最後の争い、そして決着へ
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『な、何だ今のはー!?工藤のゴールキックをDF神明寺なんと蹴り返してのボレーでゴールだ!難攻不落の八重葉ゴールを、工藤龍尾の中学から続いた無失点記録をついに止めた!信じられない!なんだこのゴールは!?』
『こんなの滅多に無いどころかトップレベルのプロでも多分出来ませんよ!?高校どころか日本サッカーの歴史でこんな事は知る限り無かったと思いますし、これは解説しようがありません!!』
伝説クラスのスーパープレーを目の当たりにして、国立競技場は熱狂と興奮に包まれる。ハイレベルな国内のプロリーグどころか世界最高峰のリーグですら、こんなスーパープレーは生まれないかもしれない。
それ程のゴールを立見の小さな少年が生み出してしまったのだ。それも相手は高校サッカー界絶対王者の八重葉学園。そして守るGKは天才と言われる工藤龍尾。
そんな彼らですら弥一のプレーを読む事は誰も出来なかった。
「うわああやったー!やったー!」
「お前なんだよ今の!?漫画超えじゃねぇかよー!」
「凄すぎて凄いしかもう何か出て来ないし!」
価千金の先制ゴールを決めた弥一に、それぞれ立見のチームメイト達が駆け寄り抱きつき、今まで決めた得点の中でも全員がテンション上がっていた。
「本当に凄いにも程があるなお前!」
普段クールな優也ですら声を上げているぐらいだ。あまりに衝撃的なゴール過ぎて、皆がもう凄い以外の言葉が出て来ていない。
「(この俺が……あんな形でゴールを割られた……)」
ゴールマウスに入ったボールを呆然と見つめる龍尾。
今まで当たり前のようにシュートを止め続けて、当たり前のように無失点を続けてきた。この試合もそれで終えるつもりでいたのだが、それは弥一によって全部崩れてしまう。
小学校時代に勝也からPKを決められて以来の失点。まさか春の練習試合の時にカステラを美味そうに食べてた1年に、1点を取られるとは思っていなかった。
鉄壁を誇っていたはずの大城、佐助、政宗のDF陣も反応出来ず。彼らも何が起こったのか理解出来ず呆然となっている。
「リュウ!早くボール寄越せ!!」
「!」
そんな八重葉にきつく喝を入れるかの如く、フィールドに大声が響く。声がしたのはセンターサークルの方で見れば、照皇が必死の形相で龍尾へとボールを要求していた。
「気を抜くな皆!まだ試合は終わっていないぞ!」
「後少しだぞ立見ー!!」
ベンチから立見イレブンへ成海と安藤が声をかけて、集中するようにと伝えれば彼らは再びそれぞれポジションへと付く。1点は取ったが試合はまだ終わっていない。最後の最後で気を抜いて失点すれば、今のゴールは水の泡となってしまう。
やっとの思いで決まった1点を無駄にする気など無い。
「ぜってぇ守るぞお前ら!何が何でも止めるからなー!!」
DFリーダーとして間宮は声を力一杯張り上げて、今一度守備を引き締めさせる。相手は絶対王者。此処で気を抜く事は許されない。
『さあ八重葉は急ぎます!神明寺のミラクルゴールで国立が興奮冷めやらぬ中で工藤から照皇へとボールが投げ渡されて照皇が素早くセット』
『延長10分もう回ってますからね、そんなに時間は無いと思いますよ』
ピィーーー
再び八重葉のキックオフで試合再開。試合の開始以外で八重葉が途中でキックオフを迎えたのは、随分と久々だった。ビハインドを背負った王者は最後の猛攻へと出る。
政宗が切り返してフェイントで武蔵を突破するも、直後に川田がフォローして突破を阻止。大きく蹴り出すと大城がこれを拾って自慢のパワーを活かし、縦へのロングパス1本を送れば一気に立見ゴール前に運ばれた。
高いボールが来たが間宮はこれを頭で弾き返し、セカンドを拾いに照皇が走る。
そのままシュートに行こうとした時、弥一が素早く寄せて照皇のシュート阻止に来ていた。撃てば弥一に当たってシュートブロックとなり、止められる。
だが弥一の気配を察知していたのか、照皇は土壇場でシュートを撃たず。相手の頭上をふわりと浮かせ、超える右足のチップキックを此処で蹴ると、ボールが超えると共に自らも弥一の左を通過して、そのまま飛び上がって右足のボレーで合わせに行く。
決まれば天才ストライカーが土壇場で超高校級の個人技によって、チームを救うスーパープレーとなる。
その右足がボールを捉える事は無かった。
何故なら弥一がその場で後ろを振り向いたかと思えば飛び上がり、右足でボールを蹴り飛ばした後だったからだ。
そう来る事を心で読んで弥一は照皇の個人技に対応し、オーバーヘッドで照皇のシュートより前にクリアに成功する。
そしてこの瞬間、審判は時計を見れば笛を口にして長いホイッスルを鳴らした。
『試合終了ーーー!長い長い激闘もついに決着!1ー0で立見が八重葉を下し初出場初優勝の大快挙です!!』
試合が終了した瞬間に立見の選手達、ベンチ、応援席はそれぞれ喜びを爆発させる。
歓喜に包まれる立見イレブン。一方の八重葉はそれぞれ座り込んだり立ち尽くしたりとなって、明暗がハッキリと分かれていた。
