激闘の延長戦
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
後半45分に入りアディショナルタイムが経過しても両者にゴールは生まれず、やがて審判の長い笛が吹かれる。
『此処で後半の45分が終了、八重葉決定的なチャンスを迎えるも立見が凌ぎ切りスコアは0-0のまま選手権決勝は10分ハーフの計20分の延長戦へと入ります!』
選手権では決勝以外は試合の前後半で、勝敗が決しない場合はPK戦。この決勝だけは20分の延長戦が行われる。
その時間でも決着がつかなければ、PK戦で勝利チームを決める事となっている。
延長戦に入る前のインターバルは5分。立見と八重葉はそれぞれ体を休めにベンチへと戻った。
「皆、よく此処まで八重葉相手に戦ってくれた」
後半戦が終わり僅かな休憩時間でベンチに戻って、体力回復に務める立見イレブンの前に成海が松葉杖をついて現れる。
「成海先輩、大丈夫スか足は!?」
「思った程酷くはない、それより休む方に専念しとけ」
負傷した右足には応急処置が施されており、間宮は成海へ駆け寄って支えようとするが、成海はそれを断り休むように言う。キャプテンである彼の負傷交代は痛手だったが、王者を相手に0-0のスコアレスでなんとか此処まで来た。
「インターハイの時はこのままPK戦で立見の負けだった……」
京子の言葉を聞いて全員の頭によぎる夏の総体2回戦。八重葉と当たって、その時もスコアレスで2回戦の為に延長戦は無く、PK戦にそのまま突入。そして立見はキッカー全員が龍尾の前に決められず、八重葉は全員がきっちり決めてPKで負けてしまう。
「なんとしても後20分、そこで八重葉から1点を取らないといけない。だったら取るしかねぇよなゴール」
PK戦になれば優れたキッカーが揃っている上、龍尾が居る分八重葉が有利。勝つにはこのまま無失点に抑えつつ、20分の時間内に難攻不落の八重葉ゴールを割る。
それが立見が勝つ為の絶対条件だ。
成海に代わり、キャプテンマークを右腕に身に付ける豪山の言葉に、皆が頷いて答えた。
「うん、もう折角初出場で初の決勝まで来たんだし。皆どうせなら悔いなく思いっきり暴れて来なさい!」
「いやー、結構思いっきり暴れた後なんですけどねぇラッキー先生」
「こういう時は嘘でも「おう!」とか言う流れでしょうー!?」
延長戦に向けて顧問として何か士気を高めるような事を言おうと、幸は選手達へと声をかけるがエールはズレ気味だったよう。気合ではなく笑いの方が起きてくるが、これはこれでリラックスとなっている。
「なあ、弥一」
「ん?」
「その……勝てよ」
水を飲んで休憩している弥一へと摩央は近づき声をかけ、どう言えばいいのかと考えるが気の利いた事は言えず、勝ってほしいという思いから短く彼にそれを伝えていた。
「勝つよ、絶対にね」
それに対して弥一は勝つと言い切って応えてみせる。上手く言えなくても、摩央の思いは心を読むまでもなく伝わった。
この延長戦で王者を狩る、弥一はそのつもりだ。
『延長戦がそろそろ開始されますが、八重葉は此処で選手交代。左SDF月城に代わり高坂が入ります』
『月城君は相当動いてましたからね。あのスピードで動き回れば体力落ちない方がおかしいですよ』
後半で立見に走らされたのもあり、攻守で相当動いてきた月城。相当スタミナは消耗してしまい、延長戦を戦える力はもう残されていなかった。
八重葉の監督はイエローを貰っていた事もあって、限界の月城を下げて新たにフレッシュな選手を此処で投入。
両者再びポジションにつくと、前半の時と同じくセンターサークルには照皇と坂上が立っている。前半にいきなりインターセプトされた事も影響し、彼らは弥一の動きに注意していた。
その弥一は今回動く気配は無く、元のポジションに留まったままだ。弥一も同じ奇襲が成功するとは思っていない。
ピィーーー
『延長戦のキックオフ、八重葉この20分で立見からゴールを奪えるか!?』
『それか立見がゴールを奪うかですが八重葉が攻撃出来ていますから八重葉がゴールを奪う確率はおそらく高いはずですね』
後半戦、八重葉は再びボールを回していき攻勢に出る。だが月城が抜けた穴は影響しているようで、彼が出ていた頃に比べてサイドアタックはそれほど脅威ではなくなっていた。
「(あいつと比べりゃ遅ぇよ!)」
月城のスピードに慣れた田村にとって、代わって入った高坂の速さは遅く感じた。交代したばかりで決勝の国立のフィールドにまだ慣れてない相手から、ボールを奪取する事に成功する。
「右空いてる!草太そのまま行っちまえ!」
間宮の行け行けという言葉を受けつつ、田村は一旦中央の武蔵へとパスを送った後にすぐ右サイドをダッシュ。
体力が尽きた月城と比べまだ動ける、まだ走れる。武蔵がワンタッチで右サイドのスペースへ出して、田村はそのボールに追いつくと右コーナー目掛けてドリブル。
ゴール前、豪山と優也にはそれぞれ大城と佐助が付いていた。田村には代わって入った選手達が迫る。田村は右足を振り上げて、クロスを上げようとしている。
動作を見て八重葉の選手はクロスボールを読んで田村の前を塞ぎに行く。
だがこれはフェイント。田村は上げると見せかけて、右足のインサイドで軽くボールを転がして左へと移動していた。自らも素早く移動、そして左足で今度こそゴール前へクロスを上げる。
何時もの右足ではなく左足で蹴ったボールは、精度が利き足と比べ劣り、イメージに描いたグラウンダーではなく、若干高く浮いてしまっていた。
