空を制する者
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「今日選手権の開幕ゴールを決めた神明寺弥一君に来ていただきました。大会第一号ゴールおめでとうございます!」
「どうもありがとうございますー♪」
「前半の立ち上がりという時間帯に見事な先制ゴールでした。ご自身で振り返ってみてどうですか?」
「あれに関しては撃った瞬間良い感じだなっていうのが足から伝わって来ましたから。成海先輩も良いボールくれましたし、自分でもゴラッソ(スーパーゴール、素晴らしいゴールという意味)だったなぁと思ってます♪」
「守りでもフィジカル軍団海塚を相手に完封と体格ある相手にも立見は競り負けませんでしたね、一体その強さは何処から来てるんでしょうか?」
「多分、先輩や皆の負けたくないっていう気持ちが力になって、火事場の馬鹿力的な事が起こったから体格差を跳ね返せたんだと思いますねー」
「次の試合に向けての意気込みとかは?」
「勿論次も無失点勝利ですね、点取られないで勝つのが立見サッカーですからー♪」
「あ、お姉さん。あのカメラレンズにサインとか書いちゃ駄目?」
「え?駄目駄目駄目、凄い高いやつなんだからね!?」
その日の試合後。間も無く弥一は今日のヒーローに選ばれたらしく、勝利インタビューに呼ばれて応える。
立見が海塚に競り勝った強さの秘訣について問われれば、弥一は何時ものマイペースな笑みで気持ちのおかげと、実際は輝咲が部員達へ合気道を教えているのは伏せていた。陽気に笑う彼も自分からわざわざ手の内を明かすような真似はしない。
インタビューが終わると、弥一はアスリート達がよくやるカメラレンズにサインというのをやりたかったのか、目の前に向けられたカメラへサインを書いていいかと女性スタッフに聞く。駄目だと言われれば彼らの真似は断念しなければならなかった。
サインを書くのに関してはカメラ外の事であり、この姿が全国に流される事は無い。
立見は一足先に2回戦へと駒を進め、次は3日後の31日大晦日。年を越す前に試合を行う事となる。
「うーん、やっぱ初の選手権インタビューでちょっと緊張しちゃったかなぁー?ほら、何時も比べて硬い感じが」
「俺からすれば何時もの調子に見えるんだけどなぁ……」
昨日のインタビューを自分のスマホで見ていた弥一。自分では緊張してるなと感じたが、大門からすれば硬さが感じられなかった。これがもし自分が受けていたら、弥一よりも分かりやすく緊張していた事だろう。
彼らは朝から駅のホームにて電車が来るのを待っており、弥一はその待ち時間の間に昨日のインタビューを見ていた。開幕戦を戦い勝ち上がった、立見の特権は他の1回戦出場校よりも、早く選手権の戦いに慣れ、次の試合に向けて一日多く休めるという事だ。
インターハイ程の厳しい日程ではないが、試合は大体その日行われてから2日後というのが多く、予選の時と比べて休む時間も練習する時間も無い。
翌日の試合の疲れを引きづらないように、徹底して身体を休めるものだが、彼らはそれほど疲れてないのか、または明日も休めるからか、今日は2人である場所へ向かおうとしている。
電車へと乗り込み、少しの間密集する空間で揺られながら彼らを目的地に運ぶ。
やがて目的地の駅に到着すると時間を2人が確認した後、駅中にある蕎麦屋へと立ち寄る。大門が大盛りのかけそばを食べているのに対して、弥一はカレーライスを美味しく味わっていた。
「蕎麦屋のカレーって美味しいよねー♪」と弥一は朝カレーもたまには良いと思い、新たな食の楽しみを発見出来てご機嫌な様子だ。
此処で蕎麦を食べなかった理由としては、大晦日で年越し蕎麦食べるからとの事。
やや遅めの朝食を済ませ、弥一と大門は駅を出て目的地に向かって歩き出す。少し距離はあるが、食後の良い運動になりそうなので丁度良い。
目的地に到着した彼らの前にあるのはスタジアムであり、そこは選手権の試合が行われる会場の一つだ。
今日から立見の他の1回戦から登場の出場校が試合を行い、その中で立見の次の相手となる高校も決まって来る。彼らはその偵察で此処へと訪れていた。
「確かえーと、12時から岐阜の昇泉高校と福井の琴峯高校か」
大門はスマホで組み合わせを確認する。岐阜の高校と福井の高校。この試合の勝者が2回戦に立見とぶつかる相手で、いずれも実力は未知数だ。
どんなサッカーをするのか前もってよく見ておけば、明後日の試合で若干有利に戦えるかもしれない。
「昇泉は硬い守りが自慢で予選を僅か1失点に抑えている。東京で言えば北村みたいな感じかなぁ、琴峯の方はっと……」
