新鋭と王者への取材で彼は大胆発言
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「サッカーチャンピオンの宮崎です。今回の取材の担当記者としてまずは八重葉さん、立見さんに取材を応じていただいた事に感謝いたします」
煌びやかなホテルのロビーで、高校生4人が座り心地良い椅子に腰掛ける中。現れた担当記者は身長165cmぐらいで、栗色のポニーテールの髪型をした女性。年齢は20代前半といった外見だ。
まだ大人になりきれてない顔立ちは彼らと同じ、高校生と思われそうかもしれない。
サッカーチャンピオン。大手のサッカー専門雑誌であり、八重葉は高校サッカーを代表する絶対王者として取材を申し込まれる。立見はその八重葉と唯一、0-0で最後までインターハイを戦った。新鋭の中でも注目株として見られ、今回彼らにも声をかけて対談の場が実現となった訳だ。
宮崎は4人にそれぞれ名刺を配る。
「まずは八重葉学園に立見高校、この2チームで共通しているのは公式戦無失点記録ですよね。八重葉は去年に全試合完封で高校タイトルを全て獲得、現在もその記録は続いている。立見は去年まで守備に課題があったのが、今年は春の予選からずっと失点0で今回の選手権予選も記録を維持したまま全国出場を決めました」
双方のこれまでの戦い。スコアが記されたのをノートPCに表示して、選手達へと見せながら宮崎は取材を続ける。
どちらも今年の公式戦の物で、相手校側のスコアが0の数字でずらりと縦並びの状態だ。立見の方と比べて八重葉のゴールは桁違いに多い。立見のような1-0や2-0と接戦は無く、いずれも3点以上の差を付けて勝利。彼らが無得点に終わったのはその立見戦のみ。
だからサッカーチャンピオンとしても、立見という存在に興味惹かれたのだろう。彼らが新たな旋風を巻き起こしてくれるかもしれないと。
「高校サッカー界で1、2を争う鉄壁の守備、一体秘訣はなんでしょうか?」
何者にも今現在もゴールを破られていない、難攻不落の要塞を築き上げている2チーム。宮崎のみならず、高校サッカーのファンも聞いてみたいものと思われる。
王者の守備と新鋭の守備、同じ無失点でも何か違いがあるのかと。
「全員が懸命に走り、ボールにしぶとく食らいつく。自分も含め前線のストライカーも積極的に奪いに行くのでチームの弛まぬ努力の賜物であり、誇りと思っています」
「一番後ろを守る立場としては凄くありがたいですね。特にすぐ前には頼れる文字通りのでっかい先輩いますから」
此処で答えたのは八重葉の照皇。真面目な優等生という感じで答えた後に、隣の椅子に座る龍尾は若干笑いを誘うような、ユーモア解答を付け足すように言う。
「立見の方はどうでしょうか?」
「そうですねぇ、八重葉さんと似てると思いますよ。うちも彼が守備で走ってくれたり時にDFラインまで下がって守ったりもしてましたから、後は全員が共通して守備に高い意識を持ってプレーし、高い集中力を維持して守っているおかげですかね?」
「今のサッカーはFWも守備で汗水流す時代と指導されたので、その教えを守り八重葉の照皇さんを参考にしています。それに先輩達が一生懸命走っているのに自分だけサボる訳にはいかないというのもあります」
宮崎は視線を八重葉側から立見側へと移し、同じ問いをすると弥一は話しつつ優也の方も見たりとした。守備の秘訣、それぞれが当たり障り無い程度に話して、手の内は晒さない。
「では、お互いの印象などはどうでしょうか?」
続けて宮崎は一同に質問する。立見と八重葉は互いにどう思っているのか。
「立見高校は部が創立されてから2年と聞きまして、正直驚愕しました。インターハイで直にぶつかり合って選手一人一人がよく鍛えられてると感じましたね」
「普通だったらまだ土台となるチーム作り段階ぐらいの時期なはずがもう全国ですからね、漫画やドラマの世界を見てるようでしたよ」
照皇が最初に答えてから龍尾も後で答え、いずれも短期間で全国へ来ている事に驚いているという印象だった。
「実は僕、今年の春ぐらいまで八重葉さんの事知らなかったんですよねー」
「そうなんですか?」
次に答えた弥一は此処で自分が八重葉を知らなかったという事。それを聞いて宮崎は意外そうな表情を浮かべて弥一を見ていた。
高校サッカー界に身を置く者ならば、誰もがその絶対王者を知っているはずなのだから。
「それまでイタリアに留学してて日本のサッカー事情疎かったんです。だから何処が有名かとか分かってなかったのでー」
「ああ、そういえば神明寺君はミラノの下部組織ジョヴァニッシミに所属していたんですよね」
流石は記者と言うべきか。弥一がこの日本に来る前、何処に居たのか既に調べていたようだ。
「知ってきて色々凄くて参考になる事とか学ぶ所は多くありましたよ、実際に試合前のカステラとか真似して食べるようになりましたからー。あれ美味しいですよね♪」
