サイドの攻防、狡賢い彼の苛立ち
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『選手権決勝もいよいよ後半戦、この45分で0-0のスコアから動き出すか!?そして栄光の優勝旗をその手に掴み取るのは絶対王者八重葉か、それとも脅威の新鋭立見か!?』
『後半、立見は鈴木君に変わって出て来ましたね歳児君。立見はこの後半で決めるつもりでしょう』
フィールドへ出て来る両イレブン。その中で場内アナウンスが流れると同時に、その交代した選手は姿を見せると会場は歓声に包まれる。
弥一に並ぶ立見のスーパールーキーにして、攻撃の切り札である優也が後半から出場。高確率でゴールを決めている彼が、この決勝で歳児タイムを見せてくれるのかと注目が集まっていた。
「歳児のスピード要注意だ、裏取られないようにな」
春の練習試合。あの時は二軍の八重葉だったとはいえ、大城が守るゴールを優也は突破して得点を決めている。
その事を大城は忘れておらず、守備陣に優也のスピードに気をつけるよう、改めて伝えて気を引き締めた。
「じゃあ作戦通り、行くか」
成海の言葉に立見イレブンはそれぞれ頷く。今度は立見ボールでのキックオフ、そこから作戦は実行だ。
隙が無い王者の壁に穴を開ける為に。
ピィーーー
センターサークルに立つ成海と豪山。審判の後半開始の笛が鳴って、豪山が軽く蹴り出すと同時に右サイドの田村が上がって行く。
「!」
これを見て月城は走って動き出す。立見の攻撃パターンに多く絡む田村を、このまま放っておくはずがない。
ボールを持つ成海に対して村山が向かうと、寸前で左へと左足のアウトサイドでボールを送り、近くの影山にパスが通る。これを影山はワンタッチで前に蹴り出して、一気に豪山めがけて低いパスが向かう。
豪山の後ろには大城が居て、ゴールへ向かせないポジションをしっかり取っている。
背後に居る気配は分かっていて豪山は同じくトラップせず、そのままゴール前へと走って向かう優也へ、同じくワンタッチでパスを送る。
八重葉のチェックは非常に速く、ゴール前で呑気にトラップしている暇は無い。その間に詰められてシュートやパスが困難となってしまう。
なので立見は此処をダイレクトパスで繋いでいた。それが良い方向へと繋がり、優也にボールは来た。
『ゴール前ワンタッチで繋ぎ歳児、ミドルだー!』
優也は豪山から送られたボールを右足で合わせ、ミドルレンジから振り抜きシュートを放つ。
ゴール左下へと低空飛行で飛んで行くボール。後半一本目でいきなり良いシュートを優也が見せるが、八重葉のGK龍尾はシュートコースに飛び込んでおり、低い弾道のミドルを両手でキャッチしていた。
「(甘いぜ、そして左ガラ空きだ!)」
『立見後半一本目の先制シュート!しかし工藤がこれを防ぐ!ナイスセーブ……と、すぐにスローイングだ!』
シュートをキャッチしてから左サイドへと大きく右のスローイング。ボールを左サイドに居る月城の前へと送る龍尾。
これに月城は走りボールを取れば立見の左サイド。その前はガラ空きで、走ってくれとばかりにコースは空いていた。
「(こいつは俺の独壇場!)」
月城の左サイドに広いスペース。これなら前からの邪魔は無いと、月城はボールを大きく蹴り出して自らの俊足を活かし、ボールに追いつけばまたそれを繰り返し、大きくドリブルをして左サイドを独走。
『速い月城!流石全国1、2を争う疾風の1年だー!』
『これは速いラン・ウイズ・ザ・ボールですね!』
少ないボールタッチでオープンスペース(敵も味方もいない完全に空いているスペース)を目指して、スピードアップしながら進みボールと一緒に走るという意味を持つ。
ドリブル技術より走る技術が重要となり、スピードに優れる月城に向いたプレーだ。
「月城!」
ゴール前で照皇は右手を上げてボールを要求していた。
「(お前の力なんかいらねーよ!)」
その照皇を月城はわざと無視して自ら持ち込む。照皇に頼らず自分が活躍する、月城はそれしか考えていない。
弥一に照皇よりも劣っていると馬鹿にされたままでは終われない。自分の方が優れている、それを証明しない限り月城の気は収まりそうにはなかった。
1人でボールを持ってエリア内へと切れ込む寸前。
「(舐めんな!)」
再び大きく蹴り出して月城が追いつく前に、間宮がボールを蹴り出して立見ゴールから遠ざけていく。
ラッキーな事にクリアボールは、月城を追いかけていた田村の元へと向かっていて、ボールをトラップする。
「右ガラ空き田村先輩ー!行ける行ける!」
「おおっし!」
月城が上がったままで今八重葉の左サイドは手薄だ。弥一がチャンスだと伝えれば田村は先程のやり返しとばかりにボールを大きく蹴り出し、月城のプレーを再現するかのようにボールと共にサイドを駆け上がる。
