先輩となるサイキッカーDFは後輩達とご飯で交流を深める
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「両チーム共お疲れ、良いゲームだった」
紅白戦が終了すれば、薫は試合を終えた両者へとそれぞれ声をかける。時刻はもう夕方間近。部活の終了時間も近づき、今日はこれ以上の練習は無いだろう。
「では…レギュラー組も話を聞いてもらいたい、立見のこれからの試合についてだ」
立見のこれからの試合。今年は下ではあるがリーグ戦もあって、インターハイや選手権も今まで通り目指して戦って行く。インターハイ予選は去年と違い今年はシードなので立見の出番はまだ先、その分リーグ戦の戦いが待っている。
立見は此処までリーグ戦に加え新人戦もこなし、弥一を筆頭に選手権を戦った1、2年のレギュラー達で相手を寄せ付けず全勝と無失点。
今のままでも問題は無さそうだが、薫はこれからについて口を開く。
「リーグ戦は紅白戦を戦った両チームを中心に戦って行く」
「!」
薫から告げられたのはリーグ戦でレギュラー組は出さずに温存。出場するのは今紅白戦に出ていた1年チームと上級生チーム。彼らでこの先戦って行く。
「この先に厳しい日程の大会が待っている、1チームのみで戦っている立見では持たないだろう。なのでリーグを戦うメンバーとインターハイや選手権を戦うメンバーで分ける事とする」
いくら立見のメンバーが強いとはいえ、高校サッカーの厳しい日程で全試合出場というのは流石に無茶な話だ。薫は今の立見に足りないのは第二のチームと見て、リーグを戦うメンバーを選出する為に今回の紅白戦を行っていた。
長いリーグ戦はレギュラー以外の上級生達や1年達を中心に戦い、インターハイや選手権は今までどおりレギュラーを中心に戦って行く。
今居る者達を可能な限り薫は幅広く使うつもりのようだ。
「以上、今日はこれで解散だ。皆早々に体を休めておくようにな」
薫の話は終わり、間宮からも今日の部活終了が言い渡されて、各自が帰り支度へと動き出す。
「お前にはまいったよ、弟君……いや、明だったか」
「リーグの時も今日みたいに頼むぜー」
「……っす」
安藤や上級生達から話しかけられ、明は小声で返事をした後に軽く頭を下げた。安藤達も分かっているだろう。上級生の自分達でレギュラー以外にあんなテクニックを持った者はいない。
優れた1年は多く居たが、その中でも高いポテンシャルを持つのは明で彼が要となってくるかもしれない。その期待を込めてか、安藤や上級生達はそれぞれ明の頭や肩を軽くポン、と置いて着替えへと向かった。
「明ー、凄かったよー」
「中学なら絶対スターなってたじゃんー」
上級生達の後に氷神兄弟達がそれぞれ明るく笑って駆け寄り、声をかけてきた。今回の1ゴール1アシストと、大活躍の明を2人とも素直に凄いと認めたようだ。
「俺は……別に……」
自分はそんな凄い奴ではない、するべき事をしただけ。そう言いたそうだったが双子にグイグイと迫られて、上手く言葉には出来ない。
「おーい1年の皆ー」
そこに声をかけて来た人物。1年達は気づいて声のした方へと、向くとそこに立っていたのは弥一だ。
「これから皆でご飯行かないー?奢るからさ♪」
突然の弥一の誘いに皆驚くも氷神兄弟、半蔵、明、三笠、立浪と今回活躍した1年達が練習着から制服へ着替え終え、学校を出ると弥一の案内で駅前まで歩けば、弥一がお気に入りだという店に到着。
店内に入った瞬間、香ばしく良い匂いが一行を出迎える。
「いらっしゃいませー、あ。弥一君じゃない♪」
「こんにちはー♪」
店はベーカリーショップ。去年の春辺りに来てから、弥一のお気に入りの一つとなっているパン屋だ。食欲が刺激されるパンの良い匂いと、出迎えた女主人とも馴染みとなっていて、向こうは弥一を気に入っている様子。
何時も通り明るく挨拶すると、弥一は連れて来た1年達を紹介。1年達はそれぞれ挨拶する。
「今日は後輩達に此処のパンをご馳走しようと思って連れてきましたー♪」
「あら、可愛い子が居たりでっかい子が居たりと色々なタイプの後輩君が出来たのねぇ弥一君にも」
少し前は1年生だったのが懐かしいと女主人は去年を振り返りつつ、弥一の後輩達をそれぞれ見ていた。
「あの、神明寺先輩……奢りなんて良いんですか本当に?」
「良いよー、ご飯は皆で食べた方が美味しいし1年チーム勝利のご褒美だと思っといてよ♪」
「はあ……」
憧れる弥一に食事へ誘われるのも光栄なのに、更に奢ってくれるとなり半蔵は恐縮そうだが、弥一の方はまるで気にする様子は無い。
