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巨人と小人

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 世間は大晦日。今日が1年を締めくくりとなる日でも、高校サッカー選手権は行われる。



 今日を戦い高校にとっては今年最後となる試合。皆此処で負けたくない、負けられないと思うだろう。




 琴峯の選手達より先に立見の方が会場入り。



 無失点記録更新中のダークホースと、大会最長身ストライカーという対戦の組み合わせが人々の興味を惹きつけるのか、会場の席はほぼ埋まっていた。




 立見は会場入りし、ロッカールームで最後のミーティングへと入っていた。




「改めて確認するぞ。琴峯はキャプテンの森川に右ハーフの巻鷹と攻撃のタレント揃いで、高い技術を持つチームで知られる」



「彼らは福井で強豪チームだけど今ひとつ勝ちきれず、一歩手前で全国出場を逃す事が多かった。そこに絶対的な高さを持つFW室の加入で得点力は大幅に上昇。初戦で堅守自慢の相手から4点も奪う程に攻撃が噛み合っている。この試合は彼を抑えられるかどうかにかかってると言っても過言じゃない」



 ホワイトボード前に立つ成海と京子。今日の試合で当たる琴峯について話していく。彼らのサッカーは室の高さをとことん活かす攻撃サッカーだ。



 悪く言えばワンマンチーム寄りではあるのだが、圧倒的高さを誇る室を一昨日の昇泉は分かっていたはずなのに、止められずハットトリックを許し、敗退している。



「その室に神明寺、お前本当に大丈夫か?」



「大丈夫ですよー。今年最後はあのでっかいのとフィールドでとことんやり合うつもりですからー」



 事前の連絡のやり取りを選手達の間で、自宅にて休息しながらもやっていて全員が室の高さにどうするのか、どうマークするべきかと頭を悩ませている時、弥一が室のマークをすると言い出していた。



 明らかにサイズが違いすぎる。照皇とはまた違うタイプのFW。総合力では照皇の方が上だろうが、高さという1点では室が上回る。



 どう考えても弥一が空中戦で室に競り勝てるとは思えない。



 周囲が最長の室を最小の弥一が、どう止める気なんだろうと大きな不安、同時に興味が出て来る。



 普通なら小柄の上に華奢な身体で、センターバックを務めるのはかなり厳しいとされているが、弥一は東京MVP、更にチームの無失点記録に大きく貢献。



 攻撃面でも活躍したりと、今や立見に1年ながら絶対欠かせない1人。一見して明らかに弥一が室との対決は不利だと思われる。



 だが彼なら覆してしまうかもしれない。そんな期待を持ってしまうのも事実だった。




「というか家に帰って食べる年越し蕎麦は負けて食べるより、勝って食べる方が格別だと思いますからねー。それが食べられるなら相手が巨人だろうがなんだろうが負ける気ありません♪」



 今日は大晦日。此処の者達に限らず、大半がこの後の夜に年越し蕎麦を食べて過ごすと思われ、それを味わうなら弥一は勝って蕎麦を食べたいと思ってる。



「こういう時でもお前は飯かよ」



 美味しい食べ物に目がない弥一。年越し蕎麦の事を考えていて、何時ものマイペースな笑顔の彼を見れば摩央はため息をつきたくなる。



 今年最後の試合となっても、調子は変わっていなかった。




「まあ負けて悔しい年越しより勝ってスッキリと年は迎えたいよな」



「当たり前だ。此処で敗退して悔しい気持ちのまま年越し蕎麦食いたかねぇよ……って弥一、お前に釣られて蕎麦の事言っちまったし!」



「えー、それ僕のせいですか間宮先輩ー」



 勝って良い年にしたいのは田村、間宮だけに限らずこの場の立見全員。そして対戦相手となる琴峯の方もそう思っている事だろう。



 だがどちらか必ず敗退して敗北の年越しを迎えてしまう。



 この2回戦で最後の試合とはさせない為に立見はアップへと向かい、満員の観客達の前へその姿を現す。








「どっちが勝つこれ?」



「流石に立見の無失点も此処までだろ。室の高さには神明寺もどうしようもねぇって」



「いやー、そう思わせて立見勝って来たりしてたしなぁ」



 会場では立見と琴峯、どちらが勝つのか予想の声が聞こえて来る。



 それを聞いていたのは、大晦日の今日も選手権の試合を見に来た野田。今日で彼の中にあるサッカーへの迷いは決着が付くのか。




「大門頑張れー!」



 その耳に友人を応援する声が聞こえる。声がした方を見れば小学校高学年ぐらいの男子と女子達が居て、アップをする大門へと声援を送っているのが分かった。






「あ、居る居る」



 今日の試合会場であるスタジアムを見回す弥一。大勢の観客の中で大門を応援する桜見の小学生達の姿を見つけ、同時にその近くに居る大門の友人、野田も見つける事が出来て、弥一はその応援席の方向へと小走りで近づいて行く。






「野田ー!今日の試合ちゃんと見届けてねー、大門も望んでるからさ♪」



「!」



 野田の居る所にまでフィールドから近づいた弥一。野田へと今日の試合をしっかり見るよう伝えた後、さっさとアップに戻って行った。




「ねえ、お兄さん。立見の人と、大門お兄さんの知り合い?」



「え?ああ……うん、大門とは同じ中学の時の友人だよ」



 そこに桜見の子の1人が野田へと声をかけ、知り合いかと言われると野田はそうだと答える。それから桜見と共に席へと座り、立見のアップを見ていた。




「あの小さい兄ちゃんと大門兄ちゃんとは一緒にサッカーやった事あってさ、技とか教えてもらったんだよ」



「何時も後半に出て来るスーパーサブのお兄さんとも一緒にサッカーしてたね。もう3人とも凄かったんだ」



「へえー(FC桜見って言えば都内の名門クラブじゃないか、大門達は彼らとも交流してたんだな……)



 桜見について野田は耳にした事がある。少年サッカーでは強豪クラブの一角であり、今年の鹿児島の全国大会を制覇した、彼らと此処で出会うとは思っておらず内心驚いていた。



 その桜見と大門が知り合いであるという事にも驚きだ。







 一方の琴峯もアップを開始。その中で目立つ大会最長身195cmを誇る室。彼が足慣らしの為に軽くリフティングしてから、地面にボールが落ちる前に右足でシュートを撃つ。相手GKのダイブは及ばず、ゴールネットを揺らす。



 このシュートに早くもスタンドは「おおー」という歓声が沸き起こっていた。




「今日も一発その調子で頼むな」



「あ、はい!秋葉原のカードショップ巡り目指して頑張って行きます!」



「いや、そこは選手権優勝目指せや」



 調子が良さそうな室に巻鷹は今日も決めてくれと、背中を軽く叩けば室は張り切った様子で意気込んだ。



 その意気込みには若干のズレはあるが。







「(TCG好きなんだなぁ、そういえば僕も秋葉原行ってない……そのうち行きたいかな)」



 室の会話をこっそりと近くで聞いていた弥一。秋葉原に行きたがっており、カードショップ目当てだと分かれば弥一も秋葉原行ってみたいとなってくる。



 東京の高校に通うが、彼はイタリアから帰国してまだ1年足らずで、東京に住んでても今の住まいの桜見や通う高校の立見を行き来がほとんどだ。他の東京エリアに行ってない所はまだまだ数多くあった。



 CMを見ていてTCGも面白そうで、始めたいと考えていた所だ。




「ん?どうかしたのか?」



「あ、お気になさらずー♪」



 そこに琴峯の1人が気付き、弥一に声をかけると弥一は笑って誤魔化し、立見イレブンの元へと向かって行った。











 アップが終わり、両者一旦控え室へ戻ると、スタメンのメンバーはユニフォーム姿となって、入場口付近で審判団の後ろに並んで控えている。




 立見も琴峯も互いに集まる中で弥一は室の隣に並び立つ。彼らが並ぶと同じ高校1年とは思えなかった。




「ねえねえ、カードゲーム今何流行ってる?」



「え?」



 弥一は隣の室へと声を潜め話しかけた。それはこの試合に関してではなく、室の好きなカードゲームの話題についてだ。



「僕としては惑星で騎士とか魔法使いとかドラゴンとかユニット達が戦う方やりたいんだよねー、アニメ面白いし♪」



「あー、あれかぁ。俺も好きだよ、デッキ持ってるし」



「え、マジ?どんなデッキー?」



「三つぐらいあるけどお勧めはそうだなぁー」



 何時の間にか、カードゲームの話で盛り上がって来る弥一と室。これから大晦日の選手権に挑むとは思えない感じだった。



「おい室、これから試合って時に何カードゲームで相手と話してんだよ」



「あ、すみません!先輩怒るから此処までで、悪いね……」



 後ろに居る先輩から室は注意されると、弥一に声を潜めて話しの中断を謝り、改めて前を向く。






「(すぐ話乗ってくれた、巨人は案外流されやすくてちょっと気が弱い方かな?)」



 先輩に怒られてしゅんとなっている姿から、室がそこまで気が強い方ではないと伝わって、室に関する情報を弥一は1つ手に入れた。




 今大会最長の巨人と最小の小人の戦いは既に始まっている。

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サイコフットボールの応援、ご贔屓宜しくお願いします。

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