エースとの勝負
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
天候は快晴。秋の日差しで気温は10月の中では高め、暑過ぎず寒過ぎずと過ごしやすい天気に恵まれる。
この日高校サッカー選手権東京予選の準々決勝を迎え、立見の出番となるAブロックの試合が始まろうとしていた。
相手は空川学園。前回はインターハイの東京予選2次トーナメントで立見と当たっており、エース不在という戦力ダウンもあって結果は3-0。
立見が前回の試合では勝利し、空川にとってはあの時のリベンジ戦だ。その彼らは試合会場にてウォーミングアップを行っている。
足の状態を確かめるように、チームメイトと数回程パスを繋いで蹴って行く。空川のジャージを着た黒髪ドレッドヘアの男、180cmに近い身長で体格が良い。
足元の技術が優れてるだけでなく、体の強さも兼ね備えてる。屈強なストライカーで万能なプレーヤー。東京でも注目度の高い、空川3年の三船新吉はつま先でボールを浮かせると、ゴールに向かって右足で落ちて来た球を正確に捉えた。
勢いあるパワーシュートがネットを揺らす。
「よーし好調!」
今のシュートに手応えを感じた三船。自分の調子が良いのを確認して機嫌が良さそうだ。
空川のエースである彼は3回戦の試合でハットトリックを達成しており、チームは4-0で快勝。元々強豪として力を持っていて、三船も戻った事により今回の空川は万全。
チームメイトと笑いながら話し、三船はロッカールームへと引き上げて行った。
「見たろ、あの体格から繰り出される豪快なシュートが三船の武器であれにテクニックまであると来る」
「加えてポジションGK以外出来て走り回れる、まさに万能って訳だねー」
ベンチで三船のウォーミングアップを観察していた摩央。アップを終えてベンチへと引き上げて来ていた弥一と三船について話す。
器用でパワーもあってレベルの高いプレーヤーとして三船は東京では有名だ。前回の試合でいなかった彼が今回加わる事で、立見の無失点記録も危ういという声も上がる程だ。
三船は間違いなく警戒すべき相手だと摩央に言われつつ、弥一もロッカールームに試合の準備の為向かう。
「八重葉を相手に0点に抑える程の守備は厄介、その中でも特に神明寺弥一の異常なまでの読みの鋭さが大きな壁となってくるはずだ。攻撃の時は彼の位置に気をつけてパスを行う事」
空川のミーティングでは弥一が要注意と言われ、彼の位置を見極めてパスはするよう監督から選手へと伝えられる。
彼をなんとかしない限り、立見から得点するのは難しいだろうと考えられていた。
その異常な読みの鋭さは人の心を読めるから、というのは当然ながら全く考えられてなく気付く様子も無い。
「そんな凄いもんかねぇ?神明寺弥一ってのは」
「だってあいつ東京MVPだぞ?」
三船は近くに居るチームメイトへと心にあった疑問を口にしていた。皆が弥一を警戒するのを見たり聞いたりしているが、警戒し過ぎだろうというのが素直な感想だ。
直接当たっていないので、動画で見るぐらいしか弥一の事は見ていない。確かにインターセプトの成功率が異常に高かったり、脅威のキックも合わせ持っていて、鋭い読みと技術の高さがあるのは三船も認める。
だがそれぐらいだ。見ての通り弥一は身体が細く小さい。子供のような体格で激しい当たりがあるサッカーでは大きく不利、自分の鍛え上げた力で軽く跳ね返せる。
更にテクニックも負けているとは思っていない。
全部において弥一に勝てる、三船はその自信があった。
試合前、両校のスタメンでは弥一と三船。共にその名前はあって開始から2人が出て来る事は確定している。
ポジションについた弥一はその場で軽くジャンプして試合開始に備えている。空川のキックオフで始まる為、三船はセンターサークルに置かれたボールの前に2トップを組むチームメイトと並び立ちながら、弥一の姿を見ていた。
ピィーーー
空川のキックオフで、立見と空川の準決勝の切符を懸けた試合が開始。
開始から空川は奇襲を仕掛ける。三船がボールを持つと近くの中盤の選手と繋いで行き、巧みなパスワークを見せる。
そこに立見の鈴木がボールを受け取った三船に左から向かう。身体を入れようとするが、三船は鈴木に向かって長い腕を広げ、身体を入れさせない。
