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狡賢さを持つ相手に対するサイキッカーDFの策

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 冬の冷気を忘れさせる熱気が国立で巻き起こり、ぶつかり合う。



 前半から激しい攻防戦を見せる立見と八重葉の試合。両者中々良い形での攻撃をさせてもらえず、チャンスを潰し合う展開となっている。



 八重葉がキャプテンの大城を中心に守るのに対して、立見も見えない所で弥一が指示を送ったり味方を鼓舞したりと、周囲のDFの良さを引き出し、異なるDFの要が奮闘していた。




「前半なんとか八重葉を0点に抑えられてますね」



「その代わりこちらもチャンスがない。大城君や佐助君の居るセンターが堅いし、セカンドボールを素早く政宗君や月城君が拾ったりして連続攻撃を仕掛けづらいのは辛いわ」



 総合力で立見は八重葉に負けている。なので京子はある程度の劣勢を覚悟はしていたが、フィールドの立見選手達は想像以上に八重葉相手に食らいついていた。



 一方的に攻め込まれたりシュートを打ち込まれたりはしておらず、強気に前へ出てゴールに引きこもる事なく攻撃的な守備で防ぐ。



「……歳児君。後半に備えて準備を」



「はい」



 京子は此処で一枚カードを切る選択を取る。後半の頭で優也を出すつもりで早々にアップを命じると、優也はベンチから立ち上がり、フィールド外の隅で軽くランニングへと出た。









『立見、中盤で村山を徹底マークだ!此処も成海がぶつかりに行く!』



「ムラさんー!」



 村山の耳に届く声。左サイドから呼ぶ声は月城と成海にぶつかられつつも、それは伝わった。村山は競り合う中で左サイドへとパスを出せば、ボールを託された月城が速いドリブルで左を駆け上がる。




 そこに滑り込んで来る立見の右サイドハーフ岡本。この動きが見えた月城は一瞬ニヤリと笑う。





「って!」



 岡本を躱そうとする月城。ボールをやや強めに前へと蹴り出し、自らもスピードを上げて前へ出ようとすれば、岡本の足に自分の足が引っかかって月城はフィールドへ転倒して倒れる。




 ピィーー




 これを見た審判は笛を鳴らし、立見のファールを取った。




「おい、今のあいつわざとつまずいて倒れたっぽいぞ!」



「止めろって!下手に食い下がったらお前イエローもらうかもしれないから!」



 田村は今の月城のプレーは、わざと倒れる行為のシミュレーションだと言おうと向かい、それに影山が駄目だと田村を抑えて向かわせるのを止める。



『立見の岡本、月城のドリブルを止めようとして足を引っ掛け倒してしまいました』




「(へへ、やった)」



 今のは月城が自分からつまずき転ぶ。これが大げさに痛がったりの演技を入れたら、それこそ疑われると計算に入れて、今回はただつまずいたという程度にしておく。結果として立見の反則となってくれて、此処は月城の自然に近い演技が勝っていた。



