それぞれの背番号
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
4月下旬の週末。去年の今頃であれば立見は支部予選を戦う時期だったが、今年はシードの為にインターハイ予選は5月までは無い。
今日はトーナメントを戦うチームとリーグを戦うチームでそれぞれ分けられ、2つのフィールドを使っての全体練習が行われている。
まだレギュラー陣にそこまで負担がかかるような日程ではないが、早めに薫はリーグを戦うチームを紅白戦で戦った2チームを中心に編成。公式戦に普段出られていない上級生達、1年にとっては大きなチャンスであり、立見のチーム全体に幅広く活躍の機会が薫によって与えられていた。
「左寄り過ぎ!もっと右!」
リーグ戦を戦うチームのキャプテンを任された安藤。これに張り切ってか、ゴール前から声をよく出してのコーチングが目立っている。
「だらぁっ!」
「三笠ナイスクリアー!」
1年DF陣も奮起し、三笠が裏へと出して来たスルーパスに対して、頭から飛び込んでボールをサイドへと押しやり立浪はこれに手を叩き褒めた。
守備陣が連携の良い守備を見せて、攻撃の方では明がボールを持つと向かって来る相手が迫りきってしまう前に、相手DFの間を通すスルーパスが左足から出る。
かなりの速いスピードのグラウンダーボールが出ているが、これに追いつくのは右サイドを走る詩音。そこからゴール前へ正確に高いクロスを上げれば、合わせるのは半蔵の190cmを超える頭。
ヘディングシュートによって相手ゴールネットを揺らせば、詩音は「いいねー♪」と半蔵へと声をかけ、半蔵も良いボールだと右手親指を立てて応えてみせた。
これらのチームを腕を組んで見ている薫。頭の中では今度のリーグ戦に向けてのスタメンが考えられている事だろう。
日が沈みかけてきた夕方。今日の練習を終了すると、帰り支度の前に薫から皆へと伝えられる。
「日曜のリーグ戦スタメンが決まった」
この言葉を受けて1年、2年、3年のいずれもが黙って薫の発表を待つ。
自分が選ばれるかどうか、各自が気になっているのはやはりスタメンに選ばれるのかどうかだろう。
「GK、安藤」
まずGKで選ばれた3年でリーグ戦のキャプテンを務める安藤。此処は不動と言って良い。
「DF、立浪、室園、後藤、倉田」
DF4バックはセンターに1年から立浪と室園の大型CDF。サイドは3年の後藤と倉田で固める。紅白戦では1年組はセンターは強かったが、サイドが弱めで上級生組はその逆、互いに補うDFラインとなった。
「MF、明、詩音、玲音、坂崎、三笠」
MF発表で明の名をいう時は自分も緑山である為、スタメンを発表時に薫は名前で呼び、氷神兄弟に関しても苗字で呼ぶとややこしくなるので、此処も名前で発表する。
「FW、石田」
最後にFWの1トップは半蔵が努める事が決まった。
フォーメーションは立見が使ってきた、4ー5ー1を変更せずにそのまま採用。スタメンはこのような並びとなる。
石田
氷神(玲) 緑山 氷神(詩)
坂崎 三笠
後藤 立浪 室園 倉田
安藤
スタメンの発表が終わり、これで帰り支度を始める部員達。部室では選ばれたメンバー達がそれぞれ公式試合に出られると喜ぶ中、そこに主務を務める2年の摩央が部室へと入って来た。
「ちょっと良いかー?背番号決めてないの集まってー」
まだ背番号の決まっていない1年達が呼ばれ、摩央の元へと集って来る。
「希望する番号無かったらこっちで付ける予定ではあるけど意見も聞いときたいんで、希望する番号あったら遠慮無しで言ってくれよ」
後でこの番号で文句とか言われたくないし、と内心で付け足しつつ、摩央は1年達に希望する背番号は無いかと聞いてみる。
「えーと、空いてる番号とかありますか?」
「ほぼ数字のデカい番号になるけど、7、8、9、10は空いてるぞ」
「えー?先輩達、9とか10取らなかったんですか?」
「俺ら別に背番号の拘りは無ぇから、元々の番号のユニフォーム着慣れてるし今更変えるまでもないよなって」
「つかその番号取って試合出られなきゃ格好つかねぇし」
詩音は後ろへと振り返り、何でこの番号取ってないのかと着替え中の先輩達に聞けば、彼らは特に背番号に拘ってはいない。更にその番号を付けて試合機会に恵まれなかったら、格好悪いというプライドが働いたようで今の番号に落ち着いている。
レギュラーで言えば弥一は24から6、川田は16から5、翔馬は21から4、優也は18から11と、それぞれ先輩達の卒業後に背番号を変えている。
「あ、それだったら神明寺先輩が元々付けてた24番欲しいです♪」
