そしてカウンターだ!』



 弥一はすぐに右足で大きくロングパスを出していく。コースは左前方に向かって飛び、左サイドを走る玲音がこれに反応していた。



「(危な!ギリギリー!)」



 もう少しでラインを割る所だったが、寸前で玲音は右足でトラップして追いついた。


 折角の弥一から出た絶妙なパスを、意地でも無駄にはしたくない気持ちも上乗せされる。



「(やべぇ!)」



 番がロングスローに向かった今、東豪のDFラインは彼が不在のままだ。



 まさか自分のスローをそのまま取られて、一気にカウンターに持ってかれるとは思ってなかった番。慌てて自軍ゴール前へと走る。




 玲音は左足で高いアーリークロスを蹴り、ゴール前の半蔵に送っていた。



 これに半蔵がジャンプ。番に代わりマークするDFよりも高い位置に、半蔵の頭はある。



 そのままシュートに行くかと思えば、頭で下へと落とすポストプレー。そこへ詩音が走り込んで右足を迷い無く振り抜いた。



 両腕を伸ばすGK、その手は届かずゴール右隅にボールは突き刺さる。



『立見2点目ー!相手のロングスローからのカウンターと見事な速攻!神明寺のインターセプトから前線の1年3人、最後は氷神詩音の右足が炸裂しました!』



『鮮やかな速攻でした!東豪としては青山君の不在となった穴を突かれて痛い失点となりましたね』




「(やられた……!俺がロングスローで上がったばかりに!)」



 自分が上がっている間に2失点目、これには番も後悔して頭を抱える展開だった。



 今思えば弥一のロングスロー怖いというのは、番がそれを得意としているから、知ってて投げさせようと誘導していたのかもしれない。



 東豪の守備に穴を開けさせる為にわざと、だとしたらそんなつもりは更々無かったとしても、結果的に弥一の言葉で踊らされっぱなしだ。




 後半、立見はよく動き回った氷神兄弟2人を下げて優也、武蔵を投入。



 なんとしても追い付こうと攻め急ぐ東豪は前がかりになり、その隙を明が見逃さず。



『緑山間を通した!歳児が走る!』



 スペースの出来た右サイドにスルーパスを送れば優也はチーム1の俊足を飛ばし、このパスに追い付いてゴール前へと一気に迫った。



 優也の右足でのシュートがゴールネットを揺らし、決定的な3点目。



 スーパーサブがトドメを刺して勝負ありだ。





『立見高校3ー0!東豪健闘しましたが最後は王者の力が勝り2回戦で敗退、立見は3回戦進出です!』



 番を中心とした守備陣が粘り、智春や薬都の攻撃陣が食い下がったが、立見が3点を取って突き放し勝利。




「(畜生……やっぱ、強ぇ……!)」



 フィールドの上に大の字で倒れ、冬の空を見上げる格好となった番。



 強い事は分かっていた、それでも負けた悔しさはある。彼らの選手権と今年最後の試合は此処で終わりだ。



「(いや、強いだけじゃなく……狡くて巧い、てのもあるか……)」



 弥一の姿を思い浮かべると、彼はただ強いだけではない。巧くて狡さも兼ね備えた選手だ。



 フィジカルでは負けてないが番に無いものばかり持っている。




 体を起こすと番は後輩と喜び合う弥一の姿を見た。



 見た目あんな子供みたいなのが自分達だけでなく、色々な相手を手玉に取ってきたんだと。



 味方だと頼もしいが敵だと何よりも厄介で恐ろしい。それを再確認した試合だった。




 立見3ー0東豪



 緑山1


 詩音1


 歳児1

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