勢いある相手にエンジンかかる天才
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「なあ、真島と前川どっち勝つと思う?」
「難しいね、どっちも優れたプレーヤー揃えてたり実力あるチームっていうのは実際当たって分かってるからさ」
立見高校のサッカー部。その芝生にあるフィールドで、間宮は影山に柔軟を補助してもらいながら、今度行われる予選の2次トーナメント。立見とは別のブロックで、真島と前川の2校が戦う。
強豪と古豪の激突。3回戦注目のカードとなっていて勝つのはどちらなのか、尋ねられた影山は間宮の背中を押しつつ予想する。どちらが勝ってもおかしくないので、予想はかなり難しい。
間宮も「だよなぁ」と同じように予想が困難な様子だった。
「お前はどう思うよ?」
「ほあ?」
間宮は目の前に映る相手にも今度の試合の予想を聞いてみるが、反応を示すだけで何も喋らない。
白い猫のフォルナはただ青い宝石のような瞳を間宮へ向けて見るのみ。柔軟体操に関心があるのか、間宮や影山に関心があるのか定かではない。
「っ!」
「うお!」
サッカーマシンの発射台から撃ち出されるボール。速いスピードを持って低い弾道で合わせに行く優也だが、その前に間宮が蹴り出してクリア。
「次いきますね~」
彩夏がボールをセットするとマシンを操作し、再び機械から球は放たれる。
今度はエリア内に高いセンタリング、これもまた速いボールだ。
「おおし!」
高く上がったボールに対して長身の豪山が飛ぶ。だがその前を遮るように大きな影が現れる。
気づけば大門が豪山より高くジャンプしている姿があった。長い手のリーチもあるので高さはキーパーが有利。この球をキャッチして地面に倒れながらも腕の中に収めていく。
「皆速いクロスとか対応出来てるなぁー。大門とか最初はあれ速くてキャッチ出来なくてパンチングで弾いてたけど気づけばキャッチ出来るまで行ったし、成長してるよね?」
「ほあ~」
皆がサッカーマシンによるクロスボールに合わせたり対応の練習を重ね、見ていた弥一はフォルナにおやつのササミをあげつつ、皆の成長を楽しげに語りかけていた。
それに応えるようにフォルナは鳴き、弥一からのササミを食している。
「弥一!次フリーキックだから来いー!フォルナと遊んでばっかでサボるなー!」
「あ、はーい」
先輩部員からセットプレーの練習だと呼ばれ、弥一はフォルナへと明るい笑顔で軽く手を振り、小走りでフィールドへと向かう。
彼の左足から放たれる高度なキックは壁に立つ人々の斜め左上を超える。ゴールを外れるかと思えば、そこから急激に曲がり右下へと落ちるように向かい、同じ方向へ飛んでいた安藤の手は届かずゴールへと入る。
先日見せた鳥羽のキックと比べればスピードは若干落ちるが、近いキックを弥一は再現してみせたのだった。
選手権の東京予選、立見の3回戦が行われる。今日の天気は曇り。空が泣き出すのかどうか分からない微妙な天気を迎え、フィールドに相手の選手達が円陣を組んでいく。
この日の立見の相手は新鋭の河雲高校。
1回戦から此処までノーシードで勝ち上がり、勢いある攻撃サッカーが持ち味のチームだ。2次へと入り3-0、8-1と勝利して調子を上げて今日の立見戦へと臨む。
「俺達なら立見を倒せる、気合入れてけ!」
「おお!」
気合充分な河雲イレブン。同じ新鋭である立見に負けられないという意地があってか、気迫は2戦の時よりも満ち溢れていた。
その勢いのままに河雲は前半から飛ばして攻めに行く。各自がそれぞれ走りパスを繋いで、立見のゴールを目指して崩しにかかる。
ひたすら真っ直ぐな攻撃サッカー。これが俺達の信条だとばかりに攻めに迷いは無い、カウンターのリスクも承知という感じだ。
右サイドから攻めて来た河雲。そこに立ち塞がるのは立見の新レギュラーとなる左サイドバック水島翔馬。
「(シザースは、そんな速くない。落ち着いてっと!)」
相手選手はボールを跨ぐフェイント、シザースで翔馬を翻弄しにかかる。これを翔馬は落ち着いて見ており飛び込まない。
どうにかして翔馬を躱そうと相手が動くも、翔馬はピッタリと追走していてクロスを簡単には上げさせないでいた。
「っ……!」
これに相手はなんとか上げようと強引にクロスを上げるも、精度を欠いてしまってGKの大門へと向かうようなボールになってしまう。
大門は落ち着いて対応し、ジャンプしてからの両手でキャッチ。難なくボールを腕の中に収めた。
