身長に恵まれなかった者達
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
目当ての食堂へ到着すると今の弥一のお腹を察してくれたかの如く、メニューに豚丼は載っている。それを欲している弥一は一切の迷いなく注文。
氷神兄弟も揃って弥一について行く形で豚丼を選択。
席には弥一と五郎が向かい合って座っていた。
「えと、ご活躍何度も拝見してました。選手権やフランスの試合と凄い強くて大きい相手に失点知らずなんて凄いです……!」
「あはは、僕だけの力じゃないけどねー」
どう話そうか迷いつつも五郎は話を始める。彼は弥一の立見での試合や代表での試合を見ていた。
いずれの相手にも無失点、弥一の言うように彼だけの力ではない。周囲の優秀にして頼もしい仲間達の力あってこそだ。
「それでもCBは身長が必要と言われる中でそのポジションで活躍は簡単じゃないと思います!本当に凄いです!守備技術だけじゃなくドリブルやシュートにパスだって一流で……!」
「とと、ちょっとクールダウンしとこうか?落ち着いてー」
「あ、すみません……」
まるで身を乗り出す勢いで熱弁する五郎。中々熱い少年だなぁと弥一は落ち着かせつつも、彼に対してそんな印象を持つ。
「僕選手として全然身長足りないので、伸ばす努力はしてますけど伸びる気配が無くて……」
「まあそうだねー。大型選手が目立ってきてる時代だけど、皆がそんな都合良くニョキニョキと伸びるとは限らないからねー」
栄養学の進歩などで昔と比べれば、日本も180cmを超える長身選手は多く出て来るようになってきた。
そんな中で弥一は僅か150cm程の身長で、大型選手を凌駕する活躍をみせている。五郎からすれば規格外の天才だ。
「あの、神明寺さんは身長が欲しいって思った事ないですか?」
五郎は自らが欲しくて努力し、手を伸ば続ける物を弥一は欲しているのかどうか聞いてみる。
自分よりも低い身長であの活躍。だったら身長に恵まれればもっと凄い活躍が出来るのではと。
「全然無いね」
「え」
特に身長が欲しいとは思わない、弥一の答えに五郎は意外そうな表情を見せた。
「小さいからこその出来るプレーがあるし、急にドーンと大きくなったらそれが出来なくなるからねー。今が一番しっくりきてるよ♪」
逆に小さい方が有利だとばかりに、弥一は明るく笑いながら語る。
「そうなんですか、なるほど……小さいからこそ出来る事……」
五郎は弥一の言葉一つ一つを真剣に耳に傾けていた。自分と違って身長を欲しいと思わない。
身長が小さいのは不利じゃなく長所、デメリットばかりでなくメリットの部分もある。
五郎は弥一からそう教えられたと感じていた。
「そういえば三好君のポジションって何処かな?悪いけど牙裏学園さんの事を把握してなくてさー」
「あ、僕はGKです」
「へー……え?GK?」
これに弥一は若干驚く。五郎のポジションはフィールドプレーヤーの何処かと思っていたが、GKは正直予想外だった。
「はは、驚いちゃいますよね。僕みたいな背でGKって高校生じゃまずいなさそうですから」
「そうだねぇー、記憶の限りだと低くても160以上はあったと思うからねー」
おそらく全ポジションで一番身長がいる。五郎が必死で身長を伸ばそうとしているのも頷けた。
小柄であれば腕のリーチが短く、手の使えるGKが有利であろうハイボールの争いも逆に不利だ。
弥一が知る限りで小さいGKといえば、西久保寺の小平勝の姿が思い浮かぶ。彼も守護神として小さい方だが五郎ほど低くはない。
並んで歩いた限り弥一より若干高いぐらいで、五郎の身長は160に届いていない。
「でも、数少ない登録選手に選ばれて参加してるんだ。という事は凄いんだねー?」
「いえ……僕は正GKじゃなく控えですから」
正GKではない、それでも第2として選ばれて全国の舞台へと出て来ている。
小さいとはいえ五郎の実力は高いと考えて間違いないだろう。
「僕みたいなのがここまで来れたのは全部、酒井狼騎先輩のおかげなんです」
「さかいろうき、って?」
「牙裏学園のエースFWで物凄い人です!」
誇るように五郎は力いっぱい狼騎の事をそう言い切っていた。
察するに牙裏学園を全国へ導いた原動力といった所か。
「僕その人にいっぱい鍛えられてきました、狼騎先輩いなかったら今の僕は絶対いません!」
「へぇー、そんな凄いんだねー」
弥一は目の前の五郎が狼騎に対して、強い憧れを持っている事を感じ取る。それは心を読むまでもなかった。
そこに頼んでいた豚丼が運ばれ、弥一だけでなく五郎も頼んでおり、弥一は待ってましたとばかりに備え付けの箸を右手で持ってかきこんでいく。
「北海道も良かったけど此処の豚丼も美味しい〜♡」
北海道の時とはまた違う豚肉やタレが使われ、過去に味わった時と別の美味しさが味わえて弥一は堪能していた。
「(こういう食事も神明寺さんの原動力なのかな……?)」
こんな美味しそうで幸せそうに食べる人を五郎は見たことがなく、弥一を観察しつつ自らも豚丼を食す。
同じ頃牙裏は試合を終えてからインタビューに応じていた。
牙裏の1回戦は2ー1と1度は相手に追いつかれるも、再度引き離し逃げ切り、かろうじて接戦を制している。
決勝点を上げた選手へのインタビューが終わると、記者は1人の選手を呼び止めていた。
それは今日の試合に出ていなかった狼騎だ。
「あ、酒井君!今日試合出てなかったけど温存?それとも怪我?」
「……別に怪我なんか」
してないと言いたげなのが伝わり、なら温存の方かと記者は察する。
「この牙裏を全国へ導いた君の総体での活躍を期待してるんじゃないかな君のお父さん」
「!」
その記者の言葉に対して狼騎は鋭い目つきで記者を睨みつける。
「っ!?」
高校生とは思えぬ殺気を纏う目に記者はビクッ怯えてしまう。
狼騎は記者をひと睨みした後に背を向けて、さっさと歩き去って行った。
「お、おっかねえ〜。高校生があんな目つきすんのか」
優也「弥一ぐらいに小さいプレーヤーが他にも全国にはいるもんなんだな」
摩央「しかもあれでGK、これって大型化から小型化が始まってねぇ?」
大門「始まってはいないと思うけど……あの体でGKか、並大抵の努力じゃ出来ないだろうから相当練習は積んだんじゃないかな」
優也「だろうな、そうじゃなきゃ全国に来れないだろ」
摩央「まさかあれであの龍尾ぐらいの化け物とかじゃないよな…?」
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