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流れを覆す一撃

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

「戻せー」



 泉神がボールを持ち、後方から泉谷は立見の隙を伺う。序盤こそ猛攻に出ていたが今は落ち着いており、泉神側のフィールドでパスを回していた。



 出来る事なら猛攻出来ている間、1点と行きたかったが大門に阻まれ、更に弥一に大事な所で防がれたりと先制ゴールとまでは行かない。



 その代わり立見に此処までまともな攻撃はさせておらず。泉神はまだシュートを受けてはいない。守りとしては此処までほぼ完璧と言えるだろう。



 立見が全国の緊張からか、本調子ではないというのもあるかもしれない。



 先制点がならなかった以外はほぼ泉神のプラン通りだ。




 無理には攻めない、隙あらば攻め入る。



 奇襲が効果的と思えば迷わず攻撃。それ以外は徹底して守り、時間を潰す。




 それが泉神のサッカー。彼らは迷わず実行していた。







 ピィーーー




『此処で前半終了、泉神は前半に惜しいFKのチャンスがあってボールを支配してましたが得点まで至らず0-0。スコアレスで後半戦を迎えます』






 35分の前半が終了となり、0-0。立見はシュートが撃てないまま、泉神にボールを支配されていて押される展開となる。



 観客達は立見が桜王を破り、新たな東京王者となった事で立見有利と思われたが、この前半を見て泉神が勝つのではという考えが増えつつあった。





「なんとか前半は0-0で乗り越えられたけど、このまま行くと得点出来ないままPK戦になるのは充分考えられる……」



「分かってはいるけど、焦ったら向こうの思う壺だ」



 ロッカールームで扇風機が回される。選手達がそれぞれ飲み物を飲んで、消耗した体力を少しでも癒そうと回復に専念。一方の京子は考え込んでおり、成海も険しい表情だ。



 リズムに乗り切れない今の立見。両者無得点だが、今は泉神が試合をリードして優位に立っているような物。




「向こうって我慢が得意なんですよね、徹底して守ったり隙無かったら攻めなかったりと」



「ん?ああ、それが奴らのサッカーだからなぁ」



「じゃあ……」



 何かを思いついた様子の弥一、それを選手達へと伝えていく。今はどうすれば良いか見えない状態なので、京子も弥一の話を聞いている。



 名将はいないので作戦は主に生徒達が決める。時に1年の作戦が良さそうならそれを実行する事もあり、今がまさにそうだった。







 15分のインターバルが終了し、両チームの選手達が再びフィールドに戻って来て位置につく。立見は岡本と鈴木を下げて中盤を交代。泉神も前線のFWとSDFをそれぞれ交代していた。



 交代枠5名のうちの2つを両校使い、残りは共に3つだ。




 前半攻撃させてもらえなかった立見のキックオフで後半戦は開始される。




 ピィーーー





『前半シュートの無かった立見、東京の新たなる王者として反撃なるか!?』



『これは、攻めませんね立見』




 後半戦が開始されると立見は後ろのDF陣や中盤でボールを回していく。交代した選手にボールを慣れさせる為なのかと、泉谷は立見の様子をじっと泉神のペナルティエリア前で待ち構えつつ見ている。





「(立見の攻めは主にカウンター、引いて守ってる相手にそれを仕掛けてもしょうがない。だから此処は時間かけてじっくり攻める)」



 全国で緊張していたり、先制点が欲しいという気持ちが先走っていて立見は相手が引いているにも関わらず、強引に攻めたりしていた。



 それが立見のリズムを狂わせ、攻撃が噛み合わずチャンスが作れなかったので、弥一は相手がじっくり来るならこっちもじっくり行こうと提案。優也に武蔵が投入される時間までは、これで行こうと決まったのだ。




