全国決勝 立見VS八重葉
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「なーにが「決勝にようこそ立見の諸君」だ、てめえは主催者かってーの!」
国立のフィールドで柔軟し、軽くボールを蹴ったりと体をほぐしている時に、間宮は先程の選手入場口前で八重葉と遭遇した時、言われた龍尾の言葉を再現しつつ、不機嫌そうだった。
高校タイトル全て獲得に自身も中学時代から続く、無失点記録で負け無し。その実績があるせいか自信に溢れており、自分達が負けるとは微塵も思っていない。
八重葉イレブンだけでなく、応援する者達も八重葉の勝利を疑う者はいないだろう。試合をすれば勝つ、それが王者八重葉だ。
「カッカするな、もう向こうのペース乗ってるぞ間宮」
「あ……うっス」
頭に来ている間宮を見て、成海は落ち着くようにと声をかける。
龍尾にペースを狂わされて彼がミスをしたら、試合中にこうして声をかけ、立て直させるのは難しくなる。出来る時に声をかけておいた方が良い。後悔してからでは遅いからだ。
「八重葉は此処まで全試合、予選も含めて3点以上の大差で勝利。加えて無失点……今更だけど化物だろこのスコア」
スマホで相手の過去の試合を振り返る摩央。そこには1点差や2点差の接戦は無い。立見との試合以外は大差で勝って来ており、王者として力の差を見せつけて勝利を重ねていた。
立見も大差の試合はいくつかあるが、八重葉のように毎試合ではない。最神など強いチームとの試合もあって、1点を争う試合が多かった。それを思えば八重葉がいかに化物なのかが分かる。こんな毎試合も大差で普通勝てないだろう。
不可能を可能とするチーム力に層の厚さも兼ね備え、立見には無い部分を王者はいくらでも持っている。
「倒せ、八重葉!打倒八重葉!今こそ下克上だ立見ー!」
「やっちゃえ立見ー!」
「新時代を切り拓く時だぞー!」
王者の応援に負けじと、立見の応援団も試合開始前にも関わらず、大きな声で選手達を応援。彼らだけでなく桜見の子供達に、中華料理屋の年配常連客まで応援しており、老若男女問わず幅広いエールを立見は受けていた。
「此処まで来たんだ、大門頑張れよー!」
野田の姿も立見応援席の近くにあって、彼も立見や大門の応援に駆けつけている。
スタンドだけではない。今日は選手権の決勝戦、多くの者がテレビやスマホの前でこの試合を見ている事だろう。
注目集まる大舞台の試合を創部2年のチームが戦う。これだけで既に注目の的であり国立の席は埋まっていき、何万もの人が立見を、八重葉を見ている。
「去年の今頃なんてもう、蜜柑食べて選手権見てる側だったのになぁ」
「んー?なになに大門、久々に肩ドーンされたいのかな?ガチガチに固まったりとかしていて」
立見の応援席を眺める大門。それを見て弥一はまた緊張でもしていて、肩に両手を急に置く事をまたやってほしいのかと、悪戯を企む子供のような笑みで彼へと近づいていた。
「いや、今日は大丈夫。相手が誰でも怯まずゴールを守る、それがGK……だろ?」
「おお~、何か格好良い。弱気な主人公が経験を重ねて強気になっていくRPGで成長するような感じ~」
「そこまで弱気だったかな?」
「入学早々違う部にスカウトされそうになる程にねー」
大門が立見の入学式に、ラグビー部や柔道部に勧誘されそうだった事を弥一は忘れていない。あのままスカウトされていたら、大門がこの場に居る事はおそらくなかっただろう。
そんな彼も様々な試合を経験しゴールを守ってきた。他の立見の選手と同じく、大門もレベルアップしている。彼もいくつかの好セーブで立見を救っており、立見の無失点記録に貢献。この試合も無論ゴールを精一杯守るつもりだ。
「後一つで優勝、本当凄い所まで来たもんだな俺ら」
弥一と大門の近くまで走って来て足を止めたのは優也。今自分達の居る国立のフィールドやスタンドを眺めて、自分達の居る場所を再確認する。
夢でもなんでもない、今自分達は高校サッカー界で最高峰の場所に立っている。
「来るだけで満足、じゃないよね?」
「当たり前だろ、優勝旗を立見が手にするまで終わりじゃない。此処まで来て準優勝なんかいるか」
準優勝なんかいるか。
それを聞いた時に弥一の頭に再生される彼の声と彼の勇姿。