「カステラについてはまあ、美味いな。消化に良く短時間でエネルギー摂取が可能となり、身体に余計な負担をかけずに栄養を吸収出来るスーパーフードと八重葉に身を置いて学んだ事だ」
カステラの美味しさについて弥一から急に話を振られ、照皇はカステラの利点について語る。
「毎回美味いカステラ食えて八重葉に居て幸せなもんだよー」
以前そのカステラに食い飽きた事を棚に上げて、龍尾は八重葉の伝統を賞賛していた。
「ええと、僕ですか。チーム全体がハイレベルなサッカーを展開して動き、攻守で隙が無くて同じ高校生とは思えませんでした」
此処で優也が答える番が回って来ると、八重葉に対してレベルが高く隙の無いサッカーをしてくる、という印象を表情一つ変えず話していく。
「先程も言いましたが、照皇さんを同じFWとして学ぶべき点が多くて参考にさせてもらってます」
「なるほど、それが歳児タイムとなる立見の後半の得点力に繋がっていく訳ですね。ちなみに巷で言われている歳児タイムと呼ばれている事について、ご自身ではどう思っていますか?」
「一体何時誰がそう言って広めたのか正直困惑してますが、そう言われて期待されているなら出来る限り応えようと思います」
優也の方に質問が終わると、宮崎は龍尾へと今度は話を聞く。
「聞くところによると工藤君は2年で高校サッカーは今度の選手権で最後の大会とするそうですが、それはやはりプロの世界へその後に飛び込むという事でしょうか?」
「そうですね、世界だと自分よりも年下でもうプロ契約したりというのが珍しくありませんし早いうちがいいかなと。昔だと自分と同じ年の頃にブラジルでサッカーの王様と呼ばれたレジェンドプレーヤーが母国と共に世界チャンピオンにまで輝いてますから」
世界では10代の頃から、既にプロの第一線で活躍するのは珍しい事ではない。
自分達と同じ高校生という年代にして、既に世界の頂点に輝くという事がその昔あったぐらいなので、早い内にプロの世界に慣れ親しんだ方が良いと龍尾は答える。
現に近年では日本でも、現役高校生にしてプロ選手というのも増えてきている。それに龍尾も加わろうとしていた。
そうなれば高校サッカーの方に出る事はもう出来ず、龍尾にとっては今回の選手権が最後の大会だ。
「最後となる高校サッカー選手権、ずばり目標は?」
「勿論、高校最後の大会を八重葉の2年連続無失点Vでフィナーレですよ」
龍尾は不敵に笑って答えた。人々からすればかなり大きな目標とされるが、去年八重葉はこれを達成しており、彼らはそれを叶える力を持っている。
八重葉の力をもってすれば、龍尾の言った目標達成も不可能ではないだろう。
「照皇君はいかがですか?」
「そうなるように自分は力を注ぐのみです」
照皇の方は表情に変化は無く冷静に答える。龍尾が最後であろうがなかろうが、照皇のやるべき事は何も変わらない。
何時も通り走り、守備にも貢献しつつゴールを取る。それだけの事だ。
「立見の方は選手権の目標は?」
宮崎は弥一へと視線を移し、今度は立見の目標を尋ねる。
「インターハイでやられた八重葉を叩き潰して無失点優勝です♪」
「!?」
無邪気な笑顔で弥一の発言、この言葉にホテルロビーの空気が変わる。
「なーんてそんなの恐ろしくて言えませんよ、今の良い取れ高でしょうー?」
「あ~……あはは、神明寺君。取れ高とかそういうのは気にしなくていいですからね?」
ただの冗談と弥一は自分の言った言葉を無かった事にしようと、照皇や龍尾の方を一切見ないまま明るく笑い、宮崎の方は苦笑いだった。
「まあ、とりあえず行けるところまで行って国立まで行けたら最高。ていうのが本音ですねー」
高校サッカー界の聖地である国立。そのフィールドに立つ事は全ての高校サッカープレーヤーの憧れであり目標で、弥一はそこに辿り着くのが目標と答える。
「歳児君はどうですか?」
「同じく行けるところまで、です」
優也は言葉短めに答え、弥一と同じく行けるところまで行く。国立も当然狙っていた。
この間に照皇は静かに目を閉じていたが、龍尾の方は弥一を見ている。まるで獲物を見るような目だ。
その弥一も龍尾を見る。
今なら龍尾の心の声はハッキリと伝わって来ていた。
それも今まで聞いた心で大きな声、つまりそれだけ心で強く思っている事だ。
「(こっちが叩き潰してやるよ、立見)」
インターハイに続いて再び立見と当たり、倒そうと考える龍尾。彼の思い描いているフィナーレに新たなシーンが加わったらしい。
大口を叩く生意気なチビを立見共々倒し、心置き無くプロの世界に飛び込む。
それが龍尾の思い描く展開だ。
「(絶対今度はぶっ倒してやる、八重葉)」
あの時の事は一日たりとも頭から離れた事は無い、今でも鮮明に覚えている夏の敗戦。
これを完全に払拭するにはあの頃の八重葉、歴代最強と言われる今の彼らを倒すしかない。
弥一は絶対王者へのリベンジを誰よりも強く望んでいた。
両チームの取材の中で火花を散らしつつ、立見と八重葉の取材は終わりを告げる。
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