狼の過去
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
1回戦、2回戦と連日で行われて今日は休日の日。
1回戦から戦って来た高校にとってありがたい貴重な休みだ。
各校が休みを満喫する中で弥一は昨日に続き、今日も牙裏の情報を与えられた自室ベッドの上にて寝転び、スマホで調べてみる。
昨日はあれからチームメイト達と、食事を一緒にとったり遊んで喋ったりして、調べ物は中断状態となっていた。弥一も仲間と過ごすのが楽しくて、それで忘れてしまったのだろう。
改めて牙裏について調べてみる。総体予選の戦いを見てみれば、狼騎がかなり得点を稼ぎ得点王となっている事が分かった。
「(あの反射神経な瞬発力考えると、まあ当然か)」
最神戦で見せたセカンドボールに対する反応の速さ。狼騎はそこから想真達の守備を打ち破り、2得点で勝利に大きく貢献している。
そんなとんでもない選手が居るなら、去年の総体や選手権も代表の座を勝ち取れそうなものだが、牙裏はいずれにも出て来ていない。
何でだろうなと思いながら弥一はスマホを見るのを止めると、気分転換に外へ出ようと自室を飛び出し、Jヴィレッジの施設内を歩き回ってみた。
「(お、良い所に)」
弥一は歩いている途中で、自分に近い背格好の白い帽子を被った少年を発見。彼は確か牙裏の1年でGKの三好五郎だ。
「三好くーん♪」
「え?あ、神明寺さん!」
五郎に明るく声をかけると彼は振り返り、弥一の姿を見れば礼儀正しく頭を下げた。
「どっか用事?」
「いえ、とりあえず気晴らしに散歩しようかなと歩いてた所です」
弥一が気分転換に散歩へ出ていたら、五郎も偶然にも同じ目的で外へと出ていた。
彼は1年でまだ当時入部していないから、去年については知らない可能性が高い。それでも何か噂話ぐらいは知ってるかもしれない。
この時、弥一は五郎から自然に話をどうやって引き出そうかと考えている。
「偶然だねー♪せっかくだからそこで座って話さないー?」
「良いんですか?僕そんな面白い話とか出来ないですよ」
近くには2人ぐらい余裕で腰掛けられる長椅子があり、五郎は弥一と共に椅子へと腰掛けた。
「牙裏には驚かされたねー、最神を相手に2得点って想真の凄さ知ってる僕からすれば衝撃だよー」
「狼騎先輩がいれば牙裏の攻撃力は凄く高いですよ、それだけ狼騎先輩は凄いんです!」
自慢げに目を輝かせて話す五郎の姿に、やっぱり狼騎に対して強い憧れを持っていると弥一は改めて感じた。
向こうから狼騎の事を持ち出してくれたので、そこから弥一は話を続ける。
「狼騎さん3年だっけ、そこまで凄いなら2年の総体や選手権も行けそうに思えたけどねー」
弥一の言葉を聞いた後、五郎は深刻そうな顔をしていた。
「僕も同じ事思ってて先輩達に尋ねたことありました。狼騎先輩が居れば全国行ける力があった。牙裏は守備に自信があっても決定力が足りてなくて、それを解消出来たはずなんですけど……」
これは何かあったかもしれない、弥一は五郎の言葉を待って黙る。
「当時の牙裏の監督が狼騎先輩のプレーを良く思ってなくて、実力あっても試合に出さなかったんです」
「あー、選手と監督の不仲かぁ……」
同じチームの選手と監督が合わず方針の違いで、対立する事はアマチュアに限らずプロでも起こる。監督によっては実力があろうが、戦術が合わなかったり等でその選手を外してしまう。
狼騎は当時の監督が、彼のプレーはチームと合わないという理由で出されなかったようだ。
「それが1年の頃からで狼騎先輩はサッカー部に顔を出さなくなっちゃったんです。中学の時は石立中学で三連覇に貢献した凄いFWだったのに……」
「へえ〜(あれ?石立中学って確か……)」
五郎の言葉から久々に聞いた気がする学校名、弥一は記憶の糸を辿っていけばようやく思い出す。
工藤龍尾。彼が中学時代に居たのが石立中学で、龍尾はそこで卒業するまで無失点と伝説を残していた。
その時のFWが狼騎だったという事は、弥一も内心驚くものがある。
龍尾と共に中学三連覇を成し遂げた酒井狼騎。彼も全国の舞台に立って、栄冠を手にした1人だった。
「監督が今の監督に代わってその人が狼騎先輩に戻るよう、一生懸命説得してくれたおかげでまたサッカー部に来るようになってくれたんです。そうじゃなかったら僕は狼騎先輩と出会えず鍛えてもらえませんでした!」
今にまで至る説明を五郎は一生懸命に弥一へと伝えていく。彼のおかげで以前の狼騎については少し分かった。
あの龍尾と同じ石立中学に居たというのは驚かされたが。
「おーい五郎何処だー、飯行くぞー」
そこに五郎を呼ぶ声が聞こえる。おそらく同じ牙裏の先輩辺りが、昼食の時間となったので呼びに来たのだろう。
「あ、はーい!すみません神明寺先輩、話し相手になってくれてありがとうございます!」
五郎は椅子から立ち上がり弥一に向かって、ぺこりと頭を下げてから先輩の声がする方へと走り去って行った。
「(八重葉もいる牙裏が決勝に来るのは難しそうだけど、情報は覚えといて損はないかな)」
まだ牙裏と試合する事が確定した訳ではない、トーナメントはまだまだ続く。油断していたら最神の二の舞になる可能性が牙裏だけでなく、立見に八重葉と全チームにあるはずだ。
明日からまた厳しい夏の連戦が再開される。
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