これに反応したのは優也。自分とマークしている佐助の位置から、ボールは後方へと来ている。ヘディングは不可能、トラップしていたら八重葉DFに詰められて囲まれる。
この難しいボールに対してゴールに背を向けたまま、優也は体を後方へと倒し、右足を上げてボールを捉える。観客から思わず歓声が上がるアクロバティックの大技。
オーバーヘッドによって蹴られたボールは佐助のブロックを抜けて、ゴール左へ向かう。
龍尾は優也のシュートを両手で弾き、ボールを零すもすぐに体で球に覆いかぶさりキープ。
予想外のシュートは流石の天才GKも、最初は完璧なキャッチが出来なかったようだが、素早くボールへ向かう者が誰もいなかったおかげで、最終的に抑える事が出来ていた。
『歳児、オーバーヘッドでゴールを狙ったがこれも工藤が止める!』
『土壇場でこのシュートを見れるとは、いやまだ分かりませんね。何か起きそうですよ延長戦!』
今度は龍尾もキャッチしたボールをすぐには出さず、1回息をつくと、ボールを高く上げるパントキックで蹴り出していった。
空中戦となって頭で競り合う村山と影山。177cmの村山と170cmの影山では、上背がある分前者の方が有利。
村山がこれに競り勝つとボールは照皇の方に向かい、照皇もそれに向かって走る。
「!?」
ボールを取るはずだったのが、直前で小さな影が見えたかと思えば自分よりも速く取っている。取ったのは弥一だ。
すぐに左サイドの翔馬へとパスを送って、弥一は八重葉ゴールに向かって走る。
翔馬へパスが通り、八重葉は再び武蔵にパスが行くと予測して、政宗が武蔵に付いている。翔馬の前には錦が立ち塞がっていた。
翔馬は止まらず、そのままドリブルで錦へと向かえば、左右の足のインサイドを使って右から左と一瞬でボールを移動。これで錦を惑わせて翔馬は縦へとボールと共に突破。
何時の間にか彼はダブルタッチを上達させており、成果を見せていた。
『水島これは見事なフェイント!錦を突破して左サイド独走だー!』
再び立見のチャンスにスタンドからは歓声が上がる。翔馬からゴール前の豪山に高いボールが送られて、豪山と彼をマークする大城が同時にジャンプ。
大型プレーヤー同士の迫力ある空中戦。この争いは互角で、ボールは弾かれて外へと出て行く。
政宗が向かってクリアに行こうとしたが、それよりも速くボールへと迫る者が居た。
弥一が何時の間にか八重葉のゴール前まで来ていたのだ。ボールが地面へと付く前に弥一は右足のボレーで捉える。
『大城と豪山の空中戦!このセカンドボールを……神明寺が来てる!ボレーシュートだー!』
海塚戦の時に上げたゴールと似たような形。弥一のボレーシュートは完璧にミートしてゴール右上隅へと向かっていた。弾丸のようなスピードと勢い、これをキーパーが反応して止めるのは中々難しいだろう。
だが龍尾はこのシュートにまで反応し、更に取りづらいであろう右上隅へと地を蹴ってダイブすれば、左腕を伸ばして弥一のボレーへと触れていた。
左掌でボールを弾くと、シュートはゴールマウスから逸れてゴールラインを割る。龍尾がこのシュートを止めると、今度は八重葉応援席から歓声が大きく上がっていく。
『止めた工藤龍尾ー!神明寺の決まったかと思われたボレーを見事スーパーセーブだー!!』
『今の神明寺君のシュート相当良くて決まっても不思議ではなかったですが、これを止めますか!?』
「今のが入らないのー!?」
「化け物かあいつは!」
優也のシュートに弥一のシュートと延長戦で2本撃ち込んだが、いずれも龍尾に止められてしまうと、ベンチの幸と摩央は思わず叫ぶ。
「ナイスセーブだリュウ!」
シュートを止めた龍尾と照皇は共にハイタッチを交わす。
「おう、それよりマコ。お前前線残れ。守りは俺とテツさん達に任せとけ」
「!しかし……」
「あのチビが上がってくれるって事は八重葉が止めた時チャンスだろ。立見の守備は神明寺がいてこそだし、あいつがいなきゃデカい穴がぽっかり空いてるだろうよ」
照皇は弥一の上がりを警戒している。攻撃だけでなく守備でも動き、弥一を徹底マークしてきた。だが龍尾は攻撃で力を残しておけと、照皇に前へ残るよう伝える。彼が残って弥一が上がったままなら、今度こそ八重葉がゴールを奪うチャンスが出来る。
先程のような守備のミラクルプレーが、彼の不在で起きる可能性は0に近いだろう。
「分かった、守備は任せる」
そう言うと照皇は守備を友やチームメイトへ託し、自分はゴールを奪う方に集中する。
だがその中で照皇には気がかりな事がある。他でもない弥一に関する事だ。
先程感じた殺気のような気配。それと共に、彼の動きにキレが増しているような気がした。今のボレーシュートも龍尾でなければ、おそらく決まっていたかもしれない。
あのまま放置するのは不味いのではないかと一瞬思ったが、龍尾の力に八重葉の守備力ならそれも跳ね返してくれる。そう信じる事にして攻撃に集中するのを決めた。
立見ゴールへ向かう照皇と八重葉ゴールを見据える弥一がすれ違い、互いに1点を彼らは狙っていた。
優也「此処まで見てくれて、心より感謝する」
弥一「面白いと思ってくれたり先が気になる!と思ったら応援よろしくお願いしまーす♪☆評価とかしてくれると更に活力になって嬉しいなー♪」
大門「「サイコフットボール~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~」はまだまだ続きます!」
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