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天才は上手く欺く

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

『高校サッカー東京インターハイ予選もいよいよ準決勝、この試合の勝者が東京代表の座を手にすることが出来ます!その組み合わせが立見と西久保寺、どちらも今大会優勝候補の両校で片方が予選で姿を消す事となってしまうのです!』



『事実上の決勝戦ですよね。守備の立見と攻撃の西久保寺かと思われた両者ですが互いに攻撃と守備を伸ばし、更にチーム力を上げて来ましたから去年の秋とはまた違う試合となりそうですよ』



『おっと、立見は前回の試合で累積により今回出場停止の田村に代わり歳児が右のSDFとしてスタメンから入ってますね』




 6月の暑さに負けず劣らずの準決勝会場の熱気。満員のスタンドからの大声援に出迎えられながら、立見と西久保寺の両選手がそれぞれのユニフォームを纏って登場。



 西久保寺の選手はやはり去年とほぼ変わらぬ主力達。あえて去年と違う所があるとするならば、GKの小平が前回の12から1へと背番号が変わっているぐらいだ。


 攻撃が目立つ西久保寺だが、今大会は実力の増した小平やDF陣の奮闘もあって、秋大会の時よりも一気に失点は減っている。



 その攻撃に関しては立見も負けてはいない。



 自慢の堅守は今年も健在。それに加えて1年の氷神兄弟と半蔵に明が攻撃で好調。此処まで難敵や名門を相手に次々と撃破していき、こちらも高いチーム力を誇っている。



「まずはこれを勝って全国行きをきっちり決めるぞ!立見GO!」



「「イエー!!」」




 何時も通りの間宮の掛け声から、立見イレブンはそれぞれフィールドに散って位置へと着いた。






「全国進むのは俺達、向こうの連勝記録も無失点記録も此処で終わりにしてやろうぜ!」



「「おー!」」



 西久保寺も栄田の打倒立見の掛け声から、各自散ってポジションに向かう。



 先にキックオフを迎えるのは西久保寺で、センターサークルに立つ栄田と辻の前にボールがセットされていた。




「敵さんいきなり来るよー、最初から注意してー」



 弥一は1年達へと声をかけるとそれぞれ返事を返す。西久保寺が消極的に来る可能性は低い。彼らはリスク覚悟の超攻撃サッカーが持ち味だ。


 この試合も仕掛けて来る可能性はかなり高いはず。





 ピィーーー



 笛が鳴り響くと準決勝の試合が開始。栄田が軽く蹴り出すと、辻は後ろへ強めに蹴り出して自陣に戻す。



 途端に西久保寺の攻撃陣が立見へと雪崩込むように攻め上がって行くと、最終ラインも一気に押し上げて行く。すると辻が蹴り出したボールは最終ラインを通り越して、一気にGKの小平にまで戻されていた。



 辻から出されたパスを足元に収め、この辺りの足元の技術は中学時代にフィールドプレーヤーとしてプレーした経験が活きている。



「(立見は田村さんが出場停止、その代役が歳児優也。いくら彼が優れてると言っても本職の代わりをそう簡単には務められないはず。チャドも居る)」



 小平はちらっと自軍の左サイドを見れば、大型パワーSDFでアメリカ人とのハーフである前田が上がっている。優也と競り合いにでもなれば、パワーや体格で勝っている前田が弾き飛ばせるだろう。



 優也が軽量級なら前田は重量級。単純なぶつかり合いなら後者の方が勝つ。




 前から立見の玲音が小平へとボールを取りに迫って来ているが、小平はこれを見ており慌てない。冷静かつ大胆に右足でボールを蹴り上げると、左サイド目掛けて飛んで行き、その前には前田と優也の姿。


 西久保寺は早速田村の抜けた穴から攻めようと決めており、前田も素早い上がりを見せていた。



「(日本人離れしたパワーと体格、世界だとこのレベルがゴロゴロいる)」



 去年も前田は試合に出ていた。彼のパワーとスピードを兼ね備えた身体能力が、かなり高かったのを覚えている。



 しかし怯んでいる暇など無い。



 日本代表として世界と戦うというのであれば、これぐらいのレベルと戦い続けるのは当然で、こういう相手に勝たなければならない。



 優也はあえて前田の懐へと潜り込むように体を入れて行くと、前田と高めのボールの前で競り合いとなる。



「っ……!」



 懐まで急に自分から入って来た事で、前田は意表を突かれた上に優也の強い当たりを受けると一瞬怯む。ボールに向かい遅れて前田がジャンプするが、頭の更に上を通過していき、そのままタッチラインを割っていった。



