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スーパープレーの陰に

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 後半終了まで残り後僅か。0-0なら10分ハーフの20分延長戦はあるが、それは決勝戦のみだ。



 この2回戦には無いのでPK戦にすぐ突入となる。それまでにどちらかがゴールを奪わなければPKは避けられない。




 気温はこの日32度以上を記録。これに審判は後半27分付近にボールがタッチラインを出て、アウトオブプレー(試合の進行が一時的に中断された状態)となったタイミングで3分間の給水タイムを指示。



 クーリングブレイクと呼ばれる物であり、審判の判断で試合を一時止めて3分間の給水を設けられる。近年の猛暑対策として、日程の厳しいインターハイでも導入されて選手達の安全を考えた物だ。




「はぁっ、あっつ~……」



 少しでも直射日光を避けようと一時ベンチへ戻り、弥一はスポーツドリンクをグビグビと飲む。頬からは汗が滴り落ちていき他の選手も似たような状態。



 ずっと厳しい暑さの中、フィールドを走り回り戦っていたので、皆が水やスポーツドリンク等を飲んで喉を潤したり、アイスパックを身体に当てて冷やしたりと、各自がクーリングブレイクを利用して身体を休めていた。



 弥一の隣に座る優也も水を飲んでいた。後半からとはいえ彼は此処まで相当走り、今回は主に守備で活躍を見せている。



「大丈夫?ペース配分考えないで凄い走り回ってたように見えたけど」



「余計な心配しなくていい」



 弥一は冷たいタオルを自分の肩にかけつつ、隣の優也へと声をかける。何時も通りの調子の優也だ。心を見ても辛いという感じは無い。



 立見サッカー部で1、2を争うスタミナは伊達ではなかった。



「そういうお前は大丈夫なのか?前の試合から今日此処まで、こんな暑い中でフル出場だろ」



 優也よりも弥一の方が出場時間が長い。更に今日は昨日の曇りと違い猛暑、更に弥一の相手は高校No.1ストライカー照皇と、かなり厳しい要素が積み重なって来ている。



 負担は相当な物のはずだ。




「暑さならイタリアで慣れてるつもりだけどね。日本とはまた暑さの質が違ってたなと今更思ったよ」



「向こうだと違うのか?」



「日本の湿度の高い蒸し暑さと比べたらイタリアの方は湿度低いんだ。日差しは凄い強い」



 日本を離れ3年程弥一はイタリア留学を経験してきた。小さな彼にとっては久々に感じる日本の夏の暑さ。



 まともに全て全力疾走で、走り回るのはまず体力が持たない。特に今の猛暑が厳しい夏の時期だと、通常よりも消耗は激しい物となってしまう。こういった合間の休憩は非常にありがたいものだ。




「残り時間まだ走れる?」



「走れなきゃフィールドに立ってなんていない」



「頼りになるねー♪」



 残り時間はかなり短い。走れるかどうか弥一が尋ねると、優也はベンチへ水筒を置いて答えてから立ち上がり、ベンチを離れ再びフィールドへと向かう。



 頼もしいクールな彼の背中を楽しげな笑みを浮かべ、見送ると弥一も肩にかけていたタオルを外し、ベンチに置くと優也同様、再び芝生へ足を踏み入れて行った。








『後半も残り後僅か!此処まで0-0、王者八重葉相手に立見が健闘しております!』



『おっと、八重葉チャンスですよ。立見は此処が踏ん張り所ですね』




 後半も終盤を迎え、地力で勝る八重葉が再びボールを支配し始め、立見ゴールへと迫る。



 弥一は照皇をマーク。攻撃の時は照皇が弥一に張り付いているので、今度は弥一が照皇へ張り付き返していた。




 照皇が弥一を振り切ろうと走るが、弥一は照皇の走るコースを先読みして遮り、フリーにはさせない。




 猛暑のフィールドで走り回る二人。流れ落ちる汗にも構わず天才達は争う。






 村山が優也を躱し、右足でスルーパスを送る。照皇への走りに合わせたボールに、照皇は瞬時に反応して走る。後半も衰えない彼の運動量。これに弥一も反応して走ると、弥一は出されたボールの方へと向かい、照皇に渡る前に蹴り出してクリア。