「準優勝なんかくそくらえだ!優勝するぞお前らぁーーー!!」
猛々しく吠え、勝利の為に突き進んだ。彼の後ろ姿を当時DFの位置で見ていた弥一。
その姿は闘将と相応しくチームを引っ張り、この立見でもかつてキャプテンを努めていた。
神山勝也。
今は亡き彼がもし今も生きていてこの場に居たら、間違いなく準優勝で満足などしない。そんな男じゃない事を弥一はよく知っている。
そして生前彼が着ていた、背番号6の立見ユニフォームとスパイクは京子の隣に置いてあり、彼にもこの試合を見せたいという京子の想い。
彼も見ているなら余計負けられない。たとえ相手が絶対王者でも。
「弥一、行くぞ。アップ終了でもう試合の準備だ」
「ん、今行くよー」
優也に声をかけられると弥一はフィールドを皆から遅れて出て行き、ロッカールームへと戻る。
八重葉のロッカールームは決勝でもやる事は何も変わらない。開始1時間前にカステラを食しエネルギー補給すれば、何時も通り準備をしてユニフォーム姿となる。監督の話を聞くとキャプテン大城の合図で、皆が一斉にフィールドへと目指して歩く。
それが八重葉のルーティンだ。
「流石にこれがもう最後だと思うと寂しく感じますわぁ、テツさんが仕切るのもう少し見たかったなー」
大城の事をテツさんと呼ぶのは龍尾。3年の大城はこれがラストゲーム。彼だけでなく村山や他の八重葉3年も同じで、八重葉の後輩達はこの試合が最後となる先輩の卒業を、勝利で送り出そうと張り切っている。
「2年のお前は来年ある……っと、プロから話が来てるんだったか」
「ええ、俺もこの試合が最後っスよ」
2年だが龍尾もこの試合を高校最後の試合にしようと決めている。この試合に勝って一足先にプロの世界へ行く。
「(その最後となる相手が立見とはねぇ、神様がいるとしたら相当悪戯大好きそうだよな)」
龍尾から最後にゴールを奪った神山勝也。その彼が作った立見との試合。前回のインターハイ以上に運命的なものを感じる決勝戦。
だがどんなに運命的だろうがやる事は変わらない。インターハイの時と同じく立見を返り討ちにする。そして八重葉の連覇でフィナーレだ。
「泣いても笑ってもこれがこのチームで最後の試合、全国の決勝で国立のフィールド。そこで本気の八重葉とのガチ勝負だ」
何時ものようにロッカールームにある、ホワイトボードの前に立って話す成海。今日は戦術的な話から入らず、彼の思いを語っていく。
「正直、此処まで来れたのはお前達のおかげだよ。俺ら3年だけじゃこの場まで来るのは無理だった。新たな1年が入り切磋琢磨して1年と2年、それに加え俺達3年も成長させてもらった……本当感謝してる」
成海は部員達へと礼を言うと同時にその頭を下げた。このような部長の姿を見て戸惑う部員の姿が見られる。
「俺だって同じように皆へ感謝してる。その感謝を示す為に後一つ勝つのに全力を注ぐさ」
成海の肩にポンと手を置いて、豪山も部員達に感謝の言葉を伝え、何時も以上に今日の試合で全力を尽くす事を誓う。
「その後一つを勝つ為に、まずは八重葉の攻撃をしっかり抑える必要がある。照皇がどうしても目立つけど、要注意なのは中盤の村山と左サイドの月城。八重葉の多くの得点パターンで彼らが絡む事は結構あったから、この2人を抑えれば若干八重葉の攻撃は落ちると思う」
感謝で試合前のミーティングが終わりそうなので、京子は今日の八重葉の攻撃陣を対策していく事について話す。注意すべきは照皇へのパスをよく送るとされる村山と月城。
この2人を抑え込み八重葉の攻撃を止め、出来る限り立見の攻撃回数を増やして決定的チャンスを何本も作り出す。その形に持ち込む事が勝利する条件の一つなのは間違い無い。
「任せてくださいよ。あの1年小僧の好きにはさせませんから!」
インターハイの借りがある田村は打倒月城に燃えている。今回は意地でも彼に活躍させないつもりだ。
「(マリーシアに引っかかるフラグにならなきゃいいけどなぁ)」
月城は準決勝を見る限り、日本人があまり持たない狡賢さを持つ。
真島の真田は彼の策略によって退場させられて、田村も同じ目に合わない事を弥一は密かに願う。
時間となり立見イレブンはロッカールームを出て、選手専用の出入り口に並ぶ。隣には八重葉の選手達が並んでいる。
互いにかける言葉はもう無い。後はフィールドでぶつかり合いサッカーで語るだけだ。