「おいおいどうしたチャドー?太陽の眩しさが目に入ったか?」



「そういう訳じゃないですけど、何か物凄いガツンと来られて気づけばボール見逃しちゃいまして」



 冗談交じりに話しかける土門に対し、まるで自分と同じ重量級と当たったような感覚だったという前田。そこまでパワーの優れた奴だったかと、戻りに行く中で改めて優也の方へと振り返る。



 前田と比べて細く、体格は明らかに上回っている。優也の事だからスピードで対抗して来るものかと思ったら、真っ向からぶつかりに来た事は前田を驚かせていた。




「(ちゃんと活きてるな合気道、あいつはこうして戦っていたのか)」



 サッカーだけでなく合気道にも真面目に取り組み、打ち込み続けてきた優也。同じDFの位置で体格に優れる相手との競り合い、あの小さなDFと同じような守備をする事で、より彼の凄さが改めて分かった気がした。





 序盤から猛攻を仕掛けて来る西久保寺。4トップによる多くの前線選手が動き回り、立見のDFを翻弄していく。



『右サイドへ出されるスルーパス!俊足の辻へ渡り西久保寺のチャンス……』




 それを実況が言いかけた時、中盤の選手から辻へのボールを弥一が読んでインターセプトに成功。長身FW栄田の方は間宮が付いており、彼が出して来るとするならスペースへ向かい、素早く走り出せる辻へのパスが最も高いだろうと思っていた。



 最もその予想だけでなくパサーの心も読んで、弥一にバレた事によってのスルーパス阻止だが。



「囲めー!」



 そこに辻の声が飛び、自らボールをカットしたばかりの弥一へと向かいながら、他二名の西久保寺の選手が迫る。西久保寺が得意とするハイプレスだ。



 改めて此処で奪い返せば西久保寺の大チャンスだが、今回はプレスをかける相手が悪かった。



 心を読まずとも、彼らがそうして来るだろうと思っていて焦りは無い。弥一は前に寄せて来る選手達の間を狙って、思いっきり左足で蹴り出す。



 ボールが西久保寺選手の黒髪を掠めつつ、低い弾道で矢のような勢いで加速していく球は、右サイドを走る優也へのサイドチェンジ。



 優也はトラップするとドリブルを開始。この動作を見た同じサイドに居る前田がすかさず、優也へとスピードに乗る前に攻撃阻止へ動き出す。



 すると優也はそのまま右サイドを行くと見せかけて、中央の明へと右足のインサイドパスで折り返し、明はこれをトラップすれば中央でドリブルを開始。



 西久保寺は明が特に個人技で優れるというのは情報に入っている。だが実際に相対し、味わう彼のドリブルは動画よりも速く上手い。



『緑山明、相手が2人いようがお構いなし!中央突破を狙って行く!』



 足だけでなく腕や体も活用して、西久保寺の選手2人を明は抜き去る。左サイドを走る玲音へ右足でパスを送ると、球は低く速いコースで飛び、サッカーマシンの高速ボールによる練習の成果か、玲音はこれを左足で受けてトラップすれば、ボールを足元に収め、そのまま左コーナー目掛け走る。



 ゴール前には半蔵が待っており、それに土門がマークに付く。此処はシンプルに行こうと玲音は僅かな時間で判断すると、相手DFが寄せに来る前に高いクロスを得意の左足で上げた。




 これに飛び上がる立見の長身ストライカーと西久保寺の長身DFの2人、迫力ある空中戦での争い。



 制したのは身長、ジャンプ力で勝った半蔵。高角度のヘディングが西久保寺ゴールに向けて放たれた。




 此処で立ちはだかるのは西久保寺の小さな守護神小平。今年から背番号1を背負う彼が半蔵のヘディングによるボールに反応すると、ゴール右へ飛ぶ球へダイブし、左手1本を懸命に伸ばせばボールを叩き落としてゴールを阻止する。