「ずるっ!僕もそれ欲しいのにー」
すると24が空いていると思い玲音がすかさず立候補、それに詩音も続く。1年の中でも特に弥一への憧れが強い2人には、元々弥一が付けていた番号の方が魅力的のようだ。
「空いてないぞ、その後すぐに他の奴が番号付けたから」
「「え~」」
摩央から空いていないと伝えられれば、氷神兄弟は揃ってがっくりと肩を落とす。
「じゃあ僕はラッキーセブン、7で!」
「僕は8にしようかなー」
「了解っと」
24が空いてないとなって詩音と玲音はそれぞれ希望の番号を伝え、摩央はスマホで情報を打ち込んでいく。
「お前達はどうするんだ?」
「俺も先輩達と同じく背番号の拘りは無いから別に良い」
「つか9と10はストライカーやエースの付ける番号だしなぁ、ちょっと荷が重いわ」
半蔵が先に選んで良いと勧めるが、立浪は空いている番号で良いと断り、三笠は9か10を付ける事は望まず辞退。
「じゃあ立浪と三笠は今空いてる21と16で良いか?」
選手権に出ていた先輩達の背番号、摩央に尋ねられると2人は共に頷く。これを確認した摩央は続けてスマホを操作。
「そうなるとー、背番号9と10。ポジション的に半蔵と明ピッタリじゃん?」
「だよねー、ストライカーにトップ下とめっちゃ合ってるし」
一足先に背番号を立候補し、獲得していた氷神兄弟。残った番号は攻撃的なポジションの半蔵と明の2人だ。
「空いていると言うなら杉原先輩、その……9番貰っても良いでしょうか?」
此処で遠慮がちに発言して挙手したのは半蔵だった。
「俺に遠慮の必要は何処にも無いだろ、そういえばお前は中学でも9を付けてたんだったよな」
「はい、ずっとその番号は付けて来ましたから」
中学時代だけでなく、小学校の時から背番号9を半蔵は付け続けてきた。エースストライカーが付ける番号として有名であり、数々の名ストライカーも背負った番号で半蔵もそれに対して、憧れや拘りがあって付けたいという望みがある。
誰の反対も無く9番は半蔵と決まった。
「じゃあ10番はもう、明だなぁ」
三笠の言葉に全員の視線が明へと向く。他の番号は皆取り終えて残っているのはサッカーのエースナンバーと言われる10。
無論その背番号の意味は明だけでなく此処に居る全員が知っている。
サッカーにおいて背番号10とは特別であり、チームのエースやシンボルとなる選手に背負う事が許される。サッカー王国ブラジルでは特に神聖な背番号として知られ、各国のトッププレーヤーも何人か付けている。
「それは……あの……」
重みのある番号。自分がそれを付けていいのか、皆がいくら拘ってないとはいえ軽々しくその番号を背負っていいものなのかと、明は思っていた言葉が喉まで出かかっていた。
「サッカーは背番号でやるもんじゃないでしょー?」
「!」
そこに声がしたのは入口の方。明が見れば制服へと着替えて帰宅準備がすっかり整っている弥一の姿があり、その小さな姿を見れば1年達は「お疲れーっス!」と弥一へと頭を下げて挨拶していた。
「弥一、どうしたんだよ?」
「いやー、フォルナへ挨拶してから帰ろうと思ったら何か背番号の話しが聞こえちゃったもんだから」
「ほあ~♪」
「よしよーし♪」
摩央と軽く言葉を交わすと、弥一はフォルナの頭を撫でてあげる。
「神明寺先輩、あの……流石に1年の俺に10番は駄目ですよね……?」
「いや?他に誰も付けないなら遠慮無しで貰っちゃえば良いんじゃない?」
明が軽々しくエースナンバーを付けない方がいいかと思っていると、弥一は貰えば良いとフォルナの頭を撫でつつあっさり言い切った。
確かに弥一の言うように誰も10番を希望せず、特に付ける事も永久欠番という訳でもなく、空いているままだ。
「難しく考えないで貰っちゃいなよ♪何番を背負っても自分のサッカーが変わる訳じゃないしさ」
「……」
ね?と弥一は明るく笑いかけた後に「お先ー」と部室を出て先に帰宅。1年達が弥一を見送る中で明は弥一の言葉が耳に残る。
「(背番号でサッカーをやるもんじゃない……か)」
言われてみればそうだ。いくら伝統や歴史があろうがそれを背負っても、やる事に変わりは無い。
難しく考える必要などなかった。
伏せていた顔を上げると明は摩央の前へ進み出る。
「背番号10……いただきます」
間宮「あいつらやっと背番号決めたか、本当はもっと速く決めるもんだけどなぁ」
影山「まあ無事決まったから良いでしょ?」
間宮「後はあいつらが公式戦で無事に初陣を飾ってくれりゃ言う事無しだ。その姿を皆見守ってくれよな!」
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