三船を追い越すように、右のサイドハーフが右サイドを上がって行き、三船はそこへすかさず左足でスルーパスを送ると、自らは鈴木を振り切りゴール前に走る。
「(このままこっちにクロスだ!)」
三船は右サイドへ視線を向けて、こっちにボールを要求しに右手を上げようとしていた。
だがそこに右サイドハーフは走り込んではいない。
何故なら弥一がこのスルーパスを読んで先回りし、カットしていたからだ。
「落ち着いて落ち着いてー、じっくり行こうー」
その場でボールをクリアした弥一は仲間達へと積極的に声をかけていく。
立見も空川陣内へ成海を中心に攻める。
ボールを持った成海に対して空川は2人がかりで止めに向かい、これに右へと成海は左足のインサイドキックで、田村に正確なボールが送られる。
田村は得意のサイドを使っての駆け上がり、近くに居る岡本とのワンツーを使い、右コーナー付近まで侵入に成功。ゴール前の豪山へと高いクロスを放り込む。
これを豪山が頭で合わせようとするが、空川のGKがその前にパンチングでボールを空川エリアから掻き出す。このボールが空川の選手に拾われて、カウンターのピンチを立見は迎える。
下がり気味に居た三船へパスが出され、三船はドリブルで攻め上がって行く。それに対して川田が立ち塞がると、三船はボールに向かって右足を振り上げるモーションを見せた。強引に此処からシュートを狙いに行く気なら、彼のパワーを思えばゴールに届くシュートは可能なはずだ。
そう判断した川田は左足を出して、ボールをブロックしようとしている。
だが三船はそのギリギリでキックから切り返し、ブロックに入っていた川田を抜き去る。
三船によるキックフェイントで躱し、独走になりかけた時に今度は弥一が三船へと迫る姿が見えた。
「(お前も抜き去るさ、東京MVP君よ!)」
弥一が迫り来るのに対して、正面から抜こうと三船は待ち構える。そして三船が体重移動をかけた所に弥一も動く。
これを見ていた三船。そのまま左のインサイド(足の内側)で右のインサイドへとボールを転がし、今度は右のインサイドで前に転がす。まるでLの字を描くように。
この一連の動作を三船は素早く行っていた。
前へと転がした時、弥一は横を抜かれる。その時に彼は三船の体重移動に釣られて反応出来てない。
これで抜ける。
しかし彼に足元にボールが収まる事は無かった。
「!?」
何故なら弥一が左足にボールを当てて弾いており、三船のフェイントを読んだからだ。
三船が驚く一瞬の間に、弥一は弾かれたボールを蹴り出してクリア。空川のカウンターを阻止してみせた。
「(読まれた……?嘘だろ)」
弥一に対するフェイントは先程、川田に仕掛けたキックフェイントより自信がある物で、弥一は釣られてたはずだった。
だが実際は違う。弥一にあのフェイントで抜く事が出来ずに阻止されてしまう。
「ねえ、今のダブルタッチでしょー?」
そこに弥一は三船へと声をかける。
三船が今弥一へ仕掛けたのはドリブル中に使われるテクニックの一つ。左右のインサイドを使って相手を抜くダブルタッチと呼ばれる物だ。
「だったらなんだよ?」
声をかけて来た弥一を見下ろす三船、小さな彼の顔は笑っていた。
「あんまたいしたことないんだね」
無邪気にな笑みのまま、弥一は三船の仕掛けたダブルタッチをレベルが低いとハッキリ言い切る。これには三船は表情が驚きから怒りへと変わっていく。
「たいした事無いだと?空川のエースだぞ俺は」
強豪である空川でエースとしてサッカー部で活躍する三船。その自負もあり、弥一に言われて黙ってはいられなかった。
「うん、試合前に豪快なシュート決めてパフォーマンスしてくれたよね。あれは良いシュートだと思うよー」
試合前に三船が繰り出したシュート。あれは良いシュートと弥一は言うが次にはその無邪気な顔は変わっていた。
「けど、あのシュートをあんたが撃てる事は無いから」
不敵に笑うと三船の顔を見上げて弥一は宣言する。試合前に三船が撃っていたシュートをこの試合撃てはしないと。
「っ!?」
先程までの無邪気さとは一変しての強気な表情に、三船は一瞬戸惑うと弥一の方は既にポジションへと戻りに走っていた。
弥一の完封宣言から試合は再開されていく。
宜しければ、下にあるブックマークや☆☆☆☆☆による応援をくれると更なるモチベになって嬉しいです。
サイコフットボールの応援、ご贔屓宜しくお願いします。