だが反転してゴールへと戻り走る月城のスピードは速く、田村へと追いついて来ていた。
「(さっさとよこせ、この!)」
「(もう来やがったのかよこの一年坊主が!)」
ライン際を並走し体をぶつけて競り合う田村と月城。ぶつけられたらぶつけ返しの激しいボディコンタクトが行われる。
「でっ!」
体格差によって此処は田村にパワーで軍配が上がって、月城は転倒し倒れる。この時にファールだと審判に月城はアピールするが、審判はファールを取らない。
手を上下させて立て、と笛を吹かずに月城へと伝えていた。
「(何で取らねーんだよ!!)」
この判定に納得が行かず先程の弥一の煽りもあって、月城は益々イライラしてしまう。
『田村抜け出した右サイド!追いついた月城との競り合いを制してチャンスだ!』
田村は此処で中央へと切れ込んで、相手が寄せて来る前に右足でミドルシュートを撃つ。
このシュートに対して大城と同じく大型DFである佐助が、体で受け止めてシュートブロック。その体がシュートを弾けばボールはゴールラインを割って、立見の右からのCKと審判が判定。立見はセットプレーのチャンスを得る。
『今度は立見CKのチャンス、後半の序盤立見が優勢となっている!』
『しかし八重葉はゴール前に長身の選手揃ってますからね。低いボールへの対策も出来ていると思いますし』
キッカーを務める成海がボールをセットし、右手を上げる。八重葉ゴール前ではそれぞれ敵味方入り混じり、動き回っていた。
「(相変わらず僕にマークかぁ)」
弥一は上がらず八重葉のカウンターに備えて残っている。近くには監視するように照皇が弥一を見ていて、どさくさに紛れて上がる事を許さないと目で語っているかのようだ。
成海が左足で蹴り出す。ボールの行く先は、大勢の選手達が居る八重葉エリア内ではなく外の中央。
そこに走り込んでいるのは影山だった。
『おっと成海、合わせるのは長身の豪山や川田ではなく歳児でもない!影山が何時の間にか中央に居たー!』
エリア外から優也、田村と続き影山も右足のシュートを放つ。立見が早くも後半3本目のシュート。全部エリア外からのシュートで、影山に関してはロングと言えるぐらいの遠い位置からだ。
これは大城が立ち塞がると、落ち着いて影山のミドルを左足で弾き返していた。
弾かれたセカンドボールを政宗が拾うと、それを見た月城はまたも左サイドをダッシュで駆け上がる。見ればまたしてもサイドはガラ空きだった。
「政宗ー!」
声を出して月城はボールを持つ政宗へ出すように要求。政宗もそれを見て月城のサイドは誰もいないから、チャンスだと判断してパスを送る。
『八重葉カウンターだ!月城が再び左サイドを独走ー!』
「っ!?」
だが月城が走って行く中で田村が今度は先回りしており、追いつくと再び並走して競り合う。再びSDF2人の争いの中でボールはタッチラインを割っていった。
マイボールをアピールする月城だが線審の判定は立見のスローイン。最後に月城の足にボールが当たって、ラインを割ったと判定されたらしい。
「何でだよ!!」
これに我慢出来ず怒った月城。八重葉のスローインだったらすぐ投げようと、ボールを手に持っていたが立見と判定され、苛立つあまり乱暴にボールを地面へと叩きつけてしまう。
『あー、月城これはいけません!主審がこれを見て月城にイエローカードが出ました!』
『もう少し冷静になってほしいですね、しかし立見も前がかりになっているせいか先程から右サイドを開け過ぎてオープンスペース出来てしまってますよね。そこを突かれ続けたら不味いですよ』
主審は月城のこの行為を判定に対する異議と判断し、黄色いカードを月城へと掲げた。イエローカード1枚目だ。
最もこの試合が決勝なので出場停止は関係無い。ただしこの試合でもう1枚貰えば退場となってしまう。
月城に八重葉の選手達が駆け寄り止めると落ち着くように言う。月城は小さい声ですいません、と言うが内心はイライラしたままだ。
「(効いてる効いてる、彼にはこのまま崩れてもらおっと)」
こちらにとってはラッキーな事もあって崩れていく相手。弥一は苛立つ月城の姿を見て、ニヤリと笑みを浮かべていた。
弥一「此処まで話を見てくれてありがとうございますー♪この話が良いな、面白い、先が気になるとなったら応援よろしくお願いしまーす!」
フォルナ「ほあ~」
弥一「ん?なになにー「みんなでサイコフットボール盛り上げて行こう!」だね、うんうん分かるよー♪」
摩央「言ってたか今の!?」
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