 しかし立見の攻撃はこれで終わらない。前田がこのボールをクリアしようとすると、死角から詩音が割り込むように右足でシュート。



 再び西久保寺ゴールへとシュートが飛んで行く。



 これを小平が正面から両手を伸ばしてボールを当てるとコースは変わり、ゴールバーの上を超えて行き連続シュートもゴールならず。



『氷神玲音から石田のヘディングと更に氷神詩音が詰めてシュートも、立見の連続攻撃を西久保寺GK小平が連続セーブ!立見に先制点を譲りません!』



『立見の大門君や前川の岡田君が東京1のGK争いで注目されがちですが、この小平君も侮れませんよね』



 西久保寺の再三のピンチを防ぎ切った小平に、チームメイトが集まってよく守ってくれたと感謝し、此処のセットプレーを凌ごうと互いに声を掛け合う。





「弥一?」



 弥一は左からのセットプレーのCKに参加しようと小走りで向かい、間宮が弥一を呼び止めると、それに弥一は振り返る。



「ちょっと此処1点欲しいんで行ってきまーす」



 それだけ言って間宮に明るく笑いかけた後、弥一は左コーナーへと向かっていた。





「明ー、今回は中の方で備えといてー」



「え?はい……」



 何時もはCKを蹴る役目を1年ながら背負う明。今回は中へと入って構えててほしいと弥一に言われると、明は両チームの選手がポジションを争うエリア内へ入って行く。



『さあ立見のCK、長身の川田も中へと入り石田とのツインタワーを形成。緑山も今回は入って行きキッカーは神明寺が務める事になりそうです』



『神明寺君は高精度のキックを蹴りますからねぇ、これはどんなキックを見せて合わせるか楽しみですよ』




 ボールをセットする弥一。そのまま蹴るかと思いきや、彼は中に居る立見の選手へと指示。




「石田ー!ゴールに近すぎだよー、もうちょい離れて離れてー!」



 弥一が半蔵に向かって、ゴールから離れるようにと手のジェスチャーで伝え、これに半蔵はゴールから言われた通り離れていく。



「(どういうこっちゃ?あ、勢いつけてこいつで思いっきりヘディング叩きつけようって企みか!)」



 このやり取りを土門は訝しむように見ていたが、その時ピンと彼の中で閃く。ゴールから離れさせるのは外から半蔵が助走をつけて、より強いヘディングを繰り出す為かと。



「(だったら俺ぁ変わらずこいつから目は離さんぜ立見よぉ、そんな小細工この俺には効かねぇぜ!)」



 弥一の小細工見抜いたり、そう思い土門はニヤリと笑った。狙いは結局こいつだと。




「離れて離れてー!」



 変わらず弥一は声をかけ続けていく。するとその中で弥一はステップを踏んでいた。




「!来るぞ!プレー始まってるぞー!」



 これに気付いたのは前に出て来て試合を静観していた高坂。弥一の動きを見て彼はもう既に始まっていると気づけば、西久保寺の選手達へと伝える。




 ステップを踏んで弥一は右足でゴール前にボールを蹴って行く。



 西久保寺からすれば弥一が左コーナーから選手に位置を指示しまくって、どうする気だと思っていた矢先の事で、これは不意打ちのセットプレーとなった。



 蹴られたボールは高いボールで向かうも、位置を代えさせた半蔵からは遠い。走り込んでヘディングに向かおうにも完璧に合わせるのは困難だろう。




 その時ボールはゴール手前まで来ると急カーブで曲がり、小柄な小平の頭上を越えようとしていた。



 これに小平は腕を伸ばそうとするが不意打ちと急激なボールの曲がり。これが重なった影響で彼の反応を遅らせて、気付いた頃にはゴール上へとボールが突き刺さりネットを揺らす。



 決まった瞬間に会場からは大歓声の嵐が巻き起こり、中には席から立ち上がる者まで居た。



『ご……ゴル・オリンピコー!!神明寺弥一、またしてもやってくれた!CKから直接ゴールだー!立見驚きの先制点ー!!』



『なんちゅう曲がりですか今の!?あんなのカミソリですよカミソリ!鋭い!』




「イエー!やったやったー♪」



「神明寺先輩マジ半端無いですー!」



「超凄いじゃないですか今のー!」



 コーナーの位置で弥一は大歓声に対してピースサインで応えれば、後ろから氷神兄弟が迫り抱きつく。更に立見イレブンが駆け寄っていて、それぞれ弥一のゴールを祝福。



 CKから誰にも触れられずにゴールする事は非常に稀と言われており、サッカーの世界ではこれが誰にも触れられず直接ゴールに入る事を、ゴル・オリンピコと呼ばれている。




「(優れた技術、それだけでゴル・オリンピコは簡単に生まれやしない。神明寺君は長身で目立つ石田君へと声をかけて移動させ、皆の注意をそっちに引きつけて意識を向けさせてから隙を突いた……)」



 まさかのCKから直接決められて呆然となる西久保寺の選手達。その中で高坂はゴールを決めた弥一の姿を見て、先程のプレーについて振り返っていた。



 上手さだけでなく人々の意識を向けさせる事にまで優れている。



 高坂の背筋はゾッとしてきていた。彼が高校サッカーレベルを超えているのは知っていたが、彼はひょっとしたらプロをも超越してしまうのではないかと。



 無邪気にゴールを決めて喜ぶ弥一にそんな可能性を感じた瞬間だった。

大門「最近暑くなってきたなぁ、この時期は本当に皆水分補給ちゃんと取るようにしないとね」


優也「また暑い季節の始まりか、これは今年もインターハイは大変だ」


弥一「暑さ対策を凄くやんないとねー、僕らだけじゃなく試合を見に来てくれる人達も大変そうだよー」


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サイコフットボールの応援、ご贔屓宜しくお願いします。

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