「ナイスディフェンス翔馬ー!」
翔馬に声をかける大門。それに応えるように翔馬は大門へ向かって、右手の親指を立てていた。
「此処我慢よー、此処凌げばチャンスあるよー!相手さん絶対攻め疲れるからー」
膠着状態が続き、弥一は周りの仲間達へと声をかけていく。
そんな中で相手が再び攻め込み長いパスを大胆に通して来た。ショートで繋いでいってから、意表を突く狙いで中盤から縦へのパスだ。ボールは勢いよく転がるように芝のフィールドを移動する。
だが先回りして読んでいたのか弥一がパスコースに飛び込んでおり、右足でこのボールを受け止めてインターセプトに成功。
「っ!?(また……!これで何度目だ?)」
相手選手は何度か決定的となるパスを送っているつもりだが、いずれも弥一にカットされてしまう。
全部読まれているのではないか。そんな感覚に襲われていたが、実際本当に読まれているのに本人が気付く事はおそらく無い。
試合は前半38分。0-0でこのまま前半終了かと思われた時、ボールをキープしていた影山が相手に倒されてファール。
FKのチャンスが立見に与えられる。距離は40mで立見から見て右寄り、そして置かれたボールの前に立つのは弥一だ。
彼の前に壁が作られ、河雲のペナルティエリア内には長身の豪山に川田。更に間宮とヘディング得意な選手が待ち構えていた。
「(ゴールからいくらなんでも遠いよな。でもあいつは鳥羽クラスのキックを持ってる。此処は大きく曲げて直接狙って来る可能性あるか)」
河雲GKは弥一の姿を見て、思考を巡らせていた。
何度か彼のキックはインターハイの予選や本戦の動画で見ている。驚異的なカーブとドライブを得意とするのは分かっており、狙うならそのどちらかだろう。
40mの距離、だが弥一なら狙うかもしれない。
河雲の守備陣は当然、それぞれの立見の長身選手にマークを付けて、フリーにはさせない。
審判の笛が吹かれると、弥一は軽やかなステップを踏んでから、右足で蹴るモーションへと入る。
「(曲げてくる!)」
河雲GKは身構えて、弥一のカーブかドライブを警戒している。それは壁に立つ選手も同じだ。
弥一の右足から放たれた球は大きく、弧を描くように壁の右上を超えて行く。
普通なら大きく外れるであろうボールだが、河雲GKは騙されない。此処で曲がってゴールを捉えるはずだと左下へ落下し、上隅を狙う読みで先に動き出していた。
「!?」
それを裏切るかのように、ボールは彼らの予想よりも速く動きに変化を見せる。
ボールはゴールへ行く前に右上から左下へと落ちて行き、そこは丁度間宮の頭上。これに間宮は飛び、河雲DFもジャンプ。
競り勝ったのは間宮、数え切れない程に行ってきた彼のヘディングはボールを捉えて叩きつけていく。
GKは意表を突かれて反応が遅れ、ダイブするも伸ばした手は届かず、ゴールネットが小さく揺れていった。
前半終了間際の先制ゴール。弥一のキックから間宮の頭と繋ぎ、生まれたDF同士の連携による先制点だ。
「間宮先輩ナイスヘッドー♪伊達にヘディングばっかやってないですね♪」
「それしか能が無ぇみたいに言うな!やっぱ生意気だなこのチビはー!」
弥一がからかうように労い、間宮はその弥一へと軽いヘッドロックをかけていた。1点入った事により立見は良い雰囲気となっていく。
「(直接来るかと思ったらパスかよ!)」
完全に騙された相手GK。その心は弥一からしっかり見えている。
「(あんな長い距離は流石に狙えないよ)」
弥一の技術でも、今の40m前後の距離を直接決めるのは無理がある。相手の思い込みのおかげで裏をかく事に成功したのだった。
後半には優也が出場し、先制した事により戦況は一変。立見のペースで試合は進み、前半に攻め続けた河雲が今度は我慢の時間帯に追い込まれる。
その守りも長くは持たず後半18分。弥一からスペースめがけて蹴られたパスに優也が走り、大胆に飛び出していたGKを冷静に躱し、空のゴールへ流し込み追加点。これで2-0。
ダメ押しとなったのは後半30分。CKのチャンスで武蔵のキックから豪山。相手DFと競り合い零れた所に優也が蹴り込み、今日2点目となるゴール。
試合は3-0で立見が新鋭の河雲に勝利。
弥一はこの試合で2アシストと攻守で活躍を見せており、3回戦でエンジンがかかって来ていた。
立見3-0河雲
間宮1
歳児2
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