 ファールとなって内心で月城はほくそ笑み、FKの準備へと入る。




 ゴールから左寄りで40m付近から八重葉のFK。いくら絶対王者といえど此処から直接決めるには厳しい距離だ。






「で……やって……そんで……」



「……じゃあ、それで行くか」




 ボールをセットし、立見の人の壁の前で村山と月城がヒソヒソと話し合う。



『さあ八重葉FKのチャンス、ゴール前には大城が再び上がっている。此処は190cmの高さか、それとも照皇か?』



『うーん、先程はCKで変化球来ましたからね……っと?村山君ボールから離れて行きましたね、代わりに政宗君が来てますよ』




 村山か月城のどちらかがFKを蹴りに来るのかと思ったら、周囲の予想を裏切るように村山はボールから離れ、代わりに政宗がキッカーの位置に月城と共に立つ。




「(キッカーの村山が蹴らない?今度は大城に来ると見せかけて村山に来るか?)村山注意な」



 村山が普段プレイスキックを務めるはずが今回は1年達に任せ、自らは離れている。普通なら高さある大城や照皇へシンプルに放り込みそうだが、村山がわざわざ離れる程だ。



 彼自身シュートも良い物を持っており、楽に撃たせれば危ない。成海は村山にも注意するよう伝え、自らもそちらを見る。





「(よし、そろそろ良いぞ)」



 今度は月城が政宗と話し合い。また2人でこの相談を壁の立見は見せられ、どっちが蹴るんだと始まるその時まで考えていた。





 だが彼らは驚きの手段を取って来る。




 急に月城が左サイドへ向かって、ダッシュを開始したと同時に政宗はその左サイド。月城を追い越す勢いで、強めのグラウンダーを右足でボールを蹴って送った。



「ヤバい右!田村ー!」



 間宮は八重葉が月城を使ってのサイド攻撃で、攻めに出ると気づけば田村へ声をかけ、田村は自分のサイドに猛然と向かう月城を真っ直ぐ見据える。




「(行かせるか1年!)」



 自分の真正面、体格では勝っている。それならと田村はパワーで止めてやろうと、月城に対して肩からぶつかりに行った。



 だがこれに月城はスピードに乗ったままボールへ追いつけば、軽く蹴って田村の右を通過させた後に、自らはターンで上手くショルダーチャージを躱して田村を突破。



「月城!」



 そこに照皇が手を上げてボールを要求。今なら彼は一瞬フリーとなっているが月城は照皇を無視して、自分でそのままゴール前へと持ち込んで行く。




 まるで俺が決めてやると言わんばかりに譲る気が無かった。



 大城や村山の先輩2人を囮にし、注意を引かせてのチャンスだ。月城はゴール前で得意の左足を振り抜き、ゴール左隅へとシュート。




 左足の良いシュートを見せるが大門はこれに素早い反応を見せており、ダイブしてほぼ正面でボールを両手に収める。



「ちっ……!」



 これで先制のつもりで放ったがキャッチされて、月城は悔しげな表情を見せた。




『八重葉、裏をかいて左サイドアタックから月城のシュート!これを大門しっかりとキャッチしてみせた!』



『良いシュートでしたが少し強引過ぎにも思えましたね。照皇君が空いているように見えましたからパスでも今のは悪くなかったかと思います。積極的なシュートへの意欲は良いですがね』




「くそ……悪い、抜かれた!」



「良いって良いって、失点はしてねぇんだ。引きずらず次に対策すりゃいい」



 田村は抜かれた事を気にして皆へと謝罪。間宮はその田村の肩を叩き、切り替えるように言う。




「やっぱり月城のスピードは厄介か……」



 影山は月城の後ろ姿を見て彼が厄介な存在だと呟き、その横で弥一も同じように月城を見ていた。






 前半は此処で終了。このタイミングで弥一の作戦は実行される事になる。



『此処で前半が終了!0-0のスコアレスですがシュート数は八重葉が若干リード、このまま徐々に八重葉のペースとなるのか立見が反撃なるか?』



『やはり立見は凄いですね、今大会で八重葉を前半0点に抑えたのは彼らが初めてですよ』



 一斉にロッカールームへ目指して歩いて行く中で、弥一は戻りながら大門へと明るく声をかけていく。



「やったね、八重葉を前半無失点だよ♪大門良いプレーしてたよー」



「いやいや、結構危なかったし。月城の良いシュートとか危なかったからさ」




 選手用の出入り口へと近づくにつれ、月城との距離が近くなる。そして会話が彼にも聞こえるタイミングで弥一はわざと声を大きくして、こう言った。




「月城なんか照皇と比べれば全然たいした事ないよ、速い以外お粗末なシミュレーションやって倒れるしか出来ないじゃん」



「!」



 月城に今の言葉は耳に聞こえていた。弥一からすれば月城など敵ではなく眼中に無いと。それを聞いた瞬間に月城の表情は、明らかな怒りへと変わっていく。




「どうせ照皇が一番怖いって、月城は全然脅威でもなんでもない格下の雑魚だからさ♪」



「ちょ、弥一!聞こえるだろ……!」



 大門は聞こえたらどうするんだと慌てて弥一を止めるが、もう遅い。





 月城は機嫌悪そうにフィールドを歩き、2人よりも先にロッカールームを目指して進んで行った。本当は黙っていられないぐらいに怒り狂う寸前だったが、面倒を起こしてイエローどころかレッドを喰らう事を避けて、最後の一線を超えるまでには至らず。




 だが彼の中にある怒りは収まらない。




「(俺があいつより雑魚で格下だと!?ふざけた事言いやがってあのクソガキが!)」



 弥一への怒りと照皇への対抗心、それらが月城の心を荒ぶらせる。これを晴らすには後半で自分が活躍して立見を叩き潰す以外に無い。




 それが照皇を良く思わない事が弥一にバレて、利用した挑発に乗ってしまったと知らずに。

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