代表の要となる海外組との出会い
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
日本から飛行機で14時間かけてフランスへと到着した弥一達。空港を出ると彼らの姿を見つけて声をかける者が居た。
「やっと来たか、立見の諸君」
「わざわざお迎えすみません本橋さんー♪」
現れたのは黒髪で短髪、眼鏡をかけた30代程の男性で知的な印象が伺える人物。
Uー19のスタッフで主に情報担当を務める本橋慎二。Uー19に入った当初から弥一達は世話になっている。
「いいから早く乗れ、海外組を差し置いて最後に合流な国内の高校生組はお前達ぐらいだぞ」
本橋が眼鏡をくいっと右手の指で上げる仕草を見せれば、彼の視線の先には移動用として用意されたフランス車の青いコンパクトカー。勿論運転するのは免許を持つ本橋だ。
「海外組が……なんか、すみません」
自分達と同じ年代にして既に世界へと飛び込み、戦い続ける海外組。近年では様々な年代が日本から世界へと飛び出して、弥一のように留学を経て日本から戻るケースがあれば、そのまま残ってプロ契約し、クラブの一員としてサッカーをするのも珍しい事ではなくなってきている。
大門は海外組を待たせる形となり、申し訳ないなという気持ちになっていた。
3人を乗せた車はフランスの首都であるパリの市内を走り移動。人口約213万人が住んでおりエッフェル塔、凱旋門、ノートルダム大聖堂など魅力的な観光地がある事で有名だ。
芸術の都とも言われるパリの美しい街並みを優也が見ていると、何かに気づく。
「日本の東京だと電柱が結構あるけど、パリの首都でそういう電柱が全然無い……」
「電柱は景観を損ねて住民が迷惑する物だと考えられ、電線は地中に埋められている。これはフランスに限った事じゃなくヨーロッパではほとんどそれだ」
「ヨーロッパ、という事はイタリアも?」
「あ、無かったよ電柱」
日本で当たり前のように見られていた物が、海外では見かけない事に優也は不思議に思っていて、本橋は運転しつつそれに対して説明。
ヨーロッパでは電柱を見かける事はまず無く、そのせいかその空は日本よりも大きく広がっている感じだった。
弥一もこれはイタリア留学で知って最初驚いたなぁと、当時の事を軽く振り返っている。
「はぁ~、こういう所も日本と全然違うんですね」
凄いなぁと思いつつ大門は窓からパリの街並みを改めて眺めていた。
「それで凱旋門とか行かないんですかー?」
「合宿所はそことまるっきり方向逆だ、残念ながら通らないぞ」
「え~、凱旋門行きたかった~……エッフェル塔とか大聖堂~」
「フランス観光に来たのかお前は」
Uー19の日本代表とは思えぬ緊張感の無さ。そんな弥一の姿に本橋はため息をつきたくなってしまう。車はそういった観光地を行く事はなく、真っ直ぐ目的地のベースキャンプとしてる地へと走る。
車を止めて合宿となる場所へ到着すると、そこはちょっとした豪華なホテルような建物。此処がフランスでのUー19日本代表の拠点となる合宿所だ。
「普通に泊まったら高そう……!」
「お前チケットの時といいそればっかりだな」
合宿所の建物を見上げる大門の第一印象を横で聞いた優也。チケットに続いてそれかと思いつつ、さっさと合宿所へと入って行く。
「あ、優也待ってくれよー!」
異国の地で置いてけぼりになりたくないと、大門は慌てて優也の背中を追い掛けていった。
「どうもー、立見組ただいま到着しましたー♪」
「どうもやあらへんわ立見組改め遅刻組ー!」
合宿所の中へと進めば今日の練習を終えて、食事も早々に終わったUー19のメンバーが休んでおり、弥一はその中で明るく挨拶。これに真っ先に反応したのは想真だ。
「まーまー、むしろ凄ぇな高校の予選を戦ってからすぐに代表参加って。物凄い過密日程だぞそれ」
想真の肩に手を置いて宥めるのはUー19の兄貴的存在である辰羅川。想真と彼も前回の合宿に続き、今回のフランス大会に無事代表として選ばれていた。
「自分の高校や代表、全ての試合に勝つという姿勢は素晴らしいが結果それで自らの身を滅ぼしては意味が無い」
そう発言し、立見組へと近づく者。身長は長身の大門より更に大きく190cmはあって、後ろを刈り上げたベリーショートの黒髪。
鋭い眼光が印象的な男、彼はUー19で背番号1を背負う代表の正GK。海外組の1人でオランダの2部リーグのクラブにもGKとして試合に出ている。
藤堂正勝。それがこの男の名前なのは、この場の皆が知っている。
「(うわ、本物だ……この人が藤堂さん……!)」
特に同じGKとして大門は藤堂の事をよく知っている。自分より一つ上で体格に恵まれているだけでなくGKとしての技術も優れており、彼はGKの申し子と言われて有名だ。
オランダの2部リーグに若くして、プロの一員でゴールを守り本場の選手達と戦う彼に大門は憧れを抱いていた。
