異国の旧友との再会
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「高校サッカー選手権3回戦が終わり、真島、最神、八重葉と実力ある高校が勝ち進む中で今大会ダークホースと言われている立見の快進撃が止まりません。北海道代表、堅守の海幸を5-0と大差で下し3回戦で最も大差をつけた試合となり注目度は日に日に増しています」
スポーツニュースの高校サッカー選手権がテレビで放送され、実力校のそれぞれの3回戦が映し出されていた。
真島は鳥羽のマークがきつく今回彼は無得点だったが、相手のオウンゴールで1点を終盤で取って競り勝ち1-0。
準決勝で立見と当たる可能性のある最神は、期待の司令塔である光輝が1ゴール1アシストを記録。更に想真のダメ押しゴールもあって、3-0と1年コンビの活躍で快勝。
そして優勝候補の八重葉は初戦に続き、照皇が2ゴールを決めていた。注目のSDFとして知られる、月城が光輝と同じく1ゴール1アシストと大活躍して、こちらも4-0と相手を寄せ付けず。
最神に八重葉が差を付けて勝利しているが、いずれも今日の立見を超える大差ではなかった。
「この立見というチーム、創部2年の新鋭ですが中々面白いサッカーをしますね。守備的に行くかと思えば攻撃サッカーを思わせるぐらい前へと出たり、時にはわざと攻めず相手を焦らす事までやったりとスタイルが自由です。監督やコーチが不在と他校よりも大きく不利と思われましたけどね……」
「むしろ名将があれだこれだと決めるよりも生徒達が自由にして柔軟な発想で決める、という方が良いのでしょうかね?無論全部それが正解だとは言い切れませんが、立見の場合はそれが正解だったかもしれません」
専門家がこの結果を分析して話し合い、立見の強さについては秘訣が此処なんじゃないかとあったが、当然ながら誰も弥一が心を読める特殊能力を持っている、というのに気づく気配はまるで無い。
「アテにならないな、専門家ってのは。日本のサッカーはレベル上がって来たと聞いてるけど専門家のレベルまでは上がってない」
テレビで流れるスポーツニュースを、退屈そうに椅子の背に預けて見ている金髪の少年。顔立ちは日本人ではない。
「えらくご機嫌ナナメそうじゃないか王子」
「何だよその呼び方」
「周囲がそう言ってるんだよ、知らないか?」
「知るか」
30代程の黒髪の男性がニヤニヤとからかうように笑い、金髪の少年に対してそう呼ぶ。この男性もまた顔立ちが日本人ではなかった。
金髪の少年はふいっとそっぽ向く。
共に外国人である2人は今日本の地に居て、日本で流れているスポーツニュースを退屈しのぎに見ている。
高校サッカーの特集を見ているが、彼らは日本の高校サッカーに興味がある訳ではない。
関心があるのはただ1人の選手だけだ。
「いっただっきま~す♪」
試合を終えて弥一は早めの夕食を母親涼香と共にとっていた。
場所は涼香の馴染みである、弥一達の住むマンションから少し歩いた近所の定食屋。連日の試合で食べるものが限られてしまっている弥一はカレーライスを注文。涼香は焼き魚定食だ。
「弥一、身体は大丈夫なの?ずっと試合に出てばかりだけど……」
「全然平気だよー。今日とかどっちかって言うと楽させてもらった方だし」
箸で焼き魚の身を器用に取って行きながら息子の体調を気にし、大丈夫かと尋ねる涼香に弥一は明るく笑ってから、ルーと米をスプーンで纏めて食べる。
美味い豚肉を使ったポークカレーは店自慢のメニューで、弥一はそれが美味しそうに映っていた。口にすれば甘口なルーと米が素晴らしいマリアージュとなり、美味しさが口いっぱいに広がって試合後の身体に染み渡る。
「うんま~♡試合後のカレー美味いね~♪」
こういった食事にも気を使わなければならないが、どうせなら美味しい物を食べたい。美味しくて更に試合前後に適した物なら最高であり、カレーはその中の一つだ。