「あいつらやりやがったよ!八重葉を下して立見が全国制覇したぞー!」
「わー!やったー!」
「バンザーイ!」
立見応援席で共に応援していた野田と桜見の子供達。新たな歴史が刻まれ、彼らもまた歓喜の輪の中で喜んでいる。
「なあ立江、これは夢ではないな……?ワシらの……孫が……日本一になってくれた……!」
「ええ、ええ、夢ではありませんとも……!」
孫が日本一のチームで活躍して頂点に輝く瞬間を見届け、重三はこれに男泣き。立江はそっと彼の肩に手を置いていた。
「弥一君おめでとうー!本当に凄いよキミはー!!」
同じく立見応援席に居た輝咲。フィールドで喜ぶ小さな少年へと、可能な限りの大声で祝福。これだけの盛り上がりの中で声が伝わっているのかは定かではないが、それでも伝えたかった。
「おーし、胴上げだ胴上げ!弥一行くぞ!」
「え?わぁ!」
弥一は立見のチームメイト達に囲まれると、皆の手によって小柄で軽い体が空高く宙を舞う。受け止めて再び上がって行くのが繰り返されて、胴上げは行われた。
「わー!高いー!」
想像よりも高く上げられている弥一。豪山に間宮に川田に大門と力強い者達の手によるおかげだろう。
「立見……勝った……良かった……!俺、たいした事何もしてないけど……!」
勝利が決まって選手権の優勝を理解すると、号泣してしまう控えGKの安藤。
「何言ってんだ、お前はお前で立見を支えてただろ。何時来るのか分からない出番に備えて常に準備していた、それを見てない訳ないだろうが」
「っ……」
控えのGKはフィールドプレーヤーと違って、何時出番が来るのか分からない。それまで常に準備したり、同じGKと一緒に練習したりアップしたりと待ち続ける。彼も立見を陰ながら支え続け、努力してきた事を成海は知っており彼の肩を叩く。
「良かった、良かった、良かったぁー!立見が……立見が全国制覇ー!」
「やりましたね~ラッキー先生♪」
安藤と同じく涙を流している幸は彩夏に抱きついたまま号泣。彩夏はその幸の背中をポンポンと叩きつつ、嬉し涙が流れていた。
「(信じらんねぇ、俺……日本一のチームと共に今此処に居るんだよな……)」
立見に入るまでは人と関わるのは面倒だと感じていた。だが弥一達と出会って不思議と惹かれ、主務としてサッカー部に入る。今その一員として日本一の瞬間を迎えた。
摩央は笑みを浮かべるとフィールドに居る彼らの元へと走り、自らも胴上げへと参加していった。
「やった……やったよ勝也……!」
京子は立見の6番のユニフォームを抱え、胸に抱いていた。
愛する彼が作った部が日本一、ついにそれが叶った瞬間。チームの為にひたすら誰よりも冷静であるように徹して、持ち前の知識で数々の作戦を部の皆で立てて来た。
今はただ彼と共にこの勝利に浸りたい、京子はユニフォームを抱いたまま涙を流す。
「(何が起こるか分からない、それがサッカーと言うが……これは全く予想出来なかったな)」
フィールドに立ち尽くす八重葉の面々。そしてゴールポストに背を預けて座り込む龍尾。
息子の負ける姿をスタンドで見ていた康友。正直このような事になるとは思っていなかった。それと同時に龍尾が高校サッカーを経験したのも無駄ではない、そう思っていた。
同年代で龍尾に勝つ程の者が居て、彼に敗北の味を教えた。
「(神明寺弥一、か。やはりただの少年ではなかった)」
胴上げされて無邪気に喜ぶ弥一へと康友は視線を向ける。小学生並の小さい体ながら、攻守で数々のスーパープレーを見せた今までに無いDF。
興味深いと思いつつも、康友は静かに歓喜に包まれる会場を去って行った。
優勝のインタビューが終わると表彰式が行われ、先に八重葉の面々に数々の賞が送られるも八重葉には喜びは無い。
八重葉の番が終わると立見へと出番がやって来て、優勝旗を負傷した成海に代わって臨時キャプテンの豪山が受け取る。歴代の勝者が手にしてきた旗、その重さが持つ手にずっしりと伝わって来る。
そしてトロフィーの方を弥一が代表して受け取る。厳しい戦いを勝ち抜き頂点に輝いた者だけが手に出来る栄光、それを今ついにその手で取る事が出来た。
国立に鳴り止まぬ立見コール、選手権初出場で初優勝。更に無失点のまま全国制覇。
決勝で弥一が決めたゴールと共に、立見の名が高校サッカーの新たな歴史の1ページに加わる事となったのだった。
立見1-0八重葉
神明寺1
高校サッカー選手権 全国大会
優勝 立見高等学校
1回戦 VS海塚 2-0
2回戦 VS琴峯 1-0
3回戦 VS海幸 5-0
準々決勝 VS城坂 5-0
準決勝 VS最神 1-0
決勝 VS八重葉 1-0
得点15 失点0
大会得点王 照皇誠
大会最優秀選手 神明寺弥一
勝也「此処まで読んでくれて皆ありがとな、この話が面白いと思ってくれたり先が気になるってなったら是非応援頼むぜ。☆評価や作品ブクマとかもしてくれると嬉しい、っと…俺が此処に来たのは弥一や京子達には内緒、な?」
弥一「?今誰かいなかったー?」
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