時間が来れば先頭の審判団が移動を開始して、後ろの選手達も続いて歩き出す。
その瞬間、大勢の観客の声援が飛び交い彼らはそれを浴びながら、フィールドへと姿を見せていた。
『ついにやってきました、選手権決勝戦!此処まで勝ち上がったのは連覇を狙う絶対王者の八重葉学園と創部2年で選手権初出場にして決勝進出の立見高校!王者がこの試合も勝ってまた一つタイトルを手にするのか、それとも立見が勝って新たな歴史の1ページを刻むのか!?』
『この2人、共通しているのはどちらも無失点なんですよね。それも今大会に限った事ではない、その行方も気になりますね』
「高校サッカー王者の椅子に座るは八重葉~♪この試合も勝利だ~♪常勝八重葉!常勝八重葉!」
今日も八重葉の勝利に向けて、八重葉の応援歌が歌われており、王者の勝利は誰も疑わない。
「立見GOGO!立見GOGO!」
それに負けじと立見の応援席では、桜見の小学生達が即興で作った歌で対抗。こちらも立見の勝利を信じる者として譲らない。
センターサークルで両キャプテンが審判団の元に集まり、コイントスで先攻後攻を決める。
結果は八重葉の先攻、キックオフは八重葉スタートだ。
成海と大城は共に握手を交わし、互いのチームへと戻って行った。
お馴染みのダークブルーのユニフォームの立見、GKの色は紫。
こちらも馴染みとなっている白いユニフォームの八重葉、GKの色は赤。
立見高等学校 フォーメーション 4-5-1
豪山
9
成海
鈴木 10 岡本
8 7
影山 川田
14 16
水島 神明寺 間宮 田村
21 24 3 2
大門
22
八重葉学園 フォーメーション 4-4-2
照皇 坂上
10 9
品川 村山 高知
11 7 8
仙道(政)
6
月城 大城 仙道(佐)錦
2 5 4 3
工藤
1
「これが最後だ……行くぞ!立見GO!!」
「「イエー!!」」
円陣を組んだ立見。このチームで最後となる掛け声をした成海に続き、選手達が一斉に声を出して合わせる。
この儀式を終えて立見はフィールドへと散る。
一方の八重葉は既にセンターサークルに照皇と坂上の姿があった。
弥一が軽くその場で腕を伸ばしていると、何やら視線を感じた。それはセンターサークルの方からだ。
ボールを前にしてゴールを早くも見据えているように見える照皇だが、彼の目は正確にはゴールではない。弥一の方へとその目が向けられていた。
「(開始前からもうグツグツ滾ってるんだなぁ)」
練習試合の時に初めて戦った弥一と照皇。その試合が切っ掛けとなり、照皇の冷静な心に熱き闘志を滾らせ、彼は更なる成長を見せていた。
この大会でも得点ランキング首位を独走しており、高校No.1ストライカー、天才の名に恥じない活躍だ。
冷静沈着な照皇が弥一の前で、闘志を剥き出し向かって来ようとしている。
やがて彼は弥一から目を離すと、坂上と軽く会話する様子が見られた。
照皇だけではない。多くの優れた選手が八重葉の方に揃っていて、総合力は高校サッカー界で随一を誇る。
だが立見もそれに負けているつもりは無い。
どちらが優勝に相応しいチームか、キックオフの時をついに迎える。
ピィーーー
午後2時、キックオフを迎え照皇が軽くボールを蹴り出して試合は開始された。
坂上から村山、そして照皇へとまずは落ち着いたボール回しを見せる八重葉。
ゆっくりとした立ち上がりの決勝、この時は皆がそう思っていた。
だが村山から照皇へとやや長いパスが通るとなった時。
「おっと、ナイスパース♪」
「!?(何でこいつこんな位置に!?)」
村山のパスをインターセプト成功の弥一。彼は開始前にこっそりと移動しており、彼らへと忍び寄っていた。
小柄な体を活かした得意のブラインドディフェンスで、早くも王者の出鼻をくじき、村山は弥一の予想外の上がりに驚いている。
だがそれを黙って見過ごす八重葉ではない。照皇がカットした直後の弥一へと素早く詰め寄って来たのだ。
「(神明寺!!)」
「(そんなやりたいならすぐやり合おうよ!)」
弥一も照皇の接近には気づいている。弥一との勝負を照皇が強く望む事も。
立見の天才と八重葉の天才が、キックオフから真っ向勝負に行こうとしていた。
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