ご飯、野菜、肉とバランス良く全部取れて更に豚肉は疲労回復に役立つビタミンB1が多く含まれていて、玉ねぎのアリシンがその吸収を助ける役目をしている。美味しい物目当てで食べている弥一の食事は、かなりアスリートに適した食事となっていた。
「(我が子ながら美味しそうに食べるなぁ)」
食事を楽しみ堪能する息子の姿に涼香は忙しい身ではあるが、次はちゃんと自分のご飯を作ってあげたいと思う。勿論サッカープレーヤーとして活躍する、弥一の身体を考えて栄養ある物だ。
「あ、桃のゼリーもある此処。頼もうかなぁー」
もうすぐカレーを食べ終える弥一の目に映ったのは桃のゼリー。此処の定食屋ではこれがデザートとしてメニューに並んでいる。
その時に弥一がテーブルに置いていたスマホは反応、カレーを食べ終えて弥一はスマホをチェック。
それはしばらく連絡が無かった友人からの物だった。
3回戦が終わって翌日。選手権を戦う者達にとっては貴重な休み時間にも関わらず、弥一は冬の私服を身に纏い、外へと出ていた。
朝早い時間の桜見の駅前。小柄な少年が黒いキャップを被り、人を待つ姿は周りから見れば、高校サッカーで今活躍を続けるリベロだとは誰も思っていない。
気づかれる様子は無く騒ぎが起こる心配は皆無。弥一は退屈そうにスマホをいじりつつ、待ち続けているとその相手はやって来る。
ただし弥一と違って歩きではなく車、それも高そうな黒い外車だ。
「Ciao」
「Ciao」
留学の頃に聞いた馴染みの挨拶、覚えのある声。弥一が見てみれば後部座席の窓が開き、そこから見えたのは金髪の少年の顔。向こうの言葉に対して弥一もその言葉で挨拶を返す。
「変わんないな、ヤイチ。相変わらず小さいまんまだ」
「そっちもたいして変わんないくせに」
周囲からは2人がどういう会話をしているのかは分からない。2人とも話す言葉は日本語ではなくイタリア語だ。
金髪の少年は弥一の事を知っているようで弥一の方も彼を知っている。ドアが開き「乗れよ」と誘われると、弥一は車へ乗り込んだ。
「何時の間に日本に来たのさディーン。ミランこっち来てないでしょ」
「日本でCM撮影あるから俺だけ来たんだよ。それでお前も此処に居るってなって連絡してみた」
弥一と話す彼はかなりの有名人だ。
名前はサルバトーレ・ディーン。イタリア人であり、16歳という若さで世界の超一流クラブ、ミランとプロ契約を交わした注目の天才。
容姿端麗な外見から王子と呼ぶ者が居れば、プレーを見た彼に対してファンタジスタと呼ぶ者も居る。
168cm。選手としては小柄な方で、着ている黒スーツから伝わりにくいが身体も屈強な方ではない。ただそれでもビッグクラブは彼を買っていた。
つまりそれほどの逸材である。
「いや、思い出すねぇ。2人の並ぶ姿はジョヴァニッシミの頃が浮かんでくるよ」
運転席でハンドルを握りながら陽気に笑う黒髪の男性。
「マルコも相変わらずだよねー」
ジャントーレ・マルコ。それが運転するこの男性の名前だ。
マルコについても弥一は知っていて馴染みがあった。ディーンにマルコ。ディーンはミランのジョヴァニッシミでチームメイト、マルコはそこのトレーナーだった。
今のマルコはディーンの専属トレーナーであり、マネージャーの役割も努めている。
「どう?日本の感想は?」
「小さい島国だけど良い所だな。色々なゲームあったりするし本場の寿司も美味い」
マルコの運転でドライブに走る車内で弥一はディーンと会話。前から彼は日本のアニメやゲームが気になったり、本場の寿司を食べてみたいと話していたのを覚えている。
あれから念願は叶ったらしい。無論あまり自由時間は設けられず、限られた時間内しか楽しめないが。
「ゆっくり楽しみたい所だけどね、昔と違って今は色々立場が違う。僕達も、ヤイチもね」
「昔か……言う程昔って訳でもないけど、そうだな」
イタリアへ留学している時、彼らのチームで主に世話になっていた。
弥一とディーン。2人の居るチームは当時向かうところ敵無しの強さを誇っており、共にサッカーをしていた事は今でも鮮明に覚えている。
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