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立見の時代

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 八重葉は高校最強のサッカーエリート集団、全国の頂点に君臨する常勝校。



 日頃の厳しいレギュラー争いで勝ち取り、自分は最強集団の一員という誇りがあった。自分達で全ての試合と大会を勝ち抜き制覇するのだと。



 それが常勝八重葉の使命、この大会も制覇して当然。



 そう思っていた彼に突きつけられた現実は全く違っていた。



「(どうして……どうしてだ)」



 時間が経過するにつれて体が重く、足も動かなくなってくる。



 過密日程による連日の試合、記録的な夏の猛暑。



 蓄積されていった疲労が彼に牙を剥いて襲っていた。



 それでも必死にボールを追いかける。味方が必死に守り繋いで来た球を、自分がゴールに入れなければならない。



 照皇が欠場の今、自分が攻撃で八重葉を引っ張り勝利に導こうとするが。




「通さないっとー!」



 大事な所で全て小さなDFにカットされて、ボールを掻っ攫ってしまう。ずっとこの繰り返しだ。



「(何であんな動けるんだよ、訳分かんねぇ!)」



 疲労困憊の自分と比べて、元気に動いている小柄な少年。何故あんなに動けてるのか理解が出来ないまま、彼は体力の限界を迎えて途中交代で下がる事となった。






『2ー0、立見が2点のリード!この決勝で王者八重葉を相手に立見優勢で試合が進んで行く!』



『八重葉もミドルを撃ったりと反撃してますが追撃が出来てないですね、どうも攻撃が噛み合ってないように思えます』



 何もせずにリードを許してる訳じゃない。八重葉も必死に反撃しようとミドルシュートでゴールを狙い、チャンスを広げに行っていた。



 しかし弥一がそれを察知して大門にキャッチさせたり、シュートブロックで転がったセカンドを立見が拾ったりと、八重葉は中々攻撃を繋げる事が出来ていない。



 それなら左サイドの快足月城が頼りだと、走らせようとするが立見は対策を立てていた。



「(!?てめ、何でこの位置まで!)」



 前線で2トップを組んでいた優也が、八重葉の攻撃時に月城を徹底マーク。全国トップレベルの走力を誇る彼を抑える為、この役目を任される。



 一時期は田村に代わって右サイドバックとしてプレー。その為に弥一からDF技術を叩き込まれてきた。



「っ!」



 肝心の月城がマークを振り切れず、ボールを持つ八重葉選手は左へパスが出せない。



 その隙に明と川田が2人で迫りボールを奪い取る。



「カウンター!!」



 すかさず間宮が大きく声を出せば守備から一転、攻撃へと攻守のスイッチが切り替わり皆が一斉に走り出した。






「田村、水島、準備しておけ」



 ベンチで腕を組んで静観していた薫は2人へと声をかけ、交代準備を進める。



 両サイドで動いてきた氷神兄弟の動きが鈍くなって来たようで、替え時だと判断したようだ。



 後半も10分、攻撃だけでなく守備でもよく動き相手を翻弄してくれたので、この試合充分に働いてくれた。



 残りの時間は同じサイドの選手2人へと託される。






「政宗、10番!二郎、カバー!」



 立見の厄介な長身ストライカー半蔵をマークしつつ、照皇からキャプテンマークを託された佐助はどんどんと指示を出す。



 2失点はしてるものの戦力を欠いた状態で健闘。彼もフランスで弥一達と共に海外の強豪相手に戦い抜いた1人だ。



 それは政宗、月城も同じ。今の八重葉はこの3人が支えている。






 だが此処で1人限界を迎える者が居た。




 月城がこの時間帯で足を止めて息を切らしてしまう。攻守で速いスピードで走り回ったツケに加えて、総体の猛暑での連戦による疲れが此処で出ていた。



 八重葉はまた1人交代。攻守で要となる月城を失うのは、選手層の厚い八重葉といえど痛手だ。



「(なんとかしないと……早く!)」



 残り時間が迫り交代した八重葉の攻撃選手が、単独でドリブルを仕掛けに行く。



 器用で上手いタッチのドリブル技術は間違いなく全国レベル。エリートと言われるに相応しい実力者だ。



 だがそんな事は小さな狩人には関係が無かった。



「(焦ってるねー!)」



「!?」



 一瞬彼の足元からボールが離れた所に小柄な体を活かし、死角から忍び寄り相手と球の間に体を入れれば、そのままターンを入れてボールを奪取したと共に、相手を弥一は抜き去っていた。



 得意のブラインドディフェンスとマルセイユルーレットを駆使した弥一の守備だ。



 一瞬の出来事で相手は何が起こったのか理解が追いついていない。




「(左空いてる!)翔馬走ってー!」



 左サイドに空いてるスペースを発見すれば、弥一は右足で強めにボールを蹴って八重葉選手達の間を通し、低いボールが空いてる左へと向かう。



「(パス速いよ弥一!)」



 八重葉を相手にパスを通す為、味方に優しくないスパルタなパスを出されて、内心で弥一にもうちょっと速度落としてほしかった。そう思いつつも翔馬は懸命に走り、追いつこうとしていた。