 速攻ばかりが攻撃ではない。時に止まり相手の陣形をよく見て観察し、時間をかけてボールを保持しつつ、じっくり攻めるのも一つの戦術。




「!(田村上がってる!)左気をつけろ!」



 泉谷は左から田村が来ている事に気付き、左の選手へと注意するよう声をかける。



 成海もそちらを見ているが彼は出さず、パスを一旦後ろに戻して攻撃を立て直す。




「(中々攻めて来ない、こっちの真似をしてるつもりか?)」



 思い切って攻めるような事を今度は立見の方がして来ない。焦らせてボールを取りに来るのを誘っているのだろうか。



 再び膠着状態になりつつある試合。見ている側からすれば、退屈な展開かもしれない。




 だが、此処で立見は仕掛ける。




 成海がボールをキープしていると突然ドリブルを仕掛け、中央突破を狙う。



「(意表を突いたつもりかよ!?甘い!)」



 急なドリブルに対して泉谷は冷静に対応。自らドリブルを仕掛ける成海へと迫っていた。




 その泉谷が突っ込んで来たのが見えて、成海は前を向いたまま左へとパスを出す。




「(!?あいつ、何時からあそこに!)」



 何時の間にか前に上がっていた影山。その姿に気づかず泉谷は見逃してしまう。



 他の選手で影山を止めに行くと、選手の足に影山の足が引っかかり影山は転倒。これがファールの判定となり、立見にFKのチャンスが与えられる。




 ゴール正面、距離は25m程。これに弥一がボールへと近づいて行き、蹴る可能性を匂わせた。



 泉神のキーパーの大きな声で壁は作られ、壁の選手は弥一に注目する。



「(あいつが蹴る?成海や豪山も居る、けど真島戦で信じられないキックを見せてるから、今回も多分……)」




 壁の前にボールがセットされる。その前には壁から見て正面に成海、右に豪山、そして左に弥一の3人が居る。この中の誰かが蹴って来るのは間違いなく、3人ともボールの前に居るのは誰が蹴るか予想を難しくする為だ。




 真島戦を知っているので弥一が蹴るかもしれない。だが裏をかいて成海、または豪山の可能性も考えられると、壁の選手は思考を巡らせていた。




 そしてFKの準備が整い、審判の笛で試合が再開される。




 成海が正面から走りボールへと迫る。その動きを壁の選手達は見ている。




 ボール間近まで来る、蹴れる距離まで来た。



 成海がこのまま来るのか?と壁の泉神選手達に緊張が走る。





 だが成海は蹴らずにボールを飛び越える。その後に弥一が間髪入れずに左足で蹴った。



 弥一から見て壁の左横へと向かう球、左を抜けたがゴールからは外れている。




「(今蹴ったのは左足、あの時決めたのは右足の方だった!)」



 泉谷は弥一が左足で蹴ったのを確認していた。真島戦では右足で蹴っていたのを覚えており、左足なら右程の精度は無いと見ていた。



 このキックは外れるだろうと。





 その考えを裏切るかのように、生きているみたいに急激な曲がりをボールは見せており、左に外れていたはずがゴール左を捉えつつある。




 右足だろうが左足だろうが関係無いとばかりに、まさに魔球とも言える弥一の鋭く曲がるバナナシュート。



 泉神キーパーは此処まで曲がるとは思っていなかった。反応が遅れてしまい、右手を伸ばしてダイブするも届かない。






 ボールが泉神のゴールマウスに入ると、次の瞬間会場は大歓声に包まれてスタンドが揺れ動く。




『は、入った!押されていた立見が先制ゴールー!神明寺弥一、全国の舞台でまたしても驚異のキック!ファーストシュート一発で徳島予選僅か失点1の泉神から決めたーー!!』



『以前は右足でしたよね!?左足でも行けるとは……!』




「イエー!決まったー!先制先制ー♪」



 フィールドを駆けてゴールの喜びを弥一は表していた。普通の子供のような彼から、海外の強豪が蹴るような高レベルのキックが飛び出るとは誰が想像しただろうか。




「(あの幸せそうに豚丼食ってた奴が……)」



 以前弥一が隣の席で豚丼を食べていた時を泉谷は思い出していた。彼の凄さは動画で見ていて分かっていたはずなのに、子供のような姿を前に何処か心の隙が生じたのか。



 その彼は大歓声が湧く観客席へと、両手のVサインで応えている。




 もしかしたら既に1回戦はあの時から始まっていたのかもしれない……。

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