「立見や君達の活躍はオランダに居ても届いている、特に神明寺弥一だったか。正直君の活躍はまるで異次元だ」
「あー、そういうの藤堂さんの目や耳にもお届けしちゃってるんですねー♪」
「凄いワールドワイドだー」と呑気に笑う弥一。その彼を見下ろしながら藤堂は更に言葉を続ける。
「だが今回の日程は流石に無理がある。高校の試合に出続けてその日の内にフランスへ長時間の移動。7時間の時差もあって万全のコンディションとは言えないだろう今の立見は」
立見の日本での試合をこなしてから、代表へ合流するという事は全体が聞いており藤堂も知っている。彼もプロの世界で戦い続ける身。厳しい世界で良いコンディションを作り、維持する大切さを学んできた。
そんな彼の目から見て立見は万全のコンディションではない。この大会を戦うのは難しいのではないかと見ている。
「一応ファーストクラスで快適な空の旅を楽しみましたけど、そうですねー。完全回復は難しいかな」
「お前らそんな贅沢やっとったんか!」
「狡いぞ立見ー!俺らエコノミーだってのにー!」
立見がファーストクラスに乗っていた。そういうのを弥一の口から聞かされると、想真に続いて月城も狡いと言い出して「お前ら落ち着けー!」と辰羅川に止められる。
この状況で実は日本大企業の社長のポケットマネーで、そうしてもらいましたとは言いづらい。
「でも、大会には間に合わせますよー」
「へえー、厳しい日程なんぞには負けないってやつ?格好良いねぇ、そういうの」
弥一がそう言った時に藤堂とは別の男の声が聞こえて来る。弥一は声のした方へ振り返ると、椅子に腰をかけたまま一同を興味ありそうに見ているのは、明るいオレンジ色でパーマのかかった短髪の男。
藤堂と同じく海外組。フランスの2部リーグに所属するプロの一員で、彼もプロ契約を結んだプレーヤー。快速ドリブラーの異名を持つサイドハーフの選手と知られている。
白羽守。その彼が話しかけてきていた。
「(代表に呼ばれた事は知っていたが白羽……実物を見るのは初めてだな)」
優也はその名、姿をよく知っている。フランスで行われた彼の試合を参考にと見てきて、彼のプレースタイルは主にスピード、そこにドリブルの突破力も兼ね備えていて、見た目は軟派そうな印象だが執念深く食らいつくサッカーをしていく。
その辺りは優也に似ている所があった。
「ま、試合出られるかどうかは監督次第だし。俺ら選手はコンディション整えて全力尽くすだけ、出場したいですって言って出られれば苦労しないけどね」
へらりと軽く笑う白羽。だが弥一にはその心がしっかりと見えていた。
試合には出たい、絶対にレギュラー選ばれて出たいという強い思い。それが白羽の心、同時に藤堂も同じ事を思っている。
世界と戦う代表として選ばれたからには試合に出ると。
「ひょっとしたらフランスまでわざわざ強行日程で来て試合出られないまま終わる、なんて事もあるかもしれないよー?」
遠回しに立見組の出番は無い、そう言っているかのような白羽の言葉。少なくとも彼の中盤サイドのポジションは奪う事は容易ではない。
それだけの実力を彼は持っており、彼と同じポジションを争う選手は苦労しそうだ。
「(確かにフランスまで来たけど……レギュラーが約束されてる訳じゃない、特に俺の場合は)」
大門の視線の先には大柄な自分よりも更に大きな存在である守護神。出るとするなら藤堂とレギュラー争いで勝ち取らなければならない。
強行日程で参加してきたからと言って、その姿勢を買ってレギュラーに選ばれるという事は無いだろう。大門だけでなく優也に弥一もレギュラーを約束されてはいないはずだ。
「あのー、とりあえずお腹空いたんで夕飯とか余ってませんかー?」
「こんな時に飯か!」
代表だろうがお腹が空くと美味しいご飯を最優先する弥一に、止めてきた辰羅川も思わずツッコミが入ってしまう。
「……余程の大物なのかとんだ大馬鹿者なのか分からん、この小さい奴は」
どうにも読めないと険しい顔を見せる藤堂に対して、白羽が立ち上がり近づけば藤堂の肩にポンと手を置く。
「お手並み拝見といきましょうよカツさん、大物か馬鹿なのかをね」
そう言って弥一を見る白羽の顔は不敵に笑っていた。
この日は栄養士の作った食事にありつく事が出来て、立見組は遅い夕飯をそれぞれ取り、明日からフランス国際大会に向けて備えていく。
月城「くっそぉ……立見めぇ、ファーストクラスなんて贅沢しやがって~」
辰羅川「まだ言ってんのか……羨ましいならお前らもプロになって稼いでそのクラスに乗るの当たり前って選手なっちまおうぜ」
想真「あ、せやな。ほんでファーストクラスってシャワーも浴びれるらしいで?」
月城「え?飛行機の中でそんなん出来るのかよ!?」
辰羅川「それファーストクラスでも余程限られた機内だからな!全部じゃねぇぞ!」
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