 後で見れば照皇は弥一の至近距離に居た。



 彼は弥一ならインターセプトしてくると読んで、咄嗟に走るコースを切り替え、弥一へと向かっていたのだ。



 そして弥一もこれを察知してボールを止めず、そのままクリアという選択を取った。



「ある意味信頼してくれてたのかな?僕ならあれを取れるって」



「お前相手では取られる、そう思っただけだ」



 あのまま取ってキープしていたら照皇が寄せていた。そうなったら最悪ボールを取られシュートまで持って行かれた可能性があったかもしれない。



「(ホント、最高にやり難い相手だなぁもう!)」



 今まで体格ある相手にも、巧い相手にも勝って来た。此処まで苦戦するような相手は何時以来になるのか、それぐらい久しい強敵との対決。



 長身で強靭なフィジカルを持つ上に巧く、見た目で相手を侮るような事もしない。



 それが今争う相手、照皇誠という男。




「(不思議なものだ。こんな小さいというのに、今までのどのDFよりも抜き難い!)」



 全国を戦い、様々なDFと渡り合って来て勝利を掴んだ。時には自分よりも体格で上回る相手にも競り勝ったりもした。




 今までのどの相手にも無いタイプのDF。信じられない程に読みが鋭く、テクニックがずば抜けている。



 神明寺弥一、天才DFと呼ぶに相応しい相手。





 試合が終盤に入っても両者の攻防は続く。





 再び左サイドで月城がボールを持つと、そこに翔馬が迫ろうとしている。その姿は月城からしっかり見えており、月城は左足で一気に前線へとロングボールを送る。



 ボールは中央のゴール前。照皇へと伸びて行き、照皇はタイミング合わせてポジションを取るとジャンプ。そこに弥一は勢いをつけて地を蹴り、照皇と衝突覚悟で空中で競り合う。



「ぐっ!」



「いだ!」



 身長で遥かに勝っており、ヘディングも得意とする照皇。そこに弥一が勢いをつけて競り合って来るも、照皇の屈強な身体が弾き返し、弥一は芝生の上に仰向けで倒される。



 だが照皇も弥一が勢いよくぶつかって来た事により、楽なヘディングはさせてもらえず、頭でボールを送るも精度が悪い。



 坂上へと落とすつもりのボールは流れてしまうが、そのボールを村山が取る。



 川田は村山がまた撃って来ると見て、前に立ち塞がりブロックを試みていた。




「5番!大城!」



 そこに弥一がフィールドに倒れたまま叫ぶ。大門がそれを聞いて前をよく観察すると、一際大柄なおかげでその選手は目立ち、すぐ見つける事が出来た。



 何時の間にか大城が攻撃参加に上がっている。残り少ない時間帯、大城は此処で1点を狙いに自らもこの攻めに出て来ていたのだ。



 村山は川田の方を見たまま、上がって来た大城へと巧みにパスを送る。




 そのボールに大城は前を見据えたまま右足を振り抜き、正確にボールを当てて飛ばす。大城のパワーロングシュートだ。



 距離はあるが風を切るような勢いで、立見ゴールを強襲していく。まるでキャノン砲だ。




 大城の姿を弥一のおかげで気付き、彼の動きを見ていた大門。いち早くシュートに反応すると、ゴール右に飛んで来た豪砲へダイブ。両腕を伸ばして触れた瞬間伝わる強い衝撃。



 だがボールは離さないと衝撃に負けないよう、しっかり逃さず抱えれば、球を腕の中に収めてキープ。



 大城が放つ右足によるキャノン砲を大門はキャッチして、八重葉の攻撃をシャットアウトする事に成功した。



『村山から大城、豪快な右足のロングシュートを立見GK大門キャッチして止める!』



『勢いあってパワーある大城君のシュートでしたけどね。これは取った大門君を褒めるしかありませんよ』





「(こいつ、倒れながらコーチングを……)」



 立ち上がり大門へ「ナイスー♪」と声をかける弥一の姿。それを照皇は見ていた。



 自分で競り合い、吹き飛ばされて倒れたはずだった。だが彼は転んでもタダでは起きず、大城が上がって来ていたのをあの状況で察知していたのだ。



 そして上がって来た事を知らせるコーチング。倒れながらそんな事が出来るのかと、照皇の頬に暑さの汗と違う類の汗が頬を伝って、フィールドへ滴り落ちていく。




 スタンドから見れば、大門がこのピンチを救ったと見えるだろう。彼らはその陰に弥一のコーチングがあった事を知らない。



 実際フィールドで間近にいなければ分からない事だ。




 1軍である八重葉をもってしても、此処まで立見から1点も取れていない。その無失点の原動力となっているのは間違いなくあの小さなDF。




 照皇が改めて弥一の力を確信すると共に、ボールは大門によって高く蹴り出され、その行方を見た審判は笛を口にし吹き鳴らした。




 後半が此処で終了。




 70分程の試合が終わってもスコアは0-0。立見は八重葉の攻撃を最後まで凌ぐも、攻撃には中々出られず両者無得点。




 試合の決着はPK戦。そこでこの試合の勝者と敗者が決まる。

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