『神明寺左へパスを出す!これは大きいか!?』



『いや、これは水島君追い付きますよ!?』



 なんとか左足を出してボールをトラップした翔馬。左サイドから高いクロスを八重葉ゴール前へと上げる。



 狙いは当然192cmのFW半蔵、彼の頭だ。



 此処でシンプルな狙いに出たが佐助は読み切っている。半蔵と共にジャンプし、空中戦で競り合う。



 身長で負けてる佐助だが半蔵の前でポジションを取った。ヘディングでの競り合いは互角、ボールは八重葉のペナルティエリアを出て、ゴール正面に転がって行く。



 そこに走り込んでいたのは川田。勢いのままに走り込みから左足のインステップキックによる豪砲が放たれると、ゴール左へ飛んでいた。



 GKが飛んでくるシュートへとダイブするがその手は一歩及ばず、川田の弾丸ミドルが豪快に八重葉ゴールを揺らした。



「っしやーーー!!」



 スタンドはゴールによって歓声が再び沸き起こり、川田が八重葉相手にゴールを決めた興奮からか雄叫びを上げていた。


 その彼目掛けて立見の選手達が飛びついて喜び合う。






 後半33分、時間帯を思えばダメ押しと言える3ー0。



 八重葉の方はまだ諦めてない者は居るが、もう駄目だと思う者も出て来ていた。



 それが八重葉の前線選手達、折れた心を弥一は見逃さない。



「取れるよー、そこプレス!」



 心の折れた選手がボールを持った所に弥一は声を出す。そこへ翔馬と影山が囲んで奪えば一気に速攻。



「こっちー!」



 何時の間にか弥一が前へと上がってボールを要求する為、手を上げれば影山から出されたパスを受け取り、弥一はドリブルを開始。



 疲労で足が止まったり心が折れた選手を相手に抜き去るのは、弥一にとっては容易い事で1人、2人と巧みにして軽やかなステップで躱す。



 そこにまだ諦めていない八重葉の選手が寄せに行けば、近くに走る明とのワンツーで突破。弥一はもう八重葉ゴール前にまで迫って来ていた。



「(させるか!)」



 弥一に対して、共に代表でゴールを守ってきた佐助が向かう。


 半蔵は他のDFに任せている。それよりも弥一を止めなければ不味いと、佐助の中で警報が鳴らされたようだ。



 すると弥一はすかさずボールを軸にターンで回転を始めた。その動きに佐助は瞬時に理解する。


 マルセイユルーレットだと。



「(甘い!え!?)」



 佐助が動きを読んで回転する、弥一のキープするボールに右足を伸ばした時。それが届く前にルーレットの最中で、弥一は右足の踵でボールを蹴り出していた。



 弥一の足元から離れ転がる球、これはその位置に走り込んでいた人物へのラストパスだ。



 来ると分かっていたかのように優也がその場所に来ており、弥一から送られたボールに対し、素早く自らの右足を振り抜く。



 弥一の個人技に気を取られて、優也の動きを把握していなかった八重葉守備陣。誰一人そのシュートに反応する事が出来ず、ゴールネットは再び揺れ動かされた。



「ナイス優也ー♪」



 弥一は明るい笑顔で優也へと駆け寄る。先程まで八重葉を相手に好き放題翻弄したと思えない姿だ。



「本当に容赦無いなお前は」



 駆け寄って来た弥一、そこに優也も近づけば共にハイタッチを交わす。



 立見が誇る最強コンビによって、八重葉の息の根を止める4点目が生まれる。八重葉の選手達はもう負けたと悟り、監督も頭を抱えてしまった。





 後半アディショナルタイム、此処から立見相手に逆転はもはや不可能な時間帯。



 最後は弥一がパスをインターセプトし、ボールを高々と蹴り上げてクリアすれば審判が試合終了の笛を吹き鳴らす。



 冬の選手権に続き夏のインターハイ優勝。



 立見がまた1つ新たな歴史を作った瞬間だった。




 立見4ー0八重葉



 緑山1


 玲音1


 川田1


 歳児1

ルイ「ルーレットからヒールパスなんて器用な真似を…あれくらいなら俺だって」


アドルフ「お前やった事あったっけ?」


ルイ「無い、けど練習すれば出来るだろ」


デイブ「相当難しいと思うけどな、ヤイチも凄いけど散々走り回って最後に決めてきたユウヤもとんでもないぞ」


アドルフ「余力の差もあっただろうけど、立見ってチームは凄いもんだなぁ」


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サイコフットボールの応援、ご贔屓宜しくお願いします。

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