食べ盛りであろう高校生が7人も集まっての食事となれば、それなりに額はかかるが、弥一は美味い飯が食えるなら金は惜しまないタイプだ。
「あ、皆ー。此処のおすすめはメロンパンだから食べた方が良いよー」
「神明寺先輩の推しなら食べるっきゃなーい」
「メロンパンメロンパンー」
此処のおすすめを弥一が言った途端に、詩音と玲音は真っ先にトングでメロンパンを掴み取ってトレーへと乗せた。他も各自パンをトレーに乗せ終えると、イートインスペースにて皆でパンを食べ始める。
「これ美味っ……!」
「普段買うメロンパンより美味いなぁ」
弥一おすすめのメロンパン。外はサクサクとしたクッキー生地で中身はふわふわで、フルーティーな香りが伝わる事で美味しさを際立たせる。三笠と立浪はあっという間に、そのパンを美味しいあまり早めに完食。
他にも鳥の胸肉を使ったチキンサンドに、ボリュームある焼きそばロールとアスリート向けだったり、お腹を空かせた学生向けのパンが並べられて、品揃えは去年よりも増えている。
明は弥一が推したメロンパンだけでなく、チキンサンドと焼きそばロールもチョイスしており、食していた。
「結構名刺配りまくってたよね、流石にもう皆あれで覚えたと思うよ」
明の前の席でハムと卵のパンを食べる弥一。今日の試合の前に電車で言ったのが実行出来てる事を伝えると、チキンサンドを食べる明の手が止まる。
「……昔は誰もパス追いついたりとか、出来てませんでした」
幼い頃から年の離れた姉と共にサッカーをして鍛え、上達していった明のレベルは同年代を超える程だった。そのせいか明のプレーには周りがついて行けず、明の出したパスは受け手にとって厳しい物ばかり。
パススピードの速い物を出せば早すぎると言われ、監督からも優しいパスを出すよう言われた。
自分のレベルが高過ぎてチームと孤立。その間も1人で黙々と練習を重ねていき、公式戦には未出場のままだった。
「今日は昔と比べて結構皆受け取ってくれたよね、前線の3トップと会って間もないはずだけど息合ってるように見えたしさ」
「……ああ、まあ……そうですかね」
明はチラッと横目で隣に座る彼らを見れば、氷神兄弟は揃って弥一のおすすめメロンパンを美味しそうに味わい、半蔵はバランス良くパンを選んでいて既に完食間近。
中学サッカー界で全国トップレベルと言われた、彼らは明のパスに厳しいと言わずに皆が合わせに行ってくれた。そのおかげで今日は力をセーブせず思い切りサッカーをする事が出来て、食事もそのせいか何時もより美味しく感じる程だ。
「此処ではさ、自分の思うままに思い切りやって良いと思うよ。声出せるかどうかは今は特に気にせずにね?」
声を出すのが苦手な明。直せと強制はしない。
声を出せないならプレーで語れば良い、自由にフィールドで己を表現する。それが出来れば充分だと、伝えた後に弥一は自分の推すメロンパンを味わった。
「ああ~、やっぱ此処のメロンパン美味~♡」
美味そうにパンを味わう姿に、先程まで語っていた先輩の姿と同一人物なのかと明は一瞬思ってしまう、今の弥一はただ純粋に食事を楽しむ子供だ。
「明ー、さっきからずるいー」
「……?ずるいって何が……」
突然隣の席の玲音から狡いと明は言われ、何の事を言っているのか心当たりが無い。そこに詩音も加わってくる。
「だって神明寺先輩とずっと喋ってるしー、独り占め狡いぞー」
「おいお前ら、あまり騒ぐなよ。店の迷惑になるだろ」
あまり騒々しくならないよう氷神兄弟へと半蔵から注意が飛ぶ。
「へえー、元々髪型一緒だったの?」
「そうなんですよー、それまで玲音と同じだったけど伸ばした方が可愛いかなと思ってのポニーです♪」
「おかげで髪をセットする時間かかって僕待たされちゃいますけどねー」
それから詩音と玲音も弥一と話してトークは弾み、2人ともコミニュケーション能力が高めだった。
「……あそこだけ何か女子会っぽくね?」
「女子会がどんなもんか知らないけど……多分ああいう感じか?」
高校生の中で華奢にして小柄な3人、彼らの話す雰囲気を見て三笠と立浪からはそう見えてしまう。
詩音「はぁ~、やっと神明寺先輩と話せたー♪」
玲音「ご飯も一緒に食べれてそれも奢りとか幸せー♪」
半蔵「皆さんの前だぞお前達……!」
立浪「というか俺ら結構食っちまったよなパン……」
三笠「パンの美味さに神明寺先輩の奢りっていうの忘れてた……!」
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