同じく弥一もスマホで情報を見れば両校についての特徴があり、昇泉は鉄壁の守備による堅守サッカーで勝ち上がっていて、琴峯の方を続けて調べると弥一の目に気になる文字があった。
「福井予選で得点王に輝いた1年FWの室正明。彼の成長とテクニックに定評ある琴峯高校が見事に融合し、福井予選を勝ち上がり選手権初出場を決める。室は今大会注目ストライカーの1人、なんだってさ」
「顔は何か優しそうだけど、いやいや油断しちゃいけないな」
「大門と似たような感じで押しに弱そうだよねー」
「そんな押しに弱いつもりないんだけどなぁ……」
選手の顔写真は載っていて、室の顔はそこにあった。短髪黒髪で真ん中分けでヘアバンドをしており、顔立ちは良く言えば優しそうで、悪く言えば気弱そうな感じがした。
この見た目だが彼は今大会注目選手の1人に選ばれている。つまり1年ながら弥一や優也のようなスーパールーキーという事だ。
そう話している間、スタンドで観戦する彼らの前に、両チームがアップの為にフィールドへと出て来た。
「!」
そこに現れた1人の選手に弥一も大門も共に視線は釘付けとなる。2人が見る選手には向けさせる存在感に溢れていて、彼ら以外にも見る者は多く居る。
「デカい……」
顔立ちからは分からなかった身長。その顔は室だが、想像していた身長とは全く違う。
195cm。それが公式で載っている彼の身長で、今大会の中で最長身の選手だ。
見に来ている立見が室に驚いている事を知らないまま、琴峯はアップをしており、その中で室は先輩とパスを交換。今日のフィールドへ馴染む事に務める。
「マキさんー、東京来たのに秋葉原って何時行けるんですかー?僕カードショップ巡りたいです」
「阿呆か、このクソ忙しい日程で遊びに行く余裕なんぞある訳ないわ」
「あ、そっか。そうですよね」
マキと呼ばれた人物は巻鷹新太。桃色の短髪で身長は160代と小柄な方だが、50mを5秒台で走る快足サイドハーフ。室に幾多のパスを出し続けてチーム1のアシスト数を記録している2年だ。
室は好きなアニメがある。そのトレーディングカードをやっていて、東京の秋葉原が凄くカードショップ充実と聞けば、行きたいとなっていて東京に来るのを楽しみにしていた。
だが選手権の厳しい日程でそこに出向く余裕などある訳がない。先輩の巻鷹から怒られ、大きな身体がしゅんとなる。
「行きたいなら優勝決めて大会終わった後に行って来い。まあそうなったらなったでインタビューの連続になってどっちにしても遊ぶ暇無さそうだけどな」
「ううー、高校サッカーは過酷です……」
「何処に過酷さ感じてんだお前は」
自分達の挑戦が終われば時間は作れるだろうが、琴峯としても狙うは優勝。わざわざ選手権に負けに来たつもりで出場はしていない。
室は気を引き締めてアップを続ける。まずは初戦をきっちり勝って優勝への第一歩を踏み出す、それが今日やるべき事だ。
12時を迎え、昇泉と琴峯の試合が今キックオフ。
琴峯がボールを持って攻め込み、右サイドハーフの巻鷹へと渡る。ゴール近くへ走る室。高い身長を活かしたストライド走法はスピードが出ており、DFを振り切って行く。
そこに巻鷹は右足でアーリークロスを上げ、ボールは昇泉ゴール前に高く上がる。
これにGKが飛び出して行き、ボールを掴もうとジャンプ。
エリア内なら手の使えるGKが高さで有利。昇泉GKも180cmを超えるのでより高さは出るだろう。
その高さよりも室は更に上を行っていた。
ジャンプして手を伸ばすGK。その上から195cmの長身から繰り出されるヘディング。
室の頭から放たれたボールは飛び出して、ガラ空きとなったゴールマウスへと入る。ゴールが決まると、弥一や大門の周囲に居る観客達が歓声を上げた。
『決まったぁー!今大会注目の大型1年ストライカーが決めてくれた!キーパーを超える高さからのヘディング恐るべしー!』
『元々の長身から結構ジャンプもしましたね。この高い打点のヘディングはプロでも中々見ないんじゃないでしょうか!?』
「お前此処でもやってくれたなー!」
「ま、マキさんのパスのおかげですよー!」
仲間の円の中で共に喜び合う室と巻鷹。この2人が貴重な先制ゴールをもたらし、琴峯のムードは良く勢いが増していく。
「高い……!」
「うん、めっちゃ高い。あれ大城さんより多分高いよ」
室のヘディングを目の当たりにした大門はその高さに驚いており、弥一の方はあっさりとした感じだ。
あれだけの高さは分かっていても止められないかもしれない。それ程までに驚異的な高さである。
もし琴峯が勝ち上がれば、立見はあの大型ストライカーを相手にしなければならない。
宜しければ、下にあるブックマークや☆☆☆☆☆による応援をくれると更なるモチベになって嬉しいです。
サイコフットボールの応援、ご